第91話結果報告と事後処理ですか?
よく見なくても疲弊しているタロウ達を先に帰らせ、俺達だけで組合に報告に行く。
正直、あの二人の反応にほっとしている俺がいる。あの二人は人を殺す事への慣れが全く無かった。
あの二人がウムルの暗部の人間だったらどうしようかと、本気で心配してはいた。それだけに本当にほっとした。
あれが演技だったら相当なものだが、さすがにそれは無いと思う。
「ただいまー」
いつもの調子に戻った俺は、気軽に組合の戸を開け、皆に声をかける。
俺達の帰りを待ってた連中は皆挨拶を返してくれる。その中にタロウ達にちょっかいをかけた3人は居ない。
・・・ちょっと前まではあいつらもその中にいたんだけどな。本当馬鹿なことをしたもんだ。
そのまま受付の嬢ちゃんにも声をかける。
「あ、お帰りなさいナマラさん。支部長は奥でお待ちです」
もう真夜中だってのにご苦労様な事だ。もちろん支部長様の事ではなく、受付の嬢ちゃんにだ。
そして支部長室で寝泊まりして受付の嬢ちゃんにまた世話焼かれるんだろうな。
あいついつまで知らんふりするつもりなんだか。なんだ、相手のいない俺への当てつけか。
「あんがと、んじゃいってくるわ」
仲間にそう言って行こうとすると肩を掴まれた。振り向くとフーファが掴んでいた。
「フーファ?」
「俺も行く」
「んー、聞かないほうがいいかもよ?」
「分かってる」
ならしょうがないか。バダラは首をかしげている。そりゃそうだわな。だってこいつ、あの嬢ちゃんが自己紹介したとき誰かわかってなかったもん。
イナイ・ステルを知らないのはさすがに問題あるので、タロウ達がどこかに行ってから教えておこう。あと手を出しちゃまずいやつも全部。
「あたしは、だめ、かな?」
レヴァーナがおずおずと聞いてくる。
「止めておけ」
なんで俺じゃなくてフーファが言ってるんですかね?
「お前たちは何時かここを出るんだろう?面倒事に関わるのはやめておいたほうがいい」
「そう、だな」
それは俺も同意だ。レヴァーナの性格だと、身の内に抱えなくていい面倒事も抱えちまう。
レヴァーナは悲しそうな顔で組合の端のテーブルに向かって行った。
「ほれ、いってこい。お前の出番だぞ」
「え、うわっ!?」
俺はバンとバダラの背中をたたく。なぜ俺に叩かれたのかよくわからないままにレヴァーナのほうへ行くのを見届けて、支部長室に入る。
「せめてノックぐらいしろ」
「こんこん」
「口で言うな口で!」
だんだんとドアをたたく。もちろん内側から。
「向こうが何事かと心配するからやめろ!」
「我儘だな」
「お前だよ!お前が我儘なんだよ!」
「話が進まん。そこまでにしておけ」
フーファが呆れた顔で止める。
「全く。それでどうだった?」
「強盗団はあの村に残ってた」
「そうか」
「ちなみに全滅。生き残りは無し」
「そっちは分かっている。そのためにお前を行かせたんだ」
かつての相棒は俺の考えをよくわかってらっしゃる。俺があの手の連中を逃がす気が無いとよーく知っている。
「タロウ達か」
「ああ、偶然とはいえいい機会だ。どうだった」
これはつまり、あの二人が人を殺し慣れていたかどうかという事だ。
俺たちは真剣にあいつらがウムルの兵かどうかを心配していただけに、重要な事項だった。
それに、あいつが人を切り慣れていたら、もっと怖い事実を知ってしまったからな。
「死体そのものにも慣れちゃいないな。イナイの嬢ちゃんだけは流石に別みたいだが。だがやると決めればやれる胆力は持っている。そのあと吐きそうにしてたけどな」
「そう、か。なら本当に攻めてくるために来たわけではなかったようだな」
ふぅと、息を吐いて椅子に座り込むヤカナ。
フーファはそれだけでだいたいの事情を読み取ったみたいだ。
「イナイ・ステル襲撃に国が関わっていたのは真実だったか」
「さすがフーファ。よくご存じで」
こいつ情報集め上手いんだよな。どっから仕入れてくるんだか。
「彼女は有名すぎる。襲われ撃退したなんて情報は簡単に手に入る。だがその後の国も絡んでいるという事は信じたくなかったがな。藪をつついても面倒そうだったから真実は追及しなかった。お前たちが彼女達にそういう反応をするという事は、それが真実だという事だろう」
物わかり良すぎて怖い。でも、こいつも知らない事が有る。
「でもタロウの素性聞いたらもっと驚くぜ。俺達もベレマナちゃんから聞いて驚いたからな」
「何?」
方眉を上げるフーファに、にやりと笑いながら口を開く。やはり知らないようだ。
