第84話シガルが怒ります!

今日もまた組合へやってきた。

今日はイナイが完全にダウンしているので俺とシガルとハクの三人だ。一応イナイは一度起きたのだが、やっぱり寝たいと言って寝た。

あれやっぱり一昨日寝れてなかったんじゃないかな。

ハクは昨日と同じ格好ではなかった。イナイが王都に行ったついでにハクが着れそうな服を買って来たらしい。

深夜なのにやってる店があったのだろうか?イナイなので何か伝手があったのかもしれない。

あの工具店のおばちゃんとかみたいに、昔からの知り合いっぽい人も王都にいるみたいだし、無理聞いてくれる人がいるのかも。

ともあれ今日は背中の羽部分というか、肩甲骨のあたりが露出している不思議な上着と、尻尾の部分の下に回るようなデザインで、尻尾にひっかけるベルトが付いて、後ろも落ちないようになってる不思議なスカートをはいている。

上着はともかく、下は完全にこういう人達用の服な気がする。


『これ、尻尾に何もかぶさってなくていいな!』


と、ハクは上機嫌であった。





「さて、今日はとりあえずハクの登録を先にして、それから本来俺たちがやるはずだった階級の依頼をやろうか」

「うん、わかった」

『よくわからないが分かった!』


ホントにわかってるのかちょっと不安だ。

組合に入ると昨日と違って早めの朝だからかそこそこ人がいる。昨日はのんびり来たからね。

皆ハクを見ている気がする。半分以上は奇異の目で見ているが、いくらかはどう見ても敵意を感じる。

理由はわからないが不愉快だな。ハクが何も気にしてないから、俺が言うのも筋違いだとは思うけど。

俺達は登録をしに受付に行くと、この前のお姉さんがいた。


「おはようございます」

「おはようございます。今日はどうしました?」

「今日はこの子の登録をお願いしたくて」

「・・・その子、ですか」


受付のお姉さんはハクを見て眉を寄せる。


「失礼ですが、身分証はお持ちですか?」


明らかに警戒した雰囲気でハクに問う。

組合の受付さんがそういうのを隠さないってことは、そういう事か。

この国でもやっぱり亜人差別的な思考があるみたいだ。


『身分証?』

「ハク、朝にお姉ちゃんから持っていくように言われたでしょ?」

『ああ、あれか!そういえば身分を保証するとか何とか言われて貰ったっけ』


ハクはそう言って身分証をスカートの内ポケットから取り出す。

とりあえず人前で又下ぎりっぎりまでスカートをめくらないように後で言っておこう。


『はい!これでいいか?』

「・・・え?」


身分証を提示するハクを見て、目を丸くしている受付さん。どしたん?


「あの、それは、言葉、なんですか?」

『ん?そうだよ?通じないから魔術で翻訳してるけど』


ああ、そっか。ハクの声から聞こえる実際の声は、キュルーとかキューキューとかギャーとかそんなんだもんな。

一応音階というか、歌うように音程があるので、それが言葉になってるのかなと思ってる。

中国語でも同じ音でも吐くのと吸うのとでは言葉が変わったような?


「あ、す、すみません、身分証をは・・い・・・けん・・・」


今度は石になったように固まった。忙しい人だ。

あれ、なんかハクの身分証俺達のとちょっと違う?


「はっ!も、申し訳ありません。ウムル王家所縁の方とは知らず、失礼をいたしました。ど、どうかお許しください」


石化から回復したお姉さんは今度は、若干声が震えている。

なんか、朝から申し訳ない気持ちになってきた。

えっと、なんだって?王家所縁?


「ハク、それどこで作ってきたの?」


シガルが小声で聞く。俺も気になる。


『ん?なんかすっごい大きい家でもらった。えっと、フォロブルベっていう人間が渡してきたよ』


うん、王様っすね。王様が身分保障するんすか。すごいっすね。

そりゃ怖いわ。大国の王が後ろ盾にある人間に警戒全開の顔でいたんだから。でも大丈夫。ハクはなにも気にしていない。


「えーと、ハク、組合証作ったら、その身分証は出さないとダメそうなとき以外出さないほうがいいかも」

『そうなのか?分かった』


シガルがあまり身分証を出さないように言い含める。

俺もそのほうがいい予感がする。ただここに限ってはこのほうが都合がいいけど。


「えっと、作ってもらえます?」

「は、はい、もちろん」

『よろしくー』

「で、ではしばらくそちらでお待ちください」


言われた通りしばらく待ってと思ったら、すぐにお姉さんは戻ってきて組合証を渡してきた。早すぎね?


