第76話我儘を通します!
「あのー、なんか聞いてたのよりものすごいでかいのがいるんですけど」
「・・・いるなぁ」
俺は畑を荒らす害獣を物陰から見て、ナマラさんにあれがそうなのかを確認する。
なぜなら、話に聞いていたサイズの2~3倍はあるからだ。
小さな家屋なら片手で叩き潰せるサイズだ。
猫背で分かりにくいが、あれまっすぐ立ったら5メートル以上あるとおもう。
「初めて見るなぁ、あんなでかいのは」
「あ、やっぱあれが普通じゃないんですね」
「あれが普通のサイズだったら今頃この周辺は人が住めなくなるかもな。あれにどれだけの人間が対応できるやら。逃げるのもつらいんじゃないか?」
ああ、そうか、あれ別に草食じゃなくて、雑食みたいだから、食えるなら人も食うのか。
あー、これは共存できないわ。
害獣はすべて排除すべし、なんて思想ではないけど、生活圏が相容れない場合はやむなしと俺は思ってる。
じーさまが俺の目の前で鶏をしめた事とかもあるので、その辺気にしすぎない。
魔物を切るのに躊躇しないで済むのはその辺の意識もあるんだろうなー。今更だけど。
「どうする?あのでかさは予想外だぞ?」
大きさに面食らってたバダラさんがナマラさんに方針を仰ぐ。
「まあ、一匹ぐらいなら何とかなるんじゃないか?山の中ならひどい目に合いそうだけど」
帰ってきた返事はあっけらかんとした、無責任な言葉だった。
いや、本気で何とかなると思ってるのかもしれないか。
「きっついなー、俺はお前やフーファほど強くないんだぞ・・・」
「安心しなよ。ちゃんと手伝ってあげるから」
ぼやくバダラさんにレヴァーナさんがポンポンと肩をたたきながら笑顔で言う。
「おい、お前ら、もっと面倒なことになったぞ」
「ん、どしたフーファ」
バカでかいゴリラから目をそらさず観察していたフーファさんの目線を追うと、森からさらに数匹出てきたのが確認できた。
「えーと・・・7・・8かな?」
「9だ。数も数えられんのかお前は」
「距離あってよくわからなかったんだよ。でも他のは普通の大きさだな。あいつだけがでかいみたいだ。うーん、あれ入れて10かぁ。普通ならどうとでもなるんだけどなぁ」
「さすがにあの大きさにいつも通りはつらいわね。違うのが大きさだけとも限らないし」
ナマラさん以外は真剣に対処の仕方を考えている。
ナマラさんは、とりあえずぶった切ればいいんじゃないか?なんて言ってるので無視されていた。
ふむ、ならば俺があれの相手をしますかね。その前に一つ確認しなきゃ。
「あのー、みなさん、普通の大きさやつなら、簡単なんですか?」
「まあ、よくやってるしな。10~20ぐらいならなんてことはない。ただ平地に限る」
平地なら20でも行けるのか。なるほどなるほど。なら簡単だ。
「じゃあ、あのでかいのは引き受けます。残りをお願いします」
「本気か?」
「ええ、たぶん何とかなりますよ」
にこやかに言う俺に真剣に問うフーファさん。
その目は言ったことを疑うというより、心配している感じだった。
「・・・わかった、任せる。ただ無理はするな。他が片付いたらすぐ手伝う」
「はい、お願いします」
あとは、シガルだ。彼女は張り切るのはいいが、無理しそうだし、言っておこう。
そう思いシガルのほうを向くと。
「お兄ちゃん、あたしのことは気にしなくていいからね?無理はしないから大丈夫だよ」
なんて言われてしまった。
この子やっぱり俺よりしっかりしてる上に、気が付いたら追い抜いぬかれてそう。
「よーし、じゃあ、タロウ、あのでか物は任せた。言い出した以上策があるんだろ?」
ナマラさんが走っていく際にそんなことを言っていった。
策?とりあえず完全強化状態ならどうにかなるかなって、それしか考えてませんでした。
とりあえずナマラさんは周りに合わせて走り出したわけではなく、話がまとまったなら即行動で走り出した。
どうやらいつものことらしく、ほかのみんなも追いかけていく。
シガルも強化をして、いっしょについていった。
俺は俺でとりあえず魔術での全力身体強化をして、ゴリラの元へ走る。
悪いなゴリラ。お前に恨みはないけど、お前は人が住む領域に来ちまった。
俺が元々いた世界みたいな、山を削って開発したからじゃなく、単にいい餌場を見つけたから来たんだろう?
