第54話黒い企みですか?
「集まったな」
「ああ」
ウムル王国のとある地。
かつて小国であった頃のウムルの隣国であり、他国と違い「ウムルとの戦争」で飲み込まれた地。
そこのとある屋敷で集まるものたちの会合だ。
多少だが、北の国に飲み込まれたものの生き残った連中もいる。
「いない人間がいるようだが?」
「ああ、卿は知らぬのだな。先日貴族位を剥奪されたよ」
「なに!なぜだ!」
仲間の一人の貴族位を剥奪されたことに憤慨する男。
その男は先日息子がバカをやったために貴族としての資格なしと判断されたと聞かされる。
「馬鹿な!たかが平民の娘一人を焼き殺したところでなんだというのだ!」
「ただの平民の娘ではなかったのだよ」
「なに!?」
「その娘の父親は王宮勤めだ。つまり、そういうことだ」
これは古くからウムルと関わる人間ならわかる言葉。
単純明快に「ウムル王は身内に甘い」ということだ。
「クソ!あの王の横暴を許していいのか!」
「だが、反旗を翻すにも、他国の貴族連中や、領主どもはほとんど賛同せぬ」
他国。これは本当の意味で他国ではなく、ウムルに併合した国のことを言っている。
「ああ、それどころか、このことは黙っておいてやるから真面目に生きろなどといってくるやつもいたな」
「ふざけるな!平民どもの身を案じながら、自身の資産も自由に増やせぬ貴族など、やっていられるか!」
彼らは元々自分の国で暮らしていた頃は、好き勝手にやっていた。
税収の勝手な引き上げも、横領も、住民への暴行も。
ウムルに飲み込まれたことで、監視がつき、立場はその地の管理者として、貴族を許されているが、それらが一切できなくなった。
「いい話がある」
「なんだ・・・」
その中にいた一人がとある情報を話だした。
それは、近く、イナイ・ステルという王が認めた技工士が旅に出るという情報だった。
「ウムル王は身内に甘い。逆に言えば、そいつを拘束できれば」
「ふむ、いい手ではあるかもしれんな」
そう、確かにいい手だ。ウムル王は間違いなく身内と頼ってくる相手に甘い。
その上、イナイ・ステルは現ウムル王が尊敬する人物の一人だ。
だが彼らはわかっていない。イナイ・ステルがウムル王だけでなく「8英雄」にとってどれだけ大事な人物なのかを。
彼女に手を出すということは、もはや、国に戦争を仕掛けると同意義になるということを彼らは知らない。
何より彼らがわかっていないのは、彼らが何百人いようが「イナイ・ステル」一人に絶対勝てないということを見落としている。
彼らはそんなことも気にせず、イナイ・ステルを拘束する方向で話を進めていく。
おそらく国内ではやらないだろう。国外に出てからだ。
国外で起きた事件をウムルが裁くことは出来ない。
しかし―――
「こうまで情報が筒抜けだと、逆に可哀想になってくる」
「陛下はお優しいですな」
私のつぶやきに答えるのは、財務の管理を任せているヘルゾだ。ロウもいる。
「ヘルゾ、このことはイナイに伝えておこうと思う。伝えずとも上手く対処はするだろうがな」
「それがよろしいかと」
「あ、一緒にいるタロウという少年には伝えないように。彼は顔に出すぎる」
「わかりました。部下に伝えておきます」
一応私たちだけで連絡は取れるが、そればっかりだと問題なのだ。
「しかし、あの少年はすごいですな」
ロウが言いながら、貴族たちの映像を映す道具を見つめる。
「そうだな。この技工具は彼の発案だったな」
映像と音声をあわせて送る道具。彼らを監視している一人に、会合所に仕込ませた。
その上、この映像と音声を両方蓄積できるらしい。
今まで映像のみか音のみで、両方合わせた物は無い。必要を感じなかったというのが大きいのかもしれない。
映像を見なければならないときは、その場の対応が必要な時であるし、音の記録が有れば後々に必要な記録は残せる。
それに音の記録は有ったが、映像の記録は無かった。その上使い捨てだ。
彼は使い捨ての改善点として、技工具本体と記録蓄積の道具を分け、取り外しの案を出したと聞いた。
よくそんな発想ができるものだ。やはり技工を修める者の思考は面白い。
「これで証拠は十分。イナイに手を出せば、終わりだ」
「ですな」
お前たちの言うとおり、私は身内に甘いよ。間違いない。
だがな、お前たちをぞんざいに扱った覚えはない。
ほかの領主たちと同じように、ちゃんと仕事を与えた。
それを私腹を肥やせないと、反旗を翻し、かつイナイ姉さんに手を出せば、私はお前たちを叩き潰す。
私は父とは違う。
父のように全てに優しくは出来ない。やるわけにはいかない。
大国ウムルとなった住民たちの平穏を守るために。私は「大国の王」でなければいけない
「悪く思うな。差し伸べた手を振り払ったお前たちの自業自得だ」
分かっていてもやりたくないな、という気持ちがどこかにある自分に言い聞かせるように言う。
さて、イナイ姉さんはどう動くかな。
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