第44話ミルカさんとの訓練です!

「すげぇ・・」


王子がなんか呟いてるが無視無視。構ってる余裕なんかない。

ただいま俺はミルカさんと組手中だ。

ミルカさんは無強化。俺は魔術で強化状態だけど、それでも当たらないし、当てられまくる。


一応今日はまだクリーンヒットはもらってない。

これなら今日は、一撃ぐらいは入れれるか?

そんな気持ちでいるとミルカさんの打撃がするっと肘に絡みつく。

やばい、組まれる。


現状組み技にはいられると、振りほどけない。

組まれる寸前に、きちんと対処しないとそこで終わる。

最近はそれも何とかわかってきて、動きの変わる瞬間を見極めるようになってきた。


トン、と上手く突き放しながら、組み技は避ける。

変に力むと逆にその力を利用される。あくまで外すことに集中。


組むはずだった手はその機動をずらされ、空を掴む、ではなく、そのままそれが打撃となって降ってくる。

反応と判断が余りにも早すぎる。この人ほんとに無強化かよ。

いつもながら仙術と魔術以外にもなにか使ってると言われても信じてしまう反応速度だ。


打撃をギリギリで避けつつ、カウンターを狙ってみるが、あっさり躱され、逆に顔に手の甲をパンと当てられる。


「うぐ」


それで一瞬。本当に一瞬動きが怯んだ上、ミルカさんを見失う。

次の瞬間に打撃を叩き込まれるのは分かっていたので、後ろに下がる。

が、それを完全に読まれていて、後ろに下がろうとした足をすくわれた上に軸足も払われる。


地面に叩きつけられたる直前に手を地面につきブレイクダンスのように蹴りを放つが、隙間を縫うようにミルカさんの蹴りが俺の腹に入る。


「がっ!」


俺はそのまま背中から倒れる。痛い。


「ちょっと、おしい」


ミルカさんはそういうが、汗一つかいてない人に言われても信じられない。


「ぐう、今日も当てれない・・・。」

「たぶん、今なら仙術も使えば、当たる」

「それじゃ、意味ないでしょ。今ですらミルカさんの速度より上なのに」


そう、魔術強化状態の俺の速度は、通常のミルカさんより上だ。

でも当たらない。そして喰らう。

攻撃がまるでそこに来るのが全て分かっているように避けられ、いなされ、そしてそこに攻撃すれば当たると最初からわかっているように、拳が、蹴りが放たれる。


ミルカさんの一番すごいのはやはりその目の良さだろう。

すべてを見通してるんじゃないかと思うぐらいに、なすすべなく倒される。

最近になってやっとまともに「組手」になるようになったが、それも彼女が強化すれば話にならなくなる。


「絶対旅に出る前に一回は当てる」

「それは、楽しみ」


眠たそうな目だが、なんとなくちょっと意地の悪い笑みをするミルカさん。

最近表情が前より判別がつくようになった。

この人いつも眠たそうな目だけど、結構ころころ表情変わる人だというのが最近の認識だ。


「すげえ、兄貴!」

「・・・・ああ、うん、ありがとう。でも見てたろ。ミルカさんの方が強いの」


なんでだ。なんで俺が叩きのめされているの見て、すごいって言えるんだこの王子は。


「いや、俺今の半分ぐらい兄貴の動き、よく見えてないんすよ。あの人の動きは見えてるんすけどね」

「・・うん、とりあえず目を慣らすとこからはじめるか、強化魔術少しでも使えるようになろう。あと、見えてるのに捉えられない方が本当はすごいからね?」

「はいっす!」


なんだろう、この王子様。王子様っていうか、下っ端その1みたいになっとるがな。


「フェビエマも、軽く、やる?」

「そう、ですね、最近は自分より強い方とやる機会はありませんでしたから、お願いできますか?」

「ん」


そう言って、フェビエマさんはナイフを抜く。

ミルカさんは相変わらず腕をさげている。


「では、お願いします」

「ん、あ、そうだ、王子様はそのあとやりましょう。軽く体ほぐしておいてくださいね」

「あ、ああ、わかった」


ミルカさん、フェビエマさんにはなんか、砕けてるな。


「シッ!」


フェビエマさんがナイフを走らせる。

喉元狙いの一撃。速い。

相手がミルカさんじゃなかったら危なすぎるけど、ミルカさんは当たり前によけ――


「くっ!」


ミルカさんの顔が歪む。避けようとした方向を無理やり変えて頭を後ろにそのまま落として、背中から地面に倒れる。倒れざまに手をついて蹴りを放つが、スウェーでよけられる。

避けざまにファビエマさんは足を切りつけるが、ミルカさんはその柄を逆足で蹴り上げる。

なんだ、今の。


「相変わらず、怖い。思い出して良かった」

「あなたは、相変わらず避けますね。いえ、あの時より早い。あの時は少し切り傷がつけられたというのに」


二人は通じ合ってるが、見てるこっちは何が何やら。


「兄貴、フェビエマはナイフの軌道を手首のスナップで少し変えたんですよ。あいつの得意技です」

「あの一瞬でか」


俺の目が確かなら、ミルカさんは一瞬逆に体を振っていた。

なのに、それにも対応してフェビエマさんは攻撃の軌道を正確に変えたのか。

あれ?あの人の方が俺より強くね?


「なあ」

「はい、なんすか?」

「あの人の方が俺より強くないか?」

「でも、フェビエマはあんなに速く動けないっすよ」


ああなるほど。けどそれでも俺が表情を変えられない相手に危険信号を持たせられるほどの技量。

俺に必要なのはあれだ。ただ身体能力が高いだけじゃ、同じぐらいの相手にあったら絶対負ける。

強化で同じレベルになって、その上で技でどうにかできないと。

強化でゴリ押ししてばっかりじゃいつか痛い目みそうだ。


「でも、今度は、このまま、勝つ」

「なるほど、拘っていたのはあなたもでしたか」


二人の表情はとても楽しそうだ。

くそう、悔しいな。俺じゃあの表情は引き出せない。


そのあと二人は、完全に玄人好みと言わざるを得ない攻防を繰り返し、最後に、ミルカさんがフェビエマさんの踏み込みに合わせて腕を絡めとり、投げ飛ばして終わった。


「やっぱり、戦場で、あわないですんで、よかった」

「よくいいますね。こっちは全力。あなたはまだ強化で身体能力を上げれるでしょう?」

「それでも、久々に、身内以外で怖い相手。あなたも、見せてないだけで奥の手持ってる」

「ばれましたか。とはいえ本当の奥の手ですので、ここでは見せられませんよ」

「うん、やっぱり、あなたは、強い」


なんだろう、王子様より、あの人の方が楽しんでる気がする。


「さて、俺の出番だな」

「はい、ではよろしくお願いします」


まあ、王子様は、あっさり負けて、何度もやり直して、何もできないという、予想するまでもなかった結果だった。

あの何度も挑む折れない心だけは褒めてやりたい。

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