第102話騎士達は面倒です!

商隊に合流出来たのは真夜中だった。そりゃあのスローペースでいってりゃそうなるわなと思った。

なので、商隊はまた1日ここで足止めとなり、明日の朝に出ることになった。

夜中の行動も出来ないわけじゃないが、先が見えないのは危ないとのことだ。


『はぁ、面倒くさい』


俺は思わずため息とともに愚痴る。今は周りに人も多いので日本語で。


『何かあったのか?』


ハクが聞いて来た。しまった、ハクには通じるんだった。


「ああ、いや、また後でね」

『そっか、分かった』


頭を撫でながら言うと、くいっと首をかしげながら疑問顔で納得の言葉を言うハク。


「お疲れ様、お兄ちゃん」

「ん、ありがと。でも、今のイナイほどじゃないかなぁ」

「そうだね。お姉ちゃん、大変だ」


イナイは今、騎士達への対応をしている。

騎士たちは、真夜中の行進をやろうとしていた。イナイがそれは商人たちには辛いので止めてあげてほしいと言う話や、賊をこの場で殺そうとしたので、ここでただ殺しても捕らえた意味がなく、拠点を吐かせるべきだという事。

それ以外にも騎士とイナイの間では認識というか、考え方というか、色々ずれがあって、イナイはそれらをどうにか修正していた。


ちなみにそのうちの一幕として、イナイの発言に少し不満を漏らした騎士が隊長に切り殺されそうになったのを、俺が止めたのもあった。なんなんだこいつら。

その一瞬の攻防により、俺のへの目がさらに少し変わったようだ。明らかに止められる位置ではない所からいきなり現れて、隊長の一撃を片手で止めたからだろう。

そりゃまあ、見えた瞬間転移して、強化しながら受け止めたからね。

殺人は、しないといけない瞬間はきっとあると思う。そうじゃなかったら現代日本でも死刑なんてものがあるはずがない。死を願われることで救われる心があるのは確かだ。

でも、この手で人を殺したあの感触がとても気持ち悪いと思う俺にとって、それをあっさりと、あの程度の事でできてしまうこいつらは嫌悪の対象だ。

だから剣を止めたとき、そのままあの隊長の首筋に剣を添えてしまった。同じ目に、簡単に切り殺されてみますか?という発言付きで。


失敗したなぁ・・・。


「お兄ちゃんは別に悪くないと思うよ?」

「・・・商人達が俺を怖がり初めて、フェレネさんも少し引いてるのに?」

「・・・で、でも」

「ごめん、俺が意地悪だった。ありがとうシガル」


慰めてくれるシガルの頭を撫でる。この子相手に拗ねてどうするんだよ。


「とりあえず今日はもう動けないね」

「そうだね。あたし食事の用意してくるね」

「あ、手伝うよ」

「やーだ。あたしがするの!」


べーと舌を出して食事を作りに行くシガル。その先には待ってる間に仕留めたのであろう、すでにさばかれた肉の塊があった。

一人で全員分作るつもりなのだろうか。


「ねえ、ハク。あの肉誰がさばいたの?」

『イナイだぞ。シガルは後ろでじっと見てた。ちょっと気持ち悪そうだったけど』


やはりシガルには大型の獣をさばくとかは無理だよな。でも見て学ぼうとしたんだ。あの子は本当に強いな。こないだ吐きそうにしてたのに。


『私がとってきたんだ!』

「ああ、なるほど、襲われたとかじゃなくて、狩って来たのか」

『食事をどうしようと言っていたから、なら狩ってこようか?と聞いたら行ってきてくれと言われた』


軽いなー。竜を使いパシリか。


・・・人を殺した後のせいか、ああいう命を奪う事に対する認識がまた少し変わった気がする。

同族を殺すのと、他の生き物を殺すのの何が違うと言われればぐうの音も出ない。ただハクには、そのあたりの矜持が有るらしいが。

なんにせよ生き物はほとんど他の生き物を殺して生きているのは間違いない。

命を奪って生きてる認識はもとからあった。

足りなかったのは、覚悟だ。結局俺はあの時まで、まだ日本に居る時の感覚とほとんど変わらなかったんだろう。


さっきの騎士たちを見ても思った。この世界では人の命が軽すぎると。ウムルが平和で優しい国だから勘違いをしていた。

賊ではなく、国に仕える者があんなにあっさり命を奪うんだ。そういう世界なんだ。

だから俺は、いつか自分の意志で人を殺す日が来る。誰かを守るために。大事なものを守るために。

イナイの為に。シガルの為に。俺はそのためなら、一切迷わない。覚悟は決めた。二人の為なら俺は迷わず切れる。


『タロウ、顔が怖いぞ?』

「あ、ごめん」

『別に私はいいが、またシガルが心配するぞ』

「うん、気を付ける」


あといい加減思考と表情が直結するの治したい。






「美味い!」

「うん、おいしい」

「いやー、我々の分も作っていただいてありがとうございます」

「お嬢ちゃん、料理上手なんだな。調味料あんまりなかっただろう」


シガルの料理は皆に大絶賛である。ちなみに騎士たちの分も、少しだけある。器一杯分ぐらいだけど。

シガル頑張ったな。すごい量作ったもんだ。ほぼ炊き出しだぞこれ。

騎士たちも美味いと言って食っている。実際美味い。


