第105話やっと街にちゃんと到着しました!

翌朝、騎士たちが前と後ろを固め、賊も騎士達の捕縛の元歩かされて、商人達や、護衛のお兄ちゃんたちは微妙な緊張感の中、王都にたどり着く。

朝早く出たおかげと、イナイが日が昇る前に着きたいと言ったとおりに着くように騎士たちが馬を歩かせたので、ちゃんとそのぐらいに着けた。


「では、賊共の処理は、我々で行っておきます」

「ええ、お願いします。くれぐれも折角捕らえた事を無為にしないようにお願いしますね?」

「はっ、勿論です。つきましては、ステル様にはさっそく王城にお越し願いたいのですが・・・」

「私一人では参りません。彼らも共に行きます。明日王城に伺うとご報告願います」

「よ、翌日に彼らもですか?で、ですが・・・」

「何か問題でも?」

「い、いえ、ではそのように報告しておきます」


そそくさと騎士たちは、兵に賊を引き渡し、門の中に引っ込んでいった。


「はぁ、疲れた。あいつらずっとあたしのこと見てやがった」

「いや、それはしょうがないんじゃないかなぁ」

「お姉ちゃんの機嫌損ねたらどうなるか、って思うと気が気じゃなかったと思う」


割と真剣に怖いよね。俺も彼らの立場だったらかなりビビってると思う。

イナイの立ち位置をセルエスさんに置き換えると本気で震えてくる。怖い。セルエスさん怖い。


「イナイは先に入って宿とかで休んでてもいいんだよ?」

「いいよ、ここまで来たんだ、一緒に行列待つよ」

「ながいねー。いつまでかかるのかなぁ?」

「さてなぁ、個人が通るとこじゃなくて、商人が通る所だからな。荷物の確認や、所属の商会、国、組合も確認するし、滞在期間の確認や、支払いなんかも有るし、時間がどれだけかかるかは分かんねえなぁ」


む、今組合って言った?商人の組合あるのか。


「商人にも組合あるの?」

「有るな。ただ自由労働組合とは物が違うぞ?」

「そなの?」

「基本的に商業組合は国内のみの、商人たちが自分たちで管理してる物だ。組合が無い国もあるけどな。

商人同士の仕事を、お互いに上手く擦り合わすために有る組織ってとこか。

だから国をまたぐ大きな商売の時は他国の商業組合の代表が集まって会議したりなんかもあるな。だいたいその国のでかい商会の会長が行く。

問題起こすと他の商人からもハブられるから、すべて独自でやってる場合を除いて、基本的にはおとなしく所属してまじめにやっとくもんだな。

これはウムルにもあるし、むしろウムルでは一番組合としては活発かな。ああ、あたしも一応名を連ねてる」

「あ、イナイも入ってるんだ」

「一応な。今じゃ名が残ってるだけだが、駆け出しのころは自分で道具売りさばいてたんだよ」

「ああ、なるほど。そうだよね、イナイだって駆け出しの時期があるんだよね」

「そりゃまあな。今はウムルには部品専門の職人がいるから、部品はそっちから買い付けて、作ったものは国を通してからになってるけどな。部品も作れないわけじゃないが、手間も省くのと、街の金も回さないとな

今まで作った物も、製作法教える代わりに売り上げの一部が国に入るようになってる。ンでその金でまた国の事業や、国に仕える連中の給金に金を回す感じだな」


金を回す、か。そういう発想が出るあたり、やはりイナイは一般人とは違う立場だと思った。

俺ならお金は出来るだけためておいた方が良いんじゃ?って思っちゃうし。

それに、今の発言だと、イナイってウムルの国庫に小さくない影響を与えてるんじゃないの?


「最近目新しいもの作ってないんだよなぁ。飛行具も設計だけでまだ作ってねえし。小さいの作って実験したのは成功してるから、そのうち機会が有ったら作りたいな」

「飛行具?」

「ああ、空を飛ぶ道具の試作を旅に出る前に作ってさ。人が乗せられる大きさで設計した分を作ってないから、作りたいなって。設計思想としては、魔術をろくに使えない人間でも動かせる物だな。魔力を流せれば道具の機能だけで飛べるような」

