第111話ハクと力比べをします!

とりあえず現状は理解した。イナイは相談に帰ってるなら、流石に今日帰ってくることは無いだろう。

どうしよう、大人しく王城で待っていた方がいいのかな?

折角王都にきたんだし、観光と、組合の仕事も見に行きたいんだけどな。


シガルを抱きかかえながらぽややんと考えていると、騎士がおずおずと発言してきた。


「タロウ様。竜神様より、タロウ様が竜神様に勝利した事、既に皆が知る所です。もしよければそのお力の一端でもお見せ願えないでしょうか」


ピリッとした、何とも言えない緊張感を持ちながら、今の発言の返事を待つ騎士達。

力の一端と言われてもな。何をどうすれば納得してくれるのかがわからないのだけども。

なんだろう、ハクか俺の力を疑ってる感じなのかな?ハクが竜になったのも、俺が魔術を放ったのも見てない人もいるだろうし、そっちかもしれないな。


「えーと、理由を聞いても?」

「はっ、我々のようにこの国に住まう者ならば、竜のお伽話は一度は耳に致します。お伽話でしか見れないその力を制したお力、この目で見せてい頂きたい一心でお願いいたしました」


ほむん?単純明快に見たいだけなのか。でもそれこそどうすればいいのか悩む。まさか成竜のハクとやるわけにもいかないしな。

どうするかな、ハクにも聞いてみよう。そう思いハクを見ると、おもむろに上着の肩紐をずらして、脱ごうとしていた。

というかすでに片乳が出ている。鱗におおわれているから大丈夫なのかもしれないが、その奇行は見過ごせない。

ハクの手をがっと掴んで元に戻す。


『タロウ、なにするんだ』

「それはこっちのセリフだよ。なんで唐突に服脱いでんのさ」

『この服は弱い。脱がないと破れる』

「・・・どういうこと?」

『脱がないと成竜になれないだろう』


ハクさん、騎士の言葉に応え、戦う気満々だった模様。だんだんと俺の手を押しのける力が強くなって、また肩紐が動き出す。


「いやいやいや、ここで暴れたら街の人にも被害が出るからね?」

『むう・・・』


不満たらたらな声を漏らしつつも、手の力を弱め始めるハク。よかった納得してくれたようだ。

と思ったら、ハクは手の向きを変え、俺の手首をつかみ、ずんずんと歩いていく。

シガルは、きょとんとしながら成り行きを眺めている。


庭のほぼ中央。石畳が並ぶ、頑丈な地面になっているところで、ぴたりと止まった。

ハクは俺の手を放し、くるりと振り向き、靴を脱いで両足を開き両手を前に出す。


『タロウ、力比べだ』

「は、力比べ?」

『そうだ、こうやってやるんだろ?イナイに前聞いた』

「あ、そう。でも純粋な力比べって言ったって、ハクに勝てるわけないでしょ」

『違う。本気の力比べだ』

「本気?」

『そうだ。本気だ。今度は、勝つ』


あ、目がすげえマジだ。この間暴れたい暴れたい言ってた時と違って、本気の目だ。

本気、か。


「つまり魔術も何もかも有りで力比べって事か」

『そうだ』


ハクの目は俺の目を見つめて動かない。だが見つめていた目が、段々と悲しそうな目になっていく。


『タロウ』


そんな目で見るなよ。分かったよ。やるよ、やりますよ。

俺はハクと同じように裸足になり、差し出す手をつかみ、握りこむ。

それを見て、ハクは口元をにやぁっとゆがませる。そして足の踏み込みに力が入るのが見て取れる。


『いくぞ!』

「ちょ、ま、いきなりかよ!」


俺の戸惑いなどお構いなくハクが力を入れ始める。俺は慌てて魔術強化をかけていく。一瞬握りつぶされるかと思うほどの力を感じたが、少しずつ押し返していく。あれ、おかしいな。もっと力強いと思ったんだけどな。

限界ギリギリまで強化をしたところで、ハクがさらに力を籠める。くっそ、やっぱ加減してやがったこいつ。

少し押し込んだはずの体勢は完全に戻され、今度はこっちが少しずつ押し込まれていく。


『タロウ!まだだ!まだだろう!』

「分かってるよ!」


仙術強化を使い、力を籠める。そこでやっとハクと同じぐらいになったのか、押し返す事も出来ず、ぴたりと止まる。


「ぐうあああ!」

「ぐるるるるるる!!」


叫び力を籠める。一方ハクも唸り声になっていて、翻訳が機能してないない。


『タロウ!そろそろ本気でやらないと怒るぞ!』


俺達に踏み込みに耐えられなかった足場の石がバキンと音を立てて割れ、俺達の足も石に沈み込む。

どうやら薄い石をひいてるのではなく、でかい石が埋めてあるようだ。なにこれ面白い。


「本気でやってるっつの!」

『まだだ!こんな程度じゃないだろう!!』


ハクは叫ぶ。その後耳をふさぎたくなるような咆哮を目の前であげると、魔力がハクの体に溢れる。


「ぐるぁぎゃあああおおおおおおおお!!」

「ぐあ!!」


強化魔術だ。こいつ強化魔術使いやがった。まじかよ、地力が違うのに強化とか、シャレになんねえ。

ていうか強化使えたのかよ。

手が嫌な音してる。握りつぶされる。やばい。こいつマジすぎる。


『タロウ!!』


ハクの目は真剣そのものだ。俺の貧弱な腕で、強化魔術をかけたハクの腕力に勝てると思ってるのかこいつは。

いや、思ってるんだ。ハクは本気で俺がまだどうにかできると思ってるんだ。


そういや確かにあと2つ残ってるよ。そうだなやるだけやってみるか。

俺は今使っている魔術の制御をしたまま、並行で違う魔術を使う。

そうだ、竜の魔術をこの間覚えたんだ。ぶっつけ本番だが得意の強化系だ。やれないことは無いだろう。

そしてさらに並行で魔術を使う。グルドさんの魔術。疑似魔法のような特殊魔術。

障壁の時も並列で使えたんだ。強化だって行けるはずだ。

俺は3つの魔術と仙術を同時に制御して強化を重ねる。


「すごい・・・やっぱりタロウさんはすごい」


シガルがつぶやいたのが聞こえたが、あまりそれを気にする余裕がない。かなり難しいぞ、この4重強化。気を抜くと体が吹き飛びそうだ。


『そうだ!それでいい!』

「そりゃよかったな!」


ハクは、俺の行動に満足したのか、一度力を抜き、最初と同じ体勢に戻して力を籠める。


「ぐるるぁああああああああああ!!」

「くのおおおおおお!」


ビキ、バキと石が砕け始める音が聞こえる。足は既に石にめり込んでいる。どうやら俺とハクの力は、この状態でやっと同じぐらいになったようだ。

いや、若干負けてる臭い気がする。それでも根性で今の状態を持ちこたえる。


「な、なんて力だ。あれが人間が出せる力なのか。石の上に立っていると言うのに、足の形にただの土のように沈んでいるぞ」

「竜神さまと、正面から力比べなど、人間の業ではない・・・」

「と、とんでもないものを見ているんじゃないのか俺達」

「こ、これが竜に勝つ方の力・・!」

「お、俺は投げ飛ばされたから分かるが、正面からまともに相手ができるような腕力じゃなかったぞ!」


騎士達が口々にざわめく。そのざわめきをどこか遠く感じながら目の前のハクを押し返そうと、全力を籠める。

だが、俺達の体は動かず、足元だけが沈み、破壊音を立てていく。


『そうだ!やっぱりタロウは凄いな!』

「そう、かよ、ありがとな!」


くそう、やっぱり思った通り、こいつのほうが余力があるぞ。どちらも全力を出してるのは間違いないが、根本的な地力の違いで差が出てる。このままだと俺が魔力切れで負ける。

そう思った瞬間体が浮く。

何事かと思うと、足元の大きな石が完全に砕け、踏み込みの力が逃げ、ハクと手をつないだまま顔から落ちていく。


とっさに手を放そうとしたが、お互い力を入れすぎたせいか、手を離せなかった。なので焦りつつも身体補助をかけて倒れたので、けがは殆どない。

とがった所にちょっと刺さったけど、爪楊枝でツンと刺したぐらいの程度ですんだ。


『あはは、足場が先に壊れたな』

「そう、だね。なんで土の上にしなかったの?」


体を起こしながら、楽しそうに笑うハクに聞く。土の上ならば、こうはならなかったのではないのか。


『多分、土だと、ずっと同じようには踏み込めないぞ。地面が耐えられず後ろにずれる』


ああ、だからわざわざ石の上に行ったのか。となるとハクは最初からこの石が大きな石だってわかってたのか。


『もうちょっと頑丈だと思ったんだけどな』

「壊れたねぇ」

『引き分けだな』

「あ、引き分けでいいの?」

『いいんだ。楽しかったから。やっぱりいいな。タロウについてきてよかった』


定期的にこういうことするために付いて来て、それが良かったと言われると悩むところ。

街の子供たちとでも遊んで発散して頂きたい。


「タロウさん、ハク、お疲れさま。はい、タオル」

「ああ、ありがとう」


タオルをもってこちらに駆け寄ってきたシガルに礼を言い、汗をぬぐう。本気で力を込めてたから、一歩も動いてないのに汗だくだ。

ふと、騎士たちを見ると、また全員跪いていた。


「タロウ様のお力、しかと見せていただきました!そのお心に応えるべく、我ら騎士一同、タロウ様のお心にそぐう存在に成れるよう、精進に対します!」


さっき俺に力を見せてほしいと言った騎士が宣言し、皆立ち上がり、剣を掲げウオーと叫ぶ。

なんだこれ。


「状況がまるで分らない」

「うん、タロウさんはそうだと思った。それでいいと思う」

『うむ!』


シガルが何気に酷い事言ってる気がする。そしてハクにだけは言われたくない。

そしてタロウさん呼びで固定なのね。てっきり昨夜だけの事かと思ってた。彼女にとって何か特別な理由があるのかな?


「とりあえずお腹すいた。起きてから何も食べてない」

「あはは、じゃあ、食事貰いに行こう」

『いくぞ!』


誰よりも早くハクが走り出す。あの子本当に食事必要ないのか疑問になる。騎士達に食事に行くと告げると、皆静かになって跪き、俺が消えるまでずっとその体勢だった。

なんか、すごい面倒な感じになってる気がする。シガルが隣でニコニコ満面なので、ま、いっか。

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