第89話強盗団がいるようです!
「留守、ですか」
「はい、折角お越し頂いたのに、申し訳ありません」
「いえ、約束していた訳でもなく、いきなり来た訳ですから、どちらかといえばこっちのほうが失礼ですし」
「そう言って頂けると助かります。領主様は朝早く組合に行かれましたので、もしかしたらまだそちらに居られるかもしれません」
「ありがとうございます、行ってみます」
ぺこりと頭を下げてお礼の言葉を言う。朝から来てみたんだけど、どうやらベレマナさんは留守のようだ。
明日明後日にでもここを離れるので、挨拶を、と思ったんだけど、冷静に考えたら領主にいきなり会いに来る一般人って非常識だな。
・・と、とりあえず組合に行ってみよう。
ぽてぽてと組合に向かって歩く。ちなみに俺はただいま一人である。
何故かっていうと、まずイナイはここに来たがらなかった。次にシガルは何やらやりたい事があると、ハクと一緒にどこかに出かけてしまった。
よってわたくし一人です。久しぶりに一人な気がする。ちょっと寂しい。
そういえば今更だが、この街に来て気が付いた事が有る。やっぱウムルの王都でか過ぎ。
この街も確かに端から端まで堪能しようとするとなかなか厳しいが、要所要所を楽しむつもりならいけないサイズではない。
だが、ウムルは違う。あそこ下手すると小国一つぐらいのサイズあると思う。その点から考えてもウムルってでかい国なんだなって思った。
ただ、王城が門から見える位置にあるので、入った最初はその大きさが分かりにくい。でもよく見ると気が付くんだ。王城の向こう側に街を守る壁が見えないって。あのでかい壁がだ。あの壁お金を払えば登らしてくれるところがあって、そこから見ても向こう側は見えなかった。どんだけだよ。
ウムルの国土は最初は、それこそヨーロッパ的な国土のイメージだったのだが、実際のサイズはロシアサイズでした。
いや、大半は山で開拓されてない土地が沢山あるみたいなんだけどね。
その土地の広さに物を言わせた広大な農地と、街がいくつもあるらしい。
そのための転移装置と兵。だからやる気があればそこそこちゃんと働き口が多い様だ。
もちろん国がそういったことに精力的だからこその結果だろうけど。
そんな考え事をしながら歩いていると、組合につく。あれ、シガルとハクがいる。
「シガル?」
「あれ、お兄ちゃん?何でここにいるの?」
「領主さんに会いに行ったんだけどいなくて、ここにきてるらしいって聞いたんだ。シガルは用事があったんじゃないの?」
「そうなんだ。あたしはちょっと・・・うん・・・」
シガルが言葉を濁す。珍しいな。
「言いたくないならいいよ?」
「言いたくないわけじゃ・・・いや、うん、言いたくないのかな?」
『でも終わったら言うつもりだったんだろ?』
「・・うん」
ふむ。別段ずっと内緒というわけじゃなくて、何かが終わるまでは内緒、だったのかな?
その途中で俺に見つかったと。
「えと、ね。私イナイお姉ちゃんに旅の覚悟を言われたじゃない?」
「え、うん」
「多分、イナイお姉ちゃんは、目の届く範囲なら、そんなことしなくてもいいように守ってくれると思うの。でも言われて気が付いたんだ。それじゃダメだって」
この間の、人の命を奪う覚悟だよな。でもそれは俺も無いのだが。
「もちろん無暗に命を奪えっていう意味じゃないのは分かってる。けど確かに覚悟がないとダメな瞬間っていうのは起こり得ないとは限らない。
だから、とっさに動けないような事が無いように『そういう依頼』を受けようと思ったんだ。でもちょっと怖かったからハクについてきてもらうようにお願いしたの」
『されたのだ!』
えへんと胸を張るハク。ハク結構大きいよね。あ、ごめん、シガル、睨まないで。
「でも、いざとなると踏ん切りがつかなくて・・・情けないね?」
力ない笑いを見せるシガル。この子は年齢以上にしっかりしすぎていると思う。この前のイナイの発言はそのせいもあるような気がする。
俺としてはそんなことは「起こった後になるようになる」しかない事だと思っていた。
「俺もついていこうか?」
「そういうと思ったから内緒だったんだけどね」
「え?」
「・・・お兄ちゃんも私と同じで、そんな事考えたことなかったでしょ?」
・・・いや、考えたことはある。
この手で人を殺す事が有るのかどうか、悩んだことはある。出来ればしたくはない。けど、誰かを守るために、生きるために、そんな事を言ってられる場合じゃないときがあるかもしれない。この世界は日本ほど平和ではないのだ。
そう考えている。けど、その考えがある反面、まだ覚悟はない。人を実際に殺すのは、怖い。
銃が殺意と罪の意識を軽減してくれると、どこかで聞いたような気がする。距離が離れ、この手で殺す感触を感じない分、その意識が薄れるそうだ。
それを考えて、いざという時の為に王都で銃を探したこともある。けど無かった。魔術があり、遠距離攻撃が普通に存在する世界だから、不思議でも何でもないけども。自分で作ろうとも試しているが未だに作れてはいない。
でもそれは結局逃げの思考だ。殺す、殺したという事実は何も変わらない。つまりやはり怖いんだ。自分と同じ『思考する生き物』を殺すのは。
だからこそ、その覚悟を決めた子を一人で行かせたくないと思った。
「考えたことはあるよ。覚悟は・・・してるとは言い難いけど」
「そう、なんだ」
「だから、だからこそ、シガルについていくよ。シガルが一人無理するのは違うだろ?」
「お兄ちゃん・・・」
今にも抱き着いてきそうな感じのシガルだが、ここは往来なのでちょっと落ち着いてね?
