第40話王子様との手合わせですか?

くあー、やっと着いた。

何日かかったんだここに来るまで。

王都から麓の町までは馬車だったからいいけど、山道は歩きだったからきっつい。


「あの家が、例の家で間違いなんだよな?」

「ええ、殿下。あの家に6人、揃っているはずですよ」


6人。王城にいるウームロウと王の弟のグルドウル以外はあそこに揃ってるわけだ。

楽しみだ。技工士や錬金術師は別にそこまで興味はないが、あのリファインがいる。

あの御伽噺ではないが、強いのは確かだろう。どの程度か確かめてやる。


そう思って見えた家に近づいていくと、意外にでかい。

家というより、屋敷と言っていいサイズだ。

そんな感想を持ちながら眺めていると、玄関の戸が空き、美少女が出てきた。


「ようこそおいで下さいました。グブドゥロ王国第一王子、トレドナ殿下でございますね?」


俺は頷き、肯定する。


「王から話は聞いております、どうぞ、こちらへ」


そう言って、出てきた美少女は家の中へ招き入れる。

この家の英雄の誰かの侍女であろうか?

年の割にしっかりした佇まいと所作だ。


少女の案内のまま家に入ると、6人の男女が、俺の国の式典用の挨拶の体勢で待っていた。

6人か。彼らがあの英雄だろうか。


「殿下、まずはこちらの紹介をさせていただきます」

「ああ、頼む」


助かる。正直誰が誰かわからん。

ウームロウ・ウッブルネはウムル王が各国に赴くときに必ずいるので知っているが、ほかのメンツはあまりわからない。


「まず私から、この屋敷の管理を任されております、ウムル王国所属技工士イナイ・ウルズエス・ステルと申します」


は?

まて。ちょっとまて。イナイ・ステルだと?あの技工士のステルか?

同姓同名の別人ではないのか?

どう見ても少女にしか見えんぞ?


「・・・からかっているのか?」

「殿下、私はこのような容姿ですが、本人でございます」


マジかよ。

こんな美少女なのかよ。

ますます一騎当千とか信用できなくなってきたぞ。

俺のそんな胸中は置いてきぼりに紹介は続く。


「殿下、お初お目にかかります。ウムル王国聖騎士リファイン・ボウドル・ウィネス・ドリエネズと申します」


挨拶の構えのまま、自己紹介をする赤い軽甲冑をまとった女が名乗る。

この女があのリファイン。ぱっと見は確かに引き締まった体に見えるが、どう見てもそんなたいそうな女には見えん。

やはり話が大きくなりすぎただけか?


ん?なにか、一番右に居る男が驚いた顔をしている。なんだ?


「ウムル王国、拳闘士隊隊長、ミルカ・ドアズ・グラネス、と申します」


眠そうな目の女が名乗る。

こいつが俺の師のフェビエマより強い女か。

うーん。強そうなのはわかるんだが、やはり、先程と同じく、そんなにすごい女には見えん。

だが、フェビエマが恐るほどの女だ。そこは信用しておこう。

俺は彼女の強さは痛いほど理解しているしな。


「ウムル王国所属錬金術師アロネス・イルミルド・ネーレスと申します」


若干軽そうな雰囲気のある男が名乗る。

彼が、かの錬金術師か。

武の領域の人間としてはあまり興味はないが、いずれ王になる身としては、その力は興味がある。

イナイ・ステルとアロネス・ネーレスの恩恵は、うちの国も受けているからな。

オヤジが亜人戦争当時から友好を築いていたおかげだ。その辺の見通しはさすがオヤジだと尊敬の念を抱いている。


「ウムル王国所属鍛冶師アルネ・イギフォネア・ボロードルと申します」


筋骨隆々の大男だ。なるほど納得だ。

彼ならば一騎当千などと言われても思わず頷いてしまう。

この体格は圧倒されるな。


「ウムル王国魔術師隊隊長、ウムル王家王位継承権第一位、セルエス・ファウ・グラウギネブ・ウムルです。殿下お見知りおきを」


ほう、彼女があの王女か。いや、今は王女ではなかったな。彼女の兄が王をしているのだから。

そう考えていると、俺の脇腹をフェビエマがつつく。

え?なに?

俺の理解不能を読み取った彼女は、明らかに馬鹿にした顔で耳打ちをしてくる。


「殿下、王族ですよ、彼女は」


え?うん、今そう言ったからな。

まだ理解できない俺の背中を、彼女たちからは見えないように殴る。


「っ!」

「殿下、自国より強大な国の王族に対する態度ではありませんよ」


あ、そういう意味か。

でも殴ることはないじゃないか。


「あなたがあのセルエス殿下ですか。お噂はかねがね。これからも我が国と末永く友好をお願いしたく思います」


こちらも自国の挨拶の構えをして話す。


「はい、こちらこそ、戦争当時に辺境の小国だった頃の我が国の支援をして頂いたグブドゥロ王国とは、共に歩んでゆける事を願っています」


柔らかい笑顔で答えた彼女を見ていると、彼女に関する噂は信じられない。

笑顔で戦場を蹂躙する、悪魔のような女。

それが彼女の一番有名な話だが、笑顔は笑顔だがとても柔らかい笑顔の、いい女じゃないか。

まあ、魔術師など、詠唱している間に距離を詰めればいいだけなので、流石に単独戦闘の時はそれができない作戦でもとっていたんだろうと思う。

その話に尾ひれが付いて、英雄譚になったのではなかろうか。


・・・む?これで聞いていた6人はいることになるな。

ならばこの少年はだれだ?

まさか、彼があのグルドウルか?


「初めまして、ここで居候をさせていただいています、田中太郎と言います」


居候。なるほど、一般人か。

彼らの友人だろう。

俺は別に一般人が口を聞くなとか、偉そうだとかいう人種ではないので、別にかまわない。

オヤジもそのタイプなので、そこは倣っている。

尊敬する人間がそうしているなら、当然だしな。


「皆様、ありがとうございます。殿下に代わり、こちらも紹介をさせていただきます」


そう言って一歩前にフェビエマが出て、自分と俺の名を名乗る。


「わたくし、殿下の侍女をしております、フェビエマ・スドルゴと申します」


侍女、ねえ。

フェビエマがただの侍女ならとっくにクビになってるぐらい俺、殴られてんだけどな。


「こちら、皆様ご存知のとおり、グブドゥロ王国第一王子、トレドナ・ボル・グブドゥロ殿下にございます。

皆様本日は我が国の無理を聞いていただき感謝致します」


そう言って頭を下げる。

その動作はとても綺麗で、流れるようだ。

後ろから見ている俺にはいい尻が見える。撫でたい。


「フェビエマ様、ありがとうございます。要件は王からお聞きしておりますが、確認をさせていただいてよろしいでしょうか?」


美少女の問いに俺とフェビエマが頷く。


「まずは、殿下の技を磨くため、我が国が誇る剣士リファイン、そして拳闘士であるミルカとの手合わせ。

そして、自国の発展のため、私、イナイの技工の道具と、錬金術師アロネスの業を見る。ということでよろしいですね?」

「はい、お願いします」


個人的に後半は別にいいんだけどな。

ぶっちゃけ技術者連れてきてねーから、俺見てもわかんねーし。

あ、そうか、そのためにフェビエマなのか。

彼女なら、作れずとも有用性や、オヤジに報告すべき内容はわかるはずだ。

俺が護衛なんざいらねーって言ったせいで、フェビエマがついてくる事になった。

お目付け役なんだよな。すまん。


「今日は山道で、疲れたでしょう?体を休められて、明日に致しましょう」

「―――いや、すぐに始めたい」


美少女の言葉を俺は否定する。

確かに疲れた。山道で疲労感タップリだ。

だが、それよりも、リファインの実力を試したくてしょうがない。


「・・・わかりました。ですが殿下の実力を見極めるために、こちらの用意した者と一戦していただけますか?」

「かまわん」


誰だろうと問題ない。サクッと倒して、リファインだ。


「では、タロウ、お前が殿下の相手をしなさい」

「え?」

「え?」


俺とその男が同時に声を上げる。

その居候、一般人じゃないのか?

見た感じ、ひょろっとした兄ちゃんに見えるが。

俺は傍から見るとあの程度に見えるのか。

くっそ、少し腹たったぞ。


「構わんが、怪我では済まんかもしれんぞ」

「はい、構いません」


涼しげに言う少女。


「では、先に出ている」


フェビエマを連れて外に出る。

舐めやがって。目にもの見せてやる。







「よろしくお願いします」


そう言って構える男の手にあるものを見て少し考えが変わった。

なるほど、こいつ俺と同類か。

技工剣の使い手だったとは。

だがちゃんと使えるのか?


「面白い」


俺はニヤッと笑い、背負っている剣鞘の留め具を外す。

大剣を肩に担ぎ、構える。


「いくぞ。大怪我しても恨むな」

「それはちょっと困りますね」


ふん、この状況でも軽口をたたけるか。

ならこれでどうだ?


「重斬刃剣」


起動の言葉を口にすると、魔力が吸われ剣が淡く光る。

おお、驚いてる驚いてる。

俺の剣は、ぱっと見ただの大剣だからな。

ほとんどの奴が魔導技工剣とは思わない。


「行くぞ!」


叫び、踏み込む。

男は俺の上段からの攻撃をいなすつもりだろうが、あめえよ。

俺は構わず斬りつける。


「っ!」


男は、突然『加速』した剣に、対応しきれず、大きく体をずらしながらなんとか受け流す。

やるじゃねえか、今のでどれだけ頑丈な剣持ってても、落とすやつがたいていだってのに。

なるほど、ある程度の腕はあるらしい。


俺は振り切った勢いを殺さず、下半身で回してまた斜めに斬りつける。

男は、崩した体勢を元に戻し、剣を受け止めようとする。

できるかな?


「ぐっ、重い!」


おお、受け止めやがった。

剣が淡く光っているところから、やつも起動したのだろう。

だが、まだだ!


「くう!」


受け止めた剣が、さらに『重く』なったことで男は呻きながら膝を大きく曲げる。

男は半身を少しずらし、俺の剣を滑らせながら、俺の後ろに回ろうとする。

俺の剣の重さから、小回りはきかないと判断したんだろう。


「ふっ!」


俺はその動きに合わせて剣を後ろに軽々と振る。

残念だが俺にこの重さは無いんだよ。

勝ちを確信して剣を振った方向を見る。


―――いない!


俺は今剣を振った誰もいない方向に全力で飛び退く。

俺の居た所に目をやると、今まさに剣をふらんとする男の姿が見えた。


俺は転がる体をすぐに起こし、構え直す。

ちっ、なるほど、少しはやるみたいだ。


「悪かったな、甘く見てたよ」

「いえ、気にしないで下さい」


ふん、なるほど、こいつもそういうのは慣れてる口か。

確かにぱっと見強そうには見えん。


「刃よ!」


俺がそう叫ぶと、大剣が中央からバカっと開き、魔力の刃がいくつも飛び出る。


「回れ!」


その言葉に答え、刃が剣の周りを高速回転する。


「チェーンソー?」


男は俺の剣を見て、そう言った。

似たような道具でもあんのか?


まあいい、ここからが本番だ。どこまで耐えられるかな!

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