訓練の終わり、新しい日常の始まり。
第51話シガルちゃんはついてくるそうです!
「ほんとにいいの?」
「いいの!」
「一応いきなり国外行く予定だけど、大丈夫?」
「大丈夫!」
シガルちゃんは俺の質問にはっきりと返事をする。
迷いがない。俺がする質問をあらかじめ考えてたように即答だ。
今日は、旅に出る日を伝えに来たら、即答で行くと答えられている。
「シエリナさん、本当にいいんですか?」
「ええ、連れて行ってあげてくださいな」
ニッコリと笑いながら肯定ですか、そうですか。
親父さん仕事でいないんだけど、いいの?
「ま、危なかったらオメーが守ってやれ」
「そう、だね」
「大丈夫!あれからずっと、頑張ったんだから!」
あれからずっと?
「どういうこと?」
「お兄ちゃんって、闘士のお姉ちゃん。グラネス様の技を使ってるんでしょ?」
まあ、そうだね。こくんと頷く。
「私も同じ武術道場に行くようにしたの。あれからずっと魔術以外の鍛錬もしてるんだよ!」
そう言って、パンと拳と掌を合わせるシガルちゃん。
詳しく聞くと、走り込みなどの基礎鍛錬はもちろん、型もしっかりと覚えているようだ。
「それに騎士のおじちゃんにも少し剣を教わってるの!最初は渋い顔されたけど頼み込んだら稽古付けてくれるようになったんだよ!」
まじか、この子スゲエ。
「まだまだ弱いから、守ってもらう事はきっとあると思う。けどいつでも守ってもらうつもりはないよ!」
そういうシガルちゃんは、前に助けた時と違って、可愛い女の子というより、力強い顔つきになっている。
あれー、俺もしかしてこの子の人生をとんでもなく変えちまったんではなかろうか。
「あっはっはっは!すげえなシガル」
そう言って頭をガシガシ撫でるイナイ。
すっごい楽しそうだ。
「あ、ありがとう。イナイお姉ちゃん」
照れくさそうに言うシガルちゃん。本当に姉妹みたいだなー。
「うっし、じゃあ、旅の間の無手の訓練はあたしがやってやる」
「ほんと!?やった!」
「剣はタロウに教えてもらえ。なんだかんだ、コイツそこそこ剣も使えるからな」
剣。その言葉にこないだのリンさんの姿が頭をよぎる。
ミルカさんやセルエスさんの言ってた事がよーーーーーーーーーくわかった。あれは怖い。
あれに引き分けられるイナイがとんでもねえと思う。
あれを知ってると、自分が剣を使えるって言われても「そうなの?」って思う。
でもまあ、あれは、剣とかもはや関係ない次元の強さだったけど。
「まあ、そこそこ、だけどね」
としかいえない。よなぁ、ここは。
「やったぁ!!」
シガルちゃんは飛んで喜ぶ。
でも、ウッブルネさんから俺だと落差が激しいと思う。
あの人の力量の一端は見てるけど、あれ間違いなく俺まだたどり着けない領域だった。
しかも、あの人も「無強化」でそれなんだよな。
こわいわー。
「じゃあ、どれぐらいできるのか、少し確かめるか」
「では、庭をお使いください」
イナイの発言にシエリナさんが答える。
ぞろぞろと皆で庭に出る。
「シガル。準備運動はいるか?」
「いらない。必要じゃ、ダメだもの」
「おう、いい子だ。よくわかってんな」
実戦武術なせいか、準備運動をすること自体を悪いとは言わないが、必要ではいけない、というのがあの武術の理念らしい。
あれー?俺そんなん初めて聞いたよー?
「いきます!」
「こい!」
元気のいい掛け声で組手をする二人。
うん、元気だなー。
結論から言うと、シガルちゃんは強かった。
あの年代の子にしては、というのが前につくが、間違いなく強い。
断言できるが、この世界に来た当初の俺なら間違いなくボコボコにされてるレベルだ。
しかもあの子、魔術も元々多少は使えていたらしくその技術も鍛えていて、無詠唱は無理みたいだけど、俺が見たところ親父さんよりコントロールうまいように見える。
何この子、すげえ。
「すげえな。あの短期間でここまでになるか。タロウとはお似合いかもな」
「あ、はは、騎士のおじちゃん、にも、つきあって、もらって、たから、かな」
息の乱れていないイナイと、切れ切れのシガルちゃん。
うん、まあ、それはしょうがない。
「ある程度、強くなったら無手もタロウに教えてもらったらいいかもな」
「え、なんで。俺より強いでしょ、イナイ」
「体格差ってものを経験しないとな」
なるほど、確かに。
リーチ、体重、筋力差。
体格が違うってのはその時点で有利不利ができる。
「その時は宜しくね!お兄ちゃん!」
「うん、りょーかい」
息を整えたシガルちゃんは元気よくオレに言う。
俺はシエリナさんに向かう。
「では、娘さんは一緒に連れて行きます。必ず、守ります」
「ええ、お願いします。」
今日はまだ出るわけじゃないので、一旦家に帰る予定だ。
「じゃ、出るときにまた迎えに来るね」
「え?」
シガルちゃんが首をかしげる。
「もう、今日から一緒だと思ってた」
「聞きに来ていきなりは出てかないよ」
「・・・いや、一緒に行こう。」
俺はそんないきなり、と思っていたらイナイが連れて行くと言い出した。
「一緒にいるのがどんなもんか見るのもいいと思うしな。数日だがうちで一緒に暮らすか」
「あー、確かに」
「じゃあ、すぐ準備してくるね!」
そう言ってだっと部屋にかけていくシガルちゃん。
「ふふ、楽しそうねぇ」
にこやかに笑うシエリナさん。不安はないのだろうか?
「タロウさん」
「はい」
「娘を、頼みます」
「はい」
にこやかだけど、なにか怖さのあるにこやかさで俺に言った。
俺はそれに即答する。
その答えが良かったのか、怖さのある雰囲気は消えた。
やっぱり、どっか不安はあるのだろう。当たり前か。
「お待たせ!」
シガルちゃんはでかい鞄を背負ってドタドタと降りてきた。
カバンに背負われとる。
「は、はやいね」
「うん!だいぶ前から準備してたから!」
「そ、そっか」
「シガル、そのカバンかしな」
イナイがシガルちゃんからカバンを受け取ると、腕輪にしまう。
「え!?」
「どした?腕輪の出し入れ見るのは初めてじゃないだろ。前にここ来た時もタロウが使ってんだし」
「そ、そうだけど、お姉ちゃん達のその腕輪。どれだけはいるの・・・?」
「まあ、そこそこな。私とアロネスの特別製だからな」
「すごいなぁ・・・・・」
シガルちゃんはじーっと腕輪を見る。
「腕輪があるからいいが、シガル、基本的に荷物はあんまり多過ぎると困るときがあるぜ。
ま、あたしと一緒なら問題ねえけどよ」
「うっ、はい。ごめんなさい」
「ま、今回は別に行軍ってわけでも、危険地帯をわけ行っていくわけでもねえからな。いいさ」
シガルちゃんを撫でながら言う。
イナイは行軍経験あるんだよな。
「じゃ、いくか」
「うん!」
「行ってらっしゃい、シガル」
「うん、行ってきますお母さん」
あれ?なんかシガルちゃんのお母さんに対する目が挑戦的すぎる。
何だ、一体何があった。
ともかく俺たちはシガルちゃんの家を出るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます