第47話慣れた日常が終わります!

「兄貴!国を出る時はぜひうちに来てください!」

「・・うん、気が向いたらね」


王子・・トレドナは数日の訓練と、数日の技術見学を終わらせて、帰る日が来た。

技術見学は主に王都でやっていたらしく、俺はついて行ってないので何やってたのかは知らない。

でもあいつが技術とかわかる気がしないので、おそらくメインはフェビエマさんだと思う。

俺は俺で、その間手の空いてる人に新しい技術とか知識は教えて貰ってたけど。


「皆様、本当にお世話になりました。タロウさんも、ありがとうございます」


皆に深々と頭を下げたあと、再度俺に、深々と頭を下げるフェビエマさん。


「ええ、まあ、はい」


俺の何とも言えない感じの反応に苦笑するフェビエマさん。


「殿下ではありませんが、もし我が国にお越しにこられる際は、どうぞ訪ねてきてください。歓迎します」

「ありがとうございます」


それには素直に礼を言っておいた。

帰りも自分の足で帰るらしい。

帰るとなると馬鹿でも寂しい・・・なんてこれっぽっちも思わない。

やっといなくなるのかとホッとしてる。


あ、そういえば技工剣の機能まだあるとかちらっと聞いたんだけど、確認は出来ていない。

まあ、いいかなって思って、聞いてない。


「あ、そうだ、兄貴、これ」


そういってトレドナが何かコインを渡してきた。なんだこれ。


「これを見せれば、俺の国では王家に関わるものって証明になります。持っててください」

「・・それってかなり大事なものじゃないのか?」

「まあ、そうっすけど、兄貴なら大丈夫でしょ」


根拠がさっぱりわからんけど、とりあえずもらっておく。

ま、行くかどうかはわからんけど、役に立ちそうだ。下手に見せびらかす気はないけど。


「トレドナ、ちゃんとフェビエマさんの言うこと聞けよ」

「もちろんっすよ!いつか兄貴に追いつくっすよ!」


素直なのはいいが、俺を慕うのはやめてくれてもいいのよ?







「・・はあ、つかれた」


トレドナ達が見えなくなったあと、盛大にため息をついた。


「おつかれさん」


ポンっと笑いながら肩を叩くアロネスさん。


「絶対楽しんでましたよね?」

「そんなことないぞ?」


半眼で問う俺に、満面の笑みで答えるアロネスさん。

はぁと、またため息をついてしまった。


「さって、ここでの最後の仕事が終わっちまったな」


・・・・・・え?


「終わった?」

「ああ。あれ?イナイから聞いてない?」


俺はイナイを見る。するとイナイはしまったという顔をした。


「ごめん、言い忘れてた・・・」

「どういう、こと?」


いや、聞くまでもない。本当はわかってる。

でもこの毎日が楽しくて、まだ当たり前にもう少し続くと思いたかった。

けど、もう終わるんだ。ここでの日常が。


「ここでの仕事、終わったんだ。だから、あの二人の対応が終わったら、あと1ヶ月猶予はあるが、それでみんなここの生活は終わりだ」


あと1ヶ月、か。

まだ、ミルカさんに一撃入れてないし、リンさんにもまだ構えを取らせていない。

技工はイナイがいてくれるから教わる機会はまだいくらでもあるけど、錬金術と鍛冶技術はまだまだにも程がある。

足りない。けど、そこまで甘えられない。

あの人たちにもあの人たちの生活がある。いつまでも、甘えていられない。


「あと、一ヶ月、皆さんよろしくお願いします」


俺は改めてみんなに頭を下げる。

1ヶ月。その期間で吸収出来るだけ吸収する。

それが、俺にできる恩返しでもあると思ってる。

流石の俺でもわかっている。この人たちがこの世界で超一流の人間だと。

その人たちが何もできない俺に、何も返せない俺に手を差し伸べてくれてたんだ。

ならそれを精一杯応えるのが、筋だ。


「うん、任せて」

「まあ気楽にいこうさ」

「どこまで鍛えられるかしらねー」

「まあ、俺は基本は教えたから、あとは本人次第だと思っているがな」

「ま、やれる範囲でがんばろーや」


みんな気楽に答える。それが俺を思ってなのか、本当に気楽に思ってるのかはわからない。

けどそれがありがたく思えた。


「イナイ」

「私の答えは決まってるぞ?」

「本当についてきて、くれる、のか?」


結構不安だった。

イナイはこの国での地位がある。仕事もあるはずだ。

そんな人間を俺のわがままに付き合わせようとしてる。

そんな俺にイナイはボディーブローを入れる。


「げふっ」


サイズ的にちょうどいい位置なんだろうけど、痛い。隙間に入ってほんと痛い。


「言ったろ。ついてくって」


真剣な目で、オレに言うイナイ。

それに返す言葉なんて、決まってる。


「ありがとう」


そう言って抱きしめる。


「あのー、俺たち見てるんですけど」

「やるね、タロウ」

「ひゅーひゅー」

「わっはっは、若いなぁ!」

「見てるこっちが恥ずかしいわー」


しまった、反射的にやってもうた。

恐る恐る下を見ると顔を真っ赤にしたイナイが睨んでます。

あ、これ、多分もう一回ボディ貰うな。

そう思って腹筋に力を入れてると綺麗な右フックが飛んできた。

顎をキレイに掠めたフックは俺の意識を刈り取るには十分だった。


イナイ、いい右もってんぜ・・・・。

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