第63話竜と戦うそうです!

豪、と俺に巨大な拳が迫る。

拳っていうか前足か?いやそんなどうでもいいこと考えてる場合じゃない。

とにかく全力で駆けて避ける。

そこに炎が飛んでくる。ファイヤブレスですか?

いや違うな。口からだしてるけど、あれ魔術だ。

よく見ると魔力の流れが見える。


とりあえず相殺は無理だな。威力がありすぎる。

防御障壁を全力で貼り続けて、正面から受けずに受け流す方向で逃げる。

とにかく逃げる。

攻撃の規模が全てでかすぎて、反撃の暇がない。

逃げていたらいきなり大きな影が落ちる。

げ、上から降ってきやがる。

やばいやばいやばい。

全力強化で駆け抜け、飛びのき、ギリギリかわす。

その際に大きく口を開けて噛み付きにきたので、剣で思いっきりぶん殴って軌道を変える。

今日のはアルネさんの剣だ。


『あははははは!!いいぞ少年!強いぞ!強いぞ!!』


歯を思いっきり殴られたのに、気にするふうでもなく笑いながらまた向かってくる。

あー、無邪気に楽しんでるなー。

こっちめっちゃ必死なんだけどなー。


「タロウー、がんばれー」

「お兄ちゃーん!!がんばってー!!!」


あっはっは、と笑いながら気軽に応援するイナイと、かなり心配そうに声援を送るシガルちゃん。

イナイ、ちょっと軽すぎやしませんかね!


どうしてこうなったかっていうと、だいたいイナイのせい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『老、この子達が来た人間?』


いきなりこの場にやってきて、老と呼ばれる竜に体当りしてきた子竜が聞いてきた。


『そうだ。その一番小さい娘は違うから、怪我をさせんようにな』

『へえ、この二人はちゃんとあれに耐えたんだ!!』

『ああ。だが彼らは戦いに来たわけではない。アロネスの同胞で、我らを訪ねてきただけだ』

『えー・・・・、今度こそ私が戦いたかったのに』


老竜の言うことに心底がっかりしたというふうに地面にうつぶせになる子竜。

しかし可愛いな。中型犬ぐらいのサイズだ。

これがこのデカイ竜になるのか。

しかし、君が戦うのは少々無茶ではなかろうか。いっちゃなんだが、普通に大怪我しそうで怖い。

地面にゴロゴロと転がりながら『つまんないつまんないー!』と言っている。何この可愛いの。


『こらこら、皆が困っているではないか。それにお前はまだまだ子供だ。たかが100数年程度で退屈などというものではないぞ』


スケールでけー!

100年退屈に耐えろとか俺無理!絶対無理!

というか、あの子100歳以上なのか。年上じゃねーか。びっくりだよ。

見た目から普通に生まれてそんなに経ってないと思ったよ。


「では、タロウが相手になりましょう。彼はまだまだ未熟ですので、お互いにいい訓練になるでしょう」

『ふむ・・わかった。少年が相手をしてくれるようだ。気をつけてな』

『やった!ありがとう老!そこの少女も!』


わーいって文字が後ろに出そうなぐらい飛び上がって喜ぶ子竜。

まあ、いいけど、怪我させないように気を付けないとな。

成竜と戦うようなやな予感がしたけど、よかった。


「こちらで、ではないですよね?」

『ああ、少しむこうにいったところに開けた場所がある。我ら竜が戦っても問題ない広さだ。送ってあげよう』


そう言って老竜は転移魔術を展開する。

わあ、綺麗だ。

石碑の時も思ったけど、竜の使う魔術はとても綺麗だ。思わず見惚れる。


『少年、あれを見た目通りと思わぬようにな』


転移する直前に、そんな言葉を投げかけられたのだが、後の祭りである。

転移した場所は本当に開けた場所だった。それこそさっきの竜が戦っても大丈夫そうなぐらい広かった。

すげえな、この山。


『よくぞ来た人間!褒めてつかわす!老の威圧にも怯まず、我ら竜に挑みしその勇気、素晴らしいぞ!』


・・・ん?何が始まったの?

子竜が、地面でふんぞり返って俺に告げてきたんだが。


『こら!そこはお褒め頂き有り難き幸せって言わなきゃダメ!』


どうやら100歳の割に、中身は子供のようだ。

見た目に引っ張られるのかな?

とりあえずそのごっこ遊びには付き合ってあげよう。

可愛いし。


「お褒め頂き、有り難き幸せ」


注意されたそのままに言葉を繋ぐ。

若干棒読みだったのはしょうがない。


『うむ!ではその勇気がただの蛮勇でないことを我に示すがいい!!』


そう言って『ふふふ』というセリフが似合いそうな感じで、ゆっくりと上昇する。

・・あー、そうか、竜ってそうやって飛ぶのか。

なにかっていうと、翼で飛んでない。

いや、翼がなんか補助になってるのかもしれないけど、魔術で飛んでる。翼も動いてんだけど、サイズ的に無理だ。

体に比べ翼が小さいと思ったよ。魔術で飛ぶならそりゃそのサイズでもいいよね。


『我はこの山にて一番若き個体!我に勝てねば竜には全て勝てぬと思え!』


あー、なるほど、一番小さい子なのか。

・・・あれ?きの、せい、かな?

なんか、だんだん、大きく、なってない?


『――――――――――!!』


上空で明らかに巨大化した子竜が咆哮を上げる。

それだけでビリビリと大気が振動する。

ちょ、マジかよ、そんなん反則だろ。

老竜よりはましとはいえ、普通人間が相手できるサイズじゃないだろ。


『行くぞ少年!準備はいいか!まだなら待ってやるぞ!』


そう言って上空で待機してくれる子竜。

子?まあいいや、子竜はこちらの準備を待ってくれるとは、ほかの竜もそんなもんなのかな?

とりあえず剣を取り出し、魔術強化をかける。

とりあえず魔術のみで。


「どうぞ!」

『よし、では行くぞ!』


そう叫ぶと、巨体に似合わぬ速度で突っ込んでくる。

ちょ、無理、無理、そんなの食らったら死ぬって!

俺は仙術強化もかけて、念のため身体保護もかけて全力で走る。


『あっはっは!今のを避けるのか!すごいな!すごいな少年!』

「あっぶねーーーー!!」


やっばい、かすった。そして軽く吹き飛んだ。

強化と補助かけてなかったら大惨事だぞこれ。

現に上着が片側吹っ飛んでます。

どこの原始人だ状態です。


『まだまだ行くぞー!』


そう言って拳を振るってくる子竜


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


というわけです。

ホラ、イナイのせいだ。

・・・うん、ごめん、この子侮った俺が悪いよね。


ともかくそんなわけで大ピンチです。

これ勝てんのかなぁ。

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