第75話魔物退治・・の前に!

「では、近隣の森を越えて出てくるダラウア退治ツアーしゅっぱーつ!」


みんなで準備を整え門を出ると、おっちゃんがみんなを先導して斧を掲げながら言う

おっちゃんの名前はナマラという名前だそうだ。


「「「おー!」」」


俺とシガルと腹に傷のあるバダラという兄ちゃんの三人で揃えて声を上げる。


「子供かお前ら・・・子供だった」

「クスクス、いいんじゃない、可愛くて。バダラは精神年齢が低いから波長が合うんでしょ」


もう一人のいかついおっちゃんはフーファ。お姉さんのほうはレヴァーナという名前だそうだ。

さっき自己紹介してもらった。


「誰が子供だ誰が!」

「お前だお前」

「あっはっは!」

「笑ってるナマラも似たようなものだと思うけどねぇ」


この人ら仲いいなー。こういう雰囲気好きだわ。


「で、だ。お前さんら、ダラウアの特徴は覚えたか?」

「はい」

「はーい!」


ダラウア。特徴を聞くに、大きな猿・・ゴリラ?のような魔物みたいだ。

主に後ろ足で歩いて。前足は体を支える感じで、前足で器用に物をつかんだりするらしい。

ちょくちょく森から出てきて人里のそばの畑から器用に食べ物をとっていくそうだ。

完全に害獣退治系の仕事なのだが、魔物としては一般人が相手にするにはきつい魔物らしい。

そのうえ群れで出てくることも少なくないらしいので、階級が少し高めで設定されている。

ただ一回追い払うと、しばらくやってこないという習性もあるらしく、頻繁にあるわけでもないみたいだ。


「まあ、出てこない可能性もあるんだけど、最近多いらしいからすぐ出てくるだろ」

「この仕事は定期的にあるよなー」

「だからって山に入って殲滅なんかしに行ったらこっち危ないがな」

「まあ、あいつらも自分の領域で生きてる分には手を出すものじゃないわよ」


ほむほむ、あくまで降りてきた奴だけ、なのね。

ンで、被害が多いと依頼が入る、と。


「でもあいつらの肉と皮もそこそこの金になるんだよなー。降りてきたのじゃなくて、山の中の相手だと割に合わないけどさ」

「そうなんですか?」

「うーん、平地だとなんてことないが、山林だとものすごい軌道で襲ってくるのさ。跳ねて飛んで面倒くさい」


なるほど、山に住む野生動物らしい感じだ。

木に登って上から襲ってきたりとかするんだろうな。


「ところでタロウの剣、すごいシンプルだな。装飾とかも特にないんだな」


ナマラさんが俺の剣を見て聞いてくる。事前に剣を出しておいて、腕輪のことは突っ込まれないようにしておいた。

さすがの俺も腕輪が特殊な道具ってことぐらい学習した。

シガルも短剣を二つ足につけている。

シガルはなんと二刀流なのだ。


「はい、俺の師の一人が作ってくれた物です。すごく軽いんですよ」

「ん?タロウは鍛冶師なのか?」

「あー、いえ、そういうわけじゃなくて、いろんなこと学んだ感じですね」

「へぇ、ほかには何ができるんだ?」

「えーと、錬金術と、技工と、魔術と、無手の闘技と、一通りの武具の使い方を学んでます」


俺の言葉を聞いたみんなは、足を止めぽかんとしている。

ん?なんか変なこと言った?

心なしかシガルがあーあって顔してるような気がするけど。


「えと、冗談?」


バダラさんが苦笑いしながら聞いてくる。


「いえ、冗談じゃないですよ?」


俺の返事を聞いてフーファさんが剣を抜く。


「最初にやっておくべきだったな」

「おい、フーファ、なにすんだよ」


フーファさんの行動をバダラさんが咎める。

だが意に介した様子はない。それどころかレヴァーナさんが押しとどめてる。


「おい、レヴァーナまでなにすんだよ!」

「この子の言葉が本当か確かめるだけよ」

「おい、まさかお前ら今の信じるのか?ケガさせたらどうすんだよ!」

「怪我させない為に確かめるんだろうが」


そういってフーファさんは俺の前に立つ。


「来な。こっちからはいかねえから安心しろ」

「えーと」

「お兄ちゃん、ちゃんと受けたほうがいいと思うよ?」


シガルのほうが俺より空気読めている件。

俺は唐突な空気の変わりようについていけていない件。


「えーと、では、魔術は無しがいいですか?ありでいいですか?」

「剣振りながら魔術は使えねえだろ」

「え?使えますよ?」

「なんですって!?」


目の前にいるフーファさんじゃなく、レヴァーナさんが驚く。

え、普通じゃないの?