「良く作れたね」

「お姉ちゃんがこっそり調味料くれたの」

「なるほど」

「それぐらいいだろ。ばれても適当に言い訳するよ」


俺達は軽い荷物を入れた鞄以外、ほぼ手ぶらに近い。調味料を入れるような余裕はない。

出したらどっから出したの?という疑問を持たれるだろう。

イナイの腕輪のような道具が、その辺に当たり前にあるとは思えないから俺も黙っている。イナイも腕輪はアロネスさんと協力して作ったと言ってたし。

もしかしたらもっと機能を抑えた物があるのかもしれないけど。


食事が終わると騎士たちが警護をする事になったので、騎士たち以外皆寝ることになった。

これだけはちょっと有りがたい。







真夜中に馬車に誰かが近づいてくる気配がして、目が覚めた。どうやら気を張っていたので気が付けたようだ。

うーん、爆睡してても気が付ける魔術とか、道具とか何か作りたいな。

セルエスさんとイナイならもう手段持ってそう。アロネスさんは罠張ってそう。

リンさんとミルカさんが奇襲される図は想像できない。普通に起きてる気がする。


「・・・イナイ」


小声でイナイを呼ぶ。


「わかってる。動くな」


イナイも気が付いていたようだ。やっぱりそういうの持ってるのかな?


侵入者は近づいてくると、馬車にほとんど音なくの乗り込み、イナイと俺の前で止まる。

ちなみに起きた時点で目をつぶりながら周囲を『見る』魔術を使っているので、目をつぶっていても見える。

これちょと苦手なんだよな。目を開けたとき情報が二重になるから。そのまま目をつぶっていた方が動きやすくなる。

けどそのままだと、いまいち距離感が分かりにくいというね。


2人か。何のつもりだろうと寝たふりをしていると、剣を抜いて、俺達に突き刺す姿勢をとった。

その瞬間俺は強化魔術をかける。

剣が振り下ろされるのが見える。当たる寸前に魔術障壁でとめ、起き上がりざまに足を狩って、腕を取り、押さえつける。


イナイを見ると、男は意識が無く倒れている。流石イナイ先生。ぱねえっす。


「タロウ、そいつ落とせ」

「了解」


イナイの言う通り、絞め落とす。暴れるがだんだんと力が抜けていき、気絶する。


「なに、どうしたの!?」


シガルもこのドタバタで目が覚めたようだ。


『この二人がイナイとタロウを狙ったみたいだ』

「ハク、起きてたの?」

『うん、シガルに来たら殺すつもりだった。でもタロウ達だから大丈夫だと思ったからほっておいた』

「あ、そう・・・」


なんか変な信頼のされ方してる気がする。俺だって勝てない相手はいるのよ?リンさんとか正直勝てる気がしない。

でもいつか勝てないまでも同じぐらいにならないと、あの人の気持ちには答えた事にならないんだよなぁ。

いや、今はそれよりもこいつらだ。


「イナイ、こいつらどうする?」

「決まってるだろ。ハクそいつら抱えてきてくれるか?シガルも付いて来てくれ」

「え、あ、うん?」


シガルはまだ状況がつかめていない模様。とりあえずパンツが少しずり落ちてるので上げたほうがいいと思います。







流石に音が大きかったらしく、商人達や、ほかの護衛も気が付いてこっちに来た。


「ス、ステル様。何かあったのですか?」

「ええ、少し問題が。騎士の方の所に話がありますので、少々離れます」


そう言ってイナイは騎士たちが野営をしているところに行く。

俺とシガルも後ろからついていく。武器を携えてだ。


「タロウ君、なにがあ・・・!」


フェレネさんは一番最後に馬車から出てきたハクを見て言葉が出なかった。

そこには気絶して担がれているがいたからだ。 







「隊長殿に話がある」


イナイが声を大きくして騎士たちに言う。がやがやと騒がしくなり、奥から隊長が出てくる。


「ステル様。どうされました?」


隊長はイナイにはかなりへりくだっている。やはり怖いのかな?


「ハク」

『ん』


ハクはイナイの声にこたえ前に出て、騎士を投げる。ああ、危ないな。首から落ちたら大怪我だぞ。

いや、ハクにとってはこの二人は死んでいい存在なのか。


「こ、こやつらは一体・・・」


二人が投げつけられたことに狼狽える隊長と、騎士達。


「私とタロウの命を狙ったようです。おそらくその後にこの二人も殺すつもりだったのでしょう」

「そ、そんな馬鹿な!」

「では、何の為に私たちの馬車まで乗り込み、剣を抜いたのでしょうか?」


正直何を言っても言い訳になると思う。


「そ、そやつらは即刻処刑いたしますので、どうかご容赦を!」


隊長は片膝をつき、頭を下げる。土下座スタイルではない模様。


「いえ、その前に、彼らの所属を教えていただけますか?」

「は?」

「この国の騎士は、騎士隊とはなっていますが、上役の貴族がいるはずです。どなたかお教え願います。もし判明しないならば、この者たちを起こして吐かせます」

「しょ、少々お待ちください。おい、誰かこ奴らの上を知っている者はいるか!」


ふむ。騎士隊っていっても、全員が同じ所属じゃなくて、仕えてる貴族がいるのかな?

