第61話山に登ります!
「おーい、ちょっと休憩にするぞー。いい感じに広いところがある」
「ひい、ふう、りょ、りょーかい」
「お、お兄ちゃん、て、手を離さないでね」
先行するイナイに返事をして、シガルちゃんを引き上げる。
引き上げたあと、何とか座れるスペースに二人で腰を落とす。
「ふう、ふう、な、なんで、お姉ちゃん、あんなに、元気なの」
「強化、つかって、ないのにね、はぁ、はぁ」
「なんだ、シガルはともかく、タロウも息上がってんのか」
2時間も命綱無しのロッククライミングさせられればばてるって。
誰だ山登りとか言った奴。登ってるけど、途中から断崖絶壁だったじゃねーか。
「ご、ごめんね、わたしを、何回も、引き上げてたから」
「それぐらいは当然だ。それでもこの程度でへばってちゃ、リンにもミルカにも勝てるのは当分先だな」
「な、なんで、そうなる、の」
いや、勝てる気はさっぱりしないけども。
「体の使い方にまだ無駄があるんだよ。最効率を求めて動け。ミルカの強さの一番の秘密はそこだ。それぐらいわかってんだろ?」
「そりゃ、わかってる、けど、口で言うほど、簡単じゃないでしょ」
あー、やっと少しずつ息整ってきた。
「いつかミルカぶん殴ってやるんだろ?そんな弱音吐いてんじゃねーよ。
お前はあいつにとって唯一の後継者なんだぞ。あたしと同じ程度にはならねーと話にならねーぞ」
「うう、その高みが高すぎるんだよ・・・でも頑張るよ・・・。」
「おう、そうしてやれ。あいつらも、いつまで戦えるかわかんねーしな」
「え?」
いつまで戦えるかわからない?
今あんなに元気なのに、なんで。
俺の疑問にしょうがないなという感じでイナイは答える。
「・・・あいつらは女だ。特にリンは王妃になる。子供は絶対に孕まなきゃなんねぇ。そうなったら戦えない。そしてその時間は確実に体を戦士から遠ざける。鍛え直しはもちろんできるだろう。
けど、その繰り返しはいつか限界が来る。ずっと保つのと、落ちたのを戻すのでは労力が段違いだ」
そうか、そうだよな。子供、できたら訓練できないよな・・・。
イナイはそこで言葉を区切って、こっちを見る。
「だからあいつらは、それまでにお前が追いつくか、追い越すのを待ってる。セルは特にな」
正直、驚いた。あの人たちが俺をそこまで買っているということに。
「過大評価しすぎだと思うけどな」
「セルはそういう点では常に事実を見てるよ。そしてお前が自分を超えていけると本気で思ってる」
あの規格外に追いつくのかー。俺まだ転移魔術も使えないんだけどなぁ。
「ま、すぐに追いつけなんて無茶はいわねーけど、なるべく頑張ってやってくれ。ま、今でも十分お前が駆け足なのはわかってる」
そう言って、イナイはポンポンと頭を叩く。
「ありがと。がんばるよ」
「あたしも頑張るよ!」
「おう、そうだな。うかうかしてっとタロウよりシガルの方が強くなるかもな」
「笑えないぐらいありそうで怖い」
「あっはっはっは!」
いや、冗談抜きにこの子に追い抜かれる危機を感じている。気合を入れねば。
あのあと何回か休憩を挟みつつ、ほぼロッククライミング状態で登り、やっとの感じで祠を見つける。
「ここ、かな。山頂じゃないんだね」
「だな、おそらく、ここから山頂に飛ぶんじゃねえのかな・・・うわ、なんだこれ、わかんねぇ!」
「なに、どうしたのお姉ちゃん」
イナイの叫びにシガルちゃんが見に行く。俺もその後ろをついていく。
するとイナイが石碑らしきものの前で唸っていた。
「多分、この石碑に転移魔術が組み込まれてんだろうけど、全然わかんねぇ。これ人間が使うのと魔力の流れがまた違うぞ」
「んー?あ、ほんとだ。なんか転移魔術にしては魔力の色と絡み方が違う」
「ほんとだ!すっごい綺麗だね!」
俺とシガルちゃんは石碑をに仕込まれてる魔術の流れに見入る。
「おいまて、シガル、いまなんつった」
「え?綺麗だねって」
「まて、お前見えんの?」
「え、うん、半透明な青と赤と紫が絡んで巡ってる感じ」
「うっわ、まじかよ・・・・」
ん?見えるのがどうしたの?
セルエスさんだって見えてるんだし、普通でしょ?
もしかしてイナイ見えないの?
「・・・タロウの反応を見るに、セルのやつそれも話してなかったか。
普通見えねーんだよ。魔力操作で感じられるだけで、そんなに目ではっきりと認識できねーんだよ」
「え、うそ、俺最初の方でセルエスさんに魔力分かるようにしてもらってからずっと見えてるけど。あの頃に鬼を倒したのもそのおかげだし。魔力操作でわかる分だけだとざっくり過ぎてかわせない」
「はぁ、だからだよ、お前がセル超えれるってあいつが思ってるのは。魔力っていう本来目に見えない力を視覚として捉えられるぐらい高位で世界の力を体が受け入れてるってことだから、魔術師としての才能はかなりのものだ。
しかし、シガルも見えるのか。こりゃ本当にシガルの方が強くなってもおかしくねーぞ」
「お姉ちゃん見えないの?」
「みえねー。見えてたらさっきわかんねーなんて言わねぇ」
え、てことはもしかして初めてシガルちゃんを助けたときはしゃいでたのって、炎じゃなくて魔力を見てたからってこと?
あのバカ貴族も魔力量分かってなかったし、本来は当たり前には見えないのか。
今更衝撃の事実過ぎる。
「魔力の力が、力の流れが、混ぜられた現象そのものの力が目で見える。それは世界の理を目で見ている事に近しい。
つまり、それだけの力を使える才能が眠ってるってわけだ。鍛えなきゃ宝の持ち腐れだがな」
・・・・うーん、とりあえず魔術の才能がとってもあったってことでいいかな?
「タロウ、わかってないのにわかったふりするな。顔に出てんぞ」
「お兄ちゃん・・露骨すぎるよ・・・」
「ご、ごめん」
このすぐ顔に出るのどうにかなんないかな。
ん?なんか裏に文字が書かれてる。
「イナイ、石碑の裏になんか書いてる」
「どれどれ、ふむ」
イナイがふむふむと口にださずに読んでいると、シガルちゃんが口に出しながら読みだした。
「えーと?『我は竜神にその尊き戦いを捧げし勇あるものなり。我の力を持って竜のその心を満たさん』なにこれ――」
シガルちゃんが石碑の言葉を読み上げると祠から光が走る。
その光は俺たち三人を包み、どこかへ転移させた。
あまりの眩しさに目をつぶってしまい、状況がわからない。
恐る恐る目を開けると目の前に巨大な、とてつもなく巨大な黒竜が口から火をちらつかせながらこちらを睨んでいた。
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