第68話領主様は竜に会えて感動しているようです!

「竜神様、ようこそいらっしゃいました!」


館に着くと、メイドさんとか、執事さんとかが迎えるのかな?と思っていたら妙齢の小奇麗な女性がそう言って出迎えてくれた。

なんかスゲーテンション高い。イナイが猫かぶれずに若干引いてる。

んで、何よりも、イナイよりハクを歓迎している。うん、なんつーか、大丈夫かこの人。

なんか、周りの人が気を使ってる感があるから、領主の娘さんとかかな?


『来てあげたよ!』


ハクがその空気を一切読まずに返事する。完全なる上から目線発言だ。


「まことにありがとうございます!竜神様に我が家に来て頂けるなど・・・末代まで語り継げる自慢です!!」


あ、そうか、それでテンション高いのね。そうね、ここ竜を祀る国だものね。

イナイもなるほどな、といった感じで納得したようだ。


「あ、あの、ベレマナ様、イナイ様が・・・・」

「はっ、こ、これは申し訳ありません。龍神様がやってきてくれた事の感激のあまり・・・・」


兵士さんが声をかけると、正気に戻った女性はびしっと佇まいを直した。


「失礼しました。私はベレマナ・ゴルブッド・ヴァーガナ。この地の領主です。

イナイ様、そしてそのお連れ様。我が館にお越しいただき感謝致します」


そう名乗り、右手を左肩に置いて礼をする。たぶんこの国のやり方なんだろう。

しかし、領主なの?

えらく若い。娘かなにかかと思った。イナイと同類かな。

それとも俺の固定観念かな、領主って聞くと少なくとも30以上いってるイメージしかない。

あと、ミドルネームはイナイ達みたいに立場か称号なのかな?


「お招き感謝致しますヴァーガナ卿。イナイ・ウルズエス・ステルです。お初にお目にかかります」


そう言って、イナイは以前一度だけ見た礼の動作を取る。

前に、あのバカ王子がきた際に一緒に教えてもらった、ウムルの礼の仕方だ。

カーテシーっぽいけど、片手でやるから違うか。あれ?片手でもいいんだっけ?

知識が中途半端でわからん。

ま、右手でちょっと持ち上げて右足を引きながら礼をする感じだ。


「こちらはタナカ・タロウ。私の婚約者です」


そう言われて、俺は普通に礼をしてしまった。やっちゃった。

うん、人間とっさに出るのは馴染みのある行動だよね!

だが、領主さんも、イナイも特に気にしていなかった。よかった。


「こちらは、シガル・スタッドラーズ。彼のもう一人の婚約者です」


紹介されたシガルは、パンツルックのため、イナイと同じ動作を、スカートなしでやった。

あれ別にスカートなくてもいいのか。それは聞いてなかった。


「ステル様の婚約者・・ですか・・・それは、また・・」


む?なんだ?なんか俺に不満がある感じなのかな?

なんか言いよどんでる。


「ごほん!ベレマナ様、お客様をいつまでも外に立たせておくものではありませんよ」


そう言って、少し後ろに控えていたおスーツっぽい感じの服の爺さんが領主さんに言う。

この人が領主っていう方が説得力ある感じの、いい雰囲気がある。

かっこいい爺さんだ。


「はっ、ま、またも失礼を。申し訳ありません。どうぞ、お入りください。簡単なものですが食事も用意しております」

「ありがとうございます。お言葉に甘えお邪魔させていただきます」


促され館に入るイナイの後ろに付いていく。

ぶっちゃけ作法とか、礼儀とかはあんまり教えてもらってないので、下手なことしないように後ろから付いてくほうがいいだろう。

シガルはそうでもないっぽいが、あくまでイナイが上という感じで後ろからついて行っている。

ハクは相変わらず俺の頭の上だ。重い。






通され、食事の用意がされた部屋に連れて行かれるまではスムーズだった。


『人間の家に初めて入ったけど、なんか色々置いてるんだな』

「竜神様は人間の屋敷に入るのは初めてなのですか?」

『人間の集落にくるのじたい初めてだよ!』

「それはそれは!竜神様の初めての訪問がこの街であり、この館であるとは、光栄です!」


また入口の時のテンションでハクを見つめながら言う領主さん。

なんか、すごい熱烈だ。


「私、子供の頃から竜神様の昔話を何度も何度も聞いてたんです。

周りの方は皆、ただの昔話だって言ってましたけど、実際ここにいらした龍神様はちゃんとしゃべってます!

昔話はタダの創作じゃなくて、本当の話だってことが証明されたんです!私の憧れが本当だった!ああ、なんて素敵なんでしょう!!」


感極まって、もう泣き出しそうなレベルだ。

この人なんか、ちょっと突き抜けてるな。


「ベレマナ様」


さっきの爺さんがちょっと怒った感じで声をかける。

すると領主さんはビクッとして背筋を伸ばしてイナイに向き直る。

本当に大丈夫かこの領主さん。


「イナイ様。お口に合うかわかりませんが、お話は食事をしながらでもしましょう」


そう言って用意された食事を見ると、ハクの分もある。

ハクは今、椅子に座って、前足をちょこんとテーブルに乗せている状態だ。


「竜神様!お口に合いましたか!?」

『まだ、食べてない』

「これは失礼しました!どうぞ。どうぞおたべ下さい。なんなら竜神様が望むものを持ってこさせます!」

『いいよ、これ気になるから』


うん。なんていうか、イナイに目と頭が行ってない。

そしてそんな領主さんをみてはぁとため息をついている爺さん。

頑張れ爺さん!食事はまだ始まったばかりだ!

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