第58話国境の街で組合に行きます!

「自国の身分証か、労働組合の組合証をだせ。ないなら金貨で入れてやる」


ポヘタの国境の町の門番は横柄にそう言った。


「金貨ですか・・・。身分証は持っていますが、いくらなんでもそれは暴利ではありませんか?」

「今時組合にも登録しておらず、身分証もない人間などならず者だ。嫌なら入れないだけだ」


あくまで上からな感じだ。ウムルの人たちがいかに丁寧かよくわかる。

まあ、あの人たちも犯罪者とかには容赦なかったけど。


「ああ、それと山には登るなよ。別に死んでもいいなら登ってもいいが、責任はもたん」

「何かあるんですか?」

「竜神様がおられるからな。登って挑むのは構わんが、手加減してくれるとは限らん。死ぬ覚悟がないなら近寄るな」


鼻で笑うような感じで説明する門番。


「挑む?」

「大昔の儀式だよ。竜神に挑み、認められれば加護を与えられるってな。

まあ、うちの国はそれをあながち馬鹿にできない。竜神がいるおかげで攻めて来る国がいないんだからな。

とはいえ、近年挑んだ話はきかんがな。いや、一人不明なのがいたか?」


竜に挑んで、認められると加護がもらえるとか、とってもファンタジーだ。

でも魔術がある世界だし、ありえなくはない気がする。

しかし、竜神か。単に崇めてるだけで本当の神様ってわけじゃないのかな?

でもそっちより、不明の人が気になる。


「もういいか?とっとと身分証出して欲しいんだが?」

「あ、すみません」


とりあえず身分証を出す。

同じようにシガルちゃんも出して確認される。

そしてイナイが身分証を出すと門番は一瞬固まった。


「こ、これは、な、何用ですかな?あなたのような方が来ると連絡は受けておりませんが」

「今回は完全に私用ですので、お気になさらず」

「そ、そうですか、で、できれば先程の態度はご内密にして頂けますと・・・」

「ええ、私用ですから、特に陛下にご挨拶に行くわけでも、領主にご挨拶に行くわけでもありませんから、言う機会はありませんよ。特に金貨のこととか、ね?」


イナイがウムルのお偉いさんだって知ってるんだ、この門番。

んで、この横柄な態度は本来ダメなのか、もしくはイナイ相手にこの態度がダメなのかどっちかなのかな?

まあ、もっと問題ありそうな部分があったけど。

金貨って言葉にかなりビクッとしてた。本来はいくらなんだか。


「ど、どうぞ、ごゆっくりしていって下さい」

「ええ、ありがとう。あなたもお仕事頑張ってくださいね」


ニッコリと、考えの読めない笑顔で門番に言って入っていくイナイ。

俺たちもそれに続いて歩いていく。

門番は脂汗を流してるようだったが、自業自得でしょう。








「なんつーか、『ザ・ファンタジーの町』って感じだ!」

「その『ザ・ファンタジーノマチ』ってなんだ?」

「お兄ちゃんたまによくわからない言葉で喋るよね」


日本語がたまに出るのはしょうがないと思う。だって長年慣れ親しんだ言葉ですもの。


「まあ、俺の地元じゃ見れなかった光景ってことさ」

「ふーん。こっちじゃこんなの珍しくもなんともないがな」

「物心着いた時から王都に住んでるから、あたしもこういう町並みは新鮮だよ?」


ウムル王都の町並みは、割と現代の街に近いレベルで発展していた。

なんかコンクリみたいなもので固められた家や、木造とは言え普通に3階建ての家とかも結構見かけた。

舗装も、アスファルトに似たような舗装がされていて歩きやすかった。

なので、アレが普通なのかと思っていた。


この街は違う。基本木造だ。

それもファンタジーによくありそうな味のある木造建築の一階建てが並んでいる。

舗装はメイン通りは石畳だが、普通の通りは土を固めただけの所が多い。

まさにファンタジーって感じの街に来た感じだ。


・・・町並みを見ていてふと思った。

俺、もし最初に来たところがこういう所だったらどうなってただろう?

