第41話王子様の来訪前の話です!

小さい刃が開いた剣の中から出て、ぐるぐる回ってる。

どう見てもチェーンソーです。ありがとうございます。

って言ってる場合じゃない。

どうする、どうするよ。まだ仕掛けあるのか?


イナイも無茶振りしてくれる。いや、あれは間違いなく事前にみんなと相談して俺にやらせる気だった。

俺に振ったときだれも疑問に思ってなかったもの。

発案はアロネスさんで間違いない。こんなん考えるの絶対あの人だ。

あの人以外『技工剣を起動させず、強化も攻撃魔術も障壁も使わず勝て』なんていうもんか。


一応剣への保護魔術だけは許可されたけど、あれ受け止めるのかぁ。

きつい。俺の保護魔術で相殺できるかしら。

たぶん、第一段階の機能は重力操作かなと思ってる。

最初は重量が増えるのかなと思ったけど、よく考えたら重さが変わっても、早く落ちてくるわけがない。


ああ辛い。何がって強化がダメなのが一番辛い。

絶対あの時だよなぁ、この状態の相談してたの・・・・・。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「皆揃ってるな」


そう言ってイナイは手に持っている道具をテーブルに置き、位置調整している。


「お、それ、前に言ってたやつだよな」


事前に開発中だということを知っていたアロネスさんが食いつく。

中身の呪具をアロネスさんに作ってもらうために相談したからだ。

ちなみに発案は俺で、道具其の物の製作はイナイだ。


「おう、この間試験してみたら、王都まで問題なかったから、これで完成だ」

「いやー、すげえな。どんどん発達してくなぁ」

「今回は完全にタロウがいたからだけどな。この発想はなかったんだよな」

「いや、俺はもともとこういう道具を知ってたから、そこから逆にこっちで使える方法がないかなと考えてみただけだよ」


何をかと言うと、映像付きの通話機だ。


そう、元の世界にはそれこそ映像通話なんて腐るほどある。

こっちの世界は電線もなければ、電話の回線も、携帯の基地局もない。

では何でやればいいか?

魔術だ。それしかないだろう。今から電線やら、電話回線やら開発するよりは建設的だ。つか作れん。材料も仕組みもわからん。

魔術での連絡はこちらの世界でも存在する。魔術媒体を用いて、通話環境を作ることができている。

ならば映像は?と思った。


俺は目が見えない状態でも魔術で周囲を把握する方法がある事に目を付け、その魔術の発動と、その情報を通話している相手の方に送る仕組みを作れないか?とイナイに言ってみた。

結果、その魔術媒体はアロネスさんが作り、イナイがそれを形にした。


つーか、俺は後から知ったけど、映像そのものを伝える道具自体は存在した。

ただそれの場合、一方通行だったらしい。

なので相互にできるようにイナイが頭をひねって改良したようだ。

ちなみに録音録画もできないかね?って言ったら普通にやってのけられた。

あの人すごいわ。


作り自体はシンプルなので、材料さえあれば俺でも頑張れば作れるようだ。

ただ問題は、後から作ったものにも通話できる、ではなく、あくまで対になるように作った通話機だけ、というのが難点だ。

映像付きトランシーバーって感じだな。

ただし、距離は相当行ける。イナイが試した限り、国の端から端まで届いたそうだ。

もしかして魔力があればどこまでも届く?


「映像つきかぁ、タロウはこっちの仕事でも食っていけそうだねぇ」


リンさんがそう言うと皆がその言葉を肯定した。

でも実際作ったのはイナイだ。それを言うと。


「それでも今まで無かったものの案を出すっていうのは大変なのよー?」


セルエスさんはニコニコしながら頭を撫でてくる。


「さて、そろそろつけるぞ」


イナイがそう言って、起動ボタンを押す。

するとしばらくして壁に光が当たり、温和そうな雰囲気の男性が映る。


「おおー、すごいね、これは。みんな見える」


映像に映る男性が多少の驚きを含みながら言う。


「ふむ、顔が見えるほうが話しやすいな。表情もわかるし」


アルネさんがそんな事を言う。意外だ。


「さて、みんな、今日はちょっと皆に頼みごとがあるんだ」


映像に映る男性が話す。


「と、その前に、君がタロウくん、だね。まず自己紹介をしておこう

私の名はフォロブルベ・ファウムフ・ウムル。この国の王なんかをやっているんだ」


と、気軽に話す男性。

はあ、王・・・・・王!?


「え、王?」

「そうですよー」


ニコニコしながら話す王様。なんか、雰囲気がふんわりしてるこの人。

映像付きなのが余計にそう感じるのだろう。


「あ、すいません、俺は田中太郎です」

「うん、ミルカ達からよくきいてるよ。素直ないい子だって」


な、なんか恥ずかしいなその評価は。


「で、ブルベにい、今日は何の用?」


そう、今日はブルベって人から用があるから、皆集まって欲しいと言われていた。

イナイには自分たちだけでいいから、タロウは好きにしてていいぞと言われたが、好きにしてていいならいてもいい?と聞いて、許可をもらっている。

流石に王様とは思わんかった。

しかし、ミルカさん、軽い。


「みんな、グブドゥロ王国って覚えてるかな。あ、イナイ姉さんとアロネスは最近も関わってるし、もちろん覚えてると思うけど」

「覚えてる。あの国忘れる人間は、ここにはいない」

「そうだな、忘れるはずがない」


ミルカさんと、アルネさんが言う


「意外だ。お前がそんなんちゃんと覚えてるなんて」


アロネスさんがアルネさんを見て言う。


「心外だな。流石の俺でも大恩人を忘れるほど薄情ではないぞ」

「そうねー。あそこの国には本当に助けてもらったものねー」


セルエスさんまでそう言う国なのか。

ふむ、話がわからん。なのでこそっとアロネスさんに聞いてみた。

概要はこうだ。

ウムル王国が亜人との戦争に参加した初期の頃、戦闘自体はどうにかなったものの、ウムルには、金も、物資も、人間もなかった。

その支援を誰よりも早くしてくれたのがその国だったということらしい。


「もちろん、俺たちの力を見て、アテにしたってのもなかったわけじゃないだろうけど、それでもあれは助かった」


アロネスさんが真面目に言う。


「そう、だな、いくらあたしたちがいろんな物作れるって言っても、人材も、資材もなければどうしようもねぇ。何より食料が足りなかった」

「あの国は、周辺国にも働きかけて、物資支援、人材支援をしてくれた。感謝」

「対価なんか払えなかったもんね、あの頃は」


イナイもミルカさんも、あのリンさんまでもが言う。

本当にみんな感謝してるんだ。

その言葉を聞いて、なんとなくだが王様がさっきよりニコニコしてる気がする。


「もしかして、その国で、何かあった?」


ミルカさんが聞くと、王様は苦笑しながら話し出す。


「いや、あの国に何か起こったってわけじゃないんだ。

あれからずっとあそこの国とは仲良くさせてもらっていて、国王とも個人的に知り合いにもなっているんだけど、この間訪問した際に少し相談をされたんだ」

「何か問題があったの?兄さん」


少しピリっとした雰囲気でセルエスさんが問う。

グルドさんが王族で、セルエスさんがその姉。てことはこの人があの「兄貴」なんだろうなぁ、やっぱ。


「王様には子供が数人いるんだが、その第一王子のトレドナ君がね。少々やんちゃらしいんだ」

「あそこの王様たしか、そこそこ若かったよね?子供だしやんちゃなのは仕方ないんじゃない?」


リンさんが言う。なんかリンさんが言うと説得力ある気がするなどと失礼なことを考えてしまった。


「子供、といってもタロウくんと同じぐらいだよ、彼も。少し下ぐらいかな?」

「ふうん。で、その子がどうしたの?」


特に一大事というわけでもない様子を見てとって、皆がまったりした雰囲気になる。

王様相手にこの感じでいいのだろうか。よく考えたらみんなタメ口だし。


「その子は、まあ、簡単に言うと、子供の頃のグルドみたいな感じなんだよ」


王様がそう言うと皆が「あ~」という声を出す。

え?なに、どういうこと?

困惑していると、アロネスさんが説明してくれる。この人ほんとフォローしてくれるから助かる。

同じ位いたずらするけど。


「グルドはな、子供の頃から魔術師としては優秀で、しかも性格が荒っぽいわ、わがままだわ、自分が最強だと思ってるわで無茶苦茶だったんだよ。王族の子だから周りも下手なことできなかったしな」

「あたしがボッコボコにして、仕返しに来た日はアロネスに魔術で完全に敗北して落ち込んでたねぇ」

「ほんとあの時は肝が冷えた。王族に手をあげるとか勘弁してくれ・・・・」


リンさんとアロネスさんは楽しそうに話しているが、イナイはややげっそりしてる。

あのグルドさんからは想像がつかない。


「でもひどいよね!アロネスってば衛兵が来る頃にはいつの間にか逃げてるんだもん!」

「普通逃げるだろ。逃げないお前が悪い」

「でも、あれがあったからあたしたち出会えたんだし、いいんじゃないかしらー?」

「セルも思いっきり殴ったねぇ」

「そうねー」


ニコニコ話すセルエスさん。いい思い出、なの?

つか、リンさんよく生きてるな。


「ロウとアルネがいなかったら、たぶん死んでたね。ああ王様がいい人だったおかげもあるけど」


とリンさんは言った。


「まあ、あそこまでひどくはないけどね。ただ、その子の場合、国に勝てる人間が一人しかいない上に、それが師匠らしい。

なので、下手に調子づく前にその自信を全力でへし折って欲しい、と言われたんだ」

「うっわ、いいのかそれ。リンとかとやったら下手したら戦士としては再起不能になるぞ」


王様の言葉にアロネスさんが驚く。

え?俺そんな人としょっちゅうやってるの?


「そうなったらそこまで、といっていたねぇ」

「そうねー。確かに、その程度で折れるならこの先やっていけなくなるわねー。あの戦争を、あの戦場を知っている王様ならではの判断ねー」

「そうだな、下手な自信や、相手の力量を見極められないのは身を滅ぼす。

あたしたちが言えた義理じゃないかもしれないがな」


セルエスさんは感心した感じでいい、イナイは戦争を思い出しているのか、渋い顔だ。


「で、王には誰か派遣しましょうか?と聞いたら愚息に自分の足で向かわせると言われてしまってね。

なので、そこで王子を迎えて欲しいんだ。王は、来たらすぐ、だれかやろうと言い出すという予想してる。

たぶん一番の標的はリファインだろう」


リファイン。リンさんの事だ。この間ちゃんと名前を教えてもらった。「いってなかったっけ?」と言われた。


「おそらく顔合わせの意味もあるだろうな」

「そうねー」


イナイとセルエスさんが言う。曰く、こちらの英雄たちと個人的に顔見知りだ、という事実を作る目的もあるのだろう、ということだ。

そういえば結局、ここの人たちの何人が英雄なのか聞きそびれてるなぁ。


「ふむ、ちょっとみんな、こっちこい。あ、タロウはいいぞ」


アロネスさんがそう言って立ち上がる。皆がついていきぼそぼそと話しているようだ。

ようだというのは、声が聞こえないから。アロネスさんがなんか結界張ってる。


「よし、それでいこう」


リンさんがそういう声が聞こえた。話はまとまったようだ。


「みんな、頼んでいいかい?」

「ああ、完全に自信をくだいてやる」

「うーん、トラウマにならない程度にはしてあげてほしいなぁ」


王様が苦笑しながらアロネスさんの言葉を聞く。



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そんな一幕があったのだ。

多分あの時の相談だ、この状況の原因。

そしてイナイからさっき言われた。


「タロウ、いい機会だ。魔術は剣の保護以外使うな。体術と剣術のみで勝て。技工剣も起動させるな」


やる前にそう言われた。

今まで強化無しとかやったことないので、スゲー怖い。

しかもあいて魔導技工剣とか聞いてない。


さてどうするか、チェーンソーみたいってことは、つばぜり合いは危ないだろうなぁ。

横合いから弾くしかないかな。

あの加速に気を付けないと。

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