第97話俺は手玉に取られたようです!

まず戻ったら、商人の代表に話をつけに行こうとしたら、何やら代表は簀巻きにされていた。


「・・・・一体どういう事でしょう?」


状況が理解できずに困惑している俺に、ほかの商人が説明をしてくれた。

今回の事は、この男があいつらに頼んで俺達を排除しようとした事で、自分たちは何も知らされていなかった事。

目先の金銭の為に、今後の信用をなくす行為をやった事は、自分たちにとって憤りを感じる行為だという事。

このことは、男を自分たちの組織で直々に処分を下すという判断をした事。

俺達には謝罪をするという事。その一つとして自分たちの商隊や、それに連なる店に買い物をしに来たときには優遇させて貰う事。


ざっくり言うとこうだった。

簀巻きにされた男は、猿ぐつわもかまされている。後なんかぐったりしてるけど大丈夫かね?


「厚かましいとは思いますが、護衛料はそのままで、王都までお願いしてよろしいでしょうか?」

「え、ええ、護衛は全うしますよ」

「ありがとうございます!本当にすみませんでした!助かります!」

「い、いえ」


商人の人たちが全員で頭を下げてきたので、びっくりした。まあ、何事もなくいきそうだし、代表は身から出た錆だ。


「人柱だな・・・」


商隊の人たちが準備を始めると、イナイがボソッと言ったのが聞こえた。

ちなみに他の護衛の人達も、そっちはそっちで色々と準備をしている。先ほどのお姉さんもあちらだ。

特に普段から一緒にいる仲間という訳ではないが、ちょこちょこ面倒を見ている者たちだとのことだ。

初めての護衛任務らしい。初めてであんな面倒事にぶち当たるとはついてない。いや、俺達もだけどさ。


「お姉ちゃん、人柱って、何が?」


シガルも聞こえていたみたいだ。


「あの代表がだ。生贄だよ、あれは」

「生贄って・・一体何の?」

「お前に捧げた生贄だよ。あいつのザマに、いきなりで面食らって思考回ってなかっただろお前」


う、痛い所をつかれた。確かに面食らって頭は回ってなかった。


「それにお前は根がお人よしだからな。分かりやすい罪人の提示をされ、素直に謝られると余計にそうなっちまうんだろうな」

「褒められているのか貶されているのか」

「半々だな」

「優しいのは、いい所だと思うんだけどなぁ」


両方だった。ちょっと悲しい。シガルはフォローしてくれるが、それで騙されたりして、俺以外に迷惑がかかったらシャレにならない。


「お前は本当に、あの代表が今回の事全部独断でやったと思うのか?」

「え、どういうこと?」


独断で勝手にやったから、あんなひどい目に合ってるんじゃないの?


「そこそこの人数の商隊だ。代表とはいえ他の商人の意志を聞かずにあんな危ねえ事出来るわけがねぇ。

今回の事は失敗すればあいつら商売人にとっては命取りになる事だ。お前の処分が確固たるものとして下されなかったら、そのツケはあいつらに来る。

それは奴らが商人としての約束事を守らない人間だと世間に宣伝するようなものだ。そんな危ない橋、たかが一商人が独断でやるわけねぇ。

特に自由労働組合の人間はそんな商人と関わりを持ちたいとは思わねぇ」


えーと、要するに、俺への料金を払いたくないっていうのはあの代表以外も思っていて、皆で相談した結果、あのオッサンがそういうことに慣れてたから話を持ち掛けに行って、俺をやめさせようとしたと。

んで、それが完全失敗したので、あの代表を簀巻きにして、俺に『誠意』を見せることで有耶無耶にしようとした、という事でいいのかな?

イナイに確認してみる。


「だいたい当たりだ。そもそもあいつは『この商隊の代表』であって『商会の代表』じゃねえ。独断でやれるはずがねえ」


あ、そうなんだ。どっかの商会の下部組織的なものなのねの。


「だから生贄だよ。代表っていう頭を潰して、捧げて、こいつが全部悪かったんです。私たちは全く関係ないので、怒りをお納めくださいってな」

「・・・そう聞くとイラッとするな」

「けどお前はもうそれでいいって言っちまった。この後にその言葉を撤回は、お前にとって良くないぞ。もうあれはあの代表がバカやった結果として話がついちまったし、今後もそう処理される」

「ぐう・・・」


悔しい。さっきしてやったつもりだったのに、すぐにしてやられてしまった。


「とはいえ、軽く脅しはかけておくか」

「へ?脅し?なんか言うの?」

「いや?『何も言わない』ただ、今回はあたしも『一緒に』出る」

「・・・・ああ、なるほど。さすがにわかったかも」


実はイナイは、この護衛の仕事の時、商隊の人達とは別に出ている。だから彼らはイナイの正体を知らない。街にはいる時も別で入っている。

俺はイナイと気軽に名前を呼んでいるが、彼らはその名前をしっかりとは聞いて無い。もとより俺達はほぼ居ない者扱いだった節があるので、興味もなかったようだ。

だが、その興味もなかった人物が、ただコネでねじ込んできたと思っていた人物が、ちゃんと実力通りで、かつ一緒にいる人間が大国の要人であれば、あいつらはどう思うんだろう。

少なくとも、焦るのは間違いない。なにせ大国の大物に自分たちの愚行を知られてしまったんだから。商売人には痛手だろう。


「結構性格悪いことやるね、イナイ」


大々的に文句を言うのではなく、イナイがだれなのかを認識させたうえで『何も言わない』のだ。かなりのプレッシャーだろう。


「なんだ、知らなかったのか?あたしは惚れた男が嵌められて黙ってるほどお人よしじゃねえぞ?」


ニヤッと笑いながら俺に言うイナイ。俺はその顔と言葉にドキッとしてしまい、しどろもどろになる。


「え、あ、うん、ありがとう」

「あはは、お兄ちゃん顔真っ赤だ」

『?』


不意打ちを食らってしまった。くそう。この人ホントかっこいいな!シガルちゃんそんなに笑わないで!

