第59話会議室は踊りますか?

「陛下、準備が整いました」

「そうか、今行く」


呼びに来た部下、キャラグラの言葉に頷き、立ち上がる。


「全員集まったのか?」

「はい、全員です」

「そうか、4日で全員か。早いな」

「これも、ステル様とアロネス様のおかげでしょう」

「そうだな。あのふたりには感謝してもしきれん」


ウムル王の名で出した、国内領主を集めた緊急会議の報を送って、4日。

たった4日で全員が王都に集まった。

間違いなく、転移装置の存在のおかげだ。


「ロウ、リファイン、行こうか」

「はっ」

「はっ」


この会議の間の護衛として、ロウとリファインは片時も私のそばを離れない。

あの連中が何を仕掛けてくるかわからないから、とのことだ。

あの程度の連中ならどっちかいれば問題ないと思うけどな。


「ヘルゾはこれそうか?」

「はい、もう会場におられます。他の方々もすでに」

「私待ちだったのか。それはすまないことをした」


よんでおいてくれれば、会議室のそばで待ってたのに。


「いえ、陛下をあの場でお待たせするわけにはいきません。皆揃ってから陛下に来ていただくのは当然です」

「そうか」


この人、昔は他国のお偉いさんだった。

今ではロウと並んで私の「王様」の教師みたいな感じになっているので、こういう会話が多々ある。

ヘルゾや、数人の側近も、他国で行政に関わっていた人間だ。

戦時中に助けられた人間だったが、彼らは自国を立ち直す気力はなかった。

だがその能力を腐らせるのはもったいないと思い、当時から協力を呼びかけ、今もよく働いてくれている。

今ではウムルにいなくてはならない者達だ。


ちなみにヘルゾは元王様だったりする。

民を守れなかった王など、もはや王に非ずっていって、私の目の前で自害しようとしたのが懐かしい。

その場にいたセルが、内臓まで達していた完全な致命傷をすぐ治して、ひっぱたいたっけ。

彼以外の王族は皆殺されていただけに、助けるのをためらった私とは大違いだ。


絶対私よりセルの方が王には向いている。うん。

絶対やってくれないだろうけど。


「陛下」


キャラグラは私の先を歩き、会議室の扉を開ける。


「陛下のご来場である!」


ロウが声を張り上げる。

それとともに会議室にいた者たちが皆跪く。

正直これ恥ずかしいし、何年たってもなれない。

しかしこの人数が集まると壮観だな。


「面を上げよ」


私の言葉に皆が立ち上がる。


「皆、よくこの短期間で集まってくれた。感謝する。早速本題に入りたいので席について欲しい」


ロウとキャラグラが言葉には出さないが若干不満そうな雰囲気を出す。

言い方が不必要に優しかったとか、また後で言われるんだろうなぁ。


「今回集まってもらったのは、イナイ・ステルのことに関してだ。彼女が賊に襲われた」


その言葉に会場がざわめく。

でも私は見逃さない。その中に口元がゆがんでいる男が居ることを。


「賊はステルを拘束し、身代金を要求した。都市を一から作れるほどの額をな」


要求額にさらにざわめきが大きくなる。

それはそうだ。いくらウムルが大国だといっても、都市一個を作れる額と個人を交換で要求するなど、正気とは思えない。


「王よ!その要求を飲まれるのですか!?」


その疑問は当然だろう。

私の答えは決まっている。


「飲まない。飲むわけがない。1個人と引き換えにそんなものを飲めばウムルは国ではなくなる」


そんな甘い顔を見せれば、たちまち国は呑み込まれる。

この世界はそんなに優しくない。

昔の小国の頃ならばまだ良かった。だがウムルは他国には渡せないものが沢山ある。

他国が欲しがっているものが沢山ある。

そんな要求を飲めば、今後ウムルを甘く見た国が同じことをしてくる可能性は大いに有り得る。


「ですが、ステル様はこの国にはなくてはならぬお方。みすてられるのですか?」


見捨てないさ。本当にそうなったら全力で助けに行く。

もちろん表向きにはやらないが、リファイン達にすぐに動いてもらう。

けど、ここでそれを言う必要はない。

それに、どの口でそれを言うのか。流石の私も腹が立つな。張本人に言われると。


「では貴公はどうするべきだと思うね?」

「せめて、額を現実的な金額に落とすように交渉し、ステル様はお助けするべきかと」


そうだな、そうしないとお前たちの懐に金が入ってこないものな。


「だめだ」

「なぜですか、王よ!」


私の否定の言葉に、本当にイナイ姉さんの身を案じている人も、怒り、焦り、失望。そんな様々な表情を見せる。


