第53話国境を越えます!
「ここを越えたら別の国かぁ・・・」
シガルちゃんが国境を越える街道の門を見てつぶやく。
「しかし、でかいね」
「まあ、大規模な結界装置作ったからな。ぶっ壊されねえようにしてんだよ。小さいのも補助で要所要所においてっけどな」
「え、なんでそんなもの。魔物でも入ってくるの?」
「うんにゃ、犯罪者を外に出さないためだよ。魔物は全部遮っと逆に面倒なことになるからやってねえ。樹海は特別だ。もっとも樹海に使ってる物はこの程度の物じゃねーけどな」
うん?出さないため?入れないためじゃないの?
その疑問が顔に出てたようで、続きを言ってくれる。
「入ってくるのはどうにかする。けど、出られるとその国の法に照らし合わせないといけない。
流石に外に出たのを追っかけていくこたぁ、出来ないからな。そのための結界だ。
結界を突破するにはここの守備兵を倒して結界装置を壊すか、あたしたちより強い魔術で突破するしかない。
術の基礎組んだのがアロネスだからな。突破できるやつなんか滅多にいねーよ」
「でも、それだと誰も通れないんじゃ」
「そのためのコノ門と、身分証だ。問題なきゃ身分証見せて、すぐ終わりだよ」
「・・・・・・うう」
ん?シガルちゃんがなんかすごい緊張してる気がする。
「シガルちゃん、どしたの?」
「え、や、なんでも、ない!」
うん、なんでもあるよね、これ。
若干震えてる気がするし。体調悪くなった?
「どうした、シガル」
「・・・ちょっと、怖い」
イナイが聞くと申し訳なさそうに言うシガルちゃん。怖い?
ああ、別の国に行くのが怖いのかな。
「んー、やっぱやめとく?」
「や、やめない!いくよ!」
俺の言葉に焦って答えるシガルちゃん。そしてそれを見て定番のボディーブローを入れるイナイ。
「な、なんで・・・・」
「おまえな、今のはひどいだろ」
「い、いいの。怖がった私が悪いんだもん」
「どうした?違う国に出るのが初めてで怖いとかか?」
イナイが目線を合わせて優しく聞く。
まあ目線最初からほぼあってんですけどね。ちょっとだけ。ちょっとだけイナイが大きい。
「ち、ちがうの、ここ越えていくと、竜に合う可能性があると思うと、怖くて」
ああ、なるほど。
「そっか、ごめんなシガル。怖いよな。でも大丈夫だ。何があってもお前のことはあたしが守ってやる」
そう言ってシガルちゃんの頭を撫でるイナイ。
言外に、お前は自分で頑張れって言われた気がするのは気のせいかな。
「え、えへへ。ありがとう。ごめんなさい、落ち着いたよ」
笑いながら答えるシガルちゃん。
嘘だ。その震えた体と手はごまかせないよ。
俺はそのシガルちゃんの手を取る。
「お、お兄ちゃん!?」
「いこっか。イナイも」
「ん?・・・ああ、おう!」
俺のしたいことの意味を読み取ってくれて、シガルちゃんの反対側の手を掴む。
「え、お、お姉ちゃん?」
「さて、いこーか!」
「いこーいこー」
シガルちゃんを軽く引きながら歩く。もちろんほんとに軽ーく。
無駄に元気良く。
「・・ぷっ、あはは!大丈夫だよ!ひとりであるけるもん!」
シガルちゃんはそう言いつつ手をもっと握り前に行く。
「ね?」
そう言ってこっちを見るその顔は、さっきよりは無理した笑いじゃなくなっていた。
俺たちはそのまま手を握って門まで歩く。
門の前には王都のように兵士さんが何人か立っている。
俺たちのほか歩く人はいない。イナイに聞くと荷馬車がたまに通るだけらしい。
「おはようございます。ご兄弟で出国ですか?」
「おはようござます。あはは、そうみえます?」
「違うのですか?仲睦まじい3兄妹と思いましたが」
「彼は私の婚約者です。この子も」
兵士さんの挨拶に答えつつ、疑問はイナイが答える。
ここの兵士さんも優しい感じだ。いいね、この国の兵士さん。
ここの人たちは比較的若い人が多いように見える。
騎士隊長さんと同じぐらいかな。あの人若いのに騎士隊長なんだよなー。
「はぁー、なんたってお三方であの国に?竜が居座る国として、向かう人は商人以外滅多にいませんよ?」
なので、ここ暇なんですよね基本的には、という兵士さん。
なんだろう、会話に飢えてるのだろうか。
「基本的にですか?」
「ええ、見ての通り人がほとんど通らないでしょう?兵士も少ないと踏んでここを押し通ろうとする犯罪者なんかがたまに来るんですよ」
にこやかに言う兵士さん。なんていうか、それにこやかに話す内容じゃないのでは。
「こういった通りの少ない国の国境門はそれ相応の実力の兵しか配備されないので、返り討ちに遭うんですけどね」
おかげで家族とは離れ離れで暮らしてます。という。
切ねえ。
「そう、ですか・・・」
イナイは少し顔を伏せて考えている。
「すみません、ご家族と離れているのは資金面の問題ですか?」
「いえ、それもないわけではないですが、なにせ、辺鄙なところでしょう?妻だけなら呼んだかもしれませんが、子供にこのさみしい土地に住まわせるのは、気が引けるのですよ」
と、笑顔で優しく、そしてさみしい事を言う。
「・・・転移装置の使用料金が問題ですかね」
「あはは、そうですね。それもありますねー」
転移装置の使用料金?なにそれ?
「イナイ、なにそれ」
「え?」
何言ってんだこいつって顔で俺を見るイナイ。
「お前、王都で移動どうしてたんだ?何度か別れたあとお前探しに行ったら毎回えらい遠いとこにいただろ」
「徒歩」
「・・・・そ、そうか」
あとで説明するから、と言われたのでしばらく黙っておく。
「わかりました。この件は陛下にいずれ報告します。あなた方優秀な兵士が居るから私たちや、住民が安心して暮らせるのですから」
その言葉に、え?という顔をする。
いや、そりゃそうだと思う。だって少女からいきなりそんなこと言われたって困る。
イナイも、自分が身分証も出していなければ、名も名乗っていないことを思い出したようだ。
「私はイナイ・ウルズエス・ステル。すぐに対応はできないかもしれませんが、必ずあなた方の負担を減らせるよう、進言しておきます」
「ス、ステル様!?こ、これは失礼を!申し訳ございません!!」
彼らはイナイを見たことがないようだった。
そりゃそうだ。みんなが知ってるわけないよな。
しかし王様に進言か。なんかこう、気軽に会話してるシーンしか思い浮かばない。
みんな、あれがとか、可愛いとか、可憐だとか、嘘だろ?とかつぶやいている。
「王の印・・・初めて本物の印のついた身分証を見ました」
兵士さんは身分証に光を当てる道具で照らして驚いている。なんだろ、あれ。
「そうですか?過去アロネスがこちらに向かったことがあるはずなのですが」
「本当ですか!?ああ、会いたかったなぁ。多分私が配属される前なんでしょうね。もしくはこの門ができる前かもしれません。あの方は各国を奔走されていた時期があるようですから」
「ああ、そういえばそうでしたね。私もそうでした」
「先ほどステル様はああおっしゃられましたが、あなた方の作られた道具のおかげで、家族に定期的に会いに行けるのです。それだけじゃありません。あなたが作り出された道具は皆の生活を助けてくれます。本当にありがとうございます」
そう言って頭を下げる兵士さん。
それを見て、自分も、とお礼を言っていくほかの兵士さんたち。
「すごいね、お兄ちゃん」
シガルちゃんは、尊敬の目でイナイを見つめていた。
いつもの英雄譚に目を輝かす感じとは、また違う目をしていた。
「うん、すごいね」
やっぱりイナイはこの国ですごい人なんだな。
イナイは、私は私のやるべきことをやっただけですよ、とにこやかに答えていた。
ともあれ、ひと騒動あったものの問題なく、門を通れた。
通る際に、なんであんな子供がステル様と?とか聞こえた気がするけど気にしない。
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