第45話次はリンさんです!
「おーい、生きてるー?」
俺は目の前でぐったりと横たわっている王子に声をかける。
「な、なんとか・・・・」
おお、返事する余裕あるのか。
あのあと、いつもやってる基礎訓練をやったのだが、王子は途中からヘロヘロだった。
でも最後までついてきたあたり、そこそこ基礎鍛錬はやっていたようだ。
「情けないですね。やはり基礎から鍛え直しです」
フェビエマさんは息は上がっているものの、余裕が有る。
ミルカさんは軽く息を整えるだけで普段通りだ。流石だ。
俺?俺もそこそこ息上がってますよ?
ただほぼ毎日やってることなので、慣れた。
それに今日はいつもやってる事とはいえ、ペースは抑え目だったから楽だ。
「い、いつもこんなことやってんすね・・・・」
「まあ、基礎は大事だろう」
基礎なく、小手先だけでは立ち行かなく時が来る。
ちなみに元々はこれを王子にやらせる予定はなかった。
が、俺がやると聞いて張り切って参加し、ぐったりしておられる。
「す、すみません、すこし、やすんで、いいすか・・」
「うん、無理するな」
俺の言葉に礼を言って大の字で寝転がる王子。
もうなんか、王子に見えなくなっていた。
いや実際、最初の方で敬語はなしでお願いします!って言われてから、もうそういう目で見れてない。
はぁ、どうしてこうなった。とため息をついてみる。
そこにリンさんがやって来た。
「おかえりー。あらま、ばててるね」
リンさんは木剣を持っている。
てことは、そういうことか。
「んー、回復するまで、タロウ、ちょっとやるかい?」
「あ、はい、わかりました」
俺も少し休憩したいが、しょうがないか。
剣を取り出そうとすると家の方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた
「タロウー」
振り向くとアルネさんだった。なんだろ?
「ほれ」
と、なにか長いものを投げる。
剣?
投げられたものは多分剣だ。そこそこ大きい両手剣サイズだ。
俺はあのサイズを無強化はちょっと怖いなと、強化して迎える。
すると、剣は見た目より異常に軽く、力を入れ過ぎて、受け止めるはずが少し投げ飛ばしてしまう。
「わっ、たっ、とっ」
なんとかキャッチ。ふう、焦った。
「わはは、なにをやっている」
「アルネさん、軽いなら軽いって言ってくださいよ」
「ああ、そうかすまんすまん」
またわははと笑いながら謝るアルネさん。
「で、これなんです?」
「お前用の剣だ。対人で技工剣は威力がありすぎるだろうし、何よりあれは起動しないと重いだろう?」
なんと、俺の剣ですか。
これはありがたい。ていうか、この剣めっちゃ軽い。
包丁の方が重い位軽い。
「これ、凄まじく軽いですね」
「うむ、だが、頑丈で防具としても使いやすい。ただ加工がしにくく、モノになるまでだいぶかかったものだ」
へえ、頑丈なんだ。
「リンさんの攻撃真正面から受けても大丈夫ですか?」
「本気じゃなければ大丈夫だ」
つまり本気だとダメってことですね。わかります。
ちょっと面白そうなので、今度その金属触らしてもらおう。
「リンと同じ剣もいいかなとは思ったのだが、タロウは体術も併用するからな。軽いほうがいいかと思った」
「ありがとうございます。助かります」
これはありがたい。持ってても、ほぼ持ってないのと同じぐらいだ。
つーか、この重量、ほぼグリップの重量じゃなかろうか。
「まあ、本気ではやらないから大丈夫」
「そうしてやってくれ」
リンさんとやるという事で、王子は息が整ってないのも忘れて、ガバっと起きる。
さすがにリンさんは気になるか。
「さすが兄貴、最強の剣士と呼ばれてる騎士とも打ち合えるんすね・・・!」
・・・・なんか、だんだんあの王子様心配になってきた。俺のせいでどこか壊れた?
「あっはっは、慕われちゃってるねぇ」
「なんならリンさんも姉になったらどうですか」
笑うリンさんに死んだ目で返すと、リンさんは真顔で「やだ」といった。
俺もやだよ。
「・・とりあえずやりますか」
俺はため息をつきながら強化しつつ剣を構えると、リンさんはいつものように剣を片手で持ちながら、ブラブラさせる。
いつもの構えだ。
いつになったらこの人にちゃんと構えさせられるのかねー。
まあ、その前にこの人の前に立つと、手汗がすごい方が問題かも。怖い。
「いくよー」
軽ーい声で宣言したあと、疾風が舞う。
あれ、なんか、今日、いつもより速くない?
ヤバイと思ったときには反射的に体が動いてた。
おかげで何とか剣を受け止めたのだが、受け止めた瞬間木剣がぶっ壊れた。
これ、ちょっとマジで打ち込んできてた。こっわ。
「今のを受け止めれるようになったかー。やるねタロウ」
「リンさん、ほかの皆もそうですけど、こういうことするならするって言ってからにしてくださいよ。心臓に悪いですよ」
「あっはっは、いざという時はいつ来るかわかんないもんだよ?構えてなくても出来るようになってちゃんと『身に付いた』ものなのさ」
リンさんにしては珍しくまともな言葉だ。
「ふむ、これだとまだ、バルフの方が不利かな。タロウは魔術を使えるし」
「騎士隊長さんがどうかしたんですか?」
バルフってたしかあの人だよね?
「ああいや、なんでもないよ」
「そうですか?」
まいいか。
さて、とりあえず俺は後ろでキラキラした目の王子様の対処をどうしようかと悩んでいます。
「す、すげえっす!今の受け止められるなんて!俺、何にも見えませんでした!」
「いや、受け止めたけど、リンさんの最高速はもっと上だから」
やっぱこの王子さまどっか壊れたんじゃなかろうか。
「あと、この剣のおかげかな」
軽い。強化するともはや箸でも持ってるのかってぐらいだ。
ちょっとした木の枝ぐらいの軽さで、強度はちゃんとある。
切れ味は・・・どうなのかな。
ただ、大きめの剣の利点の、重さで叩き潰すことができないけど、俺はそういう戦闘方法じゃないし問題ないか。
「ちょ、ちょっともってみていいすか?」
「ん、いいよ。見た目よりかなり軽いから気をつけて」
そっと剣を持つと、その軽さにやはり驚く王子。
「すごいっすね、これ・・・」
「うん、これが防具もだったら、重装備でもかなり軽快に動けそうだ」
その言葉にフェビエマさんは思案顔になる。
「この国は単純にあなた達がいるという以外に、やはり技術や道具、資源の発見に関しても他国を抜いていますね」
「んー、まあ、鉱石資源なんかは、アロネスが頑張って見つけたからねぇ。この金属だって見つけたのはアロネスだし。大元の鉱石だけだとこんな頑丈にはならないらしいよ」
「さすが錬金術師ですね」
ふえー、アロネスさん、そういうこともしてるのか。
あ、でも、錬金術師ってそういうものか。科学の前身みたいなものよね本来は。
ゲームの錬金術みたいなとんでも調合の方がおかしいよね。
でもそのおかしいとんでも調合もやってるとこよく見かけるけど。俺が教えられてる方も大半それだ。
なんか術を込めた、一般人にも一定の魔術を使うことのできる本とか趣味で作ってたし。
今度、そういう、鉱石とかも教えてもらお。
「さて、殿下、そろそろ動ける?」
「ああ、大丈夫だ」
俺に剣を返し、立ち上がる王子。
「はい、リン姉。殿下も、どうぞ」
そう言ってミルカさんはいつの間にか木剣を持ってきていた。
「木剣なら最悪打ち身で済みむからねー」
嘘だ。あの人が本気で打ち込んだら最低骨折はまぬがれない。
食らった俺が言うんだから間違いない。セルエスさんに治してもらえなかったらと思うとぞっとする。
「こい!」
殿下が構えて叫ぶ。度胸あんなー。
「ほーい」
リンさんは軽く答えて、真正面から斬りつける。
一応手加減はしてるけど、多分その速度だと王子じゃ受け止めれないと思うなぁ。
「あだっ!」
案の定受け止めれず、肩に喰らう。
「いつつ・・」
王子は食らった肩を抑えながらじっと見る。どした?
「あれ?手加減失敗した?大丈夫?」
リンさんも様子がおかしいと思ったようだ。
「いや、本当に俺は弱いなと思ってな。今の攻撃が十分以上に手加減をしようとして放った攻撃だということぐらいは、わかったつもりだ。
俺はそれすらも受け止められないのかと思ってな」
リンさんの攻撃はミルカさんや、今まで戦った人と比べても異常だから、そんなもんだと思うけどな。
俺だっていつも手加減してもらってる。
そもそも無強化では話にならない。セルエスさんとミルカさんの教えがあるから、受け止められるだけだ。
「強くなるつもりがあるなら大丈夫だよ。タロウなんか二年ぐらいでもっと弱い状態からここまでになったんだし」
「・・・まじ・・すか・・?」
ギギギと俺のほうを向く王子。フェビエマさんも驚いている。
「まあ、一応。だから体術はまだまだなんだよ」
そういう俺に、王子は尊敬の眼差しを向ける。
いや、でも、ねえ、セルエスさんの魔術習得スキップがあったし、仙術もその延長で使えるようになったし。
あれがなかったら俺はもっと弱いと思う。
「たったそれだけの期間・・・師がいいのか、本人の資質か、あるいは両方か・・・」
フェビエマさんが呟く。
「師がいいんですよ。ここの人たちに毎日鍛えてもらってたわけですから」
「そう、でしょうね。この人たちに鍛えられていれば、ある意味必然ですか」
納得したような言葉を発しているが、顔が納得してない。
なんでだ。
そのあとはまたリンさんがもうちょっと速度を落として、それでもいっぱいいっぱいで、最後には疲労で崩れ落ちる王子であった。
王子、頑張るなー。
周りが問題あったというより、思考の方向が変わるきっかけが今までなかったのかな。
まあ、こないだみたいな馬鹿なことはしないようになってくれそうで良かった。
でも、国に帰ったら俺のことは忘れて頂きたい。
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