たとえ前者だとしても、お前たちと俺たちが相容れない立場である以上、いつか誰かに退治されるだろうけどな。
だから、これは人間側のエゴなんだろう。他の魔物も、俺が樹海で倒した魔物も、結局は人間が生きやすいように、他の生き物を殺す。
ただただ生存競争になるんだろうな、この場合は。
そして人間は欲の為に素材として魔物を狩る。ならこちらも殺される理由はあるよな。
だから、さ。これは俺の我儘だ。
「やろうぜ、ゴリラ」
「グガ!?ガアアアアアアアアア!!!」
俺はゴリラの真正面に立って、剣を構える。
「あいつ何やってんだ!?」
バダラさんの叫び声が聞こえる。
だがそっちを向くわけにはいかない。俺はこいつを真剣に倒す。
あの鬼達には、今では少し悪いことをしたと思っているんだ。何体かは俺の実力試しで一方的に倒してる。
だから、向こうが襲ってきたならともかく、こっちから行くなら、ちゃんと戦わせてやりたい。
完全な俺の我儘だ。
「こいよ、後悔がないように全力でな!」
「グガアアアアアアア!」
ゴリラは俺を害敵と認識し、その前足を振るう。
前足っていうか、手だな、あれは。
周囲の魔力をゆがませる拳。
その範囲に入れば下手な強化はすぐ解ける。
だけど、悪いな、樹海の連中のほうが、もっと魔力がとんでもないんだよ。
その程度なんてことない。
俺は振るわれた腕をかわしざまに切り上げる。
剣も強化してある。この程度の魔力で防げるはずもない。
「ガァ!?グギャアアアアアアアア!!!!」
自分の腕が切り落とされた痛みと驚愕、そして俺への怒りで声を上げる。
落とされた腕と逆の腕で俺をつかもうとする。
俺はその手を正面から切りつけ、手を裂いた。
だがゴリラはその裂かれた手で俺をつかむ。
「しまっ、ぐあぁ!」
そのまま握りつぶそうと、ゴリラは手から血を吹き出しながら力を入れる。手が裂けているとは思えない力だ。
おそらくゴリラ自身は自分の死を認識している。あの傷と出血では治療をしなければしばらくすれば死ぬ。
だから、そんな外傷を与えた相手を。せめて道連れに最後の力を振り絞っているのだろう。
「こ、のお!」
俺は仙術で強化をして片腕を無理やり抜き、手首に全力で気功を叩き込む。
ゴギィという音とともに骨は折れ、肉も裂け、手が落ちる。
ゴリラは最後のあがきとばかりに噛みついてきた。
俺はそれを躱し、切りやすい位置まで来た首を切り落とす。
ゴリラは首を切り落としても、首だけでまだ動いて、俺をかみ殺さんと歯をがちがち合わせていた。
俺はゴリラの頭を真っ二つにしてとどめを刺す。
とどめを刺して周りを見ると、向こうも終わるところだった。
ナマラさんが防御もなにも完全無視で斧で両断していた。
すげえな。
「あ、また真っ二つにしてしまった」
「だーかーらー!真っ二つにするなって何回も言ってるだろ!」
「無駄だ無駄、こいつに何回言っても疲れるだけだ」
「もういいわよ。まだ真っ二つならきれいだしなんとかなるわよ。シガルちゃんはきれいに首を狩ってるから状態がいいわ。すごいわね」
「ありがとうございます!!」
なんかナマラさん、強いみたいなんだけど、いろいろ残念っぽい。
そしてシガル怖い。的確に首狩ってる。
フーファさんはこちらに歩いて、俺とゴリラを見ていた。
「そっちも終わってるな。助けは必要なかったみたいだな」
「はい、ちょっと危なかったですけどね」
「危ない、ねぇ」
言いたいことはなんとなくわかる。俺は今回自分から危険に飛び込んだんだから。
「ま、わかっててやってるみたいだし、何も言わねえよ」
「はい、ありがとうございます」
「礼を言われることかね?」
「気を使ってくれているのは間違いないので」
「そーかい」
フーファさんはそう言って、みんなと一緒にゴリラの死体を集めだす。
「今回は数が多いなー」
「荷車いるなー」
「最近5を超えたことなかったから、大量だな」
「アタシ肉体労働やだー」
「今回はひときわでかいのもあるから働け」
おそらくゴリラの死体を持っていく相談をしているのだろう。
もし荷車があるなら、とってくるけどな。
「タロウ、俺はちょっと畑の持ち主に荷車借りてくる。そのでかぶつもこっちに持ってきてくれるか?」
「あ、はい、わかりました」
俺はさっき両断した頭も含め、持っていく。
うーん、グロイ。
そこで気が付いた、シガルが少しだけ顔色が悪い。
「シガル、どうした?」
「な、なんでもないよ」
どう考えても何でもないって感じじゃない。
ここで引いたらだめだ。
「シガル、無理はしちゃだめだ。どうした?」
「・・・ちょっと血の匂いが強いのと、まきちってる物とかで、気分が」
しまった。この子強いから勘違いしてた。こういうの耐性ないのか。
あんなに的確に首狩ってたのに、内臓はダメなのか。
いや、ダメだからこそ綺麗に倒していたのかもしれないな。
「そっか、シガルこっちおいで」
「?」
不思議そうにしているシガルに、魔術で回復と精神の安定を軽く促させる。
無理やりやると、逆に途中が気持悪いからね。
「あ、ありがとうお兄ちゃん。少し落ち着いたよ」
シガルのお礼を聞いて、ナマラさんが来るまでで座って休んでおく。
ちょっと、疲れた。
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