陰謀、新しい出会い。
第106話お城にまねかれます!
「くあ~~~、はぁ。良く寝た・・・」
護衛中にぐっすり寝るという事は出来なかったので、早めにぐっすり寝てしまった。
傍らには竜に戻ったハクがいる。
宿について部屋に入ったら、ハクは即竜に戻り、ベッドのど真ん中に居座って寝てしまった。揺らしても叩いても動かなかった。朝は起こせば起きるが、こうなると起きない。
ベッドは大きいのが二つの部屋を取ったのだが、その一つの真ん中で、しかも横向きに寝てしまったので、イナイとシガルにもう一つを使ってもらって、俺がベッドの端に追いやられるように寝ることになったのだった。すげえ寝にくかった。最終的にハクの上に足をのせていました。もう知らん。
「ハク、朝だよ。起きて。今日は多分皆出かけるよ」
最初こそ叩こうが落とそうが起きなかったハクだが、組合の仕事に朝から行ったり、俺達がみんな朝から行動するのに置いてかれるのを嫌がり、ちゃんと起こせば起きるようになった。
「・・・キュー・・・キュアー・・キュルルー」
俺の声にのっそりと首を上げながら、鳴き声を上げる。
「おはよう、ハク」
「・・・・キュルー」
まだ寝ぼけてるな。鳴き声のままだ。
「んー、朝か。ふあ~。最後の襲撃来るかなと思ったが、こなかったな」
イナイが起き上がって物騒なことを言う。宿に襲撃とか、そこまでやる物なのか。
いや、やるか、野営の最中に殺しに来たんだ。ありえなくはない。
「んー・・・起きる・・あたし・・起きる・・・起きて・・・」
シガルも起きたようだ。頭突っ伏して、おしりだけ上がってる。まだ寝そうな感じになってるけど、しばらくすれば起きるだろう。
「朝ごはんどうしよっか」
「ここ下に行けばでるぞ」
「あー、そういえばそうだっけ」
『野菜が食べたい。道中肉ばっかりで飽きた。魚でもいい』
ハクもちゃんと起きたようだ。ハクが起きてるかどうかの判断が分かりやすくていい。
「魚か、俺が釣りに」
「却下」
「・・・はい」
言い切る前に却下された。まあ、実際今日は釣りに行く時間なんかないと思うし、当たり前だが。
そもそもこの近辺に川の類があるのかどうかもわからない。
「まあ、下に降りて食べに行こう。たぶん食ってる間か、その後ぐらいに迎えが来ると思うぞ」
昨日の騎士が迎えにかな?どうやってここ突き止めるんだろう。
「そうなの?」
「ああ、ここに泊まる事教えておいたからな」
何時教えたんだろう。別れ際には明日行くとしか言ってなかった気がするけど。
「直接言ったわけじゃないぞ。商人との話を聞こえるところでしたってだけだ」
俺が首をひねっていると、答えをくれた。なるほど、そういう事か。
「起きる・・・起きて・・・あたし・・・」
シガルはまだ目が覚めないようだ。頑張れシガル。
下に降りて、食堂らしき所で食事をしていると、周りがちらちらと見ているのが分かる。
多分、間違いなくハクを見ているのだろう。ここでもやはり『亜人』というものに対する感情は複雑なものがあるのだろうか。
ハクは気にした様子はない。それよりも目の前の魚料理のほうが大事らしい。
食事中にがやがやと外が騒がしくなる。ふと出入り口に目を向けると、騎士が立ってきょろきょろしていた。
こちらに気が付くとばたばたと歩いて来て、跪く。昨日の隊長だ。
「ステル様。お迎えに上がりました」
「・・・食事を待つと言う考えはないのですね、あなた方には。他の方の迷惑、という事も」
イナイはキッとした目つきで騎士に言う。
「も、申し訳ありません。国王陛下の命ですので、どうかご容赦を」
「・・・・はぁ」
イナイが溜息を吐いた瞬間、びくっとする騎士。イナイ、分かってやってるんだろうなぁ、これ。
震える騎士に声をかける。
「そこまで怖がる必要はありませんよ。私は私に害するような行動でもとらない限り、命を奪うようなことはしません。あなた方とは違います」
「も、申し訳ありません。わ、私も気を付けるように努めます」
あ、これ伝わってない。イナイは多分むやみに立場を笠に着る行為はしないと言ってるんだけど、騎士のほうはイナイに害を与えないように気を付けますって言ってる状態だ。
根本から思考回路が違うんだろうな。わざわざ嫌味っぽくあなた達とは違うと言ったのに。
「・・・まあ、いいでしょう。今から着替えてきますので、しばらくお待ちいただけますか?」
「はっ」
騎士は頷くと、立ち上がり出て行った。
「さて、タロウ、着替えに行くぞ」
「え、俺も?」
「全員だ」
「え、私も着替えるの?」
「おう、ほら、いくぞ」
『もったいない・・・』
ハクは残った食事に後ろ髪をひかれながらイナイに引きずられる形で部屋に戻る。
部屋に戻ると、腕輪からクローゼットを取り出した。さすがに驚いてしまったけど、サイズで言えば車も似たようなものか。いや、車のほうがでかいな。
「こういう事も有ろうかと、用意しておいた。ハクのはこの間帰ったときにがさっと持ってきた。まあ基本はドレスだけどな」
そう言って色とりどりのドレスを取り出す。
「お、お姉ちゃん、な、なんかすごく高そうな生地なんだけど」
「おう、戦闘で使えるぐらい頑丈だぞ」
「そ、そんなの着れないよ!汚したら怖いよ!」
「いいからいいから。どうせ誰も着ないで置いてたんだから。シガルにはちょっとだけサイズがでかいが、大丈夫だろ。どうせ調整すれば大きくても小さくてもどうにかなるようにしてるしな」
「うう~、お姉ちゃん、こういう所は他の貴族と一緒だ・・・」
シガルがドレスの物の良さに腰が引けている。高いんだろうなぁ。あれ、これ・・・。
「イナイ、俺が前に作ったのが混ざってる」
イナイに教えてもらいながら作ったドレスだ。他の綺麗なドレスの生地と似た物な辺り、くっそ高い生地でやっていた事実に今更震える。
やめてー。値段教えないで使わせるの止めて―。アロネスさんも同じ事するから怖い。
「あ」
イナイはその服をつかみ、即直した。若干顔が赤い。
「・・・なんだよ」
「え、いや、なにも」
いったい今のは何だったのだろうか。しかし今の服は、出来としては微妙なものだったな。
イナイに指示されながら、専用の針で縫い合わせて作ったドレスだ。魔力を通しながら使う特殊な針で、一生懸命フリルを作ったが、いまいち満足できる出来ではなかった。
「ほ、ほら、お前はこれ着てろ!」
バンと礼服のような服を渡される。国境の所の領主の館のおじいさんが着てた服に似てる。
とりあえず、言われた通り着替える。こんなかっちりした服着るの初めてで少し緊張する。
着替え終わって、イナイ達の着替えを待つ。しわになるといけないので立って待ってます。
勿論後ろ向いてます。はい。
「タロウ、いいぞ」
イナイの声に振り向くと、赤い細工の綺麗なドレスに身を包んだイナイと、青いシンプルなフリルドレスに身を包んだシガルが居た。どちらもロングスカートの類だ。ウエストでキュッとしまって腰から丸みを帯びて広がり、女性的な魅力の出るドレスになっている。
対してハクは短いスカートだった。上下も違う。上は白で下は赤、背中はがっつり開いている。羽と尻尾の邪魔にならないものを選んだんだろう。股下がぎりっぎりすぎる。
それにみんな、化粧をしている。イナイがしっかりわかるほど化粧してるの初めて見た。普段もしてるらしいけど、普段のは俺にはしてるのかしてないのかわからない程度の物だ。
「綺麗だ」
素直に思ったことが言葉に出た。ただ目線ががっつりイナイに行っていたので、シガルにちょっと拗ねられた。
可愛いって言うと、もっと拗ねられた。多分イナイに綺麗って言ったからだろうなぁ。
ハクはキラキラしたドレスが気に入った模様。竜って俺達の世界の話だと光物好きだったりするけど、こっちのはどうなんだろ。
ともあれ、準備が整ったので、騎士たちの所に行くと、えらく豪華な馬車が待っていた。
「どうぞ、お乗りください」
そういって差し伸べられた手をガン無視してイナイは乗り込む。ふわっとした、ドレスに似合う綺麗な歩き方だ。ちょっと騎士がかわいそうと思った。
俺とシガルも乗り込み、最後にハクが乗って、出発する。
速度はそこまでではなく、ゆっくり走っている。尻が痛くなくてよい。
「ステル様、到着いたしました」
城の門を超え、王城の正面入り口そばで止まる。
イナイは乗る時と変わらず、手を差し出す騎士の手を無視して降りる。やっぱりちょっとかわいそう。
でも俺がそっと騎士に手を添える案は無いので、そのままスルー。同じく他二人もスルー。
強く生きてね、隊長。
気を取り直した騎士は、城を案内してくれた。といっても待っていてほしいと言われた部屋まで誘導されただけだ。
「しばらくすれば、文官が呼びに来ますので」
そういって、そそくさとどこかに行った。まあ、イナイのそばに居続けるのが怖かったのだろう。
「あ、そうだ。打ち合わせしてなかったな」
「ん、打ち合わせ要るの?」
「おう、そのほうがいいと思う」
『何するんだ?』
「まあ、ちょっとまて・・」
そういってイナイは腕輪をいじる。なにして・・ん?なんかこの部屋が何かに包まれた感じが・・・。
「いまこの部屋の音が外に漏れないようにした」
「ああ、防音の、それ自体についてるんだ」
「おう、魔術を使うより、簡単だろ?」
「お姉ちゃんの腕輪本当に多機能だよね・・・」
シガルが腕輪を見て、驚いている。まあ、そりゃあれだけ物が入るだけでもすごいのに、さらに他の機能も満載。
チートだ。
打ち合わせをして、呼びに来るのを待つ。どうなるのかちょっと怖い。
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