第103話イナイの独壇場です!
「なるほど、あの二人は、別々の貴族の命で同じ事をした訳ですか。まあ、手を組んでいるのは間違いないでしょうね」
「で、ですが、彼らの独断という事も」
「独断であれば、罪は無いと?」
「いえ、そ、そういうわけでは」
「それに独断はありえないでしょう」
「そ、そうですか?」
「ええ、彼らの独断だとして、なぜ私たちを殺す必要があるのですか?」
「そ、それは奴らがあなたに不満を持って」
「あなたはそんな些細な事の為に命を懸けるのですか?失敗すれば死は確定していますよ?」
「そ、それは・・・・」
「つまりやらなければ殺されたという事でしょう。どちらにせよ殺されるならば、彼らにとって生き残れる手段と見たのはあちらだったのでしょうね。
素直に話すのであればそれなりの対応をしましたが、私も命を狙われて甘い顔はできませんので」
「そ、それはもちろん」
イナイは出されたお茶を一切口につけず、隊長と会話を続ける。
俺とシガルとハクは、その横の椅子にみんなで座ってる。
幾人かの騎士もこの場に立っている。みな緊張感のある表情だ。
「一応言っておきますが、嘘やごまかしはやめておいた方がいいですよ。私一人でこの騎士隊を全滅させる程度、大した労力でもありません。それは先の処刑で分かっていると思いますが」
イナイのその言葉に、騎士達が固まる。嘘やごまかしが有れば、さっきの魔術が自分たちにも向くと言われているんだ。生きた心地はしないだろう。
とはいえイナイがそんなことをする性格かと言われれば、否だ。たぶんただの脅しだ。けどイナイを知らないこいつらにそれが分かるはずもない。
機嫌をこれ以上損ねれば殺される。たぶんそう思ってるはずだ。分かりやすいまでにイナイはそう脅してる。
「彼らの他に、同じ貴族、もしくはそれらに関わりのある貴族に仕えている者はいますか?」
「は、はい。います」
「その方々をここに呼んできていただけますか?」
「はっ、少々お待ちください!」
即行で走って行って、さほど時間をかけずに帰ってきた。その後ろをついてくる5人の騎士。
「連れてきました!」
「ありがとうございます。さて、あなた方、単刀直入に聞きます。私達の殺害を命令されましたか?
正直に話せば悪いようにはしません」
イナイの周囲がチリッと焼ける。炎がちりちりとちらついている。さっきの炎がまだ記憶に新しいだけに、効果的だろう。
「お、お前たち、絶対に嘘を吐くなよ!もし後にそれがバレれば我々はみな死ぬと思え!」
お前たちが死ぬではなく、我々が死ぬといった事をきちんと認識したらしき男たちは、ごくりと唾をのみ、体が震えている。
「も、申し上げます。あなた方が王都に来る前に接触できる機会ができた事を幸いと、王都につく前にステル様、タロウ殿を殺せと命じられました」
「私も、あなた方が王都まで来ればまずい事になると、是が非でも王都に来る前に殺せと言われました」
「私も同じようなものです」
「わ、私は殺害が上手くいかないようなら、連れの子供を攫えと言われました」
「私もそういわれました。処刑された二人もおそらく似たようなものかと思います」
実にあっさりとゲロってくれた。直前の処刑が効いてるのは間違いない。みな震えながら言う。
「と、いう事のようですね?」
隊長に向かって笑顔で言うイナイ。反対に隊長は真っ青だ。
「こ、この事は国王陛下にご報告し、その貴族にも処分をお願いしますので、ど、どうかお許しをいただけませんか」
「いいえ、報告は私自身でします。あなた方は私たちを王城まで連れてくるために派遣されたのでしょう?」
「そ、それは」
「隠す必要はありませんよね?ただ賊の輸送ならば兵が来ればいいだけの事。あなた方騎士が来る必要はありません。この国の騎士はめったに表に出てくることは無いでしょう?」
「い、いえ、私どもは、ステル様に粗相が無いようにと、身分有る物を向かわせようと・・」
「あら、それならばなぜ、あなた方の上役である貴族たちが一人も来ていないのでしょう?」
「あ、い、いや」
「当然ですわよね?彼らは私たちのほうが足を運んで頭を垂れるべきだと思っているのでしょうから。自分達の国に私の足で来て、挨拶をさせようと思っているのですからね」
「けしてそのようなことは!?」
「そうでしょうか?私が王都に来て、彼らを無視すれば、私にとって、いや、ウムルという国にとって、彼らは取るに足らないと判断されることになる。とでも言われてませんか?」
「・・・・!」
完全にイナイのペースである。隊長はもはやなにも言い訳ができないと言う感じだ。
