第109話騎士達の力量を認識させていました!
「・・・朝か」
窓から指す日差しでに目を向け、少なくとも日は登っていることを確認する。
目をこすりながら体を起こす。
「くあ~~、はぁ・・」
周りを見渡すとイナイとシガルはいなかった。もしかして朝じゃなくてもうお昼過ぎてるのかもしれない。
ふと自分の体を見る。真っ裸だ。なんでだ?寝てる間に脱いだ?いやいや、さすがにそれは。
「んん~~~」
体を伸ばして思考をどうにか覚醒させる。それと同時に昨夜の出来事を思います。
ああ、そうだ。そらなにも着てないですわ。
そそくさと服を着て、窓の外を見る。日の光は真上に有る。あ、昼まで寝てたんだこれ。
二人とも起こしてくれたらいいのに。
「どこ行ったんだろ」
呟きに答えてくれる者はおらず、寂しく声だけが響く。
とはいえここは王城なので、俺が勝手に歩き回っていいものか悩む。
いや、とりあえず探せばいいじゃないか。
俺は魔力を薄く広げ、探索を開始する。さて、またこの街に居ないパターンだったりして。
シガル発見。ついでにハクも発見。帰ってきてるのか。だがしかしイナイが見つからない。
とりあえずシガルが何か知ってるかもしれない。聞きに行ってみよう。
何やら周囲に凄い人が多いけど、多分訓練か何かやってるんだろうな。シガル凄く動いてるし。
そう思いながらシガルのいるところまでまっすぐ歩いていく。道中に出会った使用人らしき人達や、文官さん達に頭を下げ、挨拶もしておく。
皆にこやかに応じてくれた。
「お、やっぱりか」
たどり着いた先では、シガルが剣を構え、騎士と相対していた。
シガルは強化済みのようだが、息が上がっている。相対する騎士も同じような状態ではあるが、もし同じならばシガルのほうが不利だ。
強化でシガルが追いつける領域を素の状態でやれると言う事は、まだそちらの方が余力があるという事だ。
シガルはギリギリ限界の状態をやり続けてるのに等しい。だから長期戦になるとシガルは確実に不利になる。
なんて思っていると、シガルが駆け出し、騎士の反応速度をはるかに超えた速さで剣戟を繰り出し、腰に木剣を当てる。
「次ぃ!」
シガルのその言葉と共に崩れ落ち、他の騎士に引きずられる騎士。んん?なんか様子がおかしいぞ?
シガルの言葉に従うように騎士が出てきて剣を構える。
シガルが騎士よりも先に動き、打ち合いを始めるが、初速が遅い。騎士も余裕でいなし、反撃している。
が、段々早くなっていき、騎士がそれについていく形になっていき、騎士は防戦一方になる。
そして先ほどと同じ光景になり、騎士が肩で息をし始めたあたりで、シガルがまた先ほどと同じようなスピードで騎士を打つ。
「次ぃ!」
あの子何やってんの。騎士相手に百人組手でもやってんのか。
よくよく見ると騎士が引きずって行かれたほうに沢山固まっている。まさかあれ全部やったのか。
呆然とする者、見るからに落ち込んでいる者、シガルを焦がれたような目で見つめている者、悔しそうな顔で顔をゆがめている者。
皆様々だ。全部で100人近くは居るんじゃないだろうか。あれ、マジで100人組手してる?
それ以外にも周囲を警戒している騎士や、別の場所で観戦している者も合わせると、200人ぐらいだろうか。
そっちを観察していると、また一人騎士がやられていた。
「次ぃ!」
ふと見ると、騎士達が順番待ちのように並んでいるのに気が付いた。そのうちの一人が前に出る。
並んでいたのはのこり4人。あと4人は最低でもやるという事だろうか。というよりも、なんでこんなことやってるんだあの子。
ハクは城の壁にもたれかかりながらそれを眺めている。なんかそばにテーブルが置いてあって、お菓子やら飲み物やら置いてあるんですが。
でも手を付けた様子が無い。目線も真剣にシガルを見ている。あの子にとってのシガルっていう存在も何か不思議だ。
認めている相手だけど、守るべき相手、みたいな感じに見える。
「次ぃ!」
またシガルに負ける騎士。どうでもいいけどここの騎士弱いな。シガルはもはや見てて分かるぐらいばてている。
あれは魔術で無理やり体を動かしている状態にまでなってる。強化をしているのに足運びが少し怪しくなっているあたり、本気で限界が近いはずだ。
そのシガルに触れられない。ここの騎士達全員より、ナマラさん達4人のほうが強いんじゃないだろうか。
あ、そういえば俺結局レヴァーナさんの戦闘見てないや。でもあの人達と一緒にいるんだし、結構強いでしょ。
「次ぃ!」
シガルはもはや構える余裕も無くなってきている。でもまだやめないようだ。
両腕はもうだらんと下がっているが、それでも剣を手放さず、強化魔術の制御をやり続ける根性はすさまじい。
先ほどまでのように打ち合いをせず、体捌きと要所要所の剣戟に切り替えて、どうにか体を動かしている。
もはや、強化魔術を使っていながら、使っていないときの万全ぐらいのスピードしか出ていない。
ラスト2人という所で本気で限界が来たように見える。さっきはなんだかんだスピードがあったが、もうあれ以上早くは動けないようだ。騎士も反撃の余裕がある。
周りの騎士たちは、何かホッとした雰囲気が伺える。なんだろう、もしかして何か約束事でもしてるんだろうか?
だがシガルは、その反撃の力を同じ方向に叩きつけてさらに加速させ、体勢を崩したところを叩く。
「次ぃ!」
そこで、騎士達がかなりざわめきだす。あ、これやっぱり何か約束してるな。
シガルは構える騎士に、最後の力を振り絞るように走り出す。が、途中で足がもつれ、騎士の前に無防備をさらす。
騎士はそれを見逃すような真似はせず、切りつける。
周りの騎士たちは、先ほどと同じようにほっとした顔になった。だがそれも一瞬で終わる。
シガルは切りかかられた剣の方向に、ぐにゃりと脱力したかと思うと、そのまま回転、体ごと叩きつけるような剣戟を放つ。
完全に決まったと思って振り切っていた騎士は防御できず、まともに食らい、倒れる。
「次ぃ!」
フラフラで俯いている。もはや限界をどう見ても超えているようにしか見えないのに、まだやる気のようだ。
けどそのシガルの前に出る者は居ない。やっぱりさっきの騎士が最後だったのだろう。
そのシガルの前にハクがてくてくと歩いていく。
『シガル、お前の勝ちだ』
「・・・・・・・・・終わっ・・・たの?」
息を荒くし俯いたまま訪ねるシガル。
『ああ、お疲れさま』
ハクがそういうと、糸が切れたようにシガルが膝から崩れ落ちる。
地面に落ちる前にハクが受け止めたので、大事は無い。
「・・・あ・・ご、ごめ・・・力・・はいらない」
『限界まで体を使い過ぎだ。強化魔術無しじゃ動けない所まで動かしたんだ。休んでろ。全く、こんなに頑張らなくてよかったんだぞ?』
「・・ハク・の・・期待・・こた・・え・・・たい・・じゃない・・」
『そっか。ありがとう、シガル』
そう言ってシガルを抱えながら、治療を始め、先ほどいたテーブルまで戻り、シガルを座らせる。
『これでいいな!お前たちはシガルに劣ると分かっただろう!』
ハクは威圧するようにそこにいる者たちに向かって叫ぶ。
ただその言葉だけでは、何を意味するのかよくわからないな。
俺は見物に徹するのを止めて、てくてくと歩いていく。
「はよ、ハク。何かあったの?後イナイどこ行ったか知らない?」
『遅いぞタロウ。もう昼だ』
「あはは、ごめん。ちょっと寝すぎた。誰も起こしてくれなくてさ」
『イナイは王に報告があるとか言ってどっか行ったぞ。シガルは見ての通りだ』
その見ての通りの状態になった理由が知りたいのですが。
ふと騎士たちを見ると、今までぼけっと見ていた人も含めて、佇まいを直し、びしっと立っている。
その光景に、きょろきょろと周りを見渡してしまう。
あれ、王か誰か、お偉いさんが来たのかと思ったんだけどな。今いる人たち以外居ないな。
俺が首をかしげていると、騎士が一人前に出てきて、跪く。誰だろう。
「タロウ様。私めがご説明させて頂きます」
・・・タロウ様?え、いや、まあ、客人扱いだったら様はいいとして、えらく畏まった扱いをされてる気がする。
とはいえ説明を貰えるなら貰っておこう。
「えと、はい、お願いします」
跪く騎士の説明を聞くと、ハクが帰ってきて、たまたま騎士たちの訓練を見かけた折に、皆シガルに劣ると言い放ったらしい。
騎士達はあの謁見に全員いたわけではないらしく、言われてる意味と、言っている者が何者かをいまいちわかってない者もいたそうだ。
そういう者達がハクに食って掛かり、ハクの存在を知る騎士が止める間もなく、数十人がハクにのされる。
その後、ハクが何者かを知った騎士たちは全員ハクに跪き謝罪をしたが、謁見の間に居たあの頼りなさげな少女に劣ると言う言葉は、大凡受け入れられなかった。
そこに本当に偶然シガルとイナイがやってきた。事情を聞いたシガルは、ハクがそういうならば証明しましょうと、ここにいる騎士全員を相手にすると言ったそうだ。
「もし途中で負ければあなた達のいう事が正しいのでしょう。でも私が全員に勝った時は、ハクの言葉を認め、自らの力量を認識してください。
そして少なくとも、何者か知らない女の子に食って掛かるような体質は改善して頂きます」
そう言い放ったシガルに、少なくない怒りを覚えた騎士たちが、大人げなくこの100人組手のような試合を始めたらしい。
もうその時点でこの騎士たちの性根が知れると言うものだ。この国の改善は遠いなぁ・・・・。
ツーカ、たとえ途中で負けたとしても、あのバテバテの女の子に勝って、勝てたと思えるのか?もし思えるなら尚の事神経を疑う。
イナイはその途中でハクに伝言を残してどこかに行ったそうだ。
「あの、差し出がましい事を言いますが」
「はっ、なんでしょう」
「少なくともウムルの騎士は、女の子相手に集団で挑むような恥ずかしい真似を良しとはしませんよ、普通」
俺がそう言って、現状を認識したのか、はっとした顔になる。
今の今まで、たった一人の少女に、いい大人が寄ってたかって挑んでいたと言う事実を理解できていなかった模様。
お前らホントなんなんだ。
「も、申し訳ありません」
「いやまあ、話を聞くに、ハクもシガルも挑発したっぽいし、しょうがないかなとは思いますが」
「そ、そう言って頂けると」
「まあでも、気を付けてほしいです。今までのように、立場を傘に着る振る舞いは本当に止めて下さいね。あなた達は本来人を守るべき立場なんですから」
「はっ、タロウ様のお言葉、皆、心に刻み込んでおきます!」
・・・やっぱり騎士の俺に対する対応がなんかおかしい気がする。イナイの連れっていうだけじゃないような感じだ。
「あの、そのタロウ『様』ってなんですか?」
「我らが守り神である竜を従える方です。最大の敬意をもって我らはあなたに従います」
謎が解けてしまった。いや、俺に従ってどうするのよ。ていうか、意外と信仰心を持ってる人もいないわけじゃないのね。
俺は助けを求めるようにハクに目をやる。
『老はどうするのかはタロウに任せるって言ってた。城の者たちにも伝えてるぞ』
老竜ーーーーー!なんてこと言うんだーーー!
おい、ちょっと待て、つまり何か、この国を守る守らないを俺の気分一つで決まる状態って事か?
だからか!こいつらの反応はそのせいか!うーわ、めんどくせえ。
「・・と、とりあえず、その話はあとで、イナイが帰って来てからしよう」
『そうか?別にタロウの気分でいいと思うぞ?』
「いや、気分で何万どころじゃない人間の人生に関わる選択を出来る度胸は無いよ・・・・」
『そうか。タロウがそういうなら』
そう言って、シガルの治療を終えるハク。シガルも息は整ったようだ。
「ハク、ありがとう」
『うん!』
にこやかにハクに礼を言うシガルと、嬉しそうに返事をするハク。やはりこの二人の関係は少し不思議だ。
シガルはそのまま俺の方に向き、いつものような笑顔なのだが、何か少し、今までと違うような笑顔を向ける。
「タロウさん。おはよう」
「お、おはよう」
タロウさんと呼ばれたせいで昨夜の出来事を思い出し、少し狼狽える。
そんな俺に周りの目なぞ全く気にせず抱き着いてくるシガル。騎士達はその光景を見て、青ざめる。
「タ、タロウ様、お、お尋ねしたいことがあるのですが、よ、よろしいでしょうか」
震えながら言う騎士に首をかしげつつも頷く。
「シ、シガル様は、もしや、タロウ様の情人なのでしょうか」
情人?えーと、ああそうか、思い人とかそういう意味か。わざわざ遠回しな言い方するなぁ。意味が分かった俺はこくんと頷く。
それに対し騎士たちがざわざわと慌てだし、皆整列して、跪く。
え、何が起こったの。
「も、申し訳ございません!そのお方がタロウ様にとって大事な方とは知らず、失礼を働いた事!どうか、どうかご容赦を!」
俺はその光景を、キョトンとした目で見ていた。
えと、うん。言葉から察するに、シガルが俺の恋人って知らなくて、今知ってシガルに対するさっきまでの事を咎められると思ってるのかな?
「いや、これはシガルがあなた達の意識を変えるためにした事でしょうし、シガルが行った事であなた達を責めるような事はしませんよ」
「ほ、本当でしょうか」
本当だよ、なんで疑われてんだよ。俺がそんな横暴な人間に見えるのだろうか。ちょっとショックだ。
いや、昨日のあれを知っているならある意味しょうがないのか。ほぼ言葉を発さずに、魔術ぶっ放したもんな。
「本当ですよ。けど、今後はもう少し騎士の意識は変えていってください。あなた達は国を、国民を守るための人間です。無駄な誇りはいりません」
「無、無駄ですか」
「ええ。誇りを持つならば、それ相応の人間になってください。俺が知るウムルの騎士たちはその誇りを持つにふさわしい人でした」
「はっ、以後精進いたします!」
仰々しく皆が頷き、頭を下げる。通じてるのか不安が残るが、これ以上言ってもどうしようもないだろう。
むしろなんで俺がこんなこと言ってるのかのほうが疑問である。
はぁとため息をつくと、それだけでびくっとする騎士たちにさらにため息をつきたくなるが、我慢するのであった。
とりあえずシガルさん、幸せそうにくっついてるのはいいんですが、そろそろ離れてもらえないでしょうか。
少し恥ずかしいです。
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