訳も分からずのたれ死んでたのではなかろうか。

魔物もいるような世界で、右往左往してるだけだったろう。

そう思うとやっぱり、リンさんに感謝だなぁ。


そんな事を思いつつ、興味津々で、街を歩く俺とシガルちゃん。

後は完全に子供ふたりの保護者の顔のイナイであった。


「そういや、組合いってみるか?」

「え、ここにもあるの?」

「国境の町には基本あるぞ。うちの国も門の近くの街にある。普通はこういう街が検問替わりだから、うちの国が特殊なんだよな」

「へー、ウムルの組合にもそのうち行ってみたいな。存在知らなかったから」

「行ったことあるけど、なんか退屈そーだったよ。焦げ付き依頼もないやーっていってる人とかいたよ」

「まあ、王都は格安の何でも屋もあるからな。もはや組合に依頼すんのはケチだけだ。

けど組合を置かない訳にはいかないから、組合の職員には悪いことをしていると思うよ。やりがいねーよなぁ、あそこ。

まあ、唯一の救いは素材の取引所としてはある程度機能してることかな」


なんとも悲しい。でも素材か。

あれ?もしかして樹海の魔物ってなんか取引できたりしてたのかな?


「イナイ、樹海の魔物って素材になったりするの?」

「ああ、するな。肉も食料としてはそこそこいい値段になるな。あたしたちはその資金を復興のために回してたから、自身の資産ってそこまでないんだよな、実は」

「そうなの?」

「おう、基本的に国に支給された金以外は貯めてないな。とはいえ大半手つかずだからそこそこあるけど、本当にそこそこだ。あ、セルは例外な」


セルエスさんは違うのか。そっか、王族だもんな。


「あとは捕まえ難い野生動物とか、他国の動物や魔物とかも値段が良かったりするな」


それは、まあ。自国で手に入らないものを持ってきてるわけですから。


「で、どうする?」

「「いく!」」

「はいはい」


声のあった俺とシガルちゃんにやれやれといった感じで返事をするイナイ。

うん、やっぱ子供ふたりと保護者だね、これ。








自由労働組合ポヘタ西国境支部と書かれた建物を見つける。

支部か。本部どこなんだろ。


この建物に出入りする人はとても様々だ。

おそらくこの町の人や、明らかに荒くれ者って感じの人もいるし、怪しげな人や、騎士っぽい感じの人もいる。

ああ、うん、これだよこれ。

こういうの見たかった。

もしかしたら名前が違うだけで、商人ギルドみたいなのとか、盗賊ギルドみたいなのもあるのかな・・・。


「おい、何ぼーっとしてんだ。はいんぞ」

「あ、ごめん」

「ごめんなさい、行きます!」


イナイに声をかけられ慌てて追いかける俺とシガルちゃん。

中に入ると、複数の受付と、ボードが並んでいた。


「あっちが依頼をする受付だな。こっちが受ける方。んで、あっちが登録や、素材ひき渡しする方だな。報酬は小さいならそのままそこで、大きいなら向こうになるな」


イナイが入ってすぐ説明をしてくれる。


「わかるの?」

「これでも行政に多少は関わる身ですから。組合の営業所の基本配置は知っております」


ステル女史モードで背筋を伸ばし、胸に手を当ててドヤ顔で言うイナイ。


「あはは!お姉ちゃん可愛い!」

「可愛いってなんだ可愛いって!」

「ごめん、俺もそう思った」

「なんだとー!」


だって、今のドヤ顔は、ねぇ。


「くそう・・・・」

「ごめん、ごめん」

「お姉ちゃん。お姉ちゃんみたいにずっと可愛いのはある意味ずるいんだよ?」

「・・・・・・そう言う意見もわかっちゃいるが、あたしは大きくなりたかった」

「あたしが代わりになるよ!」

「解決になってねえ!」


なんだろう、このコント。微笑ましい。


「とりあえず、登録してくる」

「やっぱ、すんのか」

「だって面白そうでしょ?」

「んー、まあ、任せる。あたしはできねえから待っとくな。シガルはどうする?」


あ、イナイできないんだ。ウムルで決まりでもあるのかな?