「しかしながら、私は先ほど嘘やごまかしは許さないと言ったはずなのですが、あなたはまだ少し認識が弱いようですね」
そう言いつつ、今度はぼっと勢いのある火を一瞬身にまとう。火ってわかりやすいよな。
水とか、土とか、風とかより、目に見えて被害が分かるから怖いんだろうな。
「も、申し訳ありません!確かにそのような事を言われました!」
素早い謝罪。めっちゃ怖がってる。
「では、王都に着いても、私が着いたという報告だけでお願いしますね?この事は直接国王陛下にお話しいたします」
「はっ」
「さて、あなた方の仕える男は逃げるか、暴挙に出るか、それとも素直に従うか。なんにせよ結末は決まっていますけどね。
あなた方も知っているはずです。ウムルは友好の手を差し伸べる者には甘いですが、敵と認めた物に容赦はしないと。今回の事、けして有耶無耶には致しませんよ?」
イナイはにっこりと、普段なら美少女だなぁと思って眺めるようなきれいな笑顔だが、今日のはものすごく怖い笑顔で言う。
「では、明日は早くに出ます。日が昇りきる前には着きたいですね」
「わ、わかりました。皆にもそう伝えておきます」
「よろしくお願いします」
イナイは深々と礼をして、俺達と一緒に商隊へもどる。
商隊では皆、何があったのかと、一所に固まっていた。
「た、タロウ君、なにがあったのかな」
フェレネさんが代表して聞いて来た。
「あー、えーと」
ちらりとイナイを見ると首を振られた。言うなって事かな。
「すみません、大したことじゃないんですよ」
「だ、だがさっきすごい火柱が」
「ああ、あれはまあ、その、あんまり気にしないでください」
「う、わ、わかった」
全くわかってないが、引いた方がいいと判断した模様。助かる。
良い言い訳が思いつかなかった。
俺達は自分たちの馬車に戻ると、イナイに質問をした。
「今回の騒動の貴族って、こないだの襲撃の奴の残党かな?」
「いや、違う。それならむしろ大人しくして、バレねえように努めるだろ。多分、前の街の奴とつながりがあるやつだ。連絡が先に行ってたんだろうな」
「・・・もしかして何かあったの?」
「んー、まあ、単純な話さ。貴族然とした行いはあまり好きじゃない。っていう話を、あそこの貴族の兵に言ったのと、あそこの組合に関与してる貴族だな。これはお前の事も込みだ。
組合長にも色々と金を回してもらってたんだろう。組合は国の管理のもとにあるが、国の機関というわけじゃない。国の好き勝手にいじくりまわすのは違法だ。組合を置く以上それは他国との約束事でもある。
ばれたら貴族位の降格か剥奪か。下手すりゃ処刑か。あたしが色々と王に報告するのを避けたかったんだろうさ」
「組合の件も込みなのか。しかし組合員の人たちも、なんであそこの街から離れないんだろ」
「なんかしら嵌められて、処罰食らってるんだろ。一回でも食らうと、他の街へ行って仕事をするには、支部長の許可がいる」
「なるほど、だからみんなあそこから離れられないのか」
「多分な。詳しい情報は収集してないし、騎士たちも理由までは聞いてないだろ。王に報告してからがどうなるか、だな。ああ、まだ暗殺者が来る可能性もあるから気を付けろ。まあ、本当に危なかったら守ってやるけど」
「ん、自分の身は自分で頑張るよ。シガルも守る」
「ん、そっか」
そういいながらシガルを見るとうつむいていた。
「私一人だったら死んでたか攫われてたよね・・・」
「気にするな。普通はそんなもんだ」
「でも・・」
「今は守られておけ。そのうち求められる立場になったら、その誰かに応えてやればいいさ」
「・・・・うん」
『シガルは私が守るから、大丈夫だぞ?』
「ありがとう、ハク」
ハクとシガルは本当に仲がいいな。戦ってどうこうじゃないのに、なんかよく話してるし。
波長が合うのかな?
「旅、早々に嫌になったんじゃねえか?あたしと一緒だとこんな事しょっちゅうだぞ、たぶん」
「んー、国内でまったりし続けるのも悪くはないけど、旅はやめないよ。国内で知った事や、思った事が有るからこそ。俺は旅を続けたい。実際大事なことにいくつも気が付けたし」
「そっか、わかった。シガルは大丈夫か?」
「うん!お姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒なら何も怖くないもん!」
イナイはシガルのその答えを聞いて頭をガシガシとなでる。
「じゃあもう寝るぞ」
「うん」
「はーい」
『うむ!』
俺達は翌朝の面倒のためにも、とっとと就寝するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます