第104話王様と相談ですか?
皆が寝たのを確認し、こそっと外に出る。
周りに人が居ないのを確認して、腕輪をいじる。
「イナイだ。起きてるか?」
腕輪の通信機能を点けて、話しかける。深夜だし寝てるかな?
『・・んー?あー、姉さん、なにかあったー?』
腕輪から寝ぼけた声が聞こえる。
「悪い、やっぱ寝てたか」
『あー・・うんー・・大丈夫ー・・起きる―』
「すまん」
『いいよいいよー・・・ん~~、はぁ』
おそらく背伸びでもしているのだろう。リンが聞いたら悶えそうな声が聞こえる。リンはこいつのこういう声好きなんだよな。
本人はバレてないと思っているけど、全員にバレてる。伊達にガキの頃からよく一緒にいるわけじゃない。
『ん、目が覚めた。イナイ姉さん。何かあったの?』
「すまん、ブルベ。問題ありだ」
『襲われたのとは別件?』
「あれとは別件で命を狙われた。こっちの膿にたまたま手を出す機会があってな」
まあ、この国の連中にとっては膿と思ってないかもしれないが、私たちにはあの手の連中は国の膿みたいなものだ。
早々に綺麗してしまうべきものだ。こないだやっとこその大掃除が済んだけどな。
まあ、まだまだ細かくどうにかしなきゃいけない事はあるが、一段落ついた。
『・・・国が、かい?それとも誰かの独断?』
「保身に走ったバカの独断だな。国に裁かれるのを恐れたんだろう」
『了解。こっちでも人を出しておこうか?』
「一応国王はあたしたちを取り込もうとしている側のようだから、問題ないと思う。ただ報告だけはしておこうと思ってな」
『念のために言っておくけど、本気でやっていいからね?』
「ああ、ありがとうな」
つまり、後の面倒事はウムル王国として受けて立つと言ってくれている。本当に頼りになるなぁ。昔とは大違いだわ。
ロウに打ち据えられてべそかいてたのが懐かしいな。
「あと、襲ってきた奴らはもう殺した」
『・・・そっか。姉さん、大丈夫?』
「今更だろ。あたしが今まで何人殺したと思ってんだ」
そうだ。今更だ。あの戦争であたしは何人殺したかわからない。自国を守るため、蹂躙された者たちを守るための戦い。
だが結局戦争は規模の大きい人殺しのやりあいだ。そこで何人殺したかわからないあたしが、今更落ち込んでいられるかよ。
『そういう言葉が出てくる時点で気にしてると思うんだけどな』
「気にしねえわけじゃねえさ。けど今更だ。あたし達はそれを必要な事だったと認める側でなきゃいけねえだろ」
『・・・分かった。もし何かあればすぐに言って。手を貸すから』
「まあ、策はある。大丈夫だ」
『ん、じゃあ、またね、姉さん』
「ああ、またな。すまなかった」
通信を切って息を吐く。そう、今更だ。何よりタロウの命を狙ったんだ。気にする必要もない。
「なんてな。強がってんじゃねえよ」
本当は何時までたっても慣れない。頭に血が上るぐらいの外道だったら、この間の強盗達のような奴らなら、さほど思う所は無い。自業自得だからな。
それでもやはり殺しは気分が悪い。人がするのも、自分がするのも胸糞が悪くなる。
けど今のあたしには立場がある。後ろ盾がある。それは悪い意味もある。それらがあることによって取らなければいけない行動ってものが出てくる。
けど、それがあるから、他国へ行っても問題をはねのけられるって事でもある。分かっているからこそ、自分の気持ちは二の次だ。
「・・・情けねえなぁ」
空を見上げて呟く。タロウに偉そうに説教たれといて自分はこれだ。情けねぇ。
「んで、なんか用か?」
あたしは暗闇に向かて声をかける。ひょこっとタロウが出てくる。
「あ、バレてた?」
「バレバレだろ。本気で隠れる気ならもっとうまく隠れるだろ、お前」
「まあ、以前無意識にやってたのを意識してできるようにはなったけど」
前に迷子になった時のだな。あの時こいつ、居場所特定できなかったんだよな。今じゃ本気で隠れると探知に引っかかりやがらねえ。
セルも見つけられなかったらしいから相当だ。なぜかリンは見つける。あいつやっぱり人間じゃないんじゃないかな。
「どうした?寝れないのか?」
「んー、イナイにちょっと用事」
あたしに用事?なんだろう。
首をかしげていると、タロウはおもむろにあたしを抱きしめた。
「タ、タロウ?どうした」
「こっちのセリフだよ。無理してるの、わかるよ」
「無理なんてしてないぞ」
あたしの答えにタロウはさらに力を込めて抱きしめる。
「してるよ。ほんとはああいうのやなんでしょ?」
「そりゃ、まあな。好きではない」
「だったらそれを俺に愚痴るぐらいはいいんだよ?」
お前に?あたしが?いいのか、それは。あたしはお前を支える側だと思ってたんだけどな。
いや、違うのか。お互いに支えあうのか。依存しあうと言ったらいい方は悪いが、お互いに求めあうのが自然か。
くだらない事での愚痴は何度か言った覚えはあるけど、確かにお前に嫌われそうだなって思っちまうことは言ってない。
「なあ、タロウ。あたしは人殺しだ」
「俺だって、こないだそうなったよ」
「あたしはあんなもんじゃない、大量殺戮だ」
「でも、そうでもして守りたいものがあったんでしょ?」
「ああ、あった。守れなかったものが沢山あった。でも守れたものも沢山あった」
家族は守れなかった。助けに行った者たちを助けられなかったこともあった。
でも、今のウムルを見て、あの戦いをしてよかったと思えた。子供たちが笑って生きられる街ができあがったのを見て、心底嬉しかった。
それでも心のどこかに重く染みついている。人を殺した感触が晴れることは無かった。
「殺したくなんか、無いよ、ほんとは」
「うん」
「でも、やらないともっと被害が増える事もある。さらに死者が出ることもある。さっきのだって、脅してなかったら命令されたほかの連中が何かしら仕掛けてきただろう」
「うん」
「一発目で完全に抑えないともっと兵を送り込んでくるバカもいるんだ」
「うん」
「う・・・くっ・・あたしだって・・・犠牲なんか・・だしたく、ない・・」
くっそ、感情があふれてくる。今まで誰にもここまでは言わなかったのに!
戦うのが辛いって!殺すのが辛いって!本当はただ物を作って楽しくやっていたかったって!
ああ辛かったさ!どれだけ戦う力を持ってるったって、競い合うんじゃなく、殺し合いに使うのはとても辛かったよ!
でも、それは仲間たちだってそうだ。ブルベを筆頭に本当は人殺しなんてやりたいと思ってるはずがねえ。
でもやらなきゃいけなかった。戦わなきゃ守れなかった。そして今も守るには、大事なものを守るには決断しなきゃならねえ。
辛くたってやらなきゃならねえ時がある。自分の大事なものを守るために。
けどいいのかな。そんな弱音を吐いて甘えても。
タロウになら、あたしは弱いあたしでもいいのかな?
強いあたしじゃなくて、余裕のあるあたしじゃなくても、お前は受け入れてくれるのか?
「いいよ、イナイ。言ったでしょ。俺はイナイを全部受け入れるって。好きだよイナイ」
その言葉に、声音に、あいつの抱きしめる力と体温に、あたしは涙が溢れた。
ああ、いいんだ。あたしはこいつの腕の中では、ただの『イナイ』でいいんだ。
やっと、お前に惹かれた本当の理由に、今更気が付いたよ。お前はただただあたしを見て、『あたし』を受け入れてくれるんだな。
あたしはお前のそばに自分の心の安らぎを求めてたんだな。ただの弱いあたしを受け入れてくれるお前に、あたしは居場所を見つけたんだ。
ありがとう、タロウ。お前と出会えてよかった。今なら心の底から言える。あたしはお前を愛してるよ。
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