ハクさんは会話内容が良く分からないようです。首をかしげてらっしゃる。


『えーと、とりあえず、イナイが一番強い?』


正解。分かってないけど、わかってらっしゃる。


「あっはっは!まあ、あいつらの青ざめた顔でも見て、さっきの事は忘れてやんな。もう二度と出来ねえだろうしな」


前半はいつものイナイだが、後半の顔は肉食獣じみていた。イナイもそこそこ怒っていた模様。


「うーん、まあ、それで今後こんな事が無くなるならいいかな?」

「そうだね!あたしたちは何とかなったけど、駆け出しに近い人達とかだったらひどい目にあってたかもしれないもん!」

「そうだな、そのためにも王都でも頑張らねえとなぁ」


はぁ、とため息をつくイナイ。ごめんなさい。苦労を掛けます。ありがとうの気持ちを込めて後ろから抱きしめてみる。けしてさっきの仕返しなどではない。


「―――ー!」


あ、すごい顔で真っ赤になってる時の反応だ。たぶんこの後目にもとまらぬ速さで腹に肘打ちが来ると予想。

イナイは二人っきりの時はそうでもないけど、人目があるとダメなんだよねぇ。まあ、わかってやる俺もどうかと思うけど。

そう思っているとガッと頭をつかまれた。予想外です。投げかな?

下手に抵抗すると余計痛そうと思い力に逆らわずにいると、イナイは俺の顔を自分の顔のそばまで持ってきてキスをした。


「ふぇ、え、な」


イナイが自分からは予想外で俺が狼狽える。イナイは真っ赤な顔だが、してやったという顔だ。


「何時までも主導権握れると思うなよ?」


やばい、ここでも主導権握れないと握れるところないんですけど。






「身分証をお願いします」


街の門の兵が丁寧に聞いてくる。あれ?俺達には横柄だったんだけどな?

イナイはそれに応え、身分証を出す。それを受け取る兵の手はこころなし震えている気がする。

ああ、これ、イナイがだれか知ってるんだ。


「お仕事ご苦労様です」

「はっ、ス、ステル様にそう言って頂けるとは、光栄です」


そういって身分証をイナイに返す。門を通る際に騒がしくしているはずもないので、商人たちにはその名前がはっきりと耳に入る。


「ス、ステル?」

「ちょ、ちょっとまって、いまなんて」

「き、き、ききまちがいだよな?」

「い、いや、たまたま同じ名前とか・・」


商人はざわつく。だが兵士もそのざわつきはしょうがないというような顔でおとがめなしの方向だ。

その兵士の雰囲気が商人たちに真実を突き付けている。


「そういえば自己紹介をしておりませんでしたね?私の名はイナイ・ウルズエス・ステル。ウムルで技工士をしております。私は彼、タロウの婚約者で、彼の旅について行っているんです」


その言葉でざわつきが消え去った。信じられないものを見るような、信じたくないものを見るような目で、俺とイナイを見る。

俺はまさか婚約者の部分も言うと思ってなかったので、大丈夫なのかなーと少し心配。

商人たちは状況を理解したものから青ざめている様子だ。イナイはそれを無視して、予定通りの馬車に乗り込む


「か、会長に、ほ、報告」

「ば、や、やめろ!俺達の首が飛ぶだけだぞ!」

「で、でも黙ってても」

「そ、そうだ、黙ってたほうが大変なことになるぞ」

「けど、なんて報告するんだ」

「やばい、やばい、とんでもない大物に知られたぞ」


イナイが見えなくなると商人たちは小声で相談しだす。予想してたとはいえ、かなり怯えてる上に、同じ目を俺にも向けてきた。

なんとなく、兵士もまずい事をしたって顔してる。多分、さっき俺を確認したときの態度だろう。


「あ、あの、タ、タロウ様、さ、先ほどの事は、真実なのでしょうか?」


商人の一人がおずおずと俺に聞いて来たので、こくんと頷く。商人たちはまた一気に青ざめる。やばい相手に手を出した。という感じだろうなぁ。

だけど俺は何も言わない。イナイも言わない。言わないほうが効果があることもあるのだ。たぶん。

イナイがあれ以上言わなかったのに、俺が言ってどうなる物でもないだろうし。


「とりあえず、出発しません?」


ここでまごついていてもしょうがないしね。


「は、はひ、すぐ出ます!」


ばたばたっと、馬を動かす用意をして、門を出る。兵士は商人たちに生暖かい目を送っていた。

ちなみに、ほかの護衛の人たちは状況についていけず、目を白黒させている状態でした。

あ、でもイナイの名前を聞いて目を大きくしていたから、名前は知っているんだろう。


さーて、次の町までも平和だといいなぁ。討伐ならともかく、護衛だと危ないのは無いほうがいい。守り切れないのは怖いしね。

さて、王都までもうひと頑張りだ。

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