「ど、どうぞ、こちらが組合証になります」

『ありがとー。えへへ』


何やら組合証を持ってうれしそうに笑うハク。


「どうしたの?ハク」

『楽しいんだ。今まで知らなかったこと、やらなかった事ばっかりで面白い』

「そっか、よかったな」


ハクの頭にポンと手を置いて撫でる。

あ、しまった、シガルにやる感じで撫でてしまった。


『それで次は何をするんだ?』


気にしてないようです。良かった。一応俺より年上なんだけど、年上と感じないから困る。


「そうだなー、あの辺の依頼をやろうと思ってるんだけどな」

『あの板に張ってるのは何だ?』

「あれに書かれてるのが依頼だよ。そっか、ハクは文字が読めないんだよね」

『読めないけど、読めるようにはできるぞ?』

「そんなことできるの?」

『うん、紙に書かれた意味を魔術で読み取れば出来ると思う』

「何でもありだな竜の魔術・・・」

『出来ない事もあるよ?』

「でも人間が使える魔術より便利な魔術いくつかあるよね。不思議だなぁ」


俺とシガルが竜の魔術に関して首をひねっていると、組合が騒がしくなった。

組合にいた人達が入口に向いて挨拶をしている。その先にはナマラさん達がいた。

ナマラさんは俺達に気が付くと手を上げながらこっちにやってきた。


「おう、タロウ、おはよう。今日も討伐受けるのか?」

「おはようございます。今日はちゃんと10か9を受けようかと」

「そっか、そっか!そいつぁ助かるな。若い連中はみんなやりたがらねぇで残っちまうからな」


ナマラさんは嬉しそうに俺に言って、俺がさっきハクにやったように頭をぐりぐりなでてくる。


「ナマラさん!俺と一緒に討伐行きましょうよ!」

「いや、俺とお願いします!」

「いや、悪いが今日は行かないぞ?」


何やら、さっき挨拶していたうちの何人かがナマラさんを誘っている。


「いつものことだ。気にするな」


フーファさんが俺に言う。いつもなのか。ナマラさん人気だな。


「鼻水なのにね」

「鼻水なのにな」


レヴァーナさんとバダラさんが酷い。でもあの人の戦闘見た限り、かなり強いのはわかる。

なら、こういう所である以上、あこがれる人が出るのは普通なことだと思うな。

ナマラさん、人当たりもいいし。


「タロウは何やる予定なんだ?」

「まだ決めてないんですけどね。とりあえず残ってるのでやれそうなやつをと思ってます。ハクがいるので難しいのはやめておこうと思ってますけど」

「その後ろの子、よね?紹介してくれる?」


バダラさんと一緒に依頼を見ながら答える。レヴァーナさんはハクの事が気になったようだが、不快そうな感じも警戒している感じもない。良かった。

昨日のこともあって、この人達とはいやな感じになりたくなかったので助かる。

しかし、さっきからもずっとハクを睨んでるやつは何なんだ。ハクはこれっぽっちも気にしてないというか、眼中にないけど。


『ハクだ、よろしくな!』

「よろし・・へぁ!?」


レヴァーナさんが素っ頓狂な声を上げる。おかげで誘いに対応していたナマラさんがこっちを向く。

ハクをあまり気にしてなかったフーファさんとバダラさんも。


「どうした、レヴァーナ」

「この子、えっと、今の、言葉?いや、それよりもその魔術。なんでこんな高位魔術を気軽に使えるの?」

『簡単だぞ?』

「私魔術師としての自信なくなりそう。泣きそう」

「頑張れレヴァーナ。世の中理不尽なものだ。才能の差ってやつだな」

「そうだ、たとえ子供より劣っていても俺たちはお前の仲間だぜ!」

「あんたたち慰めるのか追い打ち駆けるのかどっちかにしなさいよ!!」

『あはは、楽しそうな奴らだな!』


レヴァーナさんの反応を面白おかしく揶揄うフーファさんとバダラさん。

まあ、この人たちに関しては俺もハクと同意見だ。でもこの人達結構レベル高いんだよな。


「この子は、なんて言う種族なんだ? 見たところ鱗族とも違うようだが・・・」


ナマラさんがハクの羽を見ながら顎に手を当てる。鱗族っているのか。鱗尾族とはまた違うのかな?

