第55話よくわからない人たちに襲われます!
「いい天気だねー」
「そうだなー」
「なんかお昼寝したくなってくるねー」
なんて言いながら俺たちは街道を走っている。なんでだって?
日課の自己鍛錬のついでです。
「シガルー、無理はすんなよー?」
「うん、この感じなら大丈夫だよ!」
「疲れたらちゃんと言うんだよ?」
「うん!ありがとう!」
笑顔で言う彼女からは無理は見えない。
このペースでいけるのか。なかなかすごいな。
結構な速度で走ってんだけどなー。
「ん?」
「お」
「え?」
俺とイナイの声に、立ち止まるシガルちゃん。
俺とイナイもその前に出て立ち止まる。
「狙ってるね」
「狙ってるな」
「え?なに!?」
俺たち二人はわかっているが、シガルちゃんはわかっていないようだ。
気配を読む、なんてそんな事できないっす。
いや、近くならなんとなくいる感じはわかるけど、今回のはちょっと遠い。
魔術で周囲を警戒していた結果、引っかかったのがいる。
この魔術は訓練初期頃にセルエスさんに徹底的に仕込まれたので慣れたものだ。魔術師として、接近される前に倒すは基本、と言われた。
この応用があの映像通話の技工具だ。まあこの魔術の場合は誰かがいるってことぐらいと、動作ぐらいしかわからないけど。
「うーん、矢が飛んでくるねぇ」
「だが、この感じだと威嚇だな。当たらねぇ」
「え!?あ!!」
俺たちが話しながら見ている方向を見て、矢が飛んできていることにシガルちゃんが気が付く。
予想通り、矢は全て近くだが、当たらない位置に落ちた。
でもちょっと手前過ぎる気がする。足止めしたかっただけかな?
なんて思っていると、さっきから潜んでいた連中が姿を現した。
いやまあ、ぶっちゃけ既に気が付いてたんだけどね。
「イナイ、俺より早く気がついてたよね?」
「まあな、わざとここまで来た」
しれっというイナイ。シガルちゃんが危ないからやめてほしいなぁ。
いやまあ、守る自信があるんだろうけど。
この国に連れてきた俺が言える話じゃないか。
「小娘、貴様名はなんという」
なんて頭目っぽいのが聞いてきた。
「イナイ・ステル」
つまらなそうに答えるイナイ。
「そうか、おとなしく拘束されるならそいつらの命は助けてやる」
ふむ、こいつらイナイが狙いか。
「つまらないな。やり方がストレートすぎる。もうちょっと頭を使って欲しいもんだ」
「なに!?」
イナイが本当につまらなそうに吐き捨てた言葉に、男は驚く。
「シガル!」
イナイはシガルちゃんを呼ぶ。きっとイナイが守るから、俺がやれってことだろう。
俺は一歩前に出ようとして――
「ここは任せる」
え?何言ってんの?
「はい!」
君も何元気よく返事してんの!?
俺の困惑をよそにシガルちゃんは構えながら詠唱を始める。
「我が身、我が心、戦場にて人に非ず! 人ならざる力を持って、我が眼前を阻む敵を討つ!」
その詠唱とともにシガルちゃんの体が強化されていく。
何その詠唱、怖い。
つーか、なんて綺麗な魔力操作なんだ。親父さんよりちょっと上どころじゃないぞこれ。
「はっ!」
掛け声とともに疾走し、あっという間に接敵するシガルちゃん。
近寄った時には既に拳が鳩尾に入っていた。その一撃だけで男は崩れ落ちる。
「せいやぁ!」
次の掛け声で放たれる攻撃で、3人の男が崩れ落ちる。
その段になって、やっと男たちは自分達に何が起きているのか理解した。
「クソガキが、図に乗んなぁ!」
その怒号とともに振り下ろされる剣。
だがシガルちゃんはその時既に詠唱をしていた。
「我が身に纏いしは炎!すべてを溶解し獄炎!触れるすべてを消し飛ばす!」
詠唱をしながら手刀を剣に入れ、剣を折る。
違う、あれは纏った炎で溶かしたんだ。
剣を溶かされた男は驚きで隙を作り、シガルちゃんに一撃を喰らい、落ちる。
そのシガルちゃんを後ろから襲う剣がある。
だがそれも彼女は気が付いている。
「我が身に纏いしは氷!すべてを弾く硬氷!何びともその突破を許さず!」
左腕に氷をまとい、剣を弾き、そのまま拳を突き入れる。
あれは痛い。
シガルちゃんのあの魔術は、どうやら効力は一瞬のようだ。
ひとふりすると消え去っている。
あれは紛れもなく、肉弾戦用に練られた魔術だ。しかも魔力操作がすごく綺麗だ。そのせいか彼女の魔術は詠唱途中で発現している。
あのこ、ほんとに、あのシガルちゃんなのか?
「我が従えしは地!母なる大地!その力はすべてを打ち砕く!」
シガルちゃんは敵陣の中央に向かっていた。
そして、完全に中央に入った瞬間に「はぁ!」と震脚した。
それと同時に隆起する土。
その土は狙ったわけではなく、周囲に無造作に作り出されたらしく、何人かはまともに当たらずに済んだ。
だが、直撃しなかっただけで、無事ではない。
そこにシガルちゃんが迫る。彼女は隆起した地面を飛び回り、残ったものに蹴りを入れていく。
「はっ!」
最後に彼女が構えを取ったときには、もう誰も立っていなかった。
「うん、上出来上出来」
困惑と驚愕で動けない俺をよそに、にこやかに拍手をするイナイ。
その後ろには、いつの間にか数人の男たちが倒れている。
どうやら俺がシガルちゃんに驚いている間に弓を射った連中をのして持ってきたようだ。
どちらにも驚いている俺にとてとてと近寄ってくるシガルちゃん
「お兄ちゃん!見てた?私頑張ったよ!」
満面の笑みで俺に言う。
うん、みてた。すごかった。
そして俺はふたりの尻に敷かれる未来が見えたよ。
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