「あたしも登録したい!」

「じゃあ、一緒に行こうか」

「うん!」

「はいはい、お揃いで作ってきな」

「ち、ちが、そういうんじゃないよ!」

「あっはっは」


さっきの仕返しと言わんばかりにシガルちゃんをからかって端っこに置かれてる椅子に座りに行くイナイ。


「ちがうからね?」


顔を真っ赤にしながら上目遣いで言うシガルちゃん。否定すればするほどからかわれるということを言わない俺もひどいかも知れない。





「組合登録ですね。では、身分証はお持ちですか?」

「はい、持ってます」

「あたしも持ってます」

「では、ご提示お願いできますか?」


受付のお姉さんに言われるがまま身分証を見せる。


「はい、では、これを基に、組合証を作らせていただきます」


そう言って、サラサラとメモをしていくお姉さん。

メモし終わると身分証を返してくれる。


「組合証をお渡しする前にいくつかご説明しておきます。

まず、組合証はそれ自体も身分証となります。ただ、組合が世界規模で展開する、国家の枠組みを超えた機関として認めている国の中だけの話になります。

亜人たちの国のように、組合がない国では通用しませんのでお気をつけください」


亜人、か。

北の国は組合はないのか。

やっぱ国交とかないのかなー。


「そして、組合証には階級が存在します。最低が10級。最高が1級となっております」


ふむ、階級があるんだ。

まあ、よくある話か。


「階級が低い場合、階級の高い依頼は受けられないわけではないですが、2級以上、上の依頼を受けて達成できなかった場合の違約金が5倍になります」


5倍はでかいな。でもまあ、実力相応じゃない依頼を受けるってわけだし。


「階級を上げるには、自身の階級より、ひとつ上の階級の依頼を複数回、危なげなくこなせて階級が上がります」


ひとつ上、ね。


「例外として余りにも上の階級を達成した場合も上がる場合がありますが、おすすめはしません」


まあ、うん、なんとなくわかるよ。

無茶して死ぬってことでしょ。明確には言ってないけど。


「そして階級が上がると、階級が下の依頼をした場合報酬が下がります。ですが依頼が焦げ付きかけている場合に限っては、その限りではありません。未達成時の違約金も半額免除されます」


つまり期限切れの場合は誰でもいいってことか。


「ご質問はありますか?」

「えーと、階級が上がる不利益みたいなものってあるんですかね」

「高階級の方は、指名が入ったりしますので、それをお受けしていただくのが不利益といえば不利益ですね」

「そうなんですか?」

「ええ、指名依頼の場合、指名されたご本人の居場所がわからない場合は仕方ないですが、わかっている場合受けられないと階級が下がる場合があります。

ただ、内容にもよりますので、一概に断ったら下がるというわけではありません」


なるほど、指名の場合は半強制ってわけだ。


「逆に階級が上がる利点なんかはあります?」

「組合にとっては優秀な労働力ですから、こちらでやれる限りの融通を利かせるというぐらいでしょうか」

「なるほど」


まあ、それもよっぽど上の方にならないとダメそうな予感。


「ご質問は以上でしょうか?ならあちらでお待ちください。組合証ができたらお呼びしますので」

「はい、お願いします」


俺たちはすぐそばの座椅子に座って待つ。

ほどなくして呼ばれ、10級と書かれた組合証を受け取り、いつの間にか依頼を眺めてたイナイのところに行く。


「お待たせ、イナイ」

「イナイお姉ちゃん、何見てるの?」

「おう、おかえり。いやな、面白いものがあるなと思って」


そう言ってイナイが指を差した依頼はこう書かれていた。


『竜の試練を受ける勇敢なもの求む』

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