第52話行き先が決まります!

「やることがありません!」


シガルちゃんの叫びが家に響く。


「いや、暇なら好きな事やってていいんだぞ?」

「うん、なんなら魔術の訓練でも、遊びでも付き合うよ?」


この世界というか、この国には、主にアロネスさんが娯楽を広めたがったらしく、そこそこ遊び道具がある。

なんかチェスっぽいボードゲームとか、オセロっぽいものとか。トランプみたいなのとか。

あの人なんていうか、すごいんだけど、努力の方向性が時々よくわかんないなー。


ちなみにボードゲームの方はルールを覚えていません。

どのコマがどう動くんだっけかなー。

軍人将棋みたいなのもあるんだけど、それこそルール覚えてねぇ。


「ちがうの!イナイおねえちゃんが全部やっちゃうから私ができることがないの!」


ああ、そういうこと。


「ああー・・・うん、ごめん、そっか」


ポリポリと頬をかきながら謝るイナイ。

イナイは家事を全部当たり前にやってしまう。

本人は本当に好きでやっているので、余計に丁寧で、早い。


「私、お兄ちゃんに何もしてあげられない・・・」

「いや、俺もイナイに任せっきりな事多いから」


シガルちゃんはじろっと俺を睨む。


「お兄ちゃん。昨日のご飯は誰が作りましたか」

「あー・・・俺です」

「なんでなの!なんであんなに美味しい料理が作れるの!私あんなの作れない!」


なんで俺美味しいって怒られてるんだろう。


「うう、私何したらいいの・・・」

「いや、まあ、今のうちは別にいいだろ」


うなだれるシガルちゃんに声をかけるイナイ。


「だいたい、リンやミルカは家事なんかロクにできねえし、セルに限っちゃ料理はまるで毒物だ」


リンさんとミルカさんは予想ついてたけど、セルエスさんのそれは流石に予想外だ。


「あたしは、あたしのやりたい事でみんなが喜んでくれるのが楽しくてやってるだけだ。だから、無理にやろうとする必要はねえよ」

「でも・・・」

「ただ、やりたいって気持ちに気がつけなかったのはごめんな。今度は一緒にやろう。料理も教えてやるよ」


そう言って撫でるイナイに、ごめんなさい、ありがとうというシガルちゃん。

なんかこう、張り切り過ぎ感がある。

もっと気楽でいいのよ?と言いたい。でも言うとまた何か怒られそう。

あれ?俺の立ち位置既に決定してね?

い、いやそんなはずはない。ないよね?


「そういえばタロウ、どこ行くかは決めたのか?」

「うん、とりあえず、一番近いとこに行こうかなって」


といっても北の国は除外である。だってまだこわいもん。


「ふむ、ポヘタか。気を使わなくていいんだぞ?」

「いいのいいの。どうせなら知らないところ行こう」


事前にイナイが行ったことがない国を聞いて、そこからピックアップしていた。

そのうち行ったことある所もと思うが、どうせなら最初の方ぐらい皆で知らないところでもいいじゃない。

というわけで、一番近くで、かつ国境を越えるのも特に問題ないらしい国を選びました。

これもアロネスさん知識です。

最近「安全」って言葉は信用してないけどね!


でも楽しみだ。こっちの世界は間違いなく俺の世界とは見え方が違うだろうから。

今なら戦う力はある程度あるし、よっぽどのことがない限り大丈夫だろう。


「・・・お兄ちゃん勇気あるね」


そんな俺の楽しみな心はシガルちゃんの言葉への興味に負けた。なんだって?


「竜・・真竜が出てくる地域に行くんだ。怖くないの?」


は?え?竜?

え、ちょ、まってなにそれ。


「ちゃんとした竜は久々に見るなー」


けらけらと笑いながら話すイナイ。

え、見たことあんの?いや、それよりもだ。


「ちょっとまって、その国竜いるの?」


アロネスさん情報にはそんなのなかったぞ。


「山手の方に、いるらしいな。こっからだと完全に近くを通る。ま、だいじょぶだよ」

「大丈夫なの?」


シガルちゃんが首をかしげながら聞く。


「あそこに居る竜はそのへんの亜竜と違って本物だ。無闇に人は襲わねーよ。というより興味がないんじゃねーかな。くるとしたら、こっちが向こうを害そうとした時ぐらいだろ。本物の竜ってのはだいたいそういうもんだ」

「お腹すいたから襲って来るとかしないの?」

「ほぼないな。むしろ連中は人間を汚い下等生物だと思ってる節があるから、そんなもん食わねーんじゃねえかな?実際昔出くわしたやつはそんな感じだった」


出くわしたのか。だからそんなに余裕なのかね。


「じゃあ、竜って何食べてるの?」

「魔力」

「え?」

「世界に漂う魔力を食って生きてる。だから食事はほぼ必要ない。人間には無理な芸当だな」


わあ、ファンタジー生物。さすがー。


「なら安心かな?」

「まあ人間と一緒で個体差があるから、なにしてくっかわかんねえのもいるっちゃいるが、まあそういう手合いは戦うしかないだろうな」

「まじすか。勝てんの?」


流石に竜とか、ゲームでも強いイメージがあって、不安しかない。


「勝った」

「す、すごい・・・・」


戦ったことあんのか・・・。

イナイの発言にキラキラした目を向けるシガルちゃん。

ほんと君女の子?って聞きたくなるぐらい強さの方に憧れ持ってるよね。


「じゃあ、最初は竜見物っていう事だな。ちなみにその国の土着信仰みたいなもんで、竜を崇めてるっぽいぞ」

「え、じゃ、撃退したらまずいんじゃ」

「いや、むしろ神の試練を乗り越えるものだって歓迎されるらしい。まあアロネスの話だけで、あたしは実際どうなのかは知らないけどな」


神の試練か。でも竜がどれぐらいなのか知らないが、戦って生きて帰ってきたら上等なんじゃなかろうか?


「まあ、そこまで不安になる必要はねえさ。さっきも言ったとおり、たいていの竜はこっちに興味がないからな」

「そっか、なら大丈夫かな」


ちょっと怖いけど、竜は見てみたいってのもある。

そういうわけで行き先は本決まりし、翌日には出ることになった。

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