俺たちの会話に結論が出たところで、ナマラさんが出てくる。
「あれ、タロウに嬢ちゃん達じゃないか、なにしてんの?」
「あ、ナマラさん、おはようございます」
「おはよ」
今日のナマラさんは完全武装だ。関節を阻害する防具こそつけていないが、要所要所しっかり守ってる鎧を着てい居る。
「今日は気合入ってますね」
「いれたくないんだけど、仕事が仕事だからしたかなく」
「仕方なく?」
「おう、今日は人間が相手だから念には念を入れてるのさ」
人間が相手。つまりそれはいまシガルと相談していたような仕事、という事だろう。
ここに張り出されてた依頼に、偶にあった。誰かを捕まえてくれ、殺してくれ的な依頼。
もちろん私怨ではなく、犯罪者だ。罪状も書いていた。
その手の仕事を受けたのだろう。
「この手の仕事は基本的に受けない主義なんだけど、今回は仕方なく」
「あ、そうなんですか?」
「おー、誰が好き好んで人間ぶった切らなければいけないのかと」
ナマラさんはあまりこの手の仕事が好きではないようさだ。だがこの人は「覚悟の決まっている人」だという事は今の発言からわかる。
この人は、人を切った事が有るんだ。
「タロウさん?」
「あ、ベレマナさん」
「シガルさんに・・・ハクさまああああああああああ!!!」
ベレマナさんが組合から出てきたと思ったらハクに突撃・・いや、直前で止まって手を取った。
「ああ、ハク様、以前の姿もよかったですが、今のこのお姿も素敵です。ああ、あなたをちゃんと見ることができてこのベレマナ幸せです・・・!!」
・・・この人すごいなぁ。ホントに竜好きなんだな。
「ベレマナ様?」
若干ドスの聞いた声が聞こえる。あ、あの時のおじいさん。
一緒に来てたんだ。
「・・・コホン、ナマラさん、タロウさん達とお知り合いだったのですね。良ければタロウさんに協力を仰いではいかがでしょう?もちろん報酬を減らすような真似は致しません」
「あー、まあ、タロウ達なら戦力になるだろうけど・・・タロウ、良いのか?」
流石に今の質問はわかってしまった。おそらくこの人は見抜いている。俺たちがそういう仕事、いや、そういう荒事で人を殺せるのかどうかわからない、という事が。
「俺で力になれるなら」
ちょうどいいじゃないか、その覚悟を決める機会かもしれない。もちろん無駄に手をかける気は無いけど。
「あたしもついてきます」
『いくぞー?』
シガルも来る気のようだ。ハクは何かよくわかってない感がする。
「そう、か。分かった。相手は強盗団だしな。人数がはっきりわかってない以上、こっちの人数がいるに越したことはねぇ」
「強盗団、ですか」
「ああ、近くの村を襲った奴らがいるらしい。逃げてきた奴が言うには人数は正確にはわからないが最低でも20人ほどはいたそうだ」
「その数を一人で行くつもりだったんですか?」
「そんなわけはないさ、仲間に声掛けに行くところだったんだ」
びっくりした。一人で行くのかと思ってしまったよ。そりゃそんな無茶はしないか。
「タロウ、それに嬢ちゃん達も、一応念のためもう一回聞くぞ。いいんだな?」
この人は優しい人だな。やっぱり。そんな仕事、人手はあったほうがいいのは確かだろうに、それよりも俺達の事を気にしてくれる。
「はい、ナマラさんにはお世話になりましたから。恩返しですよ」
「・・・分かった。でも無理するなよ?用意が済んだら南の門の所で待っててくれ。仲間集めたら俺達もそこに行く」
「分かりました。あれ、でも手続きとかは・・」
「今回は領主からの指名依頼です。あなた達の手続きも私がやっておきますので、ご安心を」
ベレマナさんが補足を入れる。そうかこれ指名依頼だったのか。ナマラさんがやりたくなくても、領主からのじゃ断れないよね。
「ベレマナちゃん。飯おごってくれよな。ほんとにやりたくないんだよ?」
「でも、依頼しなくても行ってくれたでしょう?」
「・・・かなわないなぁ」
「うふふ、あなた達の事はよぉーく知ってますから」
「へーへー、じゃあいってくらぁ」
「はい、無事の帰りを待っています」
あ、ナマラさん領主さんと知り合いなんだ。なんかすごい気安い感じ。
「タロウさん達も、よろしくお願いします。そしてくれぐれも気を付けて」
「はい、頑張ります」
予期せぬところで、予期せぬ依頼が入った。イナイ報告しに行ったほうがいいかな?
とりあえず、イナイに言ってから行くことにしよう・・・。
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