第74話組合の仕事を見に行ってみます!
さって、出たはいいけど、何からしようかな。
「とりあえずぶらぶら回ってみたいんだけどいいかな?」
まずは二人に確認を取る。
「あいよ、今日は一日のんびり行こうか。あたしは最初にわがまま言ったし、付き合うぜ」
「あたしもついてくよー」
良かった。一人で回るのもそれはそれで悪くはないが少し寂しい。
「ところでそろそろこれ叩き起こしていいかな。重い」
そう言いつつペチペチとハクを叩く。
たぶんこいつ強化かけてなかったら殴っても起きない気がする。
「ああ、じゃああたしがそいつ連れて先に宿とってくっか?」
「え、でもそれじゃあ・・」
イナイだけ一人宿においておくにはなんだか気が引ける。
「気にすんな、別にすぐここ出るつもりじゃねえんだろ?」
「ん、まあそうだけど」
折角イナイが来た事無い国に来たんだし、
一緒がいいなって思うんだけどな。
「そういえば、そいつ動き出してないから置物か人形かと思われるだろうが、動いたら軽く騒ぎになるぞ。何か対策考えてるのか?」
「・・・はっ!」
そうだ、よく考えたら街中に竜がいて騒ぎにならないわけねーじゃん。
ぜんっぜん考えてなかった!
あれ、でもイナイなんか考えがあるって言ってなかったっけ?
「お前、何も考えてなかったな?」
「・・・・イイエソンナコトハ」
「お兄ちゃん、流石に嘘が下手にも程があるよ」
シガルにまで突っ込まれてしまった。
「申し訳ありません、何も考えてませんでした」
深々と頭を下げる俺。
あ、ハク落とした。
「「あ」」
イナイとシガルの声が重なる。
どしゃっという音と立てて地面に落ちるハク。
・・・・起きねえこいつ。
「起きないな・・・・。とりあえずそいつ宿連れてって、起きたらあんまり騒がないように話しとくよ。聞くかどうかはわかんねぇから、その時は自分でなんとかしろよ。こいつはお前についてきたんだから。一応あたしは対策として幻影系の魔術でどうにかするつもりだが」
あ、前に言ってた考えてることってそれか。
「それなら別につれてっても大丈夫じゃない? 俺も使えるし」
「触れられたら終わりだぞ? ちょっと移動とかなら別に良いが、ずっとごまかすのはなかなかきついぞ?
竜神て祭られてるし、悪い扱いは受けないだろうが、騒ぎになるのは間違いないしな」
「ああー・・・」
単純に街の移動や、街道の移動ならごまかせるけど、ハクに触れられるようなことが有ればごまかしがきかなくなるのか。
「うーん、どうする、シガル?」
「んー、じゃあさ、街を見て回るのは今度にして、あたしたちで組合のお仕事やってみない?」
なるほど、それはいいかも。
面白そうなものがあればやってみようと思ってたし、ウムル国内以外ではお金を稼ぐ手段として定着してるみたいだから、簡単なのでもやって慣れておこう。
「なるほどな、いいかも」
「じゃあ、それで決定!」
「ういよ、じゃあ宿はとっとくから・・・場所分かるか?」
「大丈夫、わからなかったらイナイの魔力を探すから」
「軽く言ってくれるな。そんな簡単にできるの、お前とセルとアロネスぐらいだぞ」
あれ、グルドさんできないの?
あの人の魔力操作とんでもなく精密だったけどな。
「まあ、気をつけて行ってこい」
「うん、わかった」
「お姉ちゃん、あとでね!」
イナイは「あいよ」と言いながらハクを肩に担いで宿に向かう。
あんまりひょいと担いでるから本当に人形のようだ。
けど流石に重かったのか。強化を使い始めた。
うん、重いよね。わかる。
「さて、何があるかな」
イナイと別れたあと、この間登録した組合所にきて依頼を眺めている。
「お兄ちゃん、10級の依頼じゃないくていいの?」
シガルがこういうのには理由がある。
なぜなら俺が見てるのは5級の依頼だからだ。
「いや、とりあえず全部見て決めるけどね。ただ10級はなぁ・・・」
10級の依頼は、まさに雑用な仕事ばかりだった。
基本街中で完結する安全な雑用が10級の仕事だった。
9級は街から少し離れた所や、少なくとも街の中ではないところでの雑用。街の外の畑とかの手伝いとか。
この二つの級は基本的に雑用なせいか、報酬も安い。お小遣い的な感じだった。
8級は少し危ないところへ行くが、基本なにかの採取的な物だった。
7級からなにかの退治とか、護衛とかになり始めていた。でもだいたい街道とかでそこまで危なくないっぽくて、安い。ただ書かれている名前が魔物なのか普通の動物なのかがわからない俺がいる。困った。
6級から護衛のちょっと長期系と、なんか、面倒くさそうな場所への採取とかみたい。
5級から討伐が多い。これまたなんの名前なのかさっぱりだが、なにか危ない魔物とか動物の討伐みたいだ。
そして4から上はない。
無いのだこれが。
「なんで4以上は無いんだろう」
「単純にそこに該当するような仕事がないからじゃないの?」
「・・そっか、依頼がなかったら仕事はないか。そりゃそうだ」
シガルに突っ込まれる前に気が付けよ俺。
「あ、ファーガだ。あたしこれ、知ってる。昔騎士のお・・・師匠がどっかの村で暴れてるって王都に退治の陳情が来て、行ったって聞いたよ。その時のはすごいでっかいファーガだったらしいけど」
「ファーガ?」
「あー、えっと・・・ブレッフは、しってる、かな?」
「ごめん、知らない」
「あー・・・じゃあ伝えようがないや・・」
ごめん、ほんとごめん。
固有名詞系は後回しにしたし、特に魔物については別に名前覚えなくていいかなって、ほんとごめん。
「おい、お前ら、この間登録したばっかりの奴らが見る仕事じゃねえぞ!」
後ろからそんな声が聞こえた。
これはまさか、よくあるテンプレかしら。などと考えつつ後ろを見ると、こないだのおっちゃんが二カッっとした顔で立っていた。
「なんてな。よう、お二人さん。今日はあのもうひとりのちっこい子はいないのかい?」
「あ、先日はどうも」
「こんにちは!」
おっちゃんが手を上げて挨拶をしてきたので、俺とシガルはぺこりと頭を下げる。
おっちゃんが驚かそうとしたみたいだ。
「おまえさんら、なんつーか、組合に登録する子供にしては、落ち着いてるよな」
「そうですか?」
「ああ、それだよそれ。そんな風にしゃべる子供はこのへんじゃ殆どいないよ」
「あたしはそうでもないと思うけど・・・」
「いや、お嬢ちゃんこそ異質だぜ? ガラの悪い連中がたむろする所に平然とした顔で居るんだから」
周りを見ていると、確かに厳つい顔の人が多い。
でも顔が厳ついだけで、別になにかされたわけでもないしねぇ。
「大丈夫だよ!ここ怖い人いなさそうだもの!」
シガルが明るく答える。
「はは、そーかそーか、そりゃ嬉しいな」
あ、この人子供好きだわ。おっちゃんはスッゲーでれっとした表情でシガルの頭を撫でる。
「俺こんな顔だから、子供には基本避けられっからさー」
確かにおっちゃんはぱっと見少し悪人面でいかつめだ。
けど、このあいだもそうだが、俺たちの心配をしてくれたし、こんなに気さくに話しかけてくれたりと、いい感じの人だと思う。
俺たちを騙す必要もないので、たぶん普通にいい人なのだろう。
「で、だ、兄ちゃんら、5級をやるつもりかい?」
「あー・・・短期間でかつ、面倒じゃなさそうなのは5級だなぁと眺めてました」
「ふうん。兄ちゃん、もし受けたくなってもたぶん許可が降りないと思うぞ?」
「へ、許可?」
「当たり前だろ?組合だって外道がやってんじゃないんだ。実力が伴わないと思われたら依頼自体受けさせない。死ぬってわかってるのに行かせはしないさ。
物によっちゃ依頼主にだって迷惑がかかるしな。悪いが兄ちゃんにそこまでの実力があるようには見えないよ」
よく考えれば当たり前だった。
10級ということは、10級の実力だという証明になっている。
しかも俺はまだ一回も仕事をしていない。
ということは必然的に依頼をちゃんとこなすかどうかもわからない人間というのがまず最初につく。
その上、10級で何もやっていない時点で、何が出来るのかもさっぱりわかっていない。
そもそも、俺の体格はこの国ではどう見ても小柄なので、尚の事戦えるとは思われなさそうだ。
「そうか・・・うーん」
「10級のも楽しそうだよ?ほら、畑を耕す人手が欲しいとか、家具の配置替えを一緒に考えて欲しいとか」
「うん、別に悪くはないと思うけど・・・」
ごめん、俺せっかくだし、お話にあるような仕事がしてみたいなー、なんて我侭なことを考えてるんだ。
うんまあ、我儘だな。ちゃんと下からやるか。
「しゃーないな、俺が手伝おうか?俺は5級だからな。それなら許可降りるだろ」
おっちゃん5級なのか。アブナイ系の仕事も普通にやってるのね。
竜に挑みに行ったって言ってたし、それぐらいは当然か。
「でもそれじゃご迷惑じゃ」
「いいよいいよ、その代わり報酬の半分は貰うからな? 護衛料みたいなもんだと思いな。若い子にどれぐらい危険なものか教えるのも先輩の役目ってね」
おっちゃんがそう言うと、その会話を聞いてたらしき人達がおっちゃんに言葉をかける。
「今夜の飲み代払わねーと俺は帰るぞ」
「お前はまーたおせっかいを・・・ほっとくとこうだ。今日やる予定のはどうすんだよ」
「いいんじゃないの?最近こういうことあんまりなかったから、おせっかい焼きたくてしょうがないんでしょ」
会話から察するにおっちゃんの仲間だろうか?
