第83話師匠がいないときの訓練風景です!

今日は寝れた。一晩で慣れたという事ではなく、単に寝てないせいで眠気に勝てなかった。

起きたら二人に抱かれてて焦った。何を焦ったって?朝は男の子なんです。

まあ、いいや、とりあえず寝れたから。

ハクは寝るときは竜に戻っていた。流石に意識がないときはあの魔術を上手く維持できないらしい。やろうと思えば出来ない事もないらしいが。


「ふあ~」


あくびをして起き上がると、シガルが起きた。


「おはようお兄ちゃん・・・・」


そういいつつ腰に抱き着いてもう一度寝ようとする。

そこは色々とヤバいので止めて下さい。


「ん~、まだ眠い・・・」


イナイは珍しく起きない。いつもならおきろー!と一番に言う人なんだけどな。

寝顔を眺めながら二人の頭を撫でる。


「えへへ~・・」

「ふみゅ・・」


シガルはとてもうれしそうに擦りついて、イナイは気持ちよさそうに寝に入ろうとする。

あれ、これシガルちゃんと起きてね?


「シガル、起きてるよね?」

「・・・寝てるー」


起きてるね、うん。


「ま、いいか」


俺はしばらく二人の頭を撫でてから、着替えて外に出る。

昨日は鍛錬してないので、今日はやっときたい。

実際のところ2日か3日に一回程度でいいと言われているのだが、ほぼ毎日に近い量やってたので、やらない日が2日続くと落ち着かない。

でもこういうのってやりすぎるとほんとは良くないんだよねー。

しってるしってる。


街を出て、近くの草原で軽く柔軟をしていると、シガルがやって来た。


「あれ、寝てていいのに」

「お兄ちゃんと一緒にいたいの」


うぐ、なんという右ストレート。

グッとくるじゃないっすか。


「っても、地味な鍛錬しかしないよ?」

「うん、ついてく。頑張る」


まあ、この子はなんだかんだ基礎しっかりやってるみたいだから大丈夫だろう。

ぶっちゃけシガルはあのバカ王子より強い。

もちろんあの剣無しという前提だが。

あの剣ずるいよなー。もっとずるいもの持ってるけど。


「そっか、じゃ一緒にやろう」

「うん!」







「は~、は~、んっく」

「んー、シガル、大丈夫?」

「だ、だい、じょう、ぶ」

「うん、無理にしゃべらなくて、首振るだけでいいから」


最初シガルに合わせてやっていたら、シガルが俺のペースでやってほしいと言ったので、俺のペースでやっていたら、シガルは途中で明らかにばて始めた。

それを見てペースを落としたら怒られた。

なので最後まで自分のペースでやったら、この惨状である。

頑張るのはいいけど、無理は良くないと思うな。

いやまあ、俺もミルカさんの訓練が激しくなってきた辺りはこんな感じだったけど。


「本当はシガルが来たなら、シガルと組み手も考えてたんだけど、ちょっと休憩してようか」

「っ!?で、でき、るよ!!」

「だーめ」


ツンと頭を押しつつ足を刈る。ただそれだけでシガルはアッサリ体勢を崩す。

俺はそのシガルをひょいと担ぎ上げ、日陰に座らせる。


「ほら、こんなにあっさりだ。ちょっと休んどくように」


シガルは眉を寄せていたが、こくんと頷き呼吸を整えることを優先した。


「よし、んじゃま、こっちはこっちで練習しますかね」


次は魔術の訓練だ。

とはいっても何か魔術を放つわけじゃなく、魔力使用を少なく抑えて世界に通し、その少ない魔力で世界の力を最大限に引き出し、制御する。

その上限をちょっとずつ、ちょっとずつ広げる。


魔術にする前の、力そのものを制御するところまでの動作を、繰り返す。

魔力の消費は出来る限り少なく、そしてその少ない魔力を世界に広く広く通す。

布に糸を絡ませるように、ゆっくりとゆっくりと出来る限り多くの力をその魔力で引き出す。

その限界を少しでも上げていく。

それが可能になれば、次はその限界量を少しでも早く制御する訓練に変える。

細く。そして早く。






「ふう、疲れた」


とりあえず今日も少しだけ制御量は増えた。

地味だがこの作業を繰り返して一度に使える力を増やして、瞬時に使える力も増やす。

結果魔力総量のあまり多くない俺でもそこそこの魔術が使いこなせるようになっていく。

セルエスさんの制御にはまだ遠いなー。


さて、今日は転移も頑張ってみましょうかね。

自分が転移しようとすると出来ないのは、恐怖心もあるせいじゃないかなと思ってる今日この頃。

だって、転移の仕組み全然わかんなくね?

