第101話兵士さんに応援を頼みます!
「止まれ!」
勢いよく走っていると、街らしき物の門が見てくる前当たりで、兵士らしき人が叫ぶ。
門の傍には人がたくさんいて、何事かとこっちを見ている人多数。
俺とフェレネさんはゆっくりと止まる。
「何者だ、お前た・・・フェレネじゃないか、どうした」
ほむ?兵士さんとお知り合いですか?
いや、この人もともとこっちの人だって言ってたし、おかしくはないか。
「ああ、よかった。知ってる顔がいて助かる」
「どうした、なにかあったのか?」
「護衛していた商隊が襲われた」
「・・・お前達だけ生き残ったのか?」
どうしてそうなる。いや、そうなるのか?
イナイが言ってたから、こうやって応援求めに来るのは普通だと思ったんだけど、違うのかな?
「いや、賊は捕縛した。だが数が多いので応援を頼みに来た」
「そうか、わかった。ところでそっちの小僧は?」
「・・・タロウ君、少し待っていてくれるか?」
フェレネさんが馬を降り、唐突に俺に手綱を渡して来た。
「え、ええ、別に良いですけど」
「そうか、ではちょっとだけ待っていてくれ」
「お、おい、なんだ、おい、引っ張るな!」
フェレネさんは兵士さんを連れて、ちょっと離れた所で、ぼそぼそしゃべっている。
なんだろう、何か聞かれてはまずい事でもあるのだろうか?
馬を撫でていたら、馬鹿にしたように頭をかまれた辺りで二人は戻ってきた。この馬め。馬刺しにしてしまうぞ。ていうか痛い痛い、牙が食い込んでる。
「何をしているんだ?」
「なんか馬鹿にされてるっぽいです」
「君の事は怖がりそうなものだがなぁ・・・」
それはそれで理由を問い詰めたい。小一時間ほど問い詰めたい。
「タロウ殿でよろしいですか?」
「へ?ええ、そうですけど」
「身分証を拝見させていただいても?」
「あ、はい。どうぞ」
なんだかさっきとえらく態度が違う。フェレネさんが何を話してきたのか、少し想像がつく。
多分イナイ所縁の人間だと言ったんだろう。
「あ、そうだ、これも」
どうせもう、王様に会いに行く気満々だし、ベレマナさんの手紙を渡す。俺は開けてない。そう、開けてない。俺は本当にあけてなもーん。閉じただけだもーん。
誰に言い訳してるんだ俺は。
「あ、はい…え、こ、これは、ちょっと待っていてくださいね」
「ええ、はい」
兵士さんは俺の返事を聞くとダッシュで詰所らしき建物に入っていく。しばらくするとほかの兵士さんを連れてやってきた。割とご年配の人だ。
「あなたがタロウ殿ですか、どうぞこちらへ。応援の兵を用意するのに少し時間がかかりますので、狭い所ですがお休みください」
「ありがとうございます」
いくら軽く走っていたとはいえ、全く疲れてないわけではないので休憩ぐらいいだろう。
ご年配の兵士さんに連れられ、詰所の奥のちょっとよさげな部屋に案内される。
その途中で、門の前に並んでいた人達も、中の兵士さんも、何だあいつとじろじろ見ている。恥ずかしい。
「後でお茶なども用意しますので、お寛ぎください」
「ああ、いえ、お構いなく」
多分状況的に大国の要人の関係者的な扱いなのだろう。あんまり虎の威を借りる狐的なことはしたくないけど、どうしてもそうなりそうだ。
「ふふ、あんな態度を見るのは初めてだな」
フェレネさんが楽しそうにつぶやく。
「あ、やっぱりそうなんですか?」
「ああ、普段はもっと高圧的だよ、彼は」
権力の強いものにはへりくだるが、下には高圧的なタイプか。あまり好きにはなれないタイプだ。
「とはいえ、悪い人ではない。兵士として、ここのまとめ役としてそうしているだけだと、補足しておこう」
なるほど、立場での振る舞いか。そうやる必要があってやってるだけということか。ここに住む人が言うんだし、きっとそうなんだろう。
まだ学生だった俺には、そういった『立場』という事でのしがらみとか、立ち振る舞いとかがよくわからない。
だからいつもその辺は想像でしかない。主にゲーム、漫画、アニメ、ドラマ、映画からの知識の想像。
あー、見たかった映画あったのを思い出した。もう見れないんだなちくしょう。
「しかし凄いな、ステル殿の名は。先の手紙はその類だろう?」
「そうですねぇ」
「君はステル殿といて、気負いなどが無いね。ウムルでは大英雄だろう、彼女は」
「いやー、初めて会った時知らなかったんですよね、彼女がそういう偉い人だって」
「そう、なのか?」
「ええ、少し、いえ、大分世間知らずなもので」
「そうか・・・」
ん、なんだろう、何かフェレネさんの俺を見る目も少し硬くなった気がする。なにか変に疑われてないだろうか、これ。
しばらくフェレネさんに、王都のおすすめの食事処や、宿、市場なんかの話を聞いていたら、ノックの音が聞こえる。
「どうぞ」
一応そういったほうがいいかな?と思って声をかける。
正解だったようで、少し間をおいてガチャリとさっきの兵士さんより豪華な感じの甲冑をまとった人が入ってくる。
貴族の人かな?
「貴殿がタロウ殿か」
「あ、はい」
「王の命で我ら騎士隊が行く事になった。現地までの案内を頼む」
「あ、よろしくお願いします」
ほむ、騎士さんが来たのか。これはなんていうか、やっぱイナイ効果なんだろうな。
んむ?フェレネさんが若干緊張してる?
「フェレネさん、どうしました?」
「い、いや、まさか騎士が出てくるとは思ってなくてな。うちの国の騎士はそうそう出てこないんだ」
ほむ。そうなんだ。ウムルの王都ではちょこちょこ見かけてたからその辺分からないな。
なんか知らんけど、ウムルのほとんどの騎士さん俺の顔知ってるんだよな。街中一人で歩いてると、知らない騎士さんに話しかけられたことも何度かある。
見回りらしいけど、兵士も騎士も一緒に動いてた。
表に出ると50人ぐらい同じ甲冑を来た騎士が馬に乗っていた。やりすぎだろ。こんなに人数要らねえよどう考えても。
「では行こうか」
そういうと馬に乗り、歩き出す。隊長なのかな?
なんて言うか、今から戦場に行くかのような光景だ。ていうか横に広がってどう考えても通行の邪魔だ。
たまに通りすがる人たちがすごいビビって避けてる。
これはダメでしょ。歩くペースも人数が多いからなのかゆっくりだし。
ちなみに道案内は俺ではなくフェレネさんがやってくれている。一応現地の人のほうが確実かなと思ってお願いした。
なので俺は少し後ろを歩いてる。
「あのー」
騎士さんの一人に話しかける。
「む、なんだ。案内役の小僧」
「ちょっと横に広がりすぎて、ほかの方の迷惑になってると思うんですけど、どうにかならないんでしょうか?」
「我ら騎士に指図するつもりか小僧!」
「いえ、指図というか、お願いというか」
「黙れ小僧!たかが平民の分際で騎士に指図など!」
うん、話が通じない。この国の騎士ってこんなんなのか。
騎士の権力が結構強いのかな?フェレネさんが緊張していた理由が分かった。
なんつーか、思いっきり封建社会的なかんじだよなぁ。いやまあしょうがないんだろうけどさ、王国だし。
でもウムルはもっと柔らかかった。皆楽しそうだったし、国に仕える人達はたいてい穏やかな人が多かった。
いや、まあ俺も関わった人達がそう多いわけじゃないから、全部が全部そうじゃないんだろうけど。
なんてちょっと悩んでいると、騎士が抜刀した。マジかこいつ。
俺の首筋に当てて睨んでくる。ちょっと怖いのでこっそり身体補助をかけておく。
流石にミルカさんのように、無強化でここから余裕で反撃なんて出来ない。
「その場で地に伏して謝罪をするならば許してやらんでもないぞ」
目が笑ってねえ、マジだこいつ。すげえ睨んでる。
俺達のやり取りに気が付いている騎士も俺を冷たい目で見下している。
「お断りします。あなた方は国を守る人間なんでしょう?一般人に迷惑をかけてどうするんですか」
真正面から言う。別に正義感から言ってるわけじゃない。俺は素直にウムルの国風というか、騎士さん、兵士さんたちの柔らかい対応が好きだ。
そして国を想って、民を想って騎士をやっているんだっていうのが、あの人達の目からわかる。
子供達が遊んでいるのを眺めている時の、あの人達の目の優しさを知っている。街中を歩いている騎士さんや兵士さんに声をかける住民の笑顔を知っている。
だから気に食わないだけだ。あの人達を馬鹿にしているようで、こいつの対応が気に食わない。
言ってしまえば子供の我儘だ。力が無いなら本当はその社会に迎合した対応を取らなきゃならない。それが普通だ。
けど悪いな、俺まだまだガキなんだよ。あんたの行動は気に食わない。
「小僧が・・・!」
騎士は剣を少し引き俺の首を切ろうとする。俺はそれを反射的につかみ、仙術で砕く。
なんだかんだ仙術に頼ってるなぁ、俺。魔術より反射的に使えちゃうからしょうがない。
感覚的に、仙術は力を籠めるだけ。魔術は手袋をつける動作がいるような感じだからなぁ。
セルエスさんのように、息を吸うように使えるようになれば違うのだろうか?
