第82話今後の方針を決めます!
「さて、説明してくれるよね?」
俺は着替え終わったイナイに対して笑顔で言う。
もちろん内心は心配したんだぞという思いでいっぱいだが。
「自己鍛錬」
『そうだぞ、鍛錬だぞ!』
イナイは迷いなくまっすぐこっちを見て答える。
「お姉ちゃん、ほんとに?」
「自己鍛錬だぞ、本当に。嘘はついてない」
「それにしたって・・・」
俺とシガルは二人で帰ってきたときにイナイが着ていた服を見る。
ボロボロという形容詞しか当てはまらないぐらいにボロボロな上に、血まみれだ。
相当のことをやってきたのが伺える。
「どこ行ってたの?」
「山」
『老の所にいたんだ!』
俺の質問にさっきから短く『答え』しか言わないイナイ。そしてそれに追従するハク。
なんか様子おかしくない?
「・・・イナイ、何隠してるの?」
「本当に自己鍛錬だよ。魔術の鍛えなおし。老竜に手伝ってもらってな」
『そうだ、イナイは頑張ってたんだ!』
うーん、自己鍛錬なのはほんとっぽいんだけど、全部じゃない感じがするんだよなぁ。
あとハクがあまりにもわかりやすい反応だ。
でも問い詰めても答えなさそうな気がしてきた。
「・・はぁ、もういいよ。心配するようなことはないんだね?」
「ああ、特に何か問題があったわけじゃない。それも自分のミスでそうなっただけだ」
『老が治したんだ!』
老竜に治してもらったのか。きっと竜の魔術でだろうな。
うーん、使ってみたいんだけどな。実はハクとの戦いの後もこっそり練習したんだけど、力そのものの制御は出来るけど、制御しかできないんだよな。
魔術が発動しない。シガルみたいに使ってみようとしたけど空気が抜けたかのように魔力が抜けていく。
魔力制御はできるから出来るはずなんだけどなぁ。
「心配かけたのはすまん。久々に熱中しすぎた」
「お姉ちゃん、流石に血まみれの服は驚くよ」
うん、血まみれは流石にないよね。
「・・・すまん」
流石にちょっとまずいと思ったのか少し落ち込み始めた。
なんで俺の言葉は真っ向から謝れて、シガルの言葉は落ち込むのでしょう。
俺が落ち込んじゃうぞ。
「いいよ、お姉ちゃん。そんなに謝らなくて」
「・・・ありがとう、シガル」
まあ、いいや、気分を切り替えて、今後の話でもしよう。
「しばらくここを拠点にするのか」
「そんなに長居するつもりはないけど、少し観光がてらにお仕事もと」
イナイにここで起きた事を話した後、しばらくここで過ごしたいという話をした。
「私もやるよ!」
『私もついてくぞ!』
・・・ハクはどうしよう。いやマジで。
「ハク連れてったら問題が起こりそうな気がする」
『なんで?』
「竜が町中に現れたら人間は怖いものなんだよ?」
俺の懸念にハクが疑問を投げかけ、シガルが答える。
『じゃあ、竜の姿じゃなかったらいいの?』
「は?」
「え?」
俺とシガルの戸惑いに構わず、ハクは魔術を使い始める。
歌うような鳴き声を上げながら魔力を流す。
キューキューと可愛い鳴き声だ。
そうか、鳴き声が詠唱になってたのか。
だんだんとハクが体の周りに纏っていた魔力が形を成していく。
ハクが静かになった時にはそこには一人の女の子が立っていた。
でも羽と尻尾と頬から下に鱗がある。
手の内側やお腹にはない様だ。
顔は頬から下の部分に鱗がある以外は普通の女の子だなぁ。割と美人さんだ。
『これでいい?』
「いいかっていうか、なんていうかえっと」
「とりあえずお前は向こう向いてろ」
「お兄ちゃんなんで凝視してるの」
人型になったハクを見ていると、シガルとイナイに首をグギっと回された。痛い。
その理由は、ハクがまっぱだったからだろうけど。
「あたしたちよりでかいな」
「うん、お姉ちゃん、ハクが着れそうな服ある?あたしのじゃ無理そう」
「えーと、この辺でどうだ」
「あ、うん、それならいけそうかも」
『もうちょっと小さいほうがいい?』
「変えられるのか?」
『変えられるけど、意識しないで保てるのはこの大きさかな』
「ならそれでいっとけ。無意識に大きさ変わってたらまずいだろ」
『わかった』
「ハク、その状態どれぐらい持つの?」
『全力戦闘しなければずっといけるよ?』
「結構な魔力量に感じんだけどな・・さすがは竜か」
そんな会話をしながらハクが着れそうな服を選んでいく。
たぶんだけどね。
さっきからそっち見れてないからね。
「いいぞ、タロウ」
「あ、はい」
ちょっと痛い首をさすりながら振り向くと、羽が出せるように背中がバックリ空いた上着と、ボタンと紐でサイズ調整され、尻尾も出せるようになってるスカートをはいた女の子がいた。フラメンコ踊りそう。
『これでどっからどうみても人族だね!』
「人族っていうか・・・なに族だこれ」
「竜人、族?」
見たままのイメージで言ってみた。
「聞いたことねーな、そんな種族」
居ないのか、居そうなのに。
『え、
「素人族?」
『うん。あれ、いま違うの?老からはそう聞いてるんだけど』
「・・・なるほど、昔はあたしたちも、あいつらも、みんな『人族』だったわけか」
『あいつら』はたぶん今は亜人と呼ばれる人たちだろう。
あの人たちも、俺達も、昔はみんな人と呼ばれていた時代があったようだ。
そしてその中で、俺たちのような者たちを素人族って呼んだのかね?
なんとなく言葉の感じから、何も持っていない種族って感じがする。
「これはこれで騒ぎになりそうな気もするが・・まあ竜よりはましだろ。
しっかしタロウじゃねーけど、竜人族ってのがしっくりくる姿だな」
「もう、そういう種族でいいんじゃない?遠くのほうで竜とともに暮らしてる種族とかいって」
俺はものすごく適当なことを言っているのは自覚しているが、細かい設定を考えてもきっとハクは忘れると思うんだ。
『それでいいや!』
「いいのかよ」
「いいみたいだね」
ハクがその提案に乗り気の模様。なお二人には呆れられた模様。
「・・・身分証居るな。ちょっとハク連れて王都いって来る」
「え、今から?」
「ちゃんと国境は通るよ。ハクは・・・ちょっと街の外に転移させておこう」
「でも今からじゃなくてもいいんじゃない?」
「明日こいつ連れてくんだろ?それだとたぶん組合で組合証作るんだろうけど、その場合こいつ作ってもらえない可能性があるぞ」
作ってもらえない?なんで?
「この街にあたしたち以外の種族見かけたか?」
「・・・見かけてない、かな」
町中を歩いてた時にも人族以外はみかけてない。
「てことは、亜人はここが住みにくい土地な可能性がある。ならあたし所縁の人間だって証明がないと、面倒かもしれねえ」
住みにくいと言葉を濁したが、つまり亜人排斥の風潮がこの街にもあるという事だろう。
竜と住む国なのに、な。
「そんな顔すんなよ。ちょっと行ったらあいつらの国があるんだ。そこに行っただけかもしれねえんだからよ」
「そう、だね」
そうだといいな。
「じゃあ行ってくる、ハク街の外に飛ばすからちょっと待っててくれよ」
『わかった!』
イナイはハクを街の外に転移させて、イナイも出ていく。
「慌ただしいねぇ」
「たぶん、お兄ちゃんのせいだと思うなぁ」
「・・ソウデスネ」
俺がしたいことを出来るようにするためにイナイは動いてくれている。
本当に俺にはもったいないな、あのひと。
「そういえば、イナイご飯食べたのかな」
「あ、ほんとだ」
「・・俺達も何も食べてないね」
「うん、おなかすいたね」
「下にって何か食べれるか聞いてみよう」
「うん!」
シガルと連れ立って下に降りると、来た時にいた子が掃除をしていた。
「お出かけですか?」
「いえ、ここって食事とかはどうしてるんでしょう」
「えっと、決まった時間に、朝だけ軽い食事をお出ししているんですが・・・」
ああー、なるほど、朝だけなのかここ。
「すぐそこにこの辺では人気の食事処がありますので、そこにいかれてはどうでしょう」
「そうですか、いってみます。ありがとうございます」
「いえ、お気をつけて」
にっこりと笑った後、深々とお辞儀をして見送ってくれる。
可愛い。
「お兄ちゃん?」
「ハイ、イキマショウ」
シガルが不満そうに服を引っ張る。
段々こういうのに反応が鋭くなってきてる気がする。怖い。
可愛いなって思っただけなんだけどなぁ。
すぐそこと言われた食事処は本当にすぐそこだった。
濃い目の味付けの料理が多く、肉料理が多かった。
山の獣はちょくちょく街に出てきてそれを狩るというのが習慣で、肉は良く手に入るそうだ。
あのゴリラもこうやって出てくるのかな?
ちょっと店員さんに聞いてみると普通に食用っていうか、今日のメニューにもあったので頼んでみると、癖もなく、かなりうまかった。
雑食のくせに、やるな。いや、調理が上手いだけかも。
おなかが膨れて部屋に帰っても、まだイナイは戻っていなかった。当たり前か。
結局イナイが戻ってきたのは深夜だったが、その速さで戻ってこれるのが驚きだ。
転移を使いまくったんだろうなー。
やっぱ先に転移覚えたい。
イナイにはなんで出来ないんだ。お前の力量ならできるはずなだけどな?って言われたけど、出来ないんだもん。
ちょっと自己鍛錬に転移の訓練も含もう。ハクとの戦いで使えたほうがいいのは思い知ったし。
ちなみにイナイとハクの二人にはちゃんとお土産を包んでもらった。
流石に俺達だけ食って、二人に何もないとか、ひどいと思うからね。
ハクはもっと食いたいと言っていたが、イナイは多いと言ってハクにあげてた。
イナイはあれだけ服がボロボロになる訓練した上に、今帰ってきたので、明日はゆっくり起きたいとのことだ。
なので、明日も組合に行ってみよう。ハク連れて登録したら今度はちゃんと階級低いのをやってみようかな。
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