強化とか補助とか、普通単身で使うでしょ?今まであった魔術師はやってたけど。シガルだってやってるし。

あ、バカ貴族は違ったな。


「そんな高等技術使えてなんで今更組合登録で10級?いや、見てみるまで分からないわね・・・」

「お、おい、レヴァーナ?」


ぶつぶつ言うレヴァーナさんをちょっと心配そうに声をかけるバダラさん。

だが耳に届いていない感じだ。


「まあ、いい。とりあえず剣の腕を見せてみろ」

「あ、はい」


俺は剣を青眼に構える。


「む?」

「おお」


フーファさんとナマラさんが声を上げる。なんだろう、俺の構え変なのかな?


「行きます」


宣言してから胴に横なぎに切り付ける。

フーファさんはちゃんとその剣が見えており、受け流そうとする。

それが分かった俺は途中で軌道を変えて首筋に添えるように剣を持っていく。


「なっ!?」


フーファさんは焦った顔で剣を上に払いのけようとするが、俺はその動きに合わせて剣をまた上に軌道を変え、くるりと回って反対側の下側から切り上げる。


「くっ!」


さすがに3段目には反応できなかったらしく、ガードできなかったので脇の所で剣を止める。


「とまあ、こんな感じでしょうか」


うまくいったが、これは彼が完全に受けだけに徹した上に、俺がそこまでの実力がないと思っていたからうまくいただけだろう。

実際本当に切りあいになったらこんなに軽くはいかない。

あとこの剣だからの曲芸だ。この軽さがなかったらあんな曲芸無理無理。


「・・・これは」

「・・・まさか、だな」


フーファさんは驚愕の表情で俺を見て、ナマラさんは面白いものを見つけたって感じの顔で見てる。


「すげえなお前!きれいな動きだな!」


バダラさんはよっぽど驚いたのか手放しでほめてくれる。

ちょっと照れくさい。


「まだよ、つぎは魔術もよ。魔術も剣技と同レベルとは限らないわ」


レヴァーナさんが真剣な顔でこちらに告げる。


「あ、はい。えっと、どうすればいいですか?」

「あなたが得意な物はなに?」

「障壁と強化と保護ですかね。攻撃系はそこまで得意じゃないです」

「なるほど。障壁を見せてくれるかしら?」

「あ、はい。こうですか?」


俺は言われた通り魔術障壁をだして見せる。


「なっ!無詠唱!?」

「へ?あっ」


そうだった、無詠唱は一般的じゃないんだった。

俺の周りは何かしら無詠唱でできる人だらけだったから感覚が未だにわかんない。


「うそ・・・でしょ・・・アタシより上の魔術師じゃない・・・」


それこそさっきのフーファさんどころではなく、本気で信じられないという表情でこちらを見るレヴァーナさん。

顔立ちがきれいな人だけに、なんかちょっと、怖い。


「あっはっは!まさかこんなに強いとは思わなかったぞ!これじゃ本当にただのおせっかいじゃないか!!」


ナマラさんが大爆笑という感じで笑っている。

バダラさんもすげーすげーと言ってくれているが、あとの二人は何だが渋い顔をしている。


「レヴァーナ、どう思う?」

「もしかするわね・・・」


ん?なんだろう、なんかおれまずったかな?

まあ、いいや。別に隠すつもりはないし。

変に警戒されるのは面倒だけど、だからってコソコソしてもなぁ。


「じゃあ、つぎはあたしの番だね!」


一段落ついた雰囲気の中シガルが元気よく言い放った。


「・・・・は?」


それに困惑しているのはシガルの目の前に立つフーファさんだ。

いや、立たれてしまったというべきか。


「え、だって実力見るんでしょ?あたしも!」

「あ、いや、うん?」


フーファ は こんらん している。

いや割と真剣に混乱してるな。そんなこと言われるとは全く思ってなかったって顔だ。


「あ、あのねシガルちゃん、あなたはいいのよ?」

「なんで?」

「なんでって・・・」


シガルは対象外と思っていたレヴァーナさんもシガルにやらなくていいと言うが、シガルは納得しない。

シガルはフーファさんの言葉を待たず、短剣を抜き、少し離れた場所で構える。


「・・・まあ、いいか」


はあと、ため息をついて構えるフーファさん。

でもね、その子結構強いので甘く見ないほうがいいと思うの、俺。

シガルは素のままでは通用しないと踏んだらしく、強化魔術をかけ始める。

この間、戦った時より軽めみたいだ。


「わが身、戦場を駆け抜ける風。故にわが身、捉えるものなし」


あからさまに速度を上げるための強化だ。

詠唱すると使いやすいのはいいけど、即座に使えないのと何使うかバレバレなんだよな。

やっぱ攻撃もいつか無詠唱でやれるように頑張らねば。


「うーん、自分で強化して維持?無茶するわねあの子。でもすごいわね・・あの年でよくもまあ」


うん、初耳。無茶なの?

セルエスさん、ふっつーにやれって言ったよ?

それぐらいできて普通って言ってたよ?

久々にあの人たちの普通って言葉が違うことを思い知った。


あれ、でもシガルの親父さん普通に使ってたよな。

てことは親父さん割と強者だったんだ。

ごめん!親父さん!てっきりちょっと空回りな人だと思ってた!


「いきます・・・!」


俺のまねなのか、宣言してから駆け出すシガル。

緩めの強化かと思ったら完全に速度を重視した強化らしく、前の時より早い。

この速度は、素の状態では相手するのはきついな。


「なっ、はやっ!」


フーファさんは駆けて来るシガルの速さに面食らっている。

だが、さすがに経験が違うのか、シガルの攻撃を速度が違うにもかかわらず、いなしていく。


「くっ、かっ!早いが、攻撃が素直だな!」


シガルの速さに慣れたのか、話す余裕も出てきたようだ。

さすがに階級が高いだけはあるというところなのだろう。

そう思っていたら、だんだんと剣を打ち合う音の間隔が短くなっていく。


「くっ、な、なんだ、ちょ、ちょっとまて、まだ早くなるのか!?」


シガルは、フーファさんが段々と反応できなくなりつつあると判断したのか、大振りを入れようとした。


「さすがにそれは甘いぞ!」


その大振りを思いきり弾こうと、剣をふるうフーファさん。

だが、当たる直前で剣は引かれ、シガルの体は剣の下をくぐり、フーファさんの背に回る。


「このっ!」


それを追いかけ後ろを向くフーファさん。だがそこにシガルはいない。

もうすでに、さらに後ろに回って、背中に剣を突き付けているのだから。

なるほど、これをしたかったのか。

いくらなんで正面から切り結ぶのは不自然だと思ってたんだ。

だって、速度が上がるように強化したのに、真正面からじゃあの強化の持ち味が出し切れていない。


「速度以外にも、ちゃんと剣を振るえるってところも見てもらおうと、最初のほうは正面から行きました。けど本来は最後のほうみたいに相手の剣を振り回させる立ち回りが本領です」

「まじかよ・・シガル嬢ちゃん、ものすげーつえーじゃねえか」


静かに自分の行動の意味を告げるシガルに、バダラさんは真顔でつぶやく。

シガルはそれを聞いて満足だと言わんばかりに胸を張る。


「最後まで強化を維持し続けたって・・・うそでしょ」

「いやー、お前さんたち、どっちも本当に強かったんだなぁ!」

「これは、強いとかそういう領域では・・・」


レヴァーナさんとフーファさんはまた渋い顔だが、ナマラさんだけは明るく笑う。

うーん、やりすぎた?

なんか国に変に警戒されてるというやな事聞いた後だったから、あんまり隠す気はないけど、一応さすがに本気ではやらないようにしたんだけどな。

シガルの張り切りは予想外だったけど、まあ大丈夫かなと思ったんだけど。


「二人とも変に詮索しなくてもいいじゃないか。こいつらは強い。ならこの仕事はすぐ終わる。すぐ酒にありつける。それでいいだろ?」

「はぁ、お前はなんつーか、本当にお人よしだな」

「ま、いいわ。悪い子じゃないって感じはわかるし。わかった。何も詮索はしないわ」

「まあ、細かい事はいいよな!楽しくいこうぜ!」


ああ、なるほど。ナマラさん、なんとなく何か思うところはあるけど、何も言わないよってスタンスなのか。

何も考えてないんじゃなくて、考えてた上でのやさしさなのね。ありがたい。


「じゃあ、サクサク終わらして、すぐ帰って飲もう!」


もしかしたらただ飲みたいだけかもしれない。

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