第49話結婚式です!

ただ今結婚式に来ております。誰のって?ミルカさんです。

真っ赤なドレスを着て、軽く化粧をしてるミルカさんはとても綺麗だ。


場所は旧王都。

つまり、皆の故郷だ。


王都といっても小さい町並みで、そう言われないとわからないレベルの町だ。

なんとなく、あの王様ののんびり加減の理由がわかった気がする。


ちなみにその王様も来ている。

ミルカさん達の見届け人とかなんとか。

結婚するふたりの報告と誓を見届ける人間がいるらしい。

王様がその役目ってよく考えたらすごいな。よく考えなくてもすごいな。


そしてその誓をいう場所は墓地である。

この国では昔から墓地でご先祖に報告が風習らしい。


しかし、参列者、身内だけって言ってたけど、多くね?

100人以上居る気がするんすけど、これ全部身内ですか?

いや、あのミルカさんのことだ、親しい同僚とか、昔からの友人とかも身内って言ってるに違いない。


「我らの命を紡ぎ、育んだ方々に報告します。私、ミルカ・グラネスはハウを夫として添い遂げる誓をここに捧げます」

「同じく、報告します。ハウ・フルツは、ミルカ・グラネスを妻とし、ハウ・グラネスを名乗り、彼女を支える誓いを捧げます」


婿養子だ!婿養子だあの兄さん!


「汝等が誓いは確かにフォロブルベ・ファウムフ・ウムルが見届けた」


王様はそう言って、ふたりの手を取らせる。キスでもするのかな?と思ったが特にそういうこともなく、こちらに歩いてくる。

みんながワッと近寄って祝福の言葉をかけている。

どうやら、式自体はあれで終わりのようだ。


皆に声をかけられている二人は、恥ずかしそうだが、幸せそうだ。

なんだ、ミルカさんやっぱり嬉しいんじゃないか。


「結婚式、か。ミルカ幸せそうだな」


イナイが隣でぼそっとつぶやく。イナイは今日はいつも以上に気合の入ったフリルドレスだ。可愛い。


「式してから行く?」

「いや、いい。そうなったらおそらく最低でも2,3ヶ月は足止め喰らうのが目に見えてる」

「え、なんで」

「一応顔が広いのと、色々立場があるからな。ミルカみたいに知ったこっちゃねえと言えれば楽なんだが」


ダメなのかね。別にいいと思うけど。


「じゃあ、二人だけで誓うだけでもする?」

「はは、それはいいな」


イナイは冗談だと思ったようで笑って流す。


「みんな帰ったら、家に帰る前に、していこう、イナイ」

「お前、本気で言ってんのか?」


イナイは驚いた顔でこちらを見る。うん、本気ですよ?


「ただ、そのあと聞いて欲しいことがあるけど、いいかな」

「・・・やるのは決まりなのか。ああ、聞くよ。でも今はミルカに言葉をかけにいこう」


ミルカさんにおめでとうと、声をかける。

本当に嬉しそうな顔でありがとうというミルカさん。

ただほかにも人がいるので、短く済ます。


リンさん達、みんなも来ているが、みんなだからこそかもしれないが、皆短く済ましている。

一通りもみくちゃにされたあと、二人は人の輪を抜け、礼をして、去る。

ふむ、ここまでの流れも式の一部みたいな感じなのかな?


去っていくふたりを見送ると、解散のようだった


「よ、タロウ」


声に振り向くとアロネスさんがいた。


「お前も呼ばれてたんだな」

「ええ、ついこの間」

「そっかそっか、手間が省けて良かった」


そう言って、ちょっとぶ厚めの冊子を俺に渡す。


「これは?」

「俺が見つけた鉱石や金属、薬品、薬草をまとめたものだ。道中暇なときに読んどきな」


気軽にポンとくれるが、凄いものなんじゃないだろうかそれ。


「いいんですか?」

「いいよ、複写だしな」


そうっか、複写か。ならありがたく。


「ありがとうございます」

「おう、元気でな、またな、タロウ。イナイ」


そう言いながら手を振って去っていくアロネスさん。


「ちょと早い再会になったねー」

「そうだね」


セルエスさんと、リンさんだ。当然いるよな、そりゃ。


「なんだ、アロネスのやつ、俺たちにも会わずにとっととかえったのか。そういうものとはいえ、やつにしては珍しい」

「みたいだな、まあ、よかろう。やつもなにか思うところでもあったのだろう。いつまでも過去に囚われるべきではないと思うんだがな」


アルネさんと、ウッブルネさんも来た。

アロネスさん、そっか、身近な人間、か。


「グルドのやつ、こっそり来て、こっそり帰っていった。まったくミルカのこと一番可愛がってたくせに」


王様までこっちやってきたよ。

ていうか、グルドさん来てたのね。


「ま、あいつはそういうやつだろ」


イナイがしょうがないという感じで言う。


「しかし、お前その喋り方、いいのか?」


イナイが王様に聞く。喋り方?


「今日は昔からの身内しかいないから、別にいいさ。それに可愛い妹の式にまで王様をやってたくない」

「まったく陛下は・・・」

「はっはっは!いいじゃないか、ロウ、お前だって公務を離れれば似たようなものだろ!」


王様の発言にため息をつくウッブルネさん。その背中を笑いながらバシバシ叩くアルネさん。


「さて、我らはもうゆくが、皆はどうするのだ?」

「私は家に帰るわー。私も私で式と宴の準備があるから」

「・・私も、かな?」


ウッブルネさんの問いに、セルエスさんの返事はともかく、リンさんの返事に少し驚いた。


「でも騎士はやめてくれないんだよね・・・・」

「うん、騎士辞めるならならないよ。そう話し合ったでしょ」


王様とリンさんが何やら言ってるが、もしかしてそういうことですか?


「まったく、お前は子供の頃から決めたことは譲らんやつだな」

「ロウに言われたくないね」

「はっは、全くだ!」


この人たちの昔からの仲間感いいなぁ。


「じゃあね、今度会うときは、私が夫人になってるか、リンちゃんが王妃様ねー」


あ、やっぱそういうことなんだ。


「ま、そういうことになるかな」

「やっと決心してくれて嬉しいよ」

「陛下もリファイン以外の女性を見つけて子供を作って欲しいのですがな・・・」

「それは今のところ無理かなぁ」


そう言いながら皆解散していく。

イナイが式はそういうものだという。いつまでもその場にとどまらず、新しい家族の行先を祝いながら皆帰路に着くのだそうだ。

色々あるなー、結婚式も。


ただ、普通はそのあと、どこかで宴を開くが、ミルカさんが断固としてやりたがらなかったため、無しだそうだ。


「さて、イナイ」

「ああ、行くか」


そう言って、解散するみんなとは違う方向に歩いていく。






「やあ、とうさん、かあさん。・・・恋人を連れてきたよ」

「初めまして。タロウといいます」


二人で、墓前に挨拶する。


「あなた方に誓います。俺はイナイと共に生きていくと」

「ばっ、おま・・・・いいのか、それ、ここでの宣言は本当に、そういう意味だぞ、うちの国にとっては」


いいよ、決めてたから。中途半端な態度は取らない。


「そっか・・・・皆様、報告いたします。私イナイ・ステルは、タナカ・タロウを夫として生きていくことをここに誓います」


そう言って、こちらを向く。


「はは、恥ずかしいな」

「うん、おれもちょっと」

「そういえば、家名はどうする?」

「俺はステルでいいよ?」

「そっか、でもま、本当にそれを名乗るのは、旅が終わって、腰を落ち着けてからにしよう。どっちにするかもちゃんとまた後で、な」

「ん、わかった」


そう言って、てくてくと墓地を去る。


「んで、なんだ、話したかったことって」

「うん、俺さ、自分のことほとんど話してなかったでしょ」

「・・・そうだな。でも別にいいぜ?あたしたちだって全部話したわけじゃないんだ」

「うん、わかってる。でも聞いて欲しい。っても大した話じゃないけどね」


そう、大した話ではない。

俺はもともと、帰るところなんて無い。ただそれだけの話だ。

そう、帰るところは、俺には、もともと、無い。


「俺さ、ここに来る前の身内って言えるのは、じいちゃんだけだったんだ。そのじーちゃんももうダメでさ。ぼけてて、俺の事分かってないんだよね」


多分、わからないだろうとはわかってて、遊びに行った。

じーちゃんは、近所の兄ちゃんが世話を焼きに来てくれた、ぐらいの認識だった。


「家族は、みんな死んだ。事故、になってるけど、事故じゃない。クソ親父の無理心中でね。理由は良く知らない。知りたくもない」


俺だけ、助かった。俺は一度あの時死んでるようなものなのかもしれない。


「親戚とは縁が遠いし、じーちゃんぐらいしか、親しい親戚っていなかったんだけど、そのじーちゃんの所も俺の居場所はなくなった。

ガキの頃オヤジが住居を転々としてたせいか、友人もいなくてね。いや、それはいい訳だな。もう高校にも行ってたんだから。

ま、そんなわけで元々向こうに居場所はなかったも同然だったんだ。言ってしまえばただそれだけの話」


そう告げると、イナイは俺を抱きしめた。

いや、サイズ的にお腹に抱きついてる形だけども。


「それだけ、とか言うなよ」


イナイは声が震えている。


「辛かったんだろ。バカ野郎」


そう言っている声は涙声だ。俺はそれにつられたのか、涙が伝う。


「あれ?あ、はは、なんでだろ」

「バカ、泣いていいんだよ。泣いちまえ、ばかたれ」


そういうイナイの方がもっと泣いてるじゃないか。

ああ、嬉しいな、あったかいなこの人は。

うん、好きになって良かった。大好きだ。ありがとう、俺に目をかけてくれて。

この人のためなら、俺は頑張れる。俺の居場所はこの人の隣だ。


俺はイナイに抱きしめられながら、泣いていた。

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