「いつか作るんだろうなと思ってたらもう作ってたのか・・・」


何時の前にそんなものを。俺そんなの作ってるとこ見てないんだけどな。


「その言い方だと、お前の世界にはもう有るんだな」

「そうだね、簡単なものから、とんでもないものまであるね」

「とんでもないもの?」

「えっと、空を飛ぶと言うか、空を浮かぶものと、それこそ竜並みの速さで飛ぶものがある」

『聞き捨てならないな!どこだそれ!勝負だ!』

「いや、こっちの世界にはないから・・・」

『む、そうなのか?じゃあタロウが作るんだ!勝負だ!』

「無茶言うな。あんなの作り方知らんわ」

『むう・・・!』


なんかハクがすねた。すねられても困る。飛行機なんて個人で作れるわけがない。

ああ、でもこっちの世界で錬金術と魔術を駆使すればそれっぽいものは作れそうな予感はする。

多分操縦に魔力操作の技術が必要になると思うけど。でも結局人手がいるよな、作ろうと思ったら。


「お兄ちゃんの世界ってすごいんだねぇ」

「科学技術に関しては、確かに凄かったかも。それこそ誰もが簡単な魔術を使えるような感じでいろんな道具があった」

「凄いな」

「でもこっちの世界みたいに魔術は無いんだ。だからこそ、人の手でできる技術を突き詰めていった結果そういう物が出来たのかもね」

「魔術の無い、人の手のみの技術、か。あたしたち技工士にも一般的では無い発想だな。もちろん魔術を使わない道具もある。けどやっぱり動力源として魔力を使う道具のほうが一般的だからな」


確かに、教えられたもので動力源が必要なものや、それによって魔術の発動を促すものがほとんどだった

竜の魔術のように魔術のみでそこに有り続けるような魔術はそうそうできるような物ではない。それにあの転移の石碑はどうやら、あそこに魔力が集まって維持するようになってるらしい。でなかったら流石に維持は出来ないそうだ。それでも普通は日数がある程度たてば消えるものだ。あの老竜のすごさが垣間見える。


その後は、俺の世界に有った道具の事をこの際だからとイナイがいろいろ聞いて来て、俺が知ってる限りで答え、シガルは面白そうにそれを聞き、ハクが時々よくわからない対抗心を燃やしていた。

そんな会話をしているうちにこちらの商隊の番が回ってきて、問題なく通過出来た。

イナイの事を聞いてたらしき兵が、ちょっと震えていたのは、まあしょうがないと思った。


「では皆さま、お疲れ様でした。問題もありましたが、無事街にたどり着けたことを感謝します。すでに一人組合に走らせていますので、皆さまはこのまま組合に行かれれば報酬を受け取って終了となります。お疲れ様でした」


と、代表の代わりらしい人がしめたので、そこで解散となった。フェレネさんが、機会があればまた会おうと行ってきたぐらいで、特に何もなかったかな。


「じゃあ、報酬をもらいに行きますか」

「おー!」

『おー!』

「はいはい」







組合につくと、すごい人の量だった。建物のサイズも今までの物より倍以上でかい。

そもそもここまでの道中も人が多かったので、単純にこの街自体に人が多いんだろうな。


「大きいねぇ」

「流石王都の組合ってことなのかな?」


シガルがその大きさにほえーっとした声を出しながら言う事に答える。


「ウムルのは小さいけどな」

「いや、まあ、前に聞いた話を鑑みるに、しょうがないんじゃないかなそれは」

『タロウ、早く行こう!』

「ん、行こうか」


ハクが早く済ませたいようなのでとっとと受付に行く。多分宿をとって、竜に戻りたいんだろう。

中に入ると注目を浴びた。主にハクに目が行ってる気がするけど、俺達にも多い。

そのうちの一人の、厳つい、いかにもな男がずんずんと前に出てきた。


「おいおい、亜人が何の用だよ?ここは亜人様が来るようなところじゃねえぜ?帰んな」

「彼女は組合の仕事を全うし、報酬をもらうために来ました。どいて下さい」

「あ、なんだ小僧。文句あんのか?あ?」

「有るに決まっているでしょう。とりあえず邪魔なのでどいてください」

「てめえ、良い度胸してんじゃねえか・・・つら貸しな、裏の訓練場行くぞ」


ここにも訓練場あるのか。というか、基本組合の裏に有るのかな?

