第86話そろそろ街を去る相談です。
あのごたごたから10日以上はたった。なんだかんだ長居している。
あれ以来ハクに絡んでくるやつはいない。
そも、あそこまで酷い連中はそこまでいなかったのだろう事と、あの処分が効いているんだと思う。
とはいえあれは、相手を殺すことを衆人環視の中で堂々と宣言して行動したことが原因だから、厳しいというより、当然の処置だとナマラさんは言っていた。ただし、シガルも少々やりすぎだとヤカナさんに注意された。
けど、これからもああいう連中が出てくる可能性はあるんだろうな。
だからと言ってハクに完全に俺たちと同じようになって欲しいとは言ってない。それは何か違う気がするんだ。
ちなみにハクは今広場で子供たちと遊んでいる。
「ハクお姉ちゃん、私もう一回お空飛びたい!」
「あ、ずるい、私も!」
「俺も!ハク、俺も飛びたい!」
『いいぞ!みんな掴まれ!落ちるなよー!』
ハクは子供たちをぶら下げて宙に浮く。腕に、足に、腰に、肩に。いろんなとこに子供が乗ってるが、重い素振りは見せない。
やっぱ力持ちだな。ハクはおそらくだが、子竜形態でも結構強いと思うんだ。起こすために叩いたら手の方が痛かったし。
「ハクお姉ちゃんの鱗ツルツルで気持ちいいー」
「しっぽもツルツルー」
「羽はざりざりしてるー」
『あはは!くすぐったいぞ!』
なんでこんな光景が繰り広げられているかというと、ハクが今日までにやったことに理由がある。
あのあとハク達と10級や9級、たまに8級の依頼を受けたのだが、何やらハクがものすごく楽しかったらしく、午前中は依頼を受け、昼からは観光という感じになった。
ハクは、畑を耕して欲しいと言われれば、耕運機も真っ青な速度で耕していき、畑の収穫を手伝って欲しいと言われれば、分体を作り出してあっという間に収穫。
引越しの手伝いであれば、どんな大物でも関係なく持ち上げ、数時間もかからず移動終了。家具の配置替えも同じく。
庭の草むしりをさせれば、土ごと一度掘り返して草だけ別にするとかいう荒業。
モノ探しは、それこそ魔術で見つけてしまうし、近所での採取などの仕事も、イナイでも舌を巻くほどの知識を発揮して終わらせる。
知識そのものは老龍から貰ったと言っていた。忘れてたけど、100歳ぐらいなんだよな。
子供たちと遊んで欲しいと有れば、今のように子供たちを抱え、空を飛び、人気になっている。
そしてその勢いで依頼をやったことによってハクは8級になった。討伐の類はやっていないのにだ。
気が付けば宿のそばの農家の人からは収穫した野菜を分けてもらったり、いたるところで挨拶をされたり、屋台のおっちゃん達からただでなにか渡されたり、子供達がわらわらとハクを囲むようになっている。
そこに亜人だからなんていう感情はない。みんな『ハク』を見ている。それが少し嬉しくて、長居している。
『タロウ、人間は楽しいな!老たちもせめて山から下りてくればいいのにな!』
子供たちにぶら下がれながらいうハク。あの絡んできた男たちの事こそあったが、それ以外はとても楽しいようだ。
けどあそこの竜がみんな降りてきたら大変なことになると思うな、うん。
ちなみになぜかレヴァーナさんがハクをとても気に入り、ちょくちょく会いに来て、餌付けをしている。効果は上々のようだ。
「じゃーねー!おねーちゃーん!」
「タロウもまたなー!」
「シガルお姉ちゃんもまた遊んでね!」
「イナイはもっと大きくなれよー!」
「あんだとコラー!」
「アハハハ逃げろーー!」
子供たちはイナイに追いかけられながら逃げていく。まだお昼すぎだし、どこかで他の所でまた遊んでるんだろう。
この辺は子供もそこそこお手伝い程度で生活できる基盤があるようだ。
土地によっては子供も大きな労働力、といういかにもな地域もあるが、この国は其の辺結構安定しているらしい。
わりとまったりした風潮のある国らしい。ハクに絡んだ連中?人間多数いればそういうのも出てくるでしょ。
ただそれも場所が変わればその限りではないそうだし、王都にはスラム的なところもあると聞いた。
俺たちの世界だってそこは似たようなものだ。
