第107話王様に堂々と言い放ちます!
遅い。イナイ達との打ち合わせも終わったと言うのにまだ呼びに来ない。
馬車で迎えに来ておきながらどれだけ待たせる気だ。朝飯途中だったのに。
・・ん、あれ?馬車?
「あ」
「ん、どうした?タロウ」
今更気が付いた事実に声を思わず上げてしまった俺に、イナイが不思議そうに聞いてくる。
「ハク、馬車乗れてる」
『・・・・おお、ほんとだ!』
「あ、そういえばそうだよね」
馬が怖がるので、商隊の護衛の時も、一番後ろでちょっと離れてたのに、今回の馬はハクを怖がらなかった。
「神経の図太い馬だったのかな?」
「そうじゃねえの?今のとこ、あれ以外ハクを怖がらなかったのいないだろ」
『良い度胸をしてるんだな!帰る前にもう一回会いに行こう!』
「あはは、そうだね会いに行けたら行こうか」
そんな雑談をしていると、ノックの音が響く。やっときたようだ
「ステル様。王がお待ちです。案内いたします」
「はい、今参ります」
イナイはきれいな動作で呼びに来た文官についていく。俺達もその後ろをぞろぞろとついていく。
「お待ち、ね。悠長な事だ。今大事な場面というのを理解できてないな」
ボソッとイナイがつぶやいた声が聞こえた。今からやることを考えれば、イナイのつぶやきは最もだろう。
彼女は今まで割と穏やかに見えていたが、はらわたが煮えくり返っているのをさっき理解した。
この国は、敵に回したら怖い人を敵に回した事実に、まだ気が付いていない。そしてこの人を敵に回すってことは、少なくともイナイの事を好きなあの人達を敵に回すのと同意だ。
イナイは、愚行を許した国王に対して一切の加減をせず物を言う気だ。彼女はそれだけの立場にあるらしいし、その彼女に手を出した事実がある以上、彼女の言葉に国王がどう行動するかが問題になる。
その結果いかんでは、本当にウムルと敵対国と成り得る。だがその場合この国は終わる。なぜならこの国の加護このままいけば無くなるのだから。
しばらく文官の後ろをついて歩くと、大きな扉にたどり着く。でかい。無駄にでかい。巨人でも通るのかと言いたくなるぐらいでかい。
その扉がギギギと開かれ、その先にはファンタジーで見かける、まさに謁見の間だった。
扉からまっすぐに絨毯が敷かれて、向こうの方が階段になっている。少し上がったところに立派な椅子に座ったおっちゃんがいる。あれが王様だろう。
部屋の両側には大量の人が居る。たぶん上段に並んでいるのが貴族だろう。下には騎士がいっぱい並んでる。この貴族たちが集まるのに時間がかかったのだと予想。最初から集まっとけ。
あ、隊長みっけ。王様の横にいる。あんた結構偉い人だったのね。そばにいる他の人たちもそれなりの役職なのだろうな。
イナイはすたすたと歩いていき、部屋の中央ど真ん中で止まり、背筋を伸ばし、足を閉じ、手を前に組んで、いかにも淑女という雰囲気で立つ。
「イナイ・ウルズエス・ステル。お招きにより、参りました」
簡潔にそういって、動かないイナイに、周囲がざわめく。
いつもの俺なら、え、何が起こったの?状態だっただろうが、今回は事前に説明されているから分かる。
イナイは他国の国王陛下に対して、礼を取らなかった。いくらイナイが国内で身分が高かろうと、自国が大国であろうと、王に対し礼をしないという事は、あまりに無礼な行為、だそうだ。
それに対し、一番先に口を開いたのは周囲の貴族らしき人達だ。
「無礼な!ウムルでどれだけの立場であっても所詮は技工士風情か!」
「王に礼も取らぬとは、ウムルはこのようなものに貴族位を与えているのか!」
「我が国を舐めているのか小娘!」
「このような無礼を許すのか!王よ!この者たちを捕らえるべきです!!」
「所詮元は小国の田舎者の国の出だと知れたな!」
「その上この場に汚らしい亜人まで連れてくるとは!」
口々に貴族たちが叫びだす。この行為は王を侮辱すると同時に、それに仕える貴族も侮辱する行為になるらしい。プライドの高い彼らには、許せる行為ではないのだろう。
ただ亜人どうこうにはイラッとしたぞこのやろう。現状では売り言葉に買い言葉みたいな状況だから口は開かないほうがいいと思うけど、言いたくなる。
ハクは腰に手を当ててモデルみたいな立ち方できょろきょろしている。全然気にしてないね。
