第77話依頼完了です!

「はあ、疲れたー」

「重かったー」


荷車を引いていたナマラさんとバダラさんが腰を落としてぼやく。


「お疲れー、男衆」

「お疲れ様です!」

「嬢ちゃんはいいとして、お前結局一回もまともに運ばなかったな」


組合所の横に大型の物を置きに来る場所があるので、そこまでみんなで交代しながら荷車を押して、あのゴリラの死体を持ってきた。

その間、レヴァーナさんは断固として運ばなかった。

後ろから押すからと言ってフーファさんが引く際に、気が付いたら荷台に乗っていたり、ナマラさんが引く横で引く素振りをしたりと、どうにかして肉体労働を避けていた。

ちなみにシガルはやるといったのだが、絵的に勘弁してほしいと言われた。

あの子はその辺の空気は俺よりも読める子なので、素直に引いた。


「ホラ、アタシか弱い乙女だから」

「最低10年前に戻ってから言え。いや20か?」

「そんなに年取ってないわよ!!」


大量のゴリラの死体を運び終え、ギャーギャーと騒がしい団体を周囲の人たちは何事かと眺めている。

ちょっと恥ずかしい。


「俺はヤカナを呼んでくるから、待っててくれ」

「わかった」


ヤカナ?誰だろう。


「ここの組合の支部長だよ。付き合いの古い友人なんだよ。ただ俺たちと違って、あいつら二人ともこの街では有名人なんだぜ?」

「有名・・・ああ、まあ有名か」

「くすくす、確かに有名ねぇ」


俺の疑問顔にバダラさんが教えてくれる。

有名人なのか。でもなんか3人の反応的に、良い意味じゃない予感がするのは俺だけかしら。

しばらくすると、ナマラさんに負けず劣らずないかついおっちゃんがナマラさんと一緒に現れた。彼がそうなのかな?


「おお、今回は大量だな。金額はいつも通り・・・あれ、なんか一匹えらくでかくねえか?」

「おう、なんかそいつだけやたらデカかったんだよ。他にはいなかったからその個体が異常に成長しただけじゃないかな?」

「このでかさだってのに両腕と首を切断以外傷は無しか、切り口からするとお前の斧じゃないな。誰だ?」

「そいつ」


ナマラさんは俺に斧を向ける。

危ないと思います。


「からかってんのか?」

「これが本当なんだなぁ。たぶん俺より強いぞ」

「・・・嘘だろ?」

「やって見せてもいいけど?タロウが許可するならだけどな」


え、何この流れ怖い。

フーファさんと一回もうやったでしょ?テンプレはいらないのよ?

・・・全く関係ないけど天ぷらが食べたくなってきた。


「まあ、いいか。この少年、最近登録したばかりの子だろ」

「おう、こないだしたばっかりのはずだぞ。俺そのとき居たし」

「やっぱり、あの制度やるように話通したいな」

「そうだな、そのほうがいいかもな。タロウみたいに見た目じゃ実力が分からない人間もいるみたいだからな」


ふむん?とりあえずナマラさんとやるのは避けられたか。

この人本気で斧振ってきそうな予感がするから、できるならやりたくなかったので良かった。

しかしなにか新しい制度付けたいらしいが、どんなのだろ。


「一応今、本格的に案が通りそうなんだよ。他の支部も似たようなことはあるからな。とはいえここまでじゃないが」

「通った時の人員とかも考えてんのかい?」

「お前」

「は?」

「お前というか、お前ら手伝え。どうせここ出ていかねえんだろ?」

「・・・俺とフーファは別にいいが、バダラとレヴァーナはわかんねえぞ」


何やらその話で盛り上がりそうなんだけど、俺とシガルは完全に蚊帳の外なので、何言ってるのかわからん。

地元民の協力がいる何かをやろうって話かね?


「おい、とりあえず依頼処理してやってくれ。その話はこいつらには関係ないだろ」


話が長引きそうと思ったのか、フーファさんが手続きを促す。


「あ、すまない・・・えーと、この場合どうすればいい?本人たちでどうにかできたってことだろ?」

「依頼料は全部この二人でいいよ。ダラウアは、でかいのとこの首綺麗に切られてるのはこの二人の分ってことにしてくれ」

「わかった。それで処理する」

「え?」


俺は思わず疑問の声を上げた。

いや、だって、そうするとこの人たちただの無料奉仕じゃないっすか。


「約束と違うんじゃ」

「きにすんな。お前たちがお前たちだけでどうにかできたことに、俺たちはおせっかいを焼いた。それだけの話だ。だから今夜の飲み代はもらってくってだけだよ」

「たく、明日はちゃんと稼ぐぞ」


ナマラさんは本当に人がいいんだろうな。それで損してそう。フーファさんは文句を言いつつもそれに反対する気はない様だ。

この人もいい人だよな。


「とはいっても、誰もやらなそうなものを消化する予定だけどな」

「ヤカナに借しを作る意味と、住人と円滑にやっていくためにもね」


そういって伸びをするバダラさんと、俺にウインクするレヴァーナさん。


「住民と円滑に?」

「ええ、階級が低い依頼見たでしょ?ああいうのってやりたがらない人が多いのよね。特に元気な若い子は。

私たちみたいに、組合の仕事はやってるけど、ずっとその土地に腰据えて生きてる人間は、ああいう残り物の誰も受けないものを受けて、うまく住人とやっていくものなのよ。

組合的にも依頼がいつまでも残るのは困るの。それに危ない仕事ばっかりじゃ疲れちゃうしね」


若い子って、俺みたいなやつのことですね。

まあ、そうだよな。依頼を出すのは基本的に住人だろう。それがずっとなされなきゃ、組合に不満も出るか。

ああいうのを低い階級の人間がやるのも大事なんだな。

俺がそう思ってちょっと反省していると、レヴァーナさんは頭を撫でてきた。


「いいこいいこ。今言ったことがどういうことかわかるなら、あなたも上手くやれるわよ」

「子供扱いはやめてやれよ」

「あはは、ごめんなさいね?」


フーファさんは咎めるが、美人のお姉さんに微笑みかけられるのは不快ではないです。

なんて思っていると、シガルが笑顔でこっち見てた。でも顔とまとってる雰囲気があってない。

何よりそのまま何も言わないのがとても怖い。


「そ、そういえばお二人が有名って聞いたんですけど、そうなんですか?」


雰囲気をごまかそうとナマラ達さんに聞いてみる。


「・・・・・・・・ああ」


だいぶためてからヤカナさんが返事をする。すごい言いたくなさそうだ。失敗したかもしれん。


「あっはっは!そうさ、何を隠そう俺たちはこの街で知らないやつはそうそういない有名人なんだ!」


対照的にナマラさんは快活に笑う。


「こいつらはな、竜の所に戦いに行った二人なんだよ」


フーファさんが有名の理由を教えてくれて納得。

なるほど、竜に挑みに行く人は有名になるのか。

挑みに来た人最近ほとんどいないって老竜もいってたもんなー。


「竜の試練を受けいに行ったって事で有名なんですね」

「ちがうちがう」


レヴァーナさんがくっくっくっと、笑いながら否定する。

え、ちがうの?


「こいつらはな、若いころ竜と戦ってくると街中に喧伝して山登って、涙と鼻水で汚い顔して逃げるように下山してきた二人って有名なんだよ」


バダラさんが笑いをこられられない感じで語る。

これは、なんか、こう、うん。

ドンマイ、ヤカナさん。


「若気の至りだ。街のじじばばどもは何時までもあの時のことを語りやがる」

「ガキどもにも知られてるけどな」


ヤカナさんは心底嫌そうだが、ナマラさんは楽しそうだ。

この人かなり器でかいんじゃなかろうか。


「とりあえず処理してしまおう。二人とも中に入ってくれ」

「はい」

「はーい」





その後依頼の処理はパパッと終わり、依頼料が手渡される。

わかってたけど、やっぱり銀貨と銅貨なんだな。

ウムル国内では紙幣を金銭の代わりとして使用する文化があったけど、ウムル外では銀貨や金貨でやるのが普通みたいだ。

イナイが国外に出る前に紙幣を他国で使える貨幣に変えていたとき、硬貨しかなかったからそんな気はしていた。


今更だけど、こんなところで別世界だなぁって実感してしまうぐらいに、ウムルでの生活はネットがないぐらいしか俺には違和感のない生活だったんだと思った。

テレビこそないが、ほとんどの電化製品の代わりになる道具が当たり前にあるもんな、あの国。

いつかラジオとか提案したらどうなるのかね?


初めての依頼を完了し、組合証にその達成率と達成した階級なんかも書かれていた。

なるほど、これはわかりやすい目安だ。

でもそれよりも気になることが一つ。

なんで階級が7になってんすかね?

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