そういえば種族の名前どれだけあるのかな?


「竜人族って言います。はるか西方で竜と暮らしてきた一族で、竜の言葉でしゃべるそうです」

「へえ!そんな国があるのか!」


無いです、すみませんでっち上げです。


「よろしくな、嬢ちゃん」

『よろしく・・・?』


ナマラさんが差し出した手をハクは不思議そうに眺めている。


「ハクどうしたの?」

『この手はどうすればいいんだ?』

「ああ、同じ方の手で握り返してあげればいいよ」

『わかった』


どうやら握手が分からなかった模様。ハクはナマラさんと握手をすると、ナマラさんは離した手をまじまじと見ていた。

ハク、もしかして力入れすぎてないよね?


「おい、なんなんだお前ら」

「そうだ、亜人がナマラさんに何の用なんだ」


さっきから睨んでや連中がこっちに絡んできた。ここで来るか


「お前ら、やめろ」

「ここでふざけた真似はするなよ?」


ナマラさんとフーファさんの顔つきが変わる。人相がもともと怖いのだがもっと怖くなった。

それを見た男たちは怯み、でもなぁなんて言いながらそれでも引かない。

シガルが少しビビっている。ちょっと可愛い。流石のシガルもあれは怖いのか。

ハクは首をひねって現状を把握しかねている。


『昨日イナイも言ってたけど、亜人ってなんだ?』

「えーと、俺達みたいな人族以外の人を、亜人って呼んでるらしい」

『ふーん』


あんまり興味なさそう。ハクは男たちに向き直る。


『で、お前は私が亜人だと何か問題があるのか?』

「な、なに?」

『私が亜人であることに、何か問題はあるのか?と聞いている』


ハクは絡んできた男に堂々とした態度で問う。落ち着いてるなぁ。


「亜人がえらそうに!お前たちが何をしたのか忘れたわけじゃないだろう!」

「お前たちのせいで何人死んだと思ってんだ!」

『しらない。私はお前たちのことなど何も知らないし、何もした覚えはない。人族を害した覚えもないぞ』


そう、か。この国でも亜人を忌諱する思考の人間はいるのか。

あの戦争自体は話に聞いている。

でもその戦争が亜人を嫌う切っ掛けかといえば、俺は違う気がする。

そもそも本来は奴隷解放での戦争だ。先にやったのは『人族』のほうが先だと思う。

やりすぎた感はあったのかもしれない。けど押さえつけられた種族の反乱を悪しざまに思うのはどうなんだろう。それならば亜人を排し、奴隷にし、好き勝手やっていた自分たちのことはどう思っているんだろう。

でもこの人がその戦争の当事者で、ただただ被害者ならばその限りではないのかもしれないが。


「あ、亜人は亜人であるだけで悪なんだ!亜人というだけ汚らわしい!」

「お前ら亜人は生きてるだけで罪だ!」

「おい、お前ら!ちょっと黙れ!」


ちょっとカチンときたが、ナマラさんが怒鳴って止めさせたので、何も言わないでおいた。

だが、それでもハクが口を開く。


『話にならない。『私』を見て、『私』と会話をする気がないならどこかに消えろ。私は『亜人』じゃない。私は私だ』


ハクが、すさまじい威圧を放って男たちを見る。が、男たちは気が付かない。

今のハクは可愛い女の子の姿なせいか、その力を感じ取れなければただの虚勢に見えるのだろう。

むろん、ナマラさんたちは気が付いている。ここにいる何人かもハクが普通じゃないと感じたようだ。


「この、亜人のガキがえらそうに・・!」

「お前らと会話?ふざけるな、出来るわけねえだろ!お前らみたいな化け物!」

「魔物もどきが!人間のふりしてんじゃねえ!!」


お前らこそふざけるな。ハクはちゃんと会話をしようとしたんだぞ。その言葉はさすがに看過できない。

俺が口を開こうとしたら、俺より先にシガルが口を開いた。


「じゃああなた達は何なのですか?」

「は?」

「何もしていない、何も分かっていない、誰かに迷惑をかけたわけでもない、ただの女の子相手に罵倒を繰り返すあなた方は、『人間』なのですか?」

「何を」

「この子は亜人の戦争には参加していません。あなた方を害することもしていません。あなた方に侮蔑の目を向けてもいません。対してあなた方は何ですか?

