第56話襲撃者の処理です!
「終わったよ、イナイ」
「ん、お疲れ」
「お疲れ様お兄ちゃん、はい」
男どもを全員縛り終えた俺にお茶を出してくれるシガルちゃん。
「ありがとう」
それに礼を言って受け取る。
うまい。
「んで、こいつらどうすんの?」
「ま、とりあえずは起こすか」
そう言ってイナイは男たちを魔術で強制的に覚醒させる。
精神異常系の魔術で無理やり正常に戻した感じだ。気持ち悪そう。
「げっほげっほ、な、なんだ!何が起こった!うえええ!!」
予想通り気持ち悪そうに一人起きだし、同じように全員が起きる。
あれ、無理やりぐっちゃぐちゃに混ぜたあと元の形に作り替える感じのひどいやり方だよなー。
わざとだろうけど。
「起きたか、なら質問に答えてもらう。率直に言うぞ。お前たちは誰の指示で動いている」
男たちは答えない。
「そ、か。まあ別にいい。答えようが答えまいがお前たちの結末は決まっている」
その言葉に男の一人が口を開く。
「何言ってやがる。ここは国と国を分かつ国境地。ここでの出来事をお前が裁く権利なんかねえだろ」
国境地。
国と国を完全に隣接させず、ある程度の中立地域を作るという約束のもとに作られた地域。
もちろんそれらが存在しない国もあるが、基本的にそういった国は友好国同士だけだ。
「そうだな、ここで起きたことはあたしには裁けない。国内では権利を持ってるが、ここではないな」
「はっ、よくわかってんじゃねえか。じゃあ、とっと連絡を取りな」
「・・・・イナイ、どういうこと?」
俺が疑問を持つと、男の一人がべらべらと教えてくれた。
「この国境地で起きた出来事を裁けるのは、お互いの国が決め、報告した人間同士だけで、犯罪者は自国の法で裁かれる。だからこのネーチャンに俺たちを裁く権利はねーのさ。
いや、へたすりゃこのネーチャンが俺たちへの暴行で訴えられるかもな!なんせ目撃者はいねえからな!それが嫌ならとっとと俺たちの言うことを聞きな!
いくら英雄様って言っても、そんな話になれば名声は地に落ちるだろうしな!護衛もロクに引き連れないで、個人で外に出たのがアダになったんだよ!」
国内にコネか、もしくは賄賂でもやってんのか、男は自信満々に吐き捨てる。
襲って成功すればよし、失敗すればそれもよし、ってわけか。
目撃者はいないって言っているが、これ捏造する気まんまんだろ。
「イナイ、どうするの?」
「あん?簡単だろ、こうする」
イナイはそう言って大規模な転移魔術を実行し始めた。
「え、ちょ、なにを」
「おい、馬鹿ども、いいことを教えてやる。目撃者がいねえことなんざ、はなっからわかってたし、目撃者がいねえのが好都合なのはこっちもなんだよ」
「なに!?」
「いいか、この襲撃はウムル国内で起きた。お前たちは不法入国。そしてあたしはお前たちを正当防衛で撃退したってことだよ!」
その言葉とともに俺たち3人と男たちは転移した。
着いた場所は、国境門。ウムル王国側に俺たちは現れる。
「な、なんだ!」
「ステル様!?」
「て、転移魔術!!」
「この人数をお一人で送ってきたのか!?」
門の兵士さん大混乱。
とりあえずイナイが事情を説明する。
「ではこの者らはこちらで処理致します」
「はい、任せます。連絡、ありがとうございました」
「いえ、ステル様がご無事で何よりです。あれは奴らの襲撃の情報だったんですね。そして英雄の力の一端を見せて頂けて幸せです!」
「そ、そうですか」
兵士さんはさっきの転移魔術にまだ興奮している。イナイは若干引いてるけどお構いなしだ。
あの時イナイ腕輪使ってなかったよな。素であの人数を転移させられるのか。
やっぱり魔術師としてもイナイにまだ追いつけていないんだな、俺。
つーか、襲撃の情報?そんなの貰ってたの?