「イナイ・ステルが決してそれを望まないからだ。彼女は絶対に望まない。あの人はそういう人だ」


そう、もし本当にそうなったら、イナイ姉さんは絶対に交渉もするな。話も聞くな。私ごとやれ。

絶対そう言う。

私の真剣な言葉に、イナイ姉さんを見てついてきた領主たちは、その言葉が真実とわかっているだけに、何も言わない。

悔しそうに、唇を噛み締めて、拳を握り締めている。


「で、ですが!彼女がいなくなれば我が国の発展は著しく落ちますぞ!」


そうだな。彼女の存在は大きい。

この間も、とうとう空を飛ぶ技工具の原案を持ってきたし。


「そう、か。貴公はそこまでステルを助けたいか」

「もちろんでございます!」


我慢我慢。すっごい腹が立つけど我慢。


「ならば問題はない」


私がそう言うと、男はきょとんとした顔になる。

私は会議場の端に視線を向けると、アロネスがそこにいる。

アロネスは私の視線に気がつくとコクンと首を縦に振る。


「実行犯ではなく、その裏の真犯人にあたりがついているからだ」


そう私が言うと、アロネスがそこから会議場壁に映像を映す。

それはイナイ姉さんの襲撃の会議。

ここにいる、彼らの会議の映像だ。

その映像を見て、その道具と、その内容、両方に皆が驚く。


「静かにせよ!王が説明なされる!」


ロウが一喝すると静かになる。犯人の男どもは血の気が引いて震えている。


「イナイ・ステルが、ウムルにとってかけがえのない人間だということを知っている貴公に、どういうことか、説明を頂けるかな?」


優しい声音で話しかける。これはわざとだけどね。


「お、王よ、こ、これは」

「うん?映像のことか?これはイナイ・ステルの新しい技工具だ。内容は、参加している貴公の方がよく知っているのではないか?」

「ひっ」


優しい声で話してるにも関わらず、男は悲鳴を上げる。

逆に怖いか。私もセルが笑って怒っているときは怖い。


「ご、誤解でございます、王よ」

「ほう?」

「我々はそういった企みを口にしていても、実行には移しておりませぬ」

「ほう、移さなければこのようなことを話していいと?」

「い、いえ、それは」

「・・・その方たちも同じか?」


映像にあるほかの連中にも声をかける。

その言葉に反応はない。


「そう、か。素直に言うならば、貴族位の剥奪だけで済まそうと思っていたのだがな。アロネス!連れてこい!」


私が言うと、アロネスはイナイを襲った賊を転移で会議室に連れてくる。


「なっ!」


賊たちを見て、連中はさらに青ざめる。

その人数を一瞬で連れてきたアロネスの魔術の力量にも恐れたのだろう。


「イナイ・ステルの襲撃は間違いなくあった。だがイナイ・ステルはそれを撃退、彼らを捕縛した。誰とつながって、何が目的かも全部ちゃんと吐いてくれたよ。彼らも死にたくないらしいからな。

お前たちはイナイという英雄の力を舐めた。この程度の人間に負けるならば彼女は英雄などとは呼ばれていない」


イナイという人間に手を出したらどうなるかを丁寧にアロネスが説明したら、皆命乞いをした。

彼らはイナイがウムルという国にとって、どれだけ大物なのかをイマイチ理解してなかったようだ。

彼らは犯罪者になるのは避けられないが、今回はこちらの落ち度もあるので、正直に話した分少しだけ甘い罪状にした。

ロウにはまた、甘いって怒られたけど。


「お前たち、もはや言い逃れも、逃亡もできると思うなよ。

この会議は最初から、キサマらをここに集め、逃げられないようにするためのものだ」


そう告げると、諦めたようにうなだれるもの、最後まで騒ぎ抵抗するもの、自己逃避に陥るもの。

様々だったが、全員待機していた騎士により捕縛される。


「キサマらは死罪になれると思うな。犯罪者として、労働力として、生きていけ」


身内を、イナイ姉さんを襲った怒りを込めて宣言する。


「皆の者!此度は皆も仕事があるだろうに騒がせて済まなかった!イナイ・ステルは無事だ!今後彼らが治めていた領地のこともあるゆえ、続けてその会議をしたい!」


イナイが無事と聞いて、安堵の顔をする領主たち。特にさきほど失望の顔を向けていた者は涙すら流している。

だがこのあとが面倒なんだ。

情報が漏れるのを防ぐために、奴らを全員逃がさないために後釜の話をしてなかったからだ。


うう、また仕事が増えた・・・・。

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