第57話疑問を解消します!
「ところで聞きたいことがあるんだけどいいかな」
「なんだ?」
ただいまイナイの運転により、ジープで街道を走っております。
結構まったり速度だ。体感的に30~40キロぐらいかな?
メーターがついてないので速度がわからない。
ていうか今更だけど、速度の基準とかあんのかね?
まあ、ともかく先の疑問を解消しておこう。
「あいつら国が訴えるとか言ってたけど、向こうの国ってそんなに強い国なの?」
「うんや、ちょっとした事情があるのさ」
「事情?」
シガルちゃんが首をかしげる。
「アロネスがこっち来たって話を門でしてたのは覚えてるか?」
「ああ、うん」
「あいつがこっち来た時に、こっちの竜と約束したらしーんだよ。
この地を武力を持って侵略することはないって。国にも伝えてるから、こっちが攻めて来ねえと知った上での強気な発言だろ」
「ネーレス様そんなことまでしてたの!?」
ネーレス?
・・・・ああ、アロネスさんの家名か。忘れてた。
「ここの竜は話のわかる連中だってあいつはいってたけど、どうかな。
まあ、それは置いとくとして、それを曲解した連中が何人かいるみたいだな。あたしたちが竜にビビって、攻めてこないってな。
あと、あいつらはあたしたちを低く見積りすぎてた。金で雇われた上に、都合のいい情報しか貰ってなかったみたいだからな。
あたしが捏造した証人の言葉程度で立場が揺らぐような人間じゃない、ってのがわかってなかったしな」
「なるほど、結局のところたとえ証人がいてもいなくても、どっちにみち結末は一緒だったわけだ」
「ただ、今回少し事情があってな。殺しちまうと面倒になった可能性があるのは確かだ」
ほむ、そうなのか。まあ、その事情をぼかしたあたり、話してくれないんだろうな。
それに証人がいたなら、あいつらが集団で迫ってきているのは明白。そもそも先に攻撃してきたし、武装もしてた。
こっちは丸腰で、しかも女性が二人いる。だが、その二人にかなわない程度の人間しかいなかった。
最初から詰んでるな。
「あと、みっつぐらいあるんだけど、まだいい?」
「いいぞー、まだ向こうの国までは少しあるからな」
結構広いな、国境地。
「転移装置?だっけ?あれの話」
「ああ、忘れてた。国内の街には必ず一個は転移装置が設置してあってな。その装置から、別の装置へいけるんだ」
「ああ、それで王都内も移動できるんだ」
「王都は広いからな。数がそこそこある。ただこれ問題があってな」
「問題?」
「あ、しってる。距離によって必要魔力がとんでもないことになるんだよね」
シガルちゃんが俺の疑問に答える。
距離しだいなのか。なんか面白いな。
「そ、だから辺境の地から王都に来ようとすると、相当の魔力がいる。もちろん装置にその魔力を充填できる人間が必要になる。
それがセルみたいな人間なら簡単だが、そんな人間そうそういない。なにより魔力操作が上手いなら、国の警備や、商人の護衛といった、もっと金になる仕事に就く。装置に魔力を入れるだけなら、魔力さえあれば誰でもできるからな」
「でも、魔術師じゃなかったら、効率悪くてたいして補充できないでしょ」
「そうだな。そして辺境では人自体が少ない。となると魔力を補充するにも、そんな微細な魔力操作ができる人間がいるわけがなく、数人がかりになる。そして一日仕事でやっと一回動かせるのが辺境の現状だろう。
もっと動かすならそれ相応の人間を連れてくる必要がある。となるとそこそこの金が要る」
「ああ、それでなかなか家族に会いにいけない兵士さんが出来上がると」
「そういう事だな。この辺、うまいこと魔術師隊にやってもらうか、予算出してもらうか、どっちかしかねえな。
装置の効率を上げればいいんだろうけど、なかなか難しいんだよな。これが働き口になってるところもあるし」
そうか、雇用の観点からも、変にいじれない状態になってるのか
「難しいことだらけだ。ほんと。一対一で作った時と同じぐらいの効率で回せればいいんだけど、多数の地点を切り替えるようにすると、どうしてもうまくいかないんだよなぁ」
ふむ、ひとつ同士なら効率はいいのか・・・。
「ねえ、イナイ」
「ん?」
「中継地点作ったらダメなの?」
「・・・中継地点?」
俺の考えをイナイに伝える。
単一同士なら効率が悪くないというなら、単一同士の中継地点を作ればいいのではないかという単純な話だ。
辺境地から直接王都や、別の街に行けるようにではなく、辺境から中継地に一度飛んで、また中継地点と王都専用の転移装置を使う。
もちろんその中継地には相当の数の装置を置くことになると思うからだだっ広い土地が必要になると思う。
今から数を用意しなきゃいけないっていう点もあるし、さっきの雇用の件もどうするのかって話になる。
俺の案を聞いてイナイはきゅっと車を止める。
あ、今更だけど、この車、アクセルとブレーキがハンドルについてる。
バイクのブレーキみたいなところの左がアクセル、右がブレーキらしい。今イナイは思いっきり右ハンドルを握っていた。
「うわぁ!」
「きゃ!」
俺とシガルちゃんが急停止に体がつんのめる。
一応シートベルトっぽいものがあるので無事だ。
「そうか、となると、その地点の人員の雇用は必ずできるから、そこまで激的には変わらない。だが今より転移装置そのものに必要な数は減るだろうから費用も落ちるな。
気軽に街に移動できることになれば辺境の街も流通が増えるし、向こうから街へも行ける。そうなれば仕事も必然的に増えるか?