王はハクが何者かわかってるはずなんだけど、貴族たちは知らないようだ。
イナイはそれらの罵詈雑言に怯む様子もないどころか、全く気にする様子もなく、王を見据える。
騎士たちも緊張しているようだ。だってこれでもしもイナイを捕らえろってなったら、やるのは騎士達だ。勝てないと知っている相手に挑まなければならないかもしれない状況だ。怖いだろうさ。
「静まれ!!」
王様がなかなかいかつい声で叫ぶ。渋い、いい声してる。
その言葉で一応、貴族たちは言葉を止めた。
王様は、静かになったあと、ゆっくりとした口調でイナイに話しかける。
「何故、と聞いてもよいか」
シンプルな疑問が来た。何に対してなのか、どのことに対してなのか、あいまいな質問の仕方だ。
これもイナイの予想通りだ。最初の襲撃の件は認めるわけにはいかないし、次の分も知っているなら、それなりの態度を見せなければいけない。そもそも知らないならうかつなことは言えない。
故に、イナイの反応を知るために、何故、としか聞かない。
「何故?面白い事を言われますね国王陛下。何故と聞きたいのはこちらの方です」
知っているのだろう?分かっていてとぼける気ならばそれなりの行動に出る用意はあるぞ、と言う意味だそうだ。分からん。俺には全くわからん。
ついでにぐるりと貴族たちを見回す。
「ひっ」
・・・馬鹿が居た。とりあえず今悲鳴上げた奴は確定だ。イナイ襲う指示した貴族があいつだろう。名前を確認すればすぐわかるだろうけど。
「すまぬが話が見えぬな」
「あら、そうですか?では尚の事あなたに礼は取れません」
すっとぼけてるのか、本当に知らないのか、騎士の襲撃に関して口を開くことは無い様だ。
イナイいわく、騎士には言うなと言ったが、言わないわけがない。との事だ。それが真実かどうかは俺には測りかねるけど。
貴族もイナイを襲った現状を把握しているのは間違いないとイナイは思っている。だが、その割に彼らは余裕の態度がある。
理由は単純明快だ。たとえここでイナイといざこざを起こしてウムルと戦争になっても、竜が守ってくれると思っているからだ。
今までそうだったように、これからもそうなると思っている。そんな事ありえないのに。
前の街の事や、最初の襲撃の話だけなら、イナイは礼をしていた。
でも、あの殺害未遂に関しては、俺も狙われ、かつ状況次第ではシガルも危なかった。完全にこの国の者の意志による犯行でだ。イナイはそれを怒っている。
だからわざと、今お前たちは崖っぷちに立っているのだと、ゆっくり教えようとしている。いや、ゆっくり脅そうとしているが正解かな?
「では、国王陛下。今回の事はウムルに対する宣戦布告と取らせて頂いてよろしいですか?」
そして一つ目の爆弾をぶち込むイナイ。どうでもいいけど俺達空気だなー。まあ後で出番有るみたいだけど。
流石にその発言は王様も予想外だったらしく、慌てる。周りの貴族たちも行き成りの宣戦布告という話に、ついていけなくなっている。
「な、なにを。いったい何を言っているのだ」
「何を?あなたこそ何を言っているのですか?もはやそんな悠長にとぼけていられる時間は過ぎているのです。あなた方が私をどう思っていようが関係ありません。王にも許可は取っております。さあ、返答は?」
王様はなんとなくだけど、イナイをちゃんと脅威と見ているような気がする。だから変な返事はしないと思うけど、どう出るかな。
「・・・・行け」
「はっ!彼らを捕らえよ!」
王が隊長に言うと、騎士たちは行動を開始する。言動から「来るか?」と思って構えそうになったが、騎士たちは段差を登っていく。
その先には貴族たち。そのうちの4人が騎士達によって捕らえられる。その中にはさっき悲鳴を上げた者もいる。暴れているが、鍛えた騎士に勝てるわけもなく、どこかへ連行される。
どうやらあの貴族たちを捕らえる算段だった模様。驚かせないでください。イナイの言う通り、騎士は王に言っていたみたいだ。騎士は少し目が泳いでいるがちらちらとイナイを見ている。
周りの貴族たちは、少し悔しそうにしながらも、仕方ないかといった感じだ。やはりこいつら知ってたのか。あの貴族たち何でここに来たんだ。バカじゃないのか。もしかしてあいつらだけこの事実を知らなかった?
