第99話護衛任務らしい仕事をします!
イナイの周囲がなんか日に日にすごい事になってる。
イナイは何も要求していないのだけど、クッションとか、毛布とか、飲み物とか、嗜好品とか、なんかいろいろ手渡されてる。
一応本人は、結構ですと言ってはいるのだが、まあまあといって置いて行かれる。
尚一切使いも、飲み食いもしていません。それが日に日に彼らへのプレッシャーになっているのは明白である。
イナイさんの怒り半端ねえっす。
「なあ、タロウ君。少し聞きたい事が有るのだが、いいか?」
「ん、どうしました?」
フェレネさんが何やら移動しながら話しかけてきた。彼女の持ち場は反対側なのだが、いいのだろうか?
「彼女、本当にあのステル殿なのか?」
「あのステル殿が誰かは知りませんが、ウムルの技工士のイナイですよ?」
「そうなのか・・・。私は彼女の事は名前しか知らない。けど、少なくとも彼女は30はいっているはずなのだが」
「ええ、そうですよ?」
「え?」
「間違ってないですよ? イナイは30過ぎ・・・というか半ばも過ぎてます」
「そ、そうなのか。ま、まるで見えないな」
「ええ俺も初めて会った時は年上とは思ってませんでした」
だってどう見ても美少女だもん。あれを年上と思えるやつが居たらそいつは年齢が見えるやつだ。
「なら・・・彼女はいったい何のためにこの国に、王都に向かうのか教えてはもらえないだろうか?」
ものすごく真剣な顔で聞いてくる。それこそ、『ゴクリ』なんて書き文字が隣に書かれそうな感じだ。
でも、なんでといわれても、単純に俺についてきてくれてるだけなんだよな。
「前の街の門で彼女が言ったとおりですよ?俺の我儘に付いて来てくれてるだけです」
「本当に・・・?」
なんだろう、なんでそんなに疑われてるんだろう。ていうか、真剣というより、鬼気迫るって感じに見えてきた。
「ほ、本当ですよ?俺がいろんな世界を見たいって我儘に付き合ってくれてるだけです」
「そう、か。わかった。ありがとう」
まだ何だか完全には納得いっていないが、一応納得した模様。嘘は何一つ吐いていないのだけどなー?
「さて、どうしようかな」
「ん、お兄ちゃん、どうしたの?」
「んー・・・」
つけられている。というか、観察されている?
さっきからずっと同じ距離をたもって付いて来てるのが2人居る。そこそこ距離は離れているので、よく見ようと思わないとたぶん見つけられないだろう。
でもって多分そうすると向こうは見つかったのに気が付くと思う。それがいいのか悪いのかわからないのでイナイ先生に質問してみる。
「イナイ―」
「気にすんな」
「はーい」
無視していい模様。やっぱ気が付いてたか。
「ねえ、お兄ちゃん、どうしたの?」
そういえばシガルは探知系の魔術使ってないよな。
「なんかずっとつけられてる」
「・・・強盗?」
「分かんない。とりあえずイナイは気にしなくていいってさ」
イナイが気にするなと言うんだから大丈夫でしょ。
「ところでシガル、探知魔術使えないの?」
「・・・私だって使えるよ」
「え、そなの?じゃあなんで使わないの?」
「お兄ちゃんたちみたいに常時使い続けるなんて普通しないよ」
え、うそ。この使用法おかしいの?
「探知魔術は魔術師にとって一番重要な魔術だって聞いてっけど・・・」
「それは間違ってない。けどお兄ちゃん達みたいに朝起きて寝るまでずっと使いっぱなしはおかしい。
ハクの変身並みに異常。なんでそれで魔力が持つの?いくら周囲の魔力も使ってても普通半日持たないよ?それに魔力の色もほとんど見えないし、使ってる事隠してるでしょ?意識しないと全然わからないもん」
「え、魔力なんてほぼ使ってないよ?それにこういうのは使ってるのばれるとダメだって言われてるし」
「・・・お兄ちゃん本当に凄いよね、どうやったらそうなるの?」
どうやったら?どうもこうも俺の魔術はすべてセルエスさんから教えてもらったものだ。あの人の言葉をすべて真に受けて頑張った結果がこれだ。
「・・・考え付くとしたらセルエスさんの言葉を全部信じるとこうなる」
「とりあえず常識に縛られてるとお兄ちゃんに追いつけないっていうのは分かった」
俺が非常識みたいじゃないか!いや、この世界の常識を未だに学習して無いあたり非常識なのか?
「絶対追いついてやるんだから」
「ほどほどでお願いね」
この子の向上心はどこまで行くんだろう。
「ねえ、イナイ」
「ほっとけ」
「いや、でも」
「気にするな」
「・・はーい」
話を聞いてもらえぬ。
「お兄ちゃん、今度はどうしたの?」
「一人いなくなったと思ったら数が増えた。23人いる」
「この商隊に目を付けた?」
「と思うんだけど・・・」
イナイは無視していいと言う。でもこれ無視したら襲われる方向ですよね。
どう考えてもその集団、思いっきり道ふさぐ方向に移動してるし。
多分護衛の数が少し少ない事が原因ではなかろうか。結局俺達含めて7人だし。
襲われるときは普通の人数でも襲われるって聞いてるし、何よりも襲われる原因がパッと見頼りない俺達の予感がひしひしとする。
「止まれ!命が惜しければ積み荷を渡せ!」
案の定こうなった。完全に包囲されている。剣や斧を持ってるやつは前後に16人あとは多分弓だ。街道の外れたところに隠れてるし。
「イナイ」
「潰すぞ」
「過激すぎるでしょ」
「こういう輩は潰せるときに潰しておけ。あたしらがやらなきゃどのみち誰かが被害を受ける。こいつらで全員じゃないだろうから吐かせるために殺さず捕らえろ。お前ならできるだろ。隠れてるやつらはあたしがどうにかする」
そういうやいなや、転移するイナイ。だから無視しろって言ったのか。
「シガル、正面のほうが多いからそっちは俺がやる、後ろをハクと一緒にお願い。殺さないように言っておいてね」
「うん、わかった」
シガルはそういってハクの所に走る。ハクは後ろの警護をしているので、ちょうどいい。
「タ、タロウ様、ど、どうかステル様にご助力を」
商人が慌てて俺にそう言って来る。
「あ、もう動いてます。正面は俺がどうにかするので馬車の陰に隠れてて下さい」
「そ、そうですか、助かります」
告げると俺はとっとと先頭まで走っていく。フェレネさんと一緒にいるお兄さんが剣を構えていた。
「おい、やめとけよ、お前ら二人でこの人数やるのか?後ろだって同じぐらいの人数いるのは見えるだろ。死ぬぞ?」
向こうのまとめ役っぽい人が言う。頭目だろうか。それともこの集団のまとめ役だろうか。
「・・・・そう、みたいだな」
悔しそうに言うフェレネさん。あのひと動作結構しっかりしてるけど、そんなに強くないのか?
一回試しに手合わせしてみればよかったかな。
「商人、どうする?このまま抵抗するならおそらく死ぬだろう。商品を明け渡せば命だけは助かるだろう。判断は任せる」
「バ、バカなことを言うな!賊に渡してたまるか!」
「だ、そうだ。これは死亡確定かな?」
おそらく普通に考えればフェレネさんの判断が正解なのだろう。だが先頭の商人はそれを認めずわめく。
はあとため息をついたフェレネさんは剣を構える。
「一応命乞いの機会は与えてやったからな」
強盗達のまとめ役らしき男がそう言うと手を上げる。
「・・・・・なに?」
「・・・・?」
男が何も起こらない事に疑問の声を上げる。フェレネさんも状況が分からないようだ。
そりゃそうだ。理由は簡単。あれで弓を射る予定だったんだろう者達はイナイによって無力化されているからだ。
なぜわかるかって?だってもう馬車に戻ってんすもんあの人。
「悪いけど、隠れてるメンツはもう居ないよ」
「・・・小僧、何をした」
いきなり出てきた俺に動じないか。なかなか肝が据わってらっしゃる。
「俺はそっちには何も。今からならあんたたちを捕縛する。抵抗しないなら怪我しなくてすむよ?」
「笑わせんな。ガキが粋がってんじゃねえぞ」
「そ、俺も一応あんたたちと同じように忠告はしたからな」
俺は久々の攻撃魔術を使う。ここは周りに草木が多いから火の類はダメだな。
やるなら水や土系かな?
『数多の氷槍よ、ここに顕現し、うち貫け』
以前親父さんの所でやった氷の槍を沢山作って放つ。一応当てないように。
「ひぃ!」
「うわぁ!」
「ぎゃああ!」
「た、たすけてぇ!」
おいおい、当ててないのにビビりすぎだろ。でもまあこんなでかい氷の槍が大量に振ってきたらそりゃ怖いか。
「さて、どうする?一応今のは全部外したけど、次は当てるぞ?」
「ば、バカが!今みたいな大魔術何度も使えるわけねえだろ!それぐらい知ってんだよ!それにお前何か道具で補助してんだろうが!そんな短い詠唱の大魔術ポンポン使えてたまるか!」
そういって比較的冷静らしい男が叫びながら突進してくるので、同じ事をしてあげた。もちろん突進してきた奴は足に当てた。
次は当てるって言ったからな。
「次は当てるって言ったぞ。この程度簡単なんだよ。むしろお前たちを殺さないように加減してるぐらいだ。どうする?やるか?降伏か?降伏なら武器を捨てろ」
俺はとても気楽に言うと、強盗達は皆武器を捨てた。まさか全員素直に従うのは予想外だ。
「物わかりが良くて助かる。『土の枷よ、この者たちの手足を捕らえよ』」
手ごろに手に入る土で賊の手足を捕縛する。近づいて降伏した振りで攻撃されたら怖いしね。
「うわ!」
「な、なんだ!」
「て、抵抗してないだろ!」
男たちはどうやら攻撃されると思ったらしく慌てる。けど最終的に手足が拘束されただけなのを見てホッとする。
俺の言葉が分からないから、何やったかわからなんだろうな。
後ろはどうなってるかな?実はさっきから後ろで叫び声がすごい。こっちと違って力ずくで終わらせてるのだろう。
ハクらしいと言えばハクらしい。
さて、こいつらの扱いはどうすればいいのかね?
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