日本はそんなに目に見えてわかるようなところはほぼないが、日本に限らなければそれなりに多い。
そういう土地ではここでは余っているような仕事は、割とすぐなくなるようだ。
少なくても、少しでも稼げるなら、そして特別能力がなくてもできるなら、皆やるのだろう。
「あんのガキどもめ!」
「あはは、お姉ちゃんも人気だね」
「舐められてるっつんだよ、ああいうのは」
「たぶんあれはイナイの事好きなんだと思うなぁ」
『そうなのか?ならなんで暴言を吐くんだ?』
それはあれだ、子供ならではの馬鹿な男の子思考なんだよ。なんでああなるんだろうね?ほんと。
あの子がよくイナイを見てるのは気が付いているので、多分間違いない。
「ガキに好かれても嬉しくねぇよ」
「でもお兄ちゃん・・・」
「・・・・・・えっと、うん・・なんだ・・・こいつ中身が余り子供っぽくないから」
精一杯の反論であった。でもなんかそれ嬉しくない。でも少し自覚してる。
いや、ガキっぽいとこはガキっぽいまんまなんだけど、変に思考がおっさんくさい時があるなとは思ってる。
あと、まったりが好きです。このポヤーっと街を歩いてる時間とか最高。釣り糸垂らしてる時間も最高です。
「さて、この街の見れるところはだいたい回ったはずだけど、どうする?まだ居るか?」
「うーん、最初の知らない街でちょっと楽しくて長居しすぎたけど、ホントは5日ぐらいで移動するつもりだったんだよね・・。」
「そうだったんだ。てっきり上半日中は居るんだと思った」
久々に聞いたなその単語。えーと月の前半の分だっけ?あと4日で後半である。
「これからも色んな所をウロウロするつもりなのを考えると、ひと所で長居しすぎると、何年かかるか、ね?」
「あたしはそれでもいいよ?」
「あたしは元々そのつもりだったが。だから・・・あ、いや何でもない」
ん、イナイが何か今喋りかけた気がするんだけど?
「イナイ、何?」
「・・何でもない」
「お姉ちゃん、また言えないこと?」
「いや、言えないってわけじゃないが・・・」
イナイは失敗したという顔で、渋々話しだした。
「この旅は分かってたからな。タロウと一緒に行くって決めたあと『名』を返上しようとしたんだよ。結局いらないって言われたけどな」
「・・・すごいね。お兄ちゃん愛されてるね」
シガルが心底驚いた顔で俺に言う。
「ふえ?どういうこと?」
「つまりお姉ちゃんは、今の自分の財産も立場も全部捨ててお兄ちゃんと一緒に旅するつもりだったんだよ」
ファッ!?イナイなにしてんの!?
『愛する者のために全てを捨てる、か。人間はその時の気持ちのために思い切った行動をする生き物だと老は言っていたな。イナイはその典型か?』
「・・・・そういうふうに言われると自分がめっちゃくちゃ恥ずかしいな」
「あはは、お姉ちゃんが可愛いのはいつものことだよね?」
「まあ、それはね」
「・・・・けっ」
イナイは真っ赤になってそっぽを向く。この人は本当に俺のために俺の知らないところでものすごい無茶をしたのか。
ああ、本当にダメだな。この人本当に可愛すぎる。好きだわー。
「ニヤニヤしてんじゃねえよ・・・」
「あ、顔に出てた?」
「お兄ちゃん、今のは隠す気もなかったくせに」
『そういうシガルもニヤニヤしてるぞ?』
「だって、ね?」
「ね?」
「お前ら嫌なところでしっかり通じ合うな・・・」
ハクは、シガルまでなんで?という感じだが、シガルもシガルでイナイのことが好きなんだ。
だからイナイのこういう可愛い所を聞いてしまうと、嬉しくなるんだろう。
「まあ、それじゃあと4日はここにいて、出発する?んで大きな街への道中の村とかは、面白ければ留まって、特に何もなければ1,2日で通過ってことで」
「はーい!」
「おう、わかった」
『とうとうどこかへ行くんだな!楽しみだ!』
ハクがワクワクしてるけど、大丈夫かね?なんか遠く行くのが怖いとか言ってたよね?
まあ、そのときは竜にでも戻ってもらって抱えてあげよう。重いけど、少しは気が紛れるだろう。
さて、出る前にお世話になった人には挨拶しておくかね。
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