「あいつ、あの8英雄の半分以上を師匠にしてんだってよ。竜も倒したらしいぜ?」
「・・・流石に信じられない情報だな」
「でも信じるしかないだろ。あのハクって嬢ちゃん、竜なんだってさ。我らが竜神様の一柱」
「・・・・・・」
フーファは顎に手を当てて考え込む。いくら口で否定しても、認めざるを得ない事項がいくつもある。
タロウの異常といっていい強さと技術の数。共にいるイナイ・ステル。来た時期に轟いた竜の咆哮。そして聞いたことのない、いきなり現れた『竜人族』だ。
「下手をすると、タロウはイナイの嬢ちゃんより厄介だ」
「そうだな。特に、ウムルから来てはいるが、ウムルに正式に所属しているわけではないから余計に、な」
「まだ今は、ただイナイ・ステルの婚約者という情報しか出回っていないが、しばらくすればあいつを欲しがる国が出てくるな」
レヴァーナを連れてこなかったのはこの点だ。あいつなんだかんだあの子たちを気に入ってしまっている。
なのにこの事情を理解すれば、きっとあいつらの世話を焼くだろう。それは上手くいかない。あれはもう無理だ。タロウはウムル国内でおとなしくしていれば無名のままだったかもしれない。
けど、あいつはもう、外に出てしまった。力を見せてしまった。その証拠を残してしまった。なら後は本人がどうにかするしかない。
俺達はそれよりも、そこから起こる面倒事に巻き込まれないようにするほうが大事だ。
「現状、俺はただのおせっかいのオッサン貫いてる」
「それでいい。あまり深入りはするな」
「タロウに対しては、お前にしては珍しく一歩引いてると思ったよ」
「あいつらは別に嫌いじゃないんだけどな。むしろ好きだな」
今まで見た限りでは素直でいい子、というのが感想だ。この事さえなければもっと仲良くなろうとしてただろう。
「爺はきっと俺達がタロウと縁を持つようにしたいんだろうが、そうはいくか」
「ああ、俺たちはあくまで、この地で慣れない彼の世話を多少したオッサンだ」
「というわけで、フーファもよろしく!」
「俺は元からそんな感じだった気がするが?」
そういえばそうだ。あんまり積極的にかかわってはいなかったな。
「この国は、お前も知っての通りポカをやらかした。もし俺がタロウと仲がいいなんて知れてみろ。国から強制的に協力しろって話が来る」
「ここからこいつが居なくなるのはただの痛手でしかないからな、それは避けたい」
「何よりここを離れる気なんかないしな。タロウの立場が確固たるものでないのと、あいつ扱いやすそうだからな。だから余計に俺の発言があいつに影響しない程度の立ち位置を貫いときたい」
「分かった。俺も気を付けておこう」
俺達の方針を知ったフーファは深く頷く。
「頼む。もうすでにベレマナちゃんには無茶振りが行ってる。俺達まで来たらシャレにならない」
「あの子もかわいそうにな」
「爺がまだ元気なくせに引退しやがったのが悪い」
「あの爺、強盗団の話も真夜中にすぐこっちに持ってきやがったからな」
俺とヤカナで爺への悪態をつく。昔からあの爺はしれっと俺達に何かやらせやがる。
今回の事も兵を出さずに俺達にやらせたほうが早いと判断しやがったんだろうよ。ベレマナちゃんの頼みだったから仕方なく引き受けた。
多分引き受けなくても行った可能性があるというのが爺もわかってるだけに腹が立つ。爺め、このために領主譲ったんじゃあるまいな。
「ところで村のほうと、助けた人達はどうする?」
「そちらは俺たちの知るところではないだろう」
「そうだな。爺に丸投げだ」
「・・・たぶんまたベレマナちゃん泣いてやけ酒に誘って来るんだろうなぁ」
まえまでなら爺に事後はぶん投げていたが、今はベレマナちゃんが当主だ。きっとベレマナちゃんが全部やることになるのだろう。
領主になるちょっと前からよく誘われていたが、最近、つまりあの子達が来たあたりから、内容はぼかされているものの愚痴とやけ酒にほぼ毎日近く付き合っている。
酔っても口にしてはいけない内容は口にしないのだけは流石だ。
「お前さぁ、絶対俺のこと言えないだろう」
「同感だ。いつまで知らぬふりをするつもりやら」
「何のことだ?」
何言ってんだこいつら?
「まあこっちの場合あの子も気が付いてないっぽいからしょうがないか」
「そうだな。まあ気が付いたらどちらも面倒なことになりそうだが」
「だから何のことだ?」
結局何言ってるのか教えてはもらえないまま報酬を渡され帰ることになった。腑に落ちん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます