第78話知らないところで危険視されていますか?

「や、もどったよー」


組合の受付の女の子に声をかける。


「あ、お帰りなさいナマラさん。早かったですね」

「あー、あの兄ちゃんたち、実力者だったわ。俺達いらなかった」

「え、ほんとですか?」

「ホントホント」


えー、とわかりやすく驚く。

まあ、気持ちはわかる。俺もそんな強いとは思ってなかった。


「ヤカナは奥かな」

「はい、御用ですか?」

「うん、ダメそう?」

「いえ、何やら難しい顔をされていましたので、ナマラさんが行ってあげたほうがよろしいかもしれません」


難しい顔、ね。なんとなく想像つく。

複数の物事が起こった時期と、彼らが来た時期が合いすぎている。

俺は受付の子に手であいさつをして、ノックもせず、奥の部屋に入る。


「入るぞー」

「入ってから言うな」


いつも通りのやり取りで部屋に入る。

ヤカナは書類と手紙を机に出して眉間にしわを寄せていた。


「面倒事か?」

「ああ、そうだな」

「こないだここに登録した二人と関係あるか?」

「・・・・何があった」


当たりか。あの子たちいい子に見えるからあんまり的中しないでほしかったけどな。


「その子らと害獣討伐行ってたんだよ。いつものな」

「ああ、ダラウアか。で、どうだった」

「たぶん本気でやっても勝てないな、あれは」


あれはまだ実力を隠してる。かなりの実力者だ。

フーファは気が付いてるが、気が付いてないふりをしている。

そうしたほうがいいと、何か勘付いたんだろうな。


「・・・そうか」


そういってヤカナは押し黙る。


「あの子らどっから来たんだ?」

「本人たちに聞けばいいだろう」


この答えはわかってた。こいつも立場があるから個人情報を無意味にこいつの口からは言えないだろうし。

でも、今回はちょっと問題ありだ。


「あの子らが来た時期、山で咆哮が上がった事、その後領主館に男女3人が招かれた噂、なーんかあるとしか思えないんだけどな?」

「耳が早いな」

「まあ、それなりに?」


苦笑しながらヤカナは俺に手紙を投げつける。


「ん、なになに?」


俺はその手紙を見て呆れてしまった。


「マジ?」

「冗談であってほしいな。さすがにあそこと事を構える大馬鹿をやらかしたなど、信じたくもない」


その手紙は王都の組合長からの手紙だった。

内容は、向こうの組合長が掴んだ情報で、国の上層部がウムルのおえらいさんの一人を襲撃する計画を実行に移したという話だった。


「無関係、じゃないよな」

「あの二人の素性は知らないが、ウムルから来たという一点だけは間違いない。あの身分証が本物なら、だがな」


あー、ダメじゃん。完全に関係あるだろ。

どう考えても無関係とは思えない。

わざわざウムルの人間がこの国に登録に来る理由も無いし。


「力を見せつけに来た?」

「それにしてはおとなしい。組合の登録をすれば動向は多少知られるから、暗殺ということもないだろうが」

「そう思わせるためとかは?もう一人女の子がいたけど、その子は登録してないだろ?」

「できんよ。彼女は」


この口ぶりだと、誰なのかわかってるみたいだな。


「誰なんだ、あの子」

「・・・化け物だよ」

「は?」

「イナイ・ステル・・いや、イナイ・ウルズエス・ステルか。正真正銘本物の化け物が、襲われた本人がやってきてるんだよ」


この国終わったかもしれん。


「うっそだ、あのかわいい子があのステルだってのか」

「俺も見てないから何とも言えんが、領主に招かれた人間はそうらしいぞ。ウムルの英雄の一人。あのウッブルネと同列の女。その実力が話通りなら、この国は終わったかもしれないな」

「うーわ、言わなかったのに言っちゃうんだ」

「隠しても仕方ないだろう?事実だ。だが、そうならないように彼女をもてなして、我々はあなたを歓迎します、という風に見せようとしたみたいだな」


襲撃した事実は変わらないが、一部の馬鹿がやったことで、国はあなたを歓迎しています、てか?

無理だろ。どう考えても取り返しがつかないだろこんなん。

あの8英雄を、国王が認める技術者を襲ったんだぞ。


「もし戦争になったら、ここが一番危険だな」

「ああ、だが実際にそうなるかどうかはわからん。彼女一人が暴れるだけで終わるのに大人しいあたり、何か考えがあるのかもしれん」

「ま、俺たちはちゃんと生活ができりゃいいがな」

「そうだ。国が滅んでも俺たちは


俺達は組合職員と、組合に登録して仕事をする人間だ。

国に仕えているわけじゃない。国が滅んだだけ、ならなんとかなる。

とはいえこの街と街の住民にも愛着がある。だからできる限りは守る。


「なら、あの子らとはある程度はいい関係を築いておいたほうが得策だな」

「今来てるのか?」

「表で待っててもらってる。お前呼びに来るって言ってな。直接みたいだろ?」

「ああ、助かる」

「あいつらが国をつぶすための人員でないことを祈るよ・・・」

「別に潰れてもいいが、潰れてほしいわけじゃないからな」


竜神様、お願いします、この国そのものがなくなるのは別にいいけど、ただの住民は守ってやって下さい。

でも今回は今までと違って、竜神様でも無理かもしれない。

もしかしたらあの咆哮は、イナイ・ステルに負けたのかもしれないしな・・・。

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