んで、今回その貴族たち皆が騎士を出したって感じなんだろうか?

いや、全員じゃないかな。流石に全部で50人は少ない気がする。いや、でもそういう国もあるのかな?


「タロウ。シガル。あたしは多分この後、お前達にとって嫌なことをする。連れてきてなんだが、馬車に戻ったほうがいいかもしれん」


イナイが少しつらそうな顔をして言う。

嫌な事?何だろう。何かはわからないけど、答えは決まってる。


「いいよ。ここにいる。イナイは俺を全部受け入れてくれている。だから俺もイナイを受け入れるよ」

「あたしもお姉ちゃんとお兄ちゃん置いて戻らないよ。心配だもん。あたしはお姉ちゃんも大好きなんだよ」

「・・・ありがとう」


イナイは笑うが、その笑いは少し悲しそうだ。何をするつもりなんだろう。







しばらくして、隊長がイナイの元へ戻ってくる。


「ステル様。知る物が居ました」

「そうですか。分かりました」


イナイはハクが投げた騎士二人の前に出て、手を前に出す。


「彼らはもう要りませんね」


そう言ってイナイは雲まで届くかと思う豪炎の柱を出して騎士二人を灰すら残さず焼き尽くす。起きて叫び声さえ上げる暇すらなかった。


「なっ・・・!」


隊長や、騎士たちはその炎に震えていた。でも俺はあの規模なら何度も見た事が有る。セルエスさんがちょくちょくやってたから。

そして何度か打たれてるので、あのレベルなら耐えれる。むしろ威力としてはハクの熱射砲のほうがよっぽど上だ。

このあたり俺も感覚が間違いなくおかしいんだろうなとは気が付いている。だって隣でシガルが俺の袖、力込めて握ってるし。

ハク?おーっていいながら火柱眺めてますけど?


「彼らの処刑は済ませました。よろしいですね?」

「は、はっ!も、もちろんです!」

「では、今後の話もしたいので、少し話す場を作っていただけますか?」

「はっ、すぐに!」


隊長が見るからにガタガタと震えているのが分かる。


「タロウ、私はこの者たちと話があります。先に寝ておきなさい。朝早く出ますよ」

「・・・いいの?」


俺はなんとなく、行ってほしくないけど、という感じに聞こえた。気のせいかもしれないけど。


「ええ、寝ておきなさい。その代り明日はお願いします」


騎士達が注目しているからか、表情は崩さない。けど、何か辛そうだった。


「ハク、ごめん、シガルを任せた」

『ん?わかった』

「お兄ちゃん?」

「ごめん、シガル。今日はイナイに付いていてあげたい」

「・・・やだ、あたしもついてく」

「・・・ん、わかった」


俺達は3人でイナイのそばに行く。


「寝ていていいのですよ?」

「うん、いいんだ」

「・・・あんなあたし、嫌だろ、お前達は」


イナイは移動しつつ、小声で言う。


「・・・正直驚いた。けど、あいつらはイナイを殺そうとしたんだ。だから、気にしてない」

「あたしは状況を良くするためには、ああいう行動をまたやるぞ。

救いを求める人間には手を差し伸べるが、敵意を巻き散らかす手合いには、やるときはやるところを見せないと理解しない」

「いいよ。それで。そんなつらそうな顔しながら、強がらないでいいよ」

「そうだよお姉ちゃん。あたしたちを頼ってよ」


イナイは殺人を慣れるなと言った。殺人を目的で殺人をすると言うおかしさを俺達に説いた。そんな彼女が平気で人を殺しているとは思えない。

何より俺は、二人の為なら人を殺す覚悟はもうしている。


「俺は、イナイが大好きだよ。シガルもそうだ」


俺の言葉にシガルがうんうんと頷く。


「だからいいよ。イナイの全部を俺は受け止めるよ」

「・・・うん、ありがとうな」

『どういたしまして!』


なぜハクが応える。思わずそれに笑ってしまった。イナイもハクからの返事は予想外で、目を点にしていた。


『む、なんだ?私もイナイは好きだぞ?』


その言葉にイナイも思わず吹き出す。


「ぷっ、くく、そうか、そうだな、ありがとうハク」

『んー?』


うん、さっきのつらそうな顔より、今のイナイの方が良い。


「あたしも好きだよ、タロウ。シガル。ハク。本当に大好きだ」


そういうイナイは、いつもの余裕のある彼女の笑顔だった。

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