第60話竜神様はお強い人がお好きなようです!

「なんだこの依頼」

「竜を倒して欲しいのかな?」

「いや、多分違うんじゃねえかな。それなら討伐して欲しいって依頼になるはずだし。なによりこれ、階級外依頼だろ」

「なにそれ?」


階級外?


「誰にでもできるが誰もやらないような仕事や、高階級にも達成できない可能性がある無茶な依頼は階級外依頼になるんだ」

「んー、じゃあ、これは無茶なほうかな?」

「まあ、そっちだろうが、竜をどうにかしたいって依頼ならもっと切羽詰まってると思うんだよなあ」


三人で『竜の試練を受ける勇敢なもの求む』という依頼を見て首をかしげる。


「そもそも、試練ってなんだ」

「俺たちに聞かれてもわからない」

「もしかしてお祭りの儀式とかかな!」

「祭りで竜と命がけの戦いするのか?」

「ち、ちがうかな」


うーん、わからない。


「あ、今気がついたけど、これ報酬が書いてないよ」


シガルちゃんが報酬のところを指さす。


「ほんとだ」

「ふむ、どういうこった、これ」


無報酬で命がけの戦いをする人間募集?

もっとわからなくなった。


「そこの兄ちゃんと、嬢ちゃん達、もしかしてそれをやるつもりなのかい?」


俺たちが頭をひねっていると、後ろからいかついおっちゃんが話しかけてきた。


「いえ、そういうわけではないんですが、なんだろうと思いまして」

「ああ、そうか、ならいいんだ」


俺の答えを聞いてホッとした感じで答えるおっちゃん。


「その依頼は、竜に挑む勇あるものが来ることを心待ちにしている竜神様の依頼さ」


竜からの依頼ですと?


「竜が組合に依頼するの?」


シガルちゃんが首をかしげながらおっちゃんに問う。


「ははは、本当に依頼に来たわけじゃないさ。ただ、大昔からの風習で、ずっとその依頼はこの国の組合には必ず貼られているのさ。

君らよその国から来たんだろ?うちの国じゃその依頼はずっと見慣れたものなんだよ。

竜神様は勇気ある、強いものが好きでね。竜神様が認めた者には竜神様の加護がつく。まあ、どこにでもある、その土地ならではの昔話さ」


なるほど、竜を祀る国ならではの風習ってとこか。


「でも、中には実際に行く人とかいるんじゃないですか?」

「ああ、たまにいるが、殆どは竜神様に会うと逃げ帰ってくる。

本当に竜神様のところで戦ったらしき奴が数年前にいたそうだが、そん時は山から咆哮が何度も轟いてたな。

空にも炎や雷が轟いてたしちょっとした天変地異みたいになっていた。

その時向かったのが白衣を着たちゃらい兄ちゃんって話だが、そんな奴が竜神様と戦えるとは思えんがなぁ」


うん、それ、間違いなくアロネスさんだ。何してんのあの人。

わかってたけど、やっぱりあの人も無茶苦茶だな。


「山を登れば竜神に会えるんですか?」

「いや、その途中に祠があってな。その祠には特殊な魔術が仕込まれているらしくてな。そこでとある言葉を言うと、竜神様のところに行けるのさ」


別のとこへ行けるということであれば、転移魔術なのかな?

でもどうやって発動させるんだろう。魔力が足れば飛べる的なものなのだろうか。


「おじさん、詳しいですね」

「そうだろう、なんたって、竜神様に会って、恐れて逃げ出した一人だからな」


あっはっはと笑いながら言う。なるほど、実際に行っちゃった人なのか。


「本当にいるんですね、竜神」

「まあ俺たちはそういう風習があるから竜神様と呼んで入るが、実際には神様自身がいるってわけじゃないさ。

でもここの竜は、竜神と呼ばれてもおかしくない竜だと俺は思ってる。なんせ若さで無謀なことした馬鹿な俺を見逃してくれたしな」


どうやら竜はむやみに戦闘したいわけではないようだ。

アロネスさん曰く、話のわかる竜ってことらしいけど、ちょっと信憑性が増した。


「会話してみようとかは思わなかったんですか?」

「いやー、それよりも恐怖が勝っちまってな。すぐにでもそこから逃げ出したいしか考えられなかったよ」


竜神っていうぐらいだし、それぐらい威圧感があったのかな。


「まあ、そういうわけで、若い子が無茶しないようにって警告しときたくてな。おせっかいだったかな?」


そう言って笑顔で離れていくおっちゃん。

心配してくれてたのか。いいおっちゃんだ


「いえ、心配してくれてありがとうございます」


お礼をいって、その場を離れる。


「しかし、竜が依頼か、面白いね」

「そうだね!竜の加護ってなんだろうね!」

「あんがい、この国の守護が、加護だったりしてな」


そうか、ありえなくはないかも。


「よし、いこう」

「うん、どこ行こうか」

「何言ってんだ、山に行くぞ」


あなたこそ何いってんですか?

さっきの人にも、門番にも言われたでしょう?


「イナイ?」

「大丈夫だよ。さっきの話だとアロネスが行ったのは間違いねーみたいだし」

「お、お姉ちゃん、本気?」

「大真面目だぜ?」


いかん、本気で行く気になっておられる。


「せめて、シガルちゃんは町で待っててもらおうよ」

「だめだ、それは逆に危ねぇ」

「わ、私はついてくよ!」


あ、シガルちゃんも置いてかれる気がないようだ。

うーん、一緒にいたほうが危なくないのか?

どうなんだろう。アロネスさんの言葉を信じるなら大丈夫なんだろうけど。


「ほれ、いくぞー」

「まじかー・・・」

「よし、いこうお兄ちゃん!」


ちょっとワクワクしながら歩くイナイと、気合を入れて歩き出すシガルちゃんに、うへーっと言いながらついて行く。

大丈夫かな・・・。

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