そこでなら殺し合いに発展しない限りはそこまで問題にしない約束でもあるのかもしれない。

血気盛んな人間が多そうだし、ガス抜きはどこかで必要だろう。


「なぜですか?あなたに従う理由も無ければ利もありません。お断りします」

「へぇ・・てめえ、駆け出しのガキが先輩怒らせて仕事できると思うなよ・・・」


ドスの効いた声で言って来る男だが、全然怖くない。ナマラさんのほうがよっぽど迫力がある。


「とりあえず間抜けな声出すのはやめてくれますか?」

「ま、まぬ・・!?」

「はぁ、もう良いです、こっちが避けます。いこう」

「うん」


シガルは返事をして、ハクはつまらなそうな顔で男を見た後無言で俺についてきた。

男はものすごく睨んでる。知らんがな、絡んできたのそっちじゃないか。

受付に行くと可愛い女の子が受付をやっていた。


「あの、商隊の護衛依頼の達成報酬を貰いに来たんですけど・・・」

「はい、組合証を呈示願えますか?」

「はい、お願いします」


俺達は皆一緒に組合証を出す。


「あ、それと、これもお願いします」


紹介状も渡しておく。折角もらったんだし、使っておこう。


「あ、はい、受けたま・・・しょ、少々お待ちください。し、支部長!」

「ん、どしたー?」


無精ひげの温和な顔のおっちゃんが返事をする。なんか凄い普通の人だな。


「こ、これを」

「ああー、はいはい。ちょっと奥で確認してくるから、ここまかせますねー」


他の職員たちに声をかけて、奥の部屋に入っていく。


「失礼しました、報酬のほうはすぐに確認しますが、その後も少々お待ちいただけますか?」

「あ、え、はい」


そういって、組合証と、達成依頼の照合をしているらしい作業を眺めつつ待っていると、確認が取れたと報酬を渡される。


「あれ、なんか多くないですか?」


貰った報酬が最初の約束より多い。


「トラブルが複数あった分の迷惑料、とのことです」

「ああ、なるほど・・・」


前の街の事と、あの野盗の事だろう。なら素直にもらっておこう。あって困る物でもないし。


「組合証も、お返しいたします」

「はい、ありがとうございます」


組合証を受け取る俺と、シガルと、ハク。ハクがしゃべらないな。なんか不気味だ。


「ではお手数ですが、そちらでお待ち頂けますか?」

「あ、はい分かりました」


受付を離れて、腰を下ろせるところで待つ。その間にハクが静かなのが気になったので、訪ねる。


「ハク、静かだけどどうかした?」

『ん、今日は早く元の姿にもどりたい。私がしゃべるとなぜか皆騒ぎ出すだろ?』

「ああ、なるほど」


騒ぎにならないように黙ってたのか。前の街のみんなの反応で学習したのね。子供みたいな立ち振る舞いが目立つけど、ハクもちゃんと考えてるんだな。

しばらくすると、支部長と呼ばれていたおっちゃんがやってきた。


「えーと、君がタロウ君ですか?」

「あ、はい。そうです」

「しばらくここに腰を落ち着けるという事でよろしいですか?」

「あ、はい、どれだけいるかは分かりませんが、少しの間はここに居ます」

「そうかそうか、分かりました。彼女たちも?」


おっちゃんは温和な笑顔でシガルとハク、イナイも見る。ん、イナイ?シガルとハクの事はちらっと書いてあったけど、イナイの事は書いてなかったと思うんだけどな。


「ええ、4人で旅をしていますので」

「はいはい。ではもし組合内で何か困ったことがったらすぐに言って下さい。出来る限り穏便に済ませるように配慮します。

職員にも言っておきますね。今日の受付のあの子なら問題ないが、あの子のような子ばかりじゃないですから」


ハクをちらっと見ながら言う。たぶんさっきの男のような反応をする職員もいないわけじゃない、ということだろうな。


「お願いします。もしかしたらすぐにお願いすることになるかもしれませんが」

「何かあったのですか?」

「先ほど、入口のそばで、すでに絡まれてます」

「ああ、なるほど。とりあえず今日は外までついていきましょう。彼らには君たちが去ったあとちゃんと言っておきます」

「あ、はい、お願いします」


ほむ、どうやらこれ以上の問題起こらないで済みそうだ。

俺達は支部長さんの先導で外に出る。その最中、絡んできたあいつは忌々しそうにこちらを睨んでいた。あいつ事情知っても絡んでくる予感がする。たぶん来ると思う。


「さて、宿に行きますか?」

「おう、一応商人どもにいい所聞いてるから、そこに行くか」

「お姉ちゃん、そういうところ抜け目ないね」

「無いならしょうがないが、有るならましな所に泊まりたいだろ?」

「そうだね。虫がいっぱいとかだったら辛いね。虫に噛まれながら寝るとか嫌だなぁ」

『私は平気だぞ?』


そりゃ平気でしょうよ。俺が叩いても何ともないんだから。


「ま、まあ行こうか。ハクも早く楽な格好に戻りたいだろうし」

『うん!』

「あはは。ハク、お疲れさま。今日はゆっくり休んでね」

「おし、いくか」


イナイが聞いていた宿はそこそこいい感じだった。最初ハクを見て少しいやそうな顔をしたが、宿泊拒否などは無かった。

あー、やっとゆっくり寝れる。

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