第110話一度帰って相談ですか?
「すまん。頭に血が上ってやり過ぎた」
「・・いや・・うん・・・本気でやっていいって言ったし・・・うん」
王城一室でブルベに頭を下げ、今回の事について謝罪をする。
部屋にはあたしとブルベ、ロウ、リン、ミルカ、セルエス、通信機につないだアロネスといった感じだ。
ブルベは今後の事で仕事が増えるのは間違いない。頼りになる部下もいるし、そちらにも仕事を任せてはいるが、いかんせんやることが多すぎる状態だ。
「イナイよ・・・流石に属国までするとは思わなかったぞ・・・」
「うん、精々うちとの交渉事に有利な貸しにするか、賠償をがっつり吹っかけて、払わない代わりにある程度言う事利かせるかぐらいだと思ってた」
あたしの行動の結果に呆れた声を出すロウと、余りにどうかと思ったのかスラスラと喋るミルカ。
あたしも普段ならそうしてた。国の根本をひっくり返すような大事になんて、普段ならしない。
あの時は本当に頭にきてて、思考が少しまともじゃなかった。せめて素直に謝りに来てくれたらもうちょっとましな結果だったろうな・・・。
「すまん・・・」
「しかもそれ、口約束じゃないんだよね?」
「・・・はい」
あたしは持ってきた契約書を差し出す。無条件にウムルの言葉に従うと、あちらの王の署名付きで書かれた契約書だ。
あたしは一応、そこまでしなくていいと言ったんだ。無条件にすべて従うとか、これをもし反故にするなら、ウムルと全面戦争するしか方法が無いからやめておけと言った。
もしできなかった場合、あの国は完全に滅び、ウムルの土地となる。国が結ぶ契約書っていうのは、それぐらい重いものだ。
この場合反故のために戦争を起こすと、周りの助力は一切貰えない。昔からそういう約束事がこの周囲の国には有る。故に、自国にとって抜け道が一切ない契約書を向こうは差し出してきたようなものだ。
「あちらの王は何と?」
「かの国の情報は常に仕入れている。従う事で国が良き方向に行くのは間違いなく、ウムル王の人となりも信に値する。ゆえにこの契約書に何ら問題は無い。だって」
「地味に敷居を高くするの止めて!!」
防音がかけられた部屋にブルベの叫びが木霊する。
頭を抱えながらうめくブルベに少なからず罪悪感がわく。
『まあ、いいんじゃねーの?どうにかなんだろ』
「そうそう、ブルベなら大丈夫」
通信機から聞こえるアロネスの声と、それに同調するリン。
お気楽コンビが適当な事を言う。お前らこういう仕事一切やんねえだろうが。
「あ、そうだ!アロネス!お前あの国に違法入国してただろ!」
『げっ、なんで知ってんの!』
「やっぱそうか!お前あれだけ国境だけはちゃんと超えろって言っただろうが!」
『ま、まあまあ、今回こうなった事で、バレても問題ないじゃん?』
「バレなきゃいいって思考がダメなんだよ。普通に犯罪なんだぞバカタレ!!」
『ご、ごめん』
こいつはホントにもう。ガキの頃からこういう所一切変わりやがらねえ。
「やーい、怒られてやんのー」
「ちゃかすなリン!」
「あーい」
ともかく、今回の事は完全にあたしの落ち度だ。たとえ事前にやっていいと許可をもらっていたとはいえ、勝手に領土と領主と国民を置いておくから管理してね?なんていう無茶を言っているんだ。
我ながら何やってるのかと、冷静になってから思った。
「まあ、過ぎた事は仕方ないわよー。私も手伝うわよ、兄さん」
「セルエスは自分の土地の事もあるだろう」
「あの人に任せていれば大丈夫よー。それよりもイナイちゃんが気にしすぎないようにパパッとどうにかしなきゃねー」
「すまん、セル。ありがとう」
「いいのいいのー」
そういいながらあたしに抱き着くセル。いつもなら有る程度して押し返すけど、今回は許す。
好きなだけやればいい!
「ま、確かにそうだ。過ぎた事は仕方がない」
「すまん。そう言ってくれると助かる」
「後、タロウ君なんだけど」
「ああ、それも一つ問題なんだよな。どうすっかな」
タロウには国の政には極力関わらせないと言ったが、竜の意志をタロウに任せるとハクに聞いてしまった以上、それも放置できない問題だ。
王もその言葉を聞いて、タロウの立ち位置はもはやあの国では王と同列、下手すれば王より上で扱われることになってしまっている。
どの貴族よりもタロウの言葉が優先される。でなければ待つのは滅びだと認識されている。
「まあ、タロウは基本的に国に関わる気は無い。だから多分言えば言う事を聞いてくれると思う」
「そっか・・・、とりあえず竜には、あの聖地以外は基本的に関わらないようにお願いしておきたい。人の治める土地は、人の力で治めなければ」
「分かった。伝えとく」
ブルベの意志はあたしも同じくしているところだ。何かに頼った統治は、それが崩れたとき、何もできなくなる。
まさしく今回がそうだ。竜に頼る事が出来なくなり、あたしという脅威を抑えられなかった。
それはあたし達にも言えることだ。いつかはあたしたちが居なくなっても大国ウムルが有り続けられるように後続を作らなきゃいけない。
「しっかしタロウはさっそくすごい事になったねぇ」
「うん。いつか、何かするとは思ったけど、早かった」
リンとミルカにとってタロウの現状は、なるべくしてなったと言う感想のようだ。
『あいつは自分がどれだけの力持ってるのか、いまいち理解してないからな。結果、影響があとからデカくなるんだろ』
「やはり少年には、いつか国に戻って騎士をやってもらいたいものだ」
「まあ、いつかは来るかもな」
アロネスとロウの言葉に、ぽろっといった一言。他愛ない一言のはずだ。だがそれに何故かセルエスが食いついた。
「ふ~~~ん?イナイちゃん、何かあったー?」
「な、なにかってなんだよ」
「そうねー、例えばタロウ君がやりたいことを全部やめて、ここに戻ってわざわざ一度断った騎士になる選択を取る事になる可能性って考えるとー」
そこで黙ってあたしを横目で見る。目線がそのままあたしの下腹部に行く。
「かなーってー?」
「う、ま、まっすぐに来るなお前」
「あ、やっぱりそうなんだー」
しまった、嵌められた。カマかけられたのを肯定してしまった。
そうだな、いつもだったら、なんだよ?って返してるわ。あたしの馬鹿。
「え、なに、どういうこと?」
「イナイが、タロウと子作りしたって事」
「ほう、そうかそうか。それは何よりだ」
『ミルカ、お前そういう事言うなよ・・・・』
セルはこっちを見てにやにやし、リンはその意味が分からず、ミルカが答える。
ロウは良かった良かったと頷き、その状況にアロネスが呆れる。
くあ!なんだこれ!いたたまれないぞ!
「おめでとう、姉さん」
なんてブルベはにこやかに祝福してくれている。だが、行為そのものをおめでとうと言われるのはかなり恥ずかしい。
セル、恨むからな!
『・・・しかしいくら何でも向こうの王の素直さが気になるな。一応気を付けておいた方がいいと思うぜ』
アロネスが真剣な声で言う。
「そうだな。契約をした時の言葉を鵜呑みはしない方がいいか。あの時はあたしも少し落ち着いて、罪悪感が勝ってたからな。もう少し考えるべきだったか」
「そうだね。一応気は張っておいた方がいいだろう」
ブルベもアロネスの言葉と同じ思いがあったようだ。
タロウに少し連絡とっておいた方がいいな・・・。
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