第94話特にこれといって何もない街でした!

「特色が無いな、この街」

「これだけ大きいんだから何かあってもいいと思うんだけどな・・・」


この街はそこそこ大きめの街だ。だが歩いていて思うのは、物珍しいものが何もない。

どこに行っても、どこでも手に入りそうなものしか置いてない。そんな感じらしい。

二人にはあまり面白い町ではない模様。


「そう?」

「・・そうだった、そうだよな、お前はそうだよな」

「そうか、お兄ちゃんにとってはまだ物珍しいんだよね」


そう、俺にはそうでもない。ただ街並みを眺めてるだけでも違う町ってことが面白いし、いろんな店や、裏通りなんかを眺めるのも楽しい。

まあ、裏通りは行こうとしたらイナイとシガルに服掴まれて怒られたんですけどね。

しばらくいるつもりならいいけど、そうじゃないなら面倒になるところに行くなって。


何よりこの世界の道具とか食べ物とか何でもそうだが、まだまだ知らない事のほうが多い。

なのでやっぱり歩いてるだけで楽しい。


「~♪」

「ご機嫌だねぇ・・・」

「あはは、お兄ちゃん可愛い」


今日の可愛いは甘んじて受け入れよう。

ちなみにハクさんはやっと竜に戻れたので宿で寝てます。結構神経使ってた模様。人型で服色々着るのは楽しそうだが、それはそれらしい。


「あ」

「ん?」

「釣り竿?」


釣具店がある。まじか、有るのか。いやあっても別に不思議ではないか。

いや、釣具店は不思議でも何でもないけどきっちりとしたリールがある。そして一本物の竿じゃなく、伸び縮みするロッドが有る。

もしかして探せば王都にも釣具店あったのか?見つけられなかったけどな。


「懐かしいな」


イナイが釣り竿を持ち上げながら言う。


「懐かしいって?」


俺が聞くと、イナイは釣り竿を置いて、リールを眺めて、そのうちの一つとって見せる。

そこにはイナイが作ったか、イナイが開発した証の猫のマークがついていた。


「クエナの意匠・・・お姉ちゃん釣り具も作ってたの?」


クエナ・・・えーと、そう猫だ。猫の一種?って言っても俺猫ほとんど見れてないからそれこそほかの種類わからん。


「竿は、あの伸び縮みするやつ作ったな」

「もしかして、家に釣り具あった?」

「いや、無い。誰も使わなかったから昔使ってた倉庫に眠ってる」


使いたかった!俺の作った半端釣り竿じゃなくて、そっち使いたかった!

くそう、リール有ったのか!今度作り方教えてください!


「絶対次はその釣り竿使う・・・・!」


俺は決意を胸にするのであった。


「どうせ釣れねえのに」

「え、そうなの?」

「こいつ釣って帰ってきたことほとんどねえ」

「・・・・・えっと・・・・好きな事と上手なことは違う、よね?」


うん、俺なんでシガルに気を使われてるのかな?

まあ、実際今なら剣か槍か魔術で魚取ってこいと言われたほうが簡単に取れる。

それぐらい釣れない。なぜだ。ちゃんと餌もついてるのに。餌が悪いのか?


「ぐぬぬ・・」

「餌を見て唸るな。餌のせいにするな」

「そこは声に出してないよ!?」

「分かりやすすぎるだろ・・・」

「あはははは!」


そんな感じでのんびり1日過ごして、あそんでました。






『暴れたい』

「止めて下さい」


朝起きるとハクさんがよくわからない事を言い出しました。


『ちょっとだけでいいから』

「それはちょっとじゃ絶対済まない言い方だと思います」

『やーだー、暴れたりない―』

「なんでさ、向こうの街ではそんなに暴れてないだろ」

『子供たちと遊んでたし、その辺の獣で遊んでた。あ、でも殺してないぞ』


獣『で』ですか、そうですか。


「タロウ、相手してやれよ」

『そうだぞ!してやれよ!』

「うん、ハクが言うな」

「あはは・・でもハク、思いっきりやったらだめだよ?この辺は街もあるんだから」

『分かっている。人型の状態で体術だけでいいぞ!ちょっとだけ見て覚えたんだ!』

「あー、ならいいか・・・」


俺はそういって軽く引き受けた事を後悔した。なぜなら今まで結構たまっていたのか、朝から日が落ちるまで付き合わされたからだ。

成竜の時と違って、攻撃範囲は小さいが、スピードは相変わらず速いうえに、攻撃力が半端じゃなく、結構必死で相手をした。ていうか、この子本気で見て覚えてやがる。めっちゃ怖え。

くったくたになった俺は出歩く元気もなく、食事をしたら速寝落ち、2日目は何もできずに終わった。

これもしかして、王都いってもやらされるんじゃなかろうか・・・・。






翌朝、待ち合わせ通りの場所に行って、商隊と合流する。

なにやら商隊の規模が大きくなっている。なるほど、ここで他にも揃えるための2日間だったのかな?

まずは代表の人に挨拶しなきゃ。


「おはようございます」

「おはようございます。もう少し待ってくださいね。ここで雇った方も来ますので」

「はい、わかりました」


ほむ、結局雇ったのね。まあ、当然か。俺達信用されてないっぽいし。

その上荷車の数が増えてる。カバーできるように人数雇うのは普通だろう。

しばらく待つといかつい感じのおっちゃんやら、兄ちゃんやら、いかにも戦士な感じのお姉さんが来た。けしてビキニアーマーではない。あの装備に防御力があるのは異を唱えたい。

全部で9人ぐらいかな。多いのか少ないのか普通なのかすらわからん俺がいる。

よって困ったときのイナイ先生です。


「イナイ、この人数、どうなの?」

「この規模なら普通」

「そっか、普通か」

「ただしあたしたちが勘定に入ってない」

「そっか入ってないのか」


信用されてないと思ったけど、まさか人数に入ってないとは思わなかった。


「まあ、向こうさんは単身じゃなく、1団体で受けてる可能性もあるから、真意は分からんがな」

「ああ、なるほど」


俺達みたいにグループの可能性もあるのか。でもその場合依頼料どうなるんだろ?

そんなことを考えていると、護衛のおっちゃんの一人がこっちに来た。


「ああ、お前らが護衛だと?護衛の仕事舐めてんのか!?」


いきなり怒鳴ってきた。テンプレだ。まさしくテンプレだ。もしかしたら口の悪いツンデレかもしれないけど。

オッサンのツンデレってどれぐらい需要あるのかしら。そんなことを考えているとさらに怒鳴られた。


「おい!聞いてんのか!?」

「一応聞いてますよ?」

「ああ?生意気なガキだな!」

「はあ、そうですか」


なんか血気盛んだなぁ。組合員同士のもめ事ってあんまり良くないっていうか、場合によっちゃ処分が下るって聞いたんだけどな。


「まあまあ落ち着いて」


後ろにいた兄ちゃんが止めてくれた。ありがとうお兄ちゃん。と、思うわけがない。流石の俺でもわかりやすいやらしい笑みをしていれば気が付ける。

ただ止めるつもりじゃないだろ。


「ねえ、ぼうや、護衛の仕事って野盗に襲われるようなこともある危ない仕事なんだ。坊やにはちょっと荷が重いと思うな?」


にやにやと、やらしい笑みで言ってくる。なんか本当にどこかで見たことあるような展開だわ。


「そういわれても、受けた仕事を放棄する気は無いですよ?」

「受けた仕事、ねぇ。どうやって受けたのか知らないけど、コネ使って無理やりねじ込んだんでしょ?商隊の人たちも君たちに一人前の料金払うのは痛手だと思うよぉ?」


そういわれて代表を見ると、すいっと目をそらされた。ああ、本当の事か。


「はあ、ですが俺達は何と言われようとこの仕事は全うしますよ」


失敗の履歴が付くのは嫌なものでね。報酬よりもそっちが嫌だ。


「わっかんねえガキだな!くその役にも立たねえガキのお守りをしたうえで金なんか払えるかって言われてんだよ!痛い目にあいたくなかったらとっとと消えろ!」


オッサンがそういうとあと3人の男たちもこっちに来る。向こうのお姉さんや、お兄さんたちは関係ない様だ。

俺を追い出せば、その分の報酬の一部をやるとかそういう話になってんのかね?


「組合員同士の争いはダメだと聞いてますが?」

「争い?これは指導だよ!力量に合わない仕事を受けたお前が悪いんだよ!」

「はぁ、そうですか。ちなみにこの場合あの代表が俺達を追い出そうとしたという事でいいんですよね?」

「ああ?さっきそういったろうが!」

「ありがとうございます、言質、いただきました」


言ってないよ、あくまでお前らが想像でそういってるって言い逃れできる範囲しかな。

だが今ので言質は取った。他の組合員も聞いてる。代表もまずいって顔をした。


「ああ?何言ってやがる?」

「いえ、実力もないのに吠えるのだけは上手い上に、頭が回らないのはかわいそうだなと」

「・・・そうかよ、ちょっと痛い目に合わねえとわかんねえ見てえだな」


そういうとオッサンは剣を抜いた。


「ちょ、それはさすがにまずいですよ!」

「るせぇ!いつも通り金用意しとけ!その商人も同罪なんだ、出させろ。そいつが言い出したことなんだからなぁ!」

「おい、やめろ!流石にやりすぎだろ!」


後ろで見てたお姉さんが止めに入ってきた。一緒にいたほかの人たちはまごまごしている。

別に仲間じゃなかったのかな?


「ああ?お前俺がだれなのか知らねえわけじゃねえだろう。正気か?」

「正気だ。力量の無いガキが分不相応の仕事をするなという所までは、気に食わずとも了承しよう。だがそれは見逃せないぞ」

「うるせえ、てめえも死ぬか!?」

「やれるものならやってみろ・・・!」


そういってお姉さんも剣を抜く。これはまずいな。お姉さんはただの巻き添えになる。この場面で出て来るような人に怪我はさせたくない。

俺はお姉さんの肩をつかんで足をすくい、ぽいっとハクに渡す。


「ハク、任せた」

「ひゃ、ひゃあ!?」

『ほーい。受け取ったぞー』


お姉さんは何が起こったかわからず目を白黒させている。


「まあ、つまりは、俺の実力が無い。それが気に食わない。という所でいいですね?」

「・・あ、ああ、そうだ」


俺の一連の動きに面を食らった様子だ。あの程度で驚かれても困る。こちとらこないだの殺人のむしゃくしゃは、覚悟が決まっただけで残っている。

悪いけど、憂さ晴らしさせてもらうぞ。お前達みたいな相手なら気にする気は一切ない。


「わかった、なら代表を納得させるためにもとっととやろうか。挑んできたのはお前だ。お前らのした後、組合に一度行ってお前らの事を話させてもらうからな」

「は、何言って――」


俺はオッサンが何を言われたのか認識する前に、仙術で強化して、にやにや笑いの男の胸のプレートをぶち抜き胸を打つ。

大怪我させないようにちゃんと加減している。こないだの斧の時にあんまり強度は無いのは理解した。

男が崩れる前に、そばにいる3人も同じように打つ。4人は全く反応できずその場で崩れ落ちた。

脆い鎧だな。


「さて、次はお前の番だぞ」

「な、お、おまえ、なに、いや、どうなって」


わーい、混乱の極みだー。わっかりやすーい。まあ、人を舐める連中はだいたいこうなる。

相手の力量を図れないのはまだいい。けどそれで舐めきった態度をとるなら、どんな世界でも痛い目に合うものだ。

なんでそんなこと知ってるのかって?子供のころちょっとやんちゃしちゃうときって皆あるでしょ?


「構えろよ」

「な、舐めやがって!」


なんでこういう時って皆似たようなセリフなのかね?

おっさんは切りかかってくるが、正直バダラさんに比べて質がかなり落ちる。

バダラさんを知ってるのに、あの商人なんでこんな奴雇ったんだ?

俺は疑問を持ちつつも、仙術強化で思いっきり剣をぶち折る。今回はわざとだ。


「な、この剣はその辺の剣と違うんだぞ!?」

「そうかい、だからどうした?」

「お、お前、なんなんだよ!」

「お前の言う、実力のない人間だよ。ほら、俺を痛めつける予定だったんだろ?来いよ」


ああ、これ完全に悪役セリフだわ。まあ、オッサンは自業自得だ。あの感じからして、普段も似たようなことやってんだろ。

そんな奴にやさしくしてやる要素は無い。


「くそ、くそおおおおおおお!!」


やけくそ気味に振るってきたオッサンの拳に合わせて頭の前のほうで受ける。


「ぎゃああああああ!」


うん、砕けた。人間の頭って固いんすよー?殴る事をちゃんと学ばないとそうなるんだよー?

まあ、強化してましたけどね。


「さて、どうする?まだやるか?それとも組合に行って洗いざらい吐くか?」

「わわわ、わかった、行く、行きます!組合に行きます!全部言います!」

「分かりやすい屑だなぁ・・・。あ、代表さん、『待っててください』ね?あなたが悪いんですからそれぐらいはして頂かないと」


若干威圧を込めて言う。普段なら通用しないであろう俺の威圧だが、この惨状を見たせいだろう、びびってらっしゃる。

さて、とりあえず。


「ハク、おろしてあげて」

『わかった』

「え?ひゃ!?」


ドスンと落ちるお姉さん。


「ハク、おろしてあげてって言ったけど、落とせって言ってない」

『難しいな』


難しいだろうか?難しいのかな、竜にとっては。


「いたた・・・」

「すみません、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、すまない、ありがとう。君、強いんだな」

「いえ、まだまだです」


もっと強い人いっぱい知ってるからねー。


「取り合えずあいつら連れて行くので、手伝いお願いできますか?あと証言も」

「わかった、全部ちゃんと話そう。お前たちもいいな!」


お姉さんはまごまごしていた連中にも言う。俺にビビってるけど、気にしなくていいのよ?

別に助けにこないこと自体はそこまで悪い事じゃない。だって助けにいって自分がやられたのでは意味がない。

とはいえお姉さんの行動が意味がないかというと、そうでもない。俺は少しだけ悪くない気分になった。

でなかったらあいつらはもうちょっと大怪我をしていただろう。


さーて、組合に行ってもたぶん一筋縄ではいかないだろう。こういう分かりやすいやつらは分かりやすいコネがあるはずだ。この紹介状二つが唸るぜ。

うん、俺もコネだよりですが何か?

さって、どうなるかなー。最悪イナイに任せることになりそうだけど、それはなるべく避けたいな・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る