いや、もしかしたらここに来なければ結局似たようなことになっていたのかもしれない。こないという事は逃げたという事だろうし。王がイナイを突っぱねる事に望みをかけたのかな?無茶だと思うなぁ。
「これでよいか。ステル卿」
「足りません」
「・・・なにを望む」
「言わねばわかりませんか?」
「・・・今後このような事が無きよう、重々注意しよう。賠償も支払おう」
「足りません」
「・・・そこまでして、戦争を起こしたいのか?」
「いいえ?この国とでは戦争になどなりません。ただの蹂躙です」
そこまで言ったあたりで、また貴族が騒ぎだす。
「貴様!黙っておれば好き放題いいよって!」
「竜に勝てると思っているのか!」
「そうだ、我らには竜神の加護があるのだ!」
「小娘が!少し魔術が使える程度でつけあがるな!」
竜神、ねえ。残念ながらあなた達にその加護は無いよ。当の竜神様がその理由を言ってくれる。
『守らないぞ』
ハクの発言に王が思いっきり目を見開き、貴族たちが何を言ってるんだこいつは、という目をしている。
『私たちがこの地を守るのは老の為だ。老がこの地を守るのは友の為だ。友がこの地を守ったのは心の底から尊敬を、恩を感じた人間の友の為だ。貴様等を守るために竜は戦わない。
もはやこの地にかの友の心は無い。私たちが守るのは私たちを慕う者達。利用するお前たちではない』
ハクが腰に手を当てて若干顔を斜めにしながら言う。なんだあのモデルさん。いや、指示したのイナイだけどさ。
「な、なんだ、何を言って――」
「黙れ!!」
貴族の一人が何かを言おうとしたのを王が叫んで止める。その表情は、驚愕の表情で固まっている。
『何よりアロネス、イナイ、シガル、タロウは私たち竜の同胞だ。彼らに手を貸す事こそあれ、彼らと本気で事を構えるなんて、あり得ない。
何より一番勘違いしている事は、アロネスとタロウは竜を打倒している。彼らにとって竜は障害にならない』
そういって、ハクは打ち合わせ通り、竜の姿になる。貴族はもとより、騎士達にもざわめきが走る。
竜になった事そのものには驚いていないのは、王様と、そのそばにいる隊長とえらそうなおっちゃんだ。大臣とかなのかなぁ?
しかし、アロネスさんはともかく、俺は君と引き分けただけなんだけどね?老竜とやったら死ぬ未来しか見えないからね?
「りゅ、竜・・そんな・・本当に言葉を・・・」
「な、なぜ竜が人と・・そんな馬鹿な・・」
「い、いやそれよりも、さっきの言葉だ。竜がこの地を守らねばこの国は終わりではないか!」
「竜を倒すなど・・化け物か・・・・しかも竜が力を貸すだと・・・タロウとはいったい何者だ!?」
「そんな、いや、あれが本物だという証拠はない!」
「そ、そうだ、イナイ・ステルが作った偽物かもしれん!」
おいおい、イナイが作った偽物って・・・・ありえると思ってしまった。イナイを見ると、あ、面白そうって顔してる。
いやいや、ここで創作イメージ沸かしてる場合じゃないから。
『偽物?偽物というのか?ならばここを焼き払ってやろうか?そうすれば流石にお前たちも現実を認識するだろう』
あ、このセリフは打ち合わせにない。ハクさん少し怒ってらっしゃる。
ハクの本気の唸り声と共に言われた物騒な言葉にビビる貴族たち。
「ハク、気持ちは分かるけど、抑えて抑えて」
『でも!あいつら私を偽物ていった!』
「うん、うん、よしよし、ちょっと落ち着こうね」
『うー!』
子供をあやすようにハクを落ち着けさせる。ハクは二面性あるよなぁ。普段はやんちゃな子供みたいなのに、ああなると普段の無邪気さが消えて、ちょっと怖い。
「あ、あの小僧は一体」
「なぜ、あのような小僧のいう事を素直に・・・」
それは知らん。でも俺のいう事よりシガルのいう事のほうがよく聞くぞこの子。なんだかんだ最終的には聞いてくれるけど、俺の場合結構な確率で「でも」「やだ」「こうがいい!」ってだいたい言って来る。
シガルが言うと「うん、わかった」って言うのがほとんどだ。シガルの事老竜も気にいってたし、竜が気に入る何かがあるのかな?
「・・・我が国はウムル王国に下ろう」
国王の決断に貴族たちは騒ぎ出す。主に身の保身的な言動が多い。醜い。中には王を罵倒する連中もいる。
王様はそれに動じずイナイと話を続ける。
「それがどういう意味を持つのか分かっておられますか?」
「今までのような貴族達の行為は許さない。ウムルと同じやり方に従ってもらうという事であろう?そちらの国は貴族にも平民と同じように罰則が与えられる。平民だからと一方的に手を出すような行為は認められぬ。我が国はまるで違うものになろうな」
「ええ、何よりも、問題点をちゃんと洗った処置をして頂かなければ。場当たり的な対処で済まされても困ります。罪なき者への罪も同じです。国の政策そのものは、そこまで問題点は見受けられないように見えますが、すべてがそうではないでしょう」
多分前の街の事もこれに該当するだろう。誰が問題だったのか、何を正すべきかを見極め、処罰するべき人間だけを処罰するようにという事だろう。
ただ、国の豊かさという点では、この国は割と余裕はあるらしい。けど、全体がそうかと言えば、そうでもないだろう。それはウムルも同じだけどな、とイナイは言っていた。全部ちゃんと管理出来てるなんて、思わないほうがいいと。
「分かった。だが国は残して頂きたい。あくまで属国で留めて頂きたいのだが」
「それは構いませんが、やはりあなたはこの国の・・この貴族たちのいる国の王なのですね」
「・・・どういう意味だ?」
はぁとため息を吐いてイナイは語る。
「・・・現時点で、あなたの口から謝罪を一度たりとも聞いておりません。あなたの落ち度で、この国がなくなりかけているという認識も甘い。
貴族の一部が暴走したからではありません。すでに最初から暴走していたのです。あなたがそうさせていたのです。何よりまだ、いまだに私の怒りを理解していない」
「賠償は払うと」
「それは謝罪の言葉ではありません。この国の貴族たちの愚行は、あなたがそのような愚鈍な思考だからこそです。今回のこの結果はあなたの愚行の結果と知りなさい」
王様もさすがに真っすぐに愚鈍と言われて怒りの表情を見せる。だが、言葉は発さず、睨んでいるだけだ。
「国を想うなら、本当に一大事を認識しているなら、このように謁見などという悠長なことなどせず、私の元に出向いているはずです。
我が王はそうされます。見誤ってはいけない所を見誤るような真似はしません。先の戦争でウムルが生き残れたのはその目が有ったからこそです。
少なくとも大国の要人を殺害しかけておきながら、事情を知らぬふりをして通すなどと、あまりに愚策。
自身の立場?王としての矜持?下らない。覚えておきなさい。私が怒りのままに暴れるような人間ならばすでにこの国は滅び、あなた方の命は無いと!
力なきものに暴威を振るい、自らの保身と利益しか求めない行為の果てがこの国に滅びをもたらすのだと!!」
後半は怒りに満ちた声で叫んでいた。その言葉を骨身に染みて知っている騎士たちは震え上がる。
だが貴族たちは理解しない。このままだと今までのような生活ができないという事への危機感しかない。
目の前にいる人がどれだけ脅威なのか、全くわからず、イナイに対し、叫び、罵倒する。
王は頭を抱え、騎士は剣を握り震えている。隣にいる人は顔を顰め、奥歯をかみしめて貴族たちを見ている。
ただ全員がそうではないのは分かる。中には静かにイナイの言葉を聞いている人間もいたから。
「タロウ」
「ん」
出番だ。イナイは最終的にはこうなるだろうと思っていたらしい。ここの貴族たちは自分たちの保身しか考えず、自分たちのような身分有る者以外は人として見ていない傾向があると。
だから今回の結果は耐えられない。何より小娘にいいように言われているのが絶対に耐えられないと。
彼らは戦争時にも奥に引っ込んでいた連中だ。前線の状況などまるで見ていないような連中だ。だからわからない。今自分がどれだけ危険なことをしているのか。
仕込みは終わっている。ここにいる間ずっと詠唱をしていた。ばれないように魔力を隠しながら続けていた。
別に放つだけなら簡単なんだが、人数が多いのと、当てるなって言われてるので、丁寧に仕込んでいたら時間がかかった。
もう発動ができる状態で維持してるから、はたから見たら無詠唱でやったように見えるんだろうなーとか思いながら魔術を放つ。
部屋に轟音が鳴り響く。ここにいる、王以外の貴族たち、騎士達の前の前に雷を落とす。
手から雷が出てくるってホントファンタジーだよなー。いや、火とか出してるから今更だけど。
叫び声が響いた後、さっきまでの叫びが嘘のような静寂になる。
