第67話馬車に乗れなかったので徒歩で行きます!
『馬車乗りたかった』
「しょうがないじゃないか、馬がハクを怖がるんだから」
『馬が根性がないのが悪い!』
「無茶言うな」
俺たちは兵士さんたちが用意してくれた馬車で領主の館に行くはずだったのだが、馬がハクを怖がり、乗ることが出来なかった。
しょうがないので徒歩だ。
馬車は俺たちの事を知らせるために、先に数人の兵士さんが館に行くことで使ってもらった。
今俺たちは残った兵士さんの案内で向かっている。
『むー、私も人間の乗り物乗ってみたい』
「んー、ツガリィットなら大丈夫かもな。あれは本来魔物だし。いや、魔物だからこそ怖がっちまうか?」
うん?新しい単語が来たぞ?
翻訳魔術でも使えば、似たようなものに置き換わるかな・・。
『人間はオオトカゲも飼ってるの?』
「お姉ちゃん、ツガリィットってなに?」
オオトカゲ。ふむ。翻訳さんサンクス。だいたいどんな動物か想像できた。
翻訳さんが役に立つ時ってこれだな。勝手に自分の認識に近い物に置き換えてくれる。
ハクは実際に言葉をしゃべっているわけではなく、魔術で意味を伝えてる。
だから、複数人としゃべっていると、伝わってんだか、伝わってないんだかって感じになる。
これが怖くてこっちの言葉覚えたんだけどね。
まあ、魔物と呼ばれてる生き物の大半は昔の言葉で名付けられている事が多いらしいので、翻訳使うと、逆に訳がわからんようになる時があるんだがね。
ちなみに竜はゾレドアッドといい、これは現代の言葉らしい。
正直ややこしいので統一して欲しいと切に願う。まあ自分の世界でも言葉は大量に違ったので、この大陸周辺は今知ってる言葉でだいたい通じるのはとてもありがたい。
家畜類は同じ世界から連れてきたんじゃねーかって言いたくなるぐらい同じのいるのになぁ。
豚とか牛とか、普通にいる。ちょっと見た目違うけどね。
まあアロネスさんに教えられた時に、翻訳された意味がそう聞こえてるからそう認識してるだけだけど。
「まあ、馬鹿でかい爬虫類だよ。私はあんまり好きじゃないけどな。大丈夫だってわかってても、周囲の魔力が歪んだ瞬間身構えちまう」
魔物と呼ばれるものの特徴。それは魔力放出を無意味にしている事。
いや、未熟な魔術が通らないという意味では無意味じゃないけど、普通の動物と呼ばれてる生き物はそんなことは無い。
でも、思う。単純に身を守るためにそうしているだけなんじゃ?と。
もともとそんなこともできなかった動物が、危険から身を守るために進化したのが、あの魔物と呼ばれる姿なのではなかろうか、と。
だって、地域によっては竜も魔物と呼ばれるって、実は以前聞いていた。
でもここではこの地を守る土地神様的な扱いだ。
前にアロネスさんが言ってたみたいに、自分にとって害ある、手に負えない生き物を魔物って言ってるだけなのかな・・・。
「どうした、タロウ?」
そんなことを考えていると、心配そうな顔でイナイが顔を覗いていた。
また顔に出ていたか。
「ん、ごめん、ちょっと考え事。大したことじゃないよ」
「・・・・わかった」
イナイは俺の返事に納得してない態度だが、その上で再度聞いては来なかった。
イナイのこういうとこ好きだわー。
まあ、いずれ相談してみるかね・・・。
『ところで何処まで行くのー?』
「どこまでって、ハク、話聞いてなかったの?」
『宿に行くんじゃないの?』
「うん、わかった。ハクが人の話をあまり聞かない子というのはよくわかった」
この子馬車に乗りたいと、馬車に乗れなかった、で頭いっぱいだった模様。
ほんとお子様である。
「あはは、ハク、今からこの街を管理してる人に会いにいくんだよ」
『そうなの?なんで?』
「んー、お姉ちゃんが偉い人、だからかな」
『イナイって人間ではそんなに偉いの?』
「そういえば俺、イナイが結構偉い程度でしか知らないや」
技工士としての称号と、国の上の方に関わってる人間、っていうぐらいの認識だ。
それだけでも十分偉い人か。
「あー・・・、えっと、な」
イナイがあたまをポリポリかきならが言葉を濁す。
「別に言いたくないならいいよ?」
「いや、言いたくないわけじゃないんだけどな。ただ単に、自分の地位に未だに慣れねえというか、な。口にするのはなんか恥ずかしい」
「あはは、お姉ちゃん、もう何年もやってるのに」
「そう言われてもな。ウルズエスはほぼ王族と同じ扱いだぞ。なれんわ」
・・・はい?王族と同じ?
「え、王、え?」
「うん、お前はそういう反応すると思った。つっても本当に王族じゃねえから、周りもそこまでガッチガチにかしこまった対応しなくていいけどな。けど、立場的にはそれぐらいの立ち位置だ」
「・・・えーと、当代のみの最高位貴族みたいな感じ?」
「まあ、そんな感じだな。そして国外ではどういう扱い受けるかわかるだろ?
それだけが正直面倒なんだよな。まあ、ウルズエスの名を理解してない一般人には別だが」
「貴族かぁ。でもイナイ領地とかないんだよね?」
「ねーな。あっても困る。経営できる自信がねぇ。あたしは創作バカだからな」
苦笑しながらイナイは言った。
けど、そうか、貴族か。
そういえば貴族の階級の名称とかしらねーな、俺。
「一応言っとくけど、お前も貴族になる機会あったからな?」
「へ?」
「騎士隊、誘われただろ。騎士ってお前が言ったような、当代貴族だぞ。階級的には下のほうだが」
・・・・ああ!そういえば誘われた誘われた。
まじか、よかった断っといて。
貴族とかなってもめんどくさいイメージしかない。
何よりも断ってなかったら気ままな旅はできなかっただろうな。
「・・・・・たぶんお母さんは・・・」
シガルちゃんがなにかぼそっとつぶやいたが、よく聞こえなかった。
「シガルちゃん、どしたの?」
「なんでもないよ?ちょっと思い出しての独り言」
にっこり笑って返事をするシガルちゃん。
だがそのあとちょっとムッとした顔になる。
「お兄ちゃん、そろそろそのシガル「ちゃん」やめて。おねえちゃんもハクも呼び捨てなんだから」
「あ、はい。ごめんなさい」
「あはは、なんで謝るの」
反射的に謝ってしまった。うん、おれもう、性格的に尻に敷かれるしかないのかもしれない。
「じゃあ、シガル」
「・・・・うん」
名前を呼ぶと、にやぁ~とした顔で顔を赤らめる。
ちゃんなくしただけだけど、違うものなのかね?
「ほら、いちゃついてないで歩く歩く。そういうのはあたし達だけの時にやろうな」
そう言われて兵士さんの方を見ると、チラチラとこっちの様子を伺いながら歩いていた。
・・・さすがにちょっとこれは恥ずかしいかも。
「あ、あはは、ご、ごめんね」
そのあとは本当に他愛もない話と、領主の人となりなんかを兵士さんに聞きながら歩いた。
聞いた限りでは悪い人ではないようだ。てことは門兵の話はしたらアイツアウトだな。
さて、そろそろ領主の館が見えてきた。結構でかいな。
樹海の家よりちょっと大きい。
いや、樹海の家が普通にでかすぎるんだな。さらに地下あるしな、あれ。
さてさてどんな人が出てくるかねぇ。
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