おっちゃんソロじゃなかったのか。
おっちゃんと同じぐらい厳ついおっちゃんと、ガタイはいいがそこまでいかつくない兄ちゃんと、結構綺麗なお姉さんの3人だった。
「こないだ竜の依頼を見てた子よね?若いから無茶したいのはわかるけど、身の丈にあったものをしないと大怪我じゃ済まないよ?」
「そうそう、でないと、こんなケガしちゃうぜ?」
お姉さんの言葉に同意しながら兄ちゃんが服をめくると、腹に大きな傷跡があった。
これ、絶対内臓行ってただろ。
「アタシいなかったら死んでたわよね、アンタ」
「間違いないな!」
あっはっはと笑いながら言ってるけど、かなり危ないよねその怪我。
背中も傷跡があるあたり、貫通しとるな。
よく死ななかったものだ。察するにお姉さんは魔術師なのだろう。
「まあ、無茶するとこういう怪我もするからな。5級の討伐がどんなものか知っとくのも経験だろうさ」
「だが、半分は破格過ぎるぞ。こいつらがやるわけではないだろう」
「コマけえこと気にすんなよ。飲み代はちゃんと払うからさ。いいじゃんか、初仕事の初報酬。それだけの額を自分でいつかって励みになんだろ?」
「ったく、とりあえず今日はそっちの仕事するつもりはなかったから、帰って装備を揃えてくるぞ」
「おー、頼むわ。ついでに俺の斧も頼む」
「ふざけんな、来い」
「えー、ケチ臭い」
「お前の斧は重いんだよ!」
どうやらおっちゃんはそのガタイに見合うでかい斧を使う模様。
というか、おっちゃん結構フリーダムな人ぽい。
なんだろう、俺のそばにはこういう人が寄ってくる何かでもあるのだろうか。
「まあ、ちゃんと取りに行くから先に行って用意しておいてくれ。俺は手続きしてくる」
「おう、街の出口前で待ってるぞ」
そう言って3人は組合所を出て行った。
「なんか、予定あったみたいですけど?」
「んー?なんのことかな?俺は知らんよ?」
吹けてない口笛を吹きながらあさってのほうを向いて、棒読みで答えるおっちゃん。
いかん、俺このおっちゃん好きだわ。
「あはは、じゃあお言葉に甘えます」
「そうしろそうしろ。じゃあ、受付すますか」
「もう、名前書くだけでいいように準備してますよ。いつものことですし。やりやすそうなの見繕っておきましたから」
受付の人がそう言って書類をピラピラしていた。
そんなにいつものことなのか。
「おお、ありがとな」
「人が良いのは評価しますが、こちらも手続きが本当は面倒なんだということを理解しておいてくださいね?」
「あー、ごめんごめん。また今度埋め合わせするからさ」
ふむ、おっちゃんはここでは顔が知られてる人なのかな?
受付さんの対応的に、わりと優遇されてる感じだ。
でも、手続きが面倒って、どういうことなんだろう。
「あなた方も、この方達の仕事を見て、自分の身の丈をきちんと見極めてきてください。この依頼はあくまで、あなた方が受けたという形であり、彼らはそのサポートについたということにしてありますので」
ふむ、手続き的に、どういう面倒さがあるのかわからないが、わざわざ普通とは違う処理をしてくれているようだ。
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
実際、受けれないはずの仕事を受けれるのだ。
お礼を言うべきだろう。
さてさて、何が出てくるのかなっと。
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