第71話アロネスさんは割と好き放題していたようです!

「あのバカ、なにやってやがる!」


ドアが閉まり、人の気配がなくなると同時にイナイが吐き捨てる。


「どしたのイナイ」

「アロネスのやつ、違法入国してやがる。さすがに領主があいつ来てんの把握してねえのはおかしい」


はい?なんだって?


「ネーレス様が違法入国?どうしてそんなこと・・・」

「素性晒すのを面倒がったんだろうな。街にも転移で入って、山にも転移でそばまで飛んで行ったんだろ。見える範囲なら知らない土地でも飛べるからな。

どうりであいつらしき人間の話が出てくるのに、兵がおかしなこと言ってると思った。

アイツ下手すると自国の国境門もちゃんと通ってねえぞ」


うわあ、アロネスさん、結構やりたい放題してんじゃないっすか。


「それ、まずくない?」

「すっげえまずい。バレたらかなりまずい」


イナイが頭を抱えながら答える。


「だいたいあいつはいつもいつも!自分のやりたい事が出来ると、後の尻拭いを誰がやるかも考えねえでやりやがるんだ!

どうせ山に竜がいるみたいだから、ちょっといってどれぐらいのものか試してこよう程度で行ったんだろうあいつ!」


がおー!と火でも吹かんばかりにイナイが怒る。

うん、なんか子供の頃リンさんとつるんでいたって理由がものすごく分かった。同類なんだな。

俺に対するいたずらとか可愛いもんだったみたいだわ。


「どうどう、落ち着いて落ち着いて」

「そ、そうだよお姉ちゃん、なにか深い考えがあったのかもしれないし」

「ない。絶対ない」


うん、それは俺も同感。多分何も深いことは考えてないと思う。


「まあ、いいや、今回は好都合なことに向こうは向こうでやらかしてくれてたし」

「好都合?」

「・・・もしかして、あの襲撃?」

「おう。シガルは賢いな。そしてタロウ、お前は腹芸は絶対できないな」


うん、俺もそう思うけど、真正面から残念な顔されると少し泣きたくなります。


「どういうこと?あれってこっちの問題でしょ?」

「アホウ、あいつらはこの国の人間だろうが。あいつらが言ってたこと忘れたのか?国にコネあるつってただろ」

「ああー。え、それがここの領主ってこと?」

「ちがわい。大方それ認めた連中の尻拭いだよ。おそらく本人たちは捕まってるか、逃げてんだろ。

国としては襲撃阻止がぎりぎり間に合わなかったのが分かったから、あたしたちを懐柔して、国に攻撃しないでもらうようにとでも言われたんじゃねーの?」


それでなにやら歓迎してくれたのか。

てっきり竜について聞きたいだけかと思ってた。


「今回の事も竜の異変を理由に屋敷に呼びたかったんだろ。でなきゃあたしをわざわざ招くとは思えない。向こうにしたらあたしはなるべく関わりたくない人間のはずだからな」

「関わりたくない?なんで?」

「・・・・・ここが過去攻め込まれる寸前の隣国だったからだよ、お兄ちゃん」

「え、それならウムルは助けた側でしょ?」

「シガル、タロウにはそういう考えはわからんよ」

「そうなの?」


不思議そうな顔で俺を見るシガル。

なんだろう、普通ならわかって当然なだろうか


「タロウは、あたしたちと根本の感性が違うからな。そういう考え自体がねえんだ」

「そう、なんだ」

「どういうこと?」

「お前はあの戦争を知らないだろ。だからわかんねぇってだけの話さ」

「でも、ウムルに十数年住んでたら知識だけでも入ってきそうなものだけどな」


すみません、2年ちょいぐらいしかいませんでした。

そういえば俺ここに来たとき16後半だったから、今は18か19になるのかね。

総数の時間だけで考えると、地球とそこまで一年の差は大きく差はないんだよなー。


「タロウ、お前まさかシガルにまだ話してなかったのか?」

「あ、そういえば」

「え、何、どういうこと?」

「・・・タロウ、シガルにはちゃんと話してやれよ?」


多分、ちゃんと、とは俺の家族のことも、ということだろう。


「・・・・シガル、あんまり面白くない話だけど、聞いてくれるかな」

「うん、聞くよ!」


シガルは明るく答える。

そういえばハクが静かだけどどうしたんだろう。

・・・寝とる。騒いで、食って寝る。

うん、子供だわ。


まずこっちに来てからのことを先に話した。

自分がこの世界の人間ではない事。気が付いたら樹海にいたこと。リンさんたちに助けられて、鍛えられたこと。

その辺の話は、最初の部分こそ難しい顔をしていたが、シガルは楽しげに聞いていた。

最後に、俺の身の上の話をした。シガルちゃんは、とても真剣な表情で聞いてくれた。

話が終わるとシガルは俺に近づいて、座ってる俺の頭を抱きかかえてきた。


「大丈夫だよお兄ちゃん。今はイナイお姉ちゃんが居る。あたしもいる。だから大丈夫」


なんて言われてしまった。

この話をしている時の俺は一体どんな顔をしているんだろう。

しかし、涙腺がゆるい。イナイの時ほどじゃないが、思わずグッときてしまった。


「どっちが年下かわかんねえな」

「全くです」

「あはは、お兄ちゃん可愛いよ。でもやっとわかった。お兄ちゃんがお姉ちゃんによくいろいろ聞いてる理由。時々なんで今更そんなこと?って思ってる時もあったんだ」


うぬ、可愛いと言われてしまった。それはさすがに恥ずかしいんだが。

涙を拭きつつ、誤魔化すためにさっきの話の説明を聞いてみる。


「で、さっきの話の説明してもらえると嬉しい」

「そうだな。例えばタロウ、お前が自分では対処出来ない何かに襲われて危機だとしよう。それをたまたま亜竜が倒したとして、お前はその亜竜を安心できる相手だと思うか?」

「無理」

「だよな。あたしたちはその亜竜と同じようなもんだ。とんでもない戦力の国をもっととんでもない戦力で駆逐していった化物。そういう見方なんだよ。

8英雄の話はどっかで聞いてんだろ?多分気が付いてると思うけど、そういうことだ」


初めてイナイからまともにその単語が出た。

つまり、俺の予想通りのメンツがその8人ということだろう。

・・・・なんか納得だわ。


「でも、同じ人間じゃないか」

「でも他国の人間だ」

「いやでも・・・そう・・・か」


俺たちだってそうだ。日本人だから。中国人だから。アメリカ人だから。

そういう、個人を見ず、もっと広範囲も見ない考えが確かにあった。

その上個人で飛びぬけていれば、そうなるものなんだろうか。

例えそれが人のためだったとしても。


「友好を結んでる国ならまだ話は別だが、それ以外の国にとっちゃ、あたしたちの国は北の国の次に恐れる国なんだよ」

「そんな・・イナイ達はそんなことしないだろ」

「それでも、人は大きな力には恐れを抱くものなんだ。たとえ相手がどんな人間と知っていたとしてもな」


寂しそうに話すイナイ。

これまでにどんな事を見て、どんな事を知り、何を言われてきたんだろう。

俺はその顔がとても辛く思えた。


「そしてそんな相手で、自国では立場もある。だから来たから歓迎しろと言われれば歓迎しなければいけないし、関わるなという意志を見せるなら、なるべく関わらないようにするだろう。

だが今回、その意志を見せたのに向こうから接触してきた。つまり接触せざるを得ない事があったつー事だ」

「なるほど、あの捜索隊は別にイナイの身を案じてじゃなかったってことなのか」

「少なくとも領主は、な。兵は多分違うっぽい。ここの兵若いの多いみたいだしな」

「そうか、世代が代わって、そこまでの緊張感はなくなりつつあるってことかな」

「まあ、実際にあたしを見た事ない場合もあるからな。そういうやつはだいたい拍子抜けする奴が多い。

噂は噂かって。だが、実際にあの戦争を知っていて、見たことがあるやつはそう考えない」


確かにイナイは見た目だけじゃ強そうには見えない。

というか、あそこのメンツの半分はぱっと見じゃ強いとは思えなさそうだ。


「ま、そういった背景も込で考えて、何かあんだろと思ってたし、カマかけたら案の定だったからな。

むこうさん、がっつり下調べしてから接触してきてる。

だがあたしたちの襲撃は、この国の一部の馬鹿と、うちの国の馬鹿どもの暴走だ。だからあたしとしては、向こうがそれに関して寛容であってほしいというなら、あたしは何も知らないふりをするだけさ」

「あの会話にそんなものが入っていたこと自体分かっておりません。ていうかあいつらウムルともかかわりあったの!?」

「だろうな。まあ、詳しく教えてなかったから、そこは気にするな。

ああ、そうだタロウ。お前この国では色々と調べられてるみたいだぞ。竜を倒した話も国王に数日中には届くだろ」

「ふぇ!?」


いきなり何言うんだ。変な声出たじゃないか。


「扱い的に、あたしらほどじゃないが、その次ぐらいに警戒されてるな」

「なんで!?」

「ウムルに諜報員がいるんだろ。あとあのバカ王子経由もあるかもな。もうお前だってわかってんだろ?お前の実力は一般人の域を超えてんだよ」

「凄い!お兄ちゃんやっぱり凄いね!!」


う、嬉しくねぇ・・・・!

やっぱあのバカ王子の願いなんか聞き届けるんじゃなかった・・!

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