いや、もちろん腕輪でやってるし、イナイに転移されたりとかしてるけどさ。

なんか、制御失敗したらどうなるの?っていうね。

魔術は基本的には世界の力を通して使うものなので、その範囲内であればその力を制御しきれば問題は起こらないはずなんだけど、それでも怖いもんは怖い。


なので、ちょっと、実験。

いつも自分の体でやろうとするから怖いんだ。

俺は小石を持って、その小石を見える範囲に転移させてみようとする。


『空間を繋げ、ここではない、他所へ飛べ』


久々に日本語詠唱。最近攻撃系の魔術使ってないから詠唱するのは久々だ。

あー、攻撃系も練習しとかないと、次セルエスさんに会った時怒られそうだ。やっとこ。

そんな雑念を持ちつつも制御はしっかりやる。

手元の小石が消え、見える範囲のちょっと向こうに移動する。


「ありゃ、アッサリ出来た」


ふむ、これはやっぱり自分の体でやるのが怖かったせいっていう考えは、間違いないのかも。

俺はまた数回小石を転移させる。

何度も何度も繰り返して、転移魔術の制御の流れを、絶対にミスしないように覚えていく。


「さって、んじゃま、次は自分で、かね」


気持ちを落ち着けて詠唱をして、見える範囲内で移動しようとする。

すると今までどうやっても出来なかったのが嘘のようにアッサリ出来た。


「・・・イナイが言ってた理由はこういう事か」


使えるようになったから分かるけど、転移そのものの制御はそこまで難しくないみたいだ。

もちろんはるか彼方への転移となると別だが、近距離ならそこまで問題はない。

というか、翻訳魔術のほうがよっぽど制御が難しい。あっちも一応使えるから、イナイは不思議そうだったんだな。

恐怖心が取り払われたわけじゃないけど、少しマシになったような気がする。

まだ怖いけど、おいおい頑張って長距離もやっていこう。

自分で制御できるようになってわかったけど、転移先に何らかの障害物がある場合、それを避けるように調整もちゃんとできるし。


「あと出来ない事ってなんだろ」


あ、竜の魔術か。

とりあえず竜の魔術の制御をやってみる。

うん、やっぱ世界から引き出した魔力の制御はできるな。

でもそっから魔術にしようとすると・・・・うん、形にならない。なぜだ。

うーん?


「お兄ちゃん、ちがうよ」

「あ、シガル、もう大丈夫なのか?」

「うん。お兄ちゃん今竜の魔術やろうとしてたでしょ?」

「うん、なんかどうしても魔術にならないんだよね」

「お兄ちゃん、周囲の魔力に混ぜ込むようにやって見て」


周囲に混ぜ込むように?

言われた通り、制御した魔力をこの世界に元々ある魔力に混ぜこむようにやってみる。

するとさっきまでどうやっても維持できなかった魔力が安定し始めた。


「なるほど、それで絡み合う魔力の色が3つあったのか」

「たぶん。でも使うと違う感じになるからやってみないとわからないんだと思う」


それを自力で気が付いたのか。

やっぱすげえなこの子。


「たぶんだけど、それがこの魔術の性質。世界の力と、世界そのものに有る魔力に溶け合って違うものになることで、私たちの魔術とは違う結果も引き出せる。

だから魔術の結果そのものを長期間設置することも出来るんだと思う。あの転移の石碑を見てそう思ったんだ」

「すごいなシガルは。全然そんなこと分かんなかった」

「えへへ、役にたった?」

「ものすごいたった」


シガルの頭を撫でるとすごく嬉しそうにするが、何かを思いついたような顔をした、


「じゃあ、ご褒美!」

「ご褒美?」

「うん。だめ?」

「俺にできることならいいけど」


いいこと教えてもらったしね。


「じゃあ、キスして」

「はぁ!?」

「出来ることならいいって言ったよ?」

「言ったね・・・」


いや、出来る出来ないでは出来ることだけどさ。イナイとも数えるぐらいしかしてないんですけど。

この子にするのか。ハードル高くね?何つーか、絵的にちょっとまずい感じがする。


「・・・・だめ、かな」


すごく悲しそうな顔になるシガル。ずるいと思います。

その顔見てダメって言えるやつが何人いるんだろう。

俺はシガルの頬に手を添えて唇に自分の唇をチョンとつける。


「ん」


シガルは目をつぶらずガン見している。いや俺も目を開けてたけど。

イナイは目つぶるんだよなー。真っ赤になって。


「えへへへへへ」


シガルはすごく嬉しそうに頬に手を添えてにやける。

この子は本当に不思議なぐらい俺のこと好きだな。未だに俺のどこがいいのかさっぱりわからんのだけど。

この子はいい子で、芯の部分がとても強い『いい女』だし、魅力的で素敵な子だ。

イナイなんて、それこそ『何でもできる女』だ。かっこいい女性だ。

この二人が俺を好きなことに未だに自信が持てないんだよな。

二人に少しでも釣り合う人間になれればいいかな・・・。


「さて、シガル、少し組手して、朝ご飯食べに戻ろうか」

「うん!」


その後の組手は剣と無手両方やったが、強化無しでやるとシガルは、一般人よりはるかに強いが、ナマラさんたちのような鍛えられた人たちには間違いなく届かないなと思った。

技の切れもそうだが、何より体格と筋力が足りない。

ミルカさんや、イナイのような突き抜けた技量があれば別だが、さすがにその領域をこの子に求めるのは酷だろう。

というか、ミルカさんの領域は俺にも普通に無理だし。

あのひと素手の無強化で、刃物の刃面を正面から触れてずらすとか意味の分からないレベルだしね。


一通りやって軽く汗を拭いたら宿に戻って朝ご飯を食べた。

イナイとハクはまだ起きてこない。

ハクは今日は起こしてと言っていたのでご飯を食べたら起こして連れていく予定だ。

今日はいつもの訓練以上に新しいことやったので朝からちょっと疲れたな。

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