そこに捕縛されている男たちが喚く。
「ふざけんな!」「こんな横暴が許されると思ってんのか!」「国に連絡を取れ!」
イナイはそんな男達に冷たく告げる。
「ならばあなた方の主張はどうやって証明するのですか?目撃者もいないのに。
そもそもどうやってあなた方はこの国に来たのですか?」
「な、何言ってやが――」
「ウムルは国内の正式な出入りは門からしか出来ないというのは周知の事実。そして、あなた方は国境門を通過していないようです。
どうやってあなた方は国境門を通らずにウムル国内に入ったんでしょうねぇ・・・」
「なっ!」
ああ、つまり、こいつらの不法入国は現時点で確定した。
である以上、既に国内での犯罪者なのか。
イナイ、えげつねえ。
「こんな、こんなやり方しやがって、他国の反感を買うぞ!!国境地をもつ国との国交が途絶える行為だぞ!」
「安心してください。あなた方のような者にしかしませんよ。それにあなた方の襲撃は事前に情報が漏れています。何を喚こうが既に後手なんですよ。
たとえこの事であなた方に連なる方が何かを仕掛けてこようが、私たちは堂々と不法入国者の捕縛をしたと言うだけです。
あなた方が身分ある人間ならば助けてくれるかもしれませんが、そうでない以上、助けが来るとは思えませんしね」
そう言って兵士さんに後を任せるイナイ。
男たちはその言葉を絶望の表情で聞いていた。
「お前たち、ウムル王国の至宝と言われる方に牙をむいて無事で済むと思うな!」
なんて言いながら兵士さんは男達を連れてった。
「・・・・あれは恥ずかしいな。あたしそんな事いわれてんのかよ・・・」
イナイは恥ずかしそうに顔を俯けていた。
「・・しかし、バカばっかりだったな。あたしが転移魔術を使えないと思ってやがったんだろうな。
そもそも襲撃を撃退させられるのは想定内だったとしても、逃げられたらどうするつもりだったんだ奴ら」
「いや、あの人数をなんの問題もなく送ったイナイの力を予測するほうが難しいんじゃないかな」
「セルなら都市ごといけるぞ」
セルエスさんには逆らってはいけないと再認識した。
「それにあんまり馬鹿すぎてあいつらに言う気も起きなかったが、あたしたちはあそこで全員皆殺しにできたんだ。なのに目撃者を本当に作らなかった。頭が悪いとしか思えん」
「・・・確かに」
目撃者がいないなら、その不都合は自分たちにも生じるという発想が無いな。
だいたいイナイに敵対する時点であの程度の人間たちでは戦力が足りてない。
「お姉ちゃん、連絡通りだったね」
「ああ、そうだな。流石に頭の出来を疑うな、ほんと」
「はえ?」
二人の会話に変な声が出る。
なんだって?連絡ってさっきの?
シガルちゃんなんで知ってんの?
「ああ、国境地であたしたちを襲おうとしてる連中がいるって、連絡貰ってたんだよ。あそこの門で」
「え、お兄ちゃん知らなかったの?てっきり聞いてると思ってた・・・。」
しりません。初耳です。
「タロウは顔に出すぎるからな。変に警戒しそうだったから黙ってた。
まあ、あの程度ならタロウは警戒すらしてなかったみたいだから問題なかったかもしれん。
けど、変に警戒して襲撃を中止させられる方が面倒だったんでな」
ひどい。けど反論できない。俺が顔に出やすいのは今まででよくわかっている。
「そうだったの!?わざわざ街道を走ってたのもそのためだと思ってた!!」
「あたしはそのためだったけど、タロウは素だ」
「二人共・・・ひどい・・・」
言葉の刃がグサグサ刺さる。ええ、どうせ思慮が足りませんよ。
「で、でもどっかで日課の鍛錬はやる予定だったんだし、いいよね!」
シガルちゃんが即座にフォローを入れてくれる。
「まあ、それも別にあそこでやる必要はねえと思うけどな」
そしてイナイが落とす。
「うう、イナイは街道どうするつもりだったのさ」
「街道はこれで行く」
イナイはそう言って腕輪を操作し街道にとあるものを出した。
「うわあ!」
「・・・・ジープ?」
シガルちゃんはそれに驚き、俺は似たものの名前を言う。
屋根がないがジープっぽい車が出てきた。
え、この世界車あんの?
ハンドルがバイクっぽいけど、ガワはジープだこれ。
「むう、驚かねえか。向こうには似たようなものあんだな。ジープか。これ名前なかったし、それを名前にしよう」
「この世界にも自動車があったんだね」
「自動車か、なるほどな。自ら動く車だもんな。なるほどなるほど。それも採用すっか。この技工車は3台しかないけどな。これ量産するにはちょっと危険だって言われて王家の持ち物と、国の有事用の緊急使用車両と、あたしの私物しかない。
自動車、だっけか。その機能を持たせること自体はただの馬車にもできるが、それは馬車そのものを魔術で動かすもので効率が悪い。
こいつは、動力を車輪にのみ伝達する仕組みにしている。その方が長時間動かせるからな。車体と、車軸の緩衝とかも考えてるから、舗装されてない道もそこそこ乗り心地いぜ」
サスペンションがちゃんと付いてるのかな?
そういう道具をイナイが自力で作り出したってことは、イナイ一人でこの世界の技術の進化を高速で早めていってる予感がする。
「わあ!わああ!これ、のっていいの!?お姉ちゃん!」
シガルちゃんが超ハイテンションだ。
「ああ、もちろん」
「やったぁ!一度お祭りで王様が乗ってるの見てからずっと乗ってみたかったんだ!!」
お祭りで使うか、確かにいい使用法かも。
この世界にはまだまだそういう技術はあまりないみたいだし。
「そのうち空飛ぶ乗り物とかもつくろうと思ってんだよなぁ。魔術が使えない人間も乗れるようなの」
なんて言うイナイ。多分そう遠くないうちに本当に作るんだろうな、これ。
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