いきなり罵倒してきた相手にも、ちゃんと正面から『話』をしようとした女の子を、まともに見ることすらできないあなた方は一体何だというのですか?

物事をきちんと理解せず、ただただ誰かに植え付けられた印象だけでものを言い、人を傷つける言葉を何も考えず放つ。あなた方こそ、『人間』としての誇りはないのですか?」


あ、この子すごい怒ってる。やべえ、俺よりめっちゃ怒ってる。

顔が明らかに、これ以上言ったら殴って黙らすぞって顔になってる。

ハクもシガルの剣幕にパチクリしてる。


「私の友達を、ハクを侮辱するような真似をして、ふざけるな?あなた方こそふざけないでください・・・!」


シガルがすごい怒ってるせいで俺の怒りが引っ込んだ。おかげで冷静になった。

なので、思ったことを一つ静かに問う。


「あなた方はナマラさんと俺達が親しげなのが気に食わないのですか?ハクがここにいることですか?」


たぶん前者だ。そして亜人という事で、余計に突っかかってきたんだろう。

んで、売り言葉に買い言葉みたいな会話しかできないんだろうな。

図星をつかれたのが悔しいのか、俺を睨んでくる。


「お前ら、言っとくけど、こいつ俺より強いからな?下手なことして返り討ちにあっても俺は知らんぞ?」


このタイミングでナマラさんはさらなる爆弾投下。

組合全体が異常にざわつく。ああやっぱナマラさんここではかなり強い人だったか。

とはいっても、多分そんな事言っても信じないと思いますぜ。

だって誰が俺とこの人見比べて、俺の方が強いと思うよ。


「お前、ここでいうか」

「いや、ここでだろ」

「まあ、そうねぇ、後々絡まれるより、ここで後腐れ無いようにしたほうがいいのかも」


フーファさんが呆れるが、レヴァーナさんは肯定している。つまりここで誰も文句が言えないようにしておけばいいって話だろう。

あんまり力ずくは好きじゃないんだけどな。でもこの場合しょうがないか。相手が話を聞く気がないし。

こうやって会話ができず、どんどん溝が深まっていくのかな?もうちょっと何とかならんもんだろうか。

けど今回はさっきのナマラさんの発言の意図を理解したシガルがもうやる気満々になっている。


「私たちが実力がないと思うなら相手になりますよ。私がね」

「おい、さすがにガキが調子乗ってんじゃねえぞ」

「そうやって吠えるだけですか?そんなだから彼らに相手にされないんですよ。いつまでも憧れを憧れのまま眺めてる。そんな人間が私に勝てると思わないでください」

「このっ!!」

「止めんか!!!」


男がシガルに食って掛かろうとしたとき、大きな声で止めが入る。

見るとヤカナさんが立っていた。


「ナマラ!お前が居ながら何をやっている!」

「いやー、これはもう止めよう無いなって。途中までは頑張ったんだぜ?」

「それを止めるのもお前の立場だろう!」

「ヤダよめんどい。もう止める必要がないのに何で止めなきゃいかんの」


ヤカナさんは頭を押さえて渋い顔をする。なんで俺見てるの?


「お前ら、組合所内で揉め事は許さん。もし納得がいかないというならば裏手の訓練所でやれ。ただし、俺とナマラも見てるからな」

「な、結局そうなるだろ?」

「うるさい!」


ナマラさんとヤカナさんがギャーギャー言いながら出ていく。


「後悔するなよ、クソガキ」

「子供相手だから手加減した等の言い訳を用意しておくといいですよ」


そう言い合って出て聞くシガルと男たち。

そしてついていけてない俺とハク。


「・・・・とりあえず、ついていくか」

『シガルは何をあんなに怒っているんだ?』


この子シガルの怒りの理由もわかってなかったよ。


「ハクがバカにされたからだよ」

『そう、なのか?』

「そうなんだ」

『そうか』


返事はそっけない感じだが、どこか嬉しそうだ。

鳴き声もキュルーと可愛い。

しっかし、シガル。喧嘩っ早いな・・・。

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