そこにイナイの凛とした声が響く。
「これが竜を倒した男の力です。タナカ・タロウの力です。あなた方は目の前にいる人物がどんな相手かわかって罵倒しているのですか?彼はこの程度ならば気軽に行使できるのですよ?」
出来ないです。倒す前提ならできるけど、当てないつもりだと細かい操作が居るので時間かかります。人が多すぎです。
でも効果は間違いなくあったようで、貴族たちは怯える目で俺を見る。多分今になってようやっと、目の前に危機が迫っている認識ができたのだろう。遅すぎるわ。
でもこれって俺が変に名前が知られるパターンですよね。やだなー。でもまあしょうがないか。イナイの隣に立つ以上いつかは知られる気がする。
「彼もこの国の有り方に疑問を持っています。竜を従える彼がこの国に対して疑問を持っているのです。流石にここまで言って理解できない方はいないと思いたいのですが」
イナイの言う通り、流石に自分たちの現状を理解したのだろう。もはや誰も何も言わなくなった。ここに来てやっと静かになるとか、ちょっと考えが甘すぎると思う。
竜の加護に依存し、ウムルの脅威を甘く見ていた国の末路がこれなのだろう。
この国は他国にも先のような考え無しの言動をしてきたのだろうか。もしそうなら今後大変なことになると思うのだけど。
この後は流石に王がどう判断するかはわからないと言っていた。これでもイナイの言う意味を理解できないのなら、もうその時は救いようがない。あとはウムル以外の他国に飲まれるだけだろうと。
竜の加護に頼り、自国を自分たちで守る力のない国が、いつまでも生き残れるはずがないとの事だ。
「王よ。私は強者として我を通している自覚はあります。ですがあなた方の国の事情に口を挟む気はありませんでした。私と、私の大事なものに手を出しさえしなければこうはならなかった。
いや、まだそれならばやりようはあったのです。私たちは皆無事なのですから。あなたはその後の判断すらも誤った。知っているはずです。ウムルは友好国にはどんな小国であろうと友好をもって接するが、敵国には容赦はしないと。
あなたの国の人間が、それも国に仕える騎士が私を襲った。その事実を知った時点であなたは国として、王として、早急にウムル王国に、そして私に謝罪をするべきだった。
私は猶予を与えましたよ。昨日あなたの元へ行かなかった意味を理解できなかった時点で、この結末は決まっていたのです」
昨日王城へすぐ行かなかったのは、王様に今回の事の挽回の最後のチャンスを与えるためだったそうだ。現状を正しく理解し、彼自身が謝罪を行うためにイナイに会う機会を作ったのならば、イナイはさほど強く出る気は無かったらしい。
「・・・理解した。ステル卿、タナカ殿、スタッドラーズ嬢、そしてハク様。此度は申し訳ありませんでした。今後我が国はウムル王国の指示のもと国を改善させていきたいと思います」
あ、シガルの名前も知ってるんだ。そりゃそうか。王様は玉座から立ち上がり頭を下げる。
イナイはそれを見て、やっと目つきが少し優しくなった。
「色々と不満はあるでしょう。ですが此度の事を教訓とし、自国の力でやっていく方法を見つけて行かれるよう努力してください。
あなたはそのつもりは無かったのかもしれませんが、あなた自身が、あなた自身の考えで頭を下げなかった以上、あなたも彼らと同じだったのです。たとえどうなっても竜が助けてくれると、どこかで思っていたのでしょう」
「かも、しれぬ。ウムルを脅威とは思ってはいた。だが、誰かに頭を下げるなどとは考えなかった」
「こちらとしても取るべき対処をするしかありませんでした。私も戦いを望んでいるわけではありません。ですが命を狙われた以上、あなた方を敵と認識するしかありません」
「ああ、当然であろうな。自国の貴族を暗殺など、その事実を知れば私でも相応の対処をするだろう」
王様は何やらものすごく素直にイナイのいう事を聞いている。さっきまでの怒りや焦りなどの表情は無い。
というか、なにか達観したような表情だ。いや、何かを諦めたのかもしれないな。
「口を出す以上、ウムルもあなた方を守ります。ですがもちろん私たちの方針に従うのならばです。その点を重く認識した上で、お願い致します」
そしてイナイは最後に、王に頭を下げた。まさか下げられると思ってなかった王は若干狼狽えるが、たたずまいを直すと、重々しく頷いた。
今回の騒動は完全に決着したと思っていいのかな?
最後にボソッと「またブルベの仕事増やしちまった」と言っていた。
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