第100話走っていきます!
さて、とりあえず全員生きて捕まえた。
前回の強盗の時より人数が半分以下とはいえ、全員生きて捕まえられるとは思わなかった。
まあ、半数以上は気絶か、ぼっこぼこにされたらしき跡があるのだが。
あ、足を貫いた男は一応治療したよ。出血が結構酷かったからね。他はそのままだけど。
「タロウ、えらく綺麗に終わらしたな」
「ん、なんか降伏勧告したら簡単に降伏した。自分でもびっくり」
「何したんだ?」
「氷槍たくさん出して2回ほど連続で打ったら簡単に降伏した」
「ああ、なるほど」
「お兄ちゃん、あれ撃ったんだ。それじゃ降伏するよね」
どういうことかしら?そういえばこいつらもなんか、大魔術とかいってたっけ?
こいつらにとってはあれを連発する俺は手に負えない相手という認識になったのかな?
イナイなら無詠唱でぶっ放せるんだけど、それ知ったらこいつらどんな反応するんだろ。
『私はちゃんと手加減したぞ!』
「うん、一人も死んでないね」
『うん!』
「よしよし、えらいえらい」
撫でてあげると満足そうに笑うハク。この子ほんとに100歳なのだろうか。
「私実は何もしてないの」
「シガルはハクに伝言しに行ってくれたでしょ?」
「それしかしてない・・・」
「いいよ、それで。戦わなくて済んだんなら、それはそれで構わないんだから」
俺だって、戦闘と呼べるようなものじゃなかったから、楽だったし。
問題なく終わったならそれが一番だと思う。危ないのより、安全よね。
「最低半数生きて捕まえられればと思ったが、良い感じに終わったな」
「あ、そうなんだ」
「こいつらに同情する気は一切ないが、手を汚さなくていいならそれがいい」
「そっか」
その点については同意する。あの感触の嫌悪感そのものには、よっぽどの事が無い限り多分一生慣れることは無いと思うから。
「さて、全員縛り終えたが、どうする?」
フェレネさん達が、戦ったのは俺達だけなのだから、捕縛だけでもやらせてほしいと言って、全員を縛っていた。
俺が魔術でとらえた連中も、改めてロープで縛られている。
「そう、ですね。イナイ、どうすればいいのかな?」
「もうここは王都にさほど遠くない距離です。誰か馬を走らせて王都の兵に報告し、応援をもらいましょう。フェレネさん。王都までの道は分かりますか?」
「ああ、私はもともとそっちの組合で登録している」
「それは重畳。タロウをともに行かせますのでお願いします。商人の方々もそれでよろしいですね?」
「は、はい、お願いします」
ふむ、王都まで行くのか。でもそれには一つ問題がある。
「ねえ、イナイ」
「ん?」
「俺、馬に乗れない」
「・・・走ってがんばれ」
「・・・うん」
乗馬とかした事無かったからな。そのうちちょっとどっかでやってみよう。
「では、私たちは、今日はもうここで休みましょう。この者たちをぞろぞろ連れては動きにくいですから」
「はい、今回は本当にありがとうございました」
「いえ、かまいません。ですが・・あなたに少し言う事が有ります」
そういって、先頭の方に居た商人に話しかける。
「な、なんでしょう」
かなりビビってる。何かへまをやったのかと目が泳いでる。
「相手は賊です。その言葉をすべて鵜呑みにしても殺される可能性はあるでしょう。
ですが一応この者たちは荷を渡せば命だけは助けると言いました。本来は荷をすべて渡して命乞いをするのが一番ですよ。
あなたの判断は、ほかの商人と、力の及ばない護衛を死地に歩ませる判断です」
厳しい目つきで指摘するイナイ。商人は脂汗を流しながらオロオロしている。
「も、もうしわけありません」
「謝るべきは私ではありません」
そういってフェレネさん達を見る。
「申し訳ありませんでした!」
「ああ、いやいいんだ。力及ばない私たちも悪いのだし」
「あなた達も、ああいう時は自分たちの判断で荷を渡すと、降参すると言っていいのですよ」
「そう、か。そうだな。すまない、助言感謝します」
「いえ、命あってこそですから」
イナイは今回の反省点を皆に言っていく。このあたりやっぱり年長者だなって思う。俺には思いつかない話だ。
ぶっちゃけ、降参したら殺されるんじゃね?という考えしかなかった。けどどっち道勝てないなら、降参して生き残れる可能性に賭けた方がいいよな。
「では、行ってきます」
「ほ、本当に走っていくのか?」
「はい、馬に乗れないので」
「ち、近いとはいえ、それなりに距離はあるぞ?」
「大丈夫ですよ、1日かからないんでしょ?」
「あ、ああ、往復で日が暮れる程度だろう」
「なら大丈夫ですよ」
どうせ走るのは行きだけになるだろう。応援のみんなが全員急いでくるとは思えないし、あいつらぞろぞろ連れて歩く事になるだろうし。
フェレネさんはまだちょっと納得いかない感じだが、馬を走らせる。
俺は魔術強化をして、走り出す。強化を全力でやって、走るのは軽く。
これならさほど疲れないですむ。
「は、はやいな。それにとても余裕そうだ」
「このぐらいなら日が暮れるまでずっと走れますよ」
「凄いな、君は」
「あはは、俺の師匠たちのほうがもっとすごいんですけどね」
ちなみにイナイが転移を使わなかったのは、王都には来た事が無いのと、前の街に転移で戻るにしても、組合が信用できないし、領主もいまいち信用が置けないと言う判断だそうだ。
さっき聞いたんだけど、俺が知らない間にあの二日間の間にイナイに接触してきたそうだが、なにがあったんだろうかね?
さて、状況的に不謹慎ではあるけど、王都がどんな所か楽しみだ。
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