「なっ!貴様何をした!」
「ちょっと力を込めただけです。柔いですね、この国の剣は」
前者は嘘だ。結構本気で力を込めた。でも後者は割と本気で思ってる。同じぐらい力を込めても、リンさんが使ってる剣と同じ物は握ったら壊れるどころか、全力で魔術強化して仙術強化して、仙術の攻撃で思いっきりぶん殴っても曲がりもしなかった。
あれが頑丈すぎるだけかもしれないが、それでもアルネさんが使っているいろんな金属の堅さを知ってるだけに、柔らかく感じる。鉱物資源の差があるのだろうか?
金貨、銀貨、銅貨って俺がそう勝手に思ってる物も、そうじゃないんだよな。似たようなものだからそういう風に俺が思ってるだけで。
俺の世界の鉱物と同じものはあるのだろうか?というかもともと特質なんか知らないから同じものがあってもわからないけど。
鉄にものすごく似た物とかもあるし。
意識がそれた。疑問があると意識が目の前からそれるのは悪い癖だと最近思う。
「き、貴様!騎士を敵に回してただで済むと思っているのか!」
「別に敵に回そうとしているつもりはありませんよ。ただ国を守るものとしてどうかという疑問を投げかけただけです」
「たわけた事を言うな!平民は我々に頭を垂れておればいいのだ!」
そう叫ぶと、後ろにいた騎士たちも抜刀し始めた。うん、こいつらふざけんなよ。
割と真剣に怒りがわいてきた辺りで、先頭からさっきの隊長らしき人と、フェレネさんがやってきた。
「何をやっている!!」
「はっ、この小僧が我々に盾突いたので今から処刑をと」
当然のように答える騎士に対し、真っ青になって慌てる隊長さん。
「ばっ、バカ者!貴様等、我々を殺す気か!」
「はっ?」
「この方は我が国の民ではない!ウムルの民、それもあのステル殿の婚約者だ!もし彼に何かあれば貴様の首が飛ぶ程度ではすまんのだぞ!!」
「えっ、はっ?」
「くっ、なんてことをしてくれた!貴様、即刻この場で首をはねてくれる!」
ちょいまち、なんでそうなる。俺はただ端によけてほしかっただけだ。
「ちょっと待てください」
「ど、どうしたのだ、こやつが貴殿に無礼を働いたのであろう?」
「まあ、それはあなたにも責任はあるかと」
「っ!は、話を聞かせて頂けるか?」
「ええ」
俺は単純に、周りの迷惑だなと思って、もっと端によけてほしかっただけだと言う話をした。
それに、この騎士が俺の事を知らないのは、隊を引いている人間が詳しい話をしなかったのが原因じゃないのかという事も追加で言っておいた。
だってそうでしょ。なんでちゃんと情報共有してないのよ。
「まあ、ただそれだけです。首をはねるどうこうというような、大きな話じゃないです。もし首をはねるというなら、あなたが責任を取るべきかと」
「そ、そうか、気が回らず申し訳なかった。皆に伝えよう。少し時間をくれるか?」
「ええ」
隊長さんは、数人の部下に何かを言って、隊列を組みなおした。
別に戦争に行くんじゃないんだし、広がる必要はないだろう。ていうかそもそも人数が多すぎる。
なんでこんなにいるんだよ。
「凄いな、君は。今日何度目かわからないよ、こう思ったのは」
「ん?何がですか?」
「この国は騎士の力が強くてね。一般人は意見なんかできないんだよ」
「なるほど、ね。まあそんなとこだろうとは思いました」
ウムルも立場的には騎士のほうが間違いなく上なんだろう。けどあの人達は権力をかさに着ることはしない。
騎士隊長さんが特にそうだ。あんなさわやか青年なのだ。あの人がまとめる騎士隊がそんな腐った物なわけが無い。
まあ騎士隊内ではそれなりに上限関係があってきつい時もあるそうだが。実力主義なところがあるので、その辺もあまりギスギスしすぎてはいないらしい。
元気かなぁ、あの人。
「おまたせした。部下が申し訳なかった」
「いえ、ですが国は人があってこそだと思います。立場の差というのはしょうがないと思いますが、話すらも聞かないというのは如何なものかと思います」
「わ、わかった。今後気を付けるよう、皆にも言い含めよう」
隊長さんはまた先頭に行き、馬を歩かせる。
気のせいかさっきより少しペースが速い。俺も早歩きから、ランニングぐらいの感じでついて行ってる。
疲れないわけじゃないが、これなら無強化で長時間も平気だ。伊達にミルカさんの訓練に耐えていない。
ひと悶着あったけど無事に合流できそうだ。
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