中継地自体も発展する可能性があるな・・・・やってみる価値はあるか」
イナイは運転をやめ、ブツブツと考えを口に出している。
こういうところ見ると、国のお偉いさんなんだなーって思うな。
「っと、すまん。とりあえずこの話使わせてもらっていいか?こんど通してみる」
「いいよいいよ、気にしないで」
「ありがとな」
「ふわぁ・・・・・」
俺たちの会話をシガルちゃんはなんかきらきらした目で見つめていた。
「どしたの?」
「二人共すごいなぁって思って。いまのって国の行政に関わることだよね?」
「・・・・そう、なるの?」
「結果的にそうなるな」
俺は首をひねりながら聞くと、イナイは頷きながら答える。
「お兄ちゃんと出会ってから、それまでじゃ考えられないことばかりだなぁ。
あれがなかったら私こんなに頑張れてなかったし、こんなに知らないことに触れる機会もなかったんだろうなぁ。
あの時助けに来てくれたのがお兄ちゃんで本当に良かった。ありがとうお兄ちゃん」
そう、嬉しそうに言うシガルちゃん。
俺はなんと答えていいのか困り、照れながらシガルちゃんの頭を撫でる。
そんな俺たちを見て、苦笑しつつ車を再度走らせるイナイだった。
「んで?ほか二つはなんだ?」
「あ、そうそう冒険者組合みたいなのってあるのかなって」
「あん?なんだそりゃ」
ファンタジーの定番冒険者ギルドはないのか。
とりあえずイナイに内容を説明してみる。
「ああ、自由労働組合か。」
なんですかその日雇労働者の登録してそうな名前の組合。
「ひと所に留まらず、自由に街を移動しながら生きてる人間に仕事を振る組織だろ?あるよ。うちの国にも。ただうちの国ではだんだんと廃れてるな」
「そうなの?なんで?」
「うちの国は、専門職の店が多く有るからな。そして専門でやってると必要な人間は自分たちで雇うことが多い。結果不確定な人間に頼む必要はなくなるのさ。
国が安定してるおかげだな、これは。基本僻地にも転移装置で行けるようになってるから、有事の嘆願もそう時間かからず王都に届くからこそだ」
危険な魔物の討伐は王国の騎士や兵士がやる。商人が取り扱う毛皮や肉などの狩りも、商人自身が雇っている。もしくは狩り専門のお店があるので、難しいものはそれに頼む。街の雑務も、雑務専門のお店がある。個人的な護衛や警備も、護衛会社がある。
そうなると、フリーでやってくのは厳しい。よっぽど一般人には手を出せない仕事でもやらないとガッツリは稼げなくなる。
そしてそれが危険ならそれこそ兵士、騎士さらにイナイ達の出番に即なるから、本格的に仕事が無くなっていく。
切ないな、この異世界。
「ただ、これはウチだけだ。まあ、技術提供したいくつかの国は少し似たような状況の街もあるが、国内全土でこの状態なのはウチだけだな」
なんともすごいことだ。そこの下地は間違いなく転移装置の存在があるからだろう。
たとえどれだけ離れていようと、国内ならば簡単に人員を送れるんだから。
でもやっぱ、目の届いてないところもあるよ、とイナイは締めくくった。
「あとはさ、イナイいつ鍛錬してたの?いっつも家にいたよね?」
「・・・あたしの家事を見ててそれが言えるのか」
イナイの家事を思い出す。この小柄な体で大量の洗濯物を運んだり、食材を運んだり、大鍋を振ったり、掃除にしてもひと仕事だ。
ぶっちゃけ筋力維持という意味なら、余裕でできるな。うん。
そのうえイナイは重い金具や、工具を振り回してる。
魔術で補助している時もあるが、基本的には自力でやっている。
「・・うん、力つくね」
「だろう。真剣に家事やったら筋肉も体力もつくぞ。いいかどうかは別にしてな」
ただそれは、あの家の家事だからというのもあると思うなぁ、というのは言わないでおいた。
だって、工場の整理とか、鍛冶場の掃除、整備もやってんだもん。
そりゃ、冷静に考えれば、下手な鍛錬より筋力つくわ。
「たまに夜走ったりもしてたよ。流石に全くやらずだと持久力が落ちるからな」
なるほど、みんなが寝た時間にやってたのか。
ちょっとスッキリ。
「さて、そろそろ向こうの国につくから、降りて徒歩で行くぞ」
この車のままだと騒ぎになりかねないそうだ。
「まあ、騒ぎになっても問題はないんだけどな。めんどくさいだけで」
あ、そすか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます