第38話師匠の懺悔です!

「・・・・・・ねえ、タロウさん」

「どうしました、ミルカさん」

「タロウさん、いつも、そんな感じ?」

「ええ、向こうに居た頃からこんな感じです」


何の話かというと、また俺は釣りに来ていて、またボーズである。

釣れん。いや別にいいんだが、小さい頃から俺はこう、なんでか釣れない。

そんな俺の隣でひゅっと釣竿を引き上げるミルカさん。


「釣れた」

「釣れましたねぇ」


もう何匹目か数えるのが面倒になるぐらいミルカさんは釣っている。

俺はそのそばにいるのに一匹も釣れていない。何故だ。

じーちゃんと釣りに行った時もいっつもこんなんだった。


「・・なんか、ごめん」

「謝らないでくださいよ・・・」


いいんだ、このボーっとした時間好きなのはホントだから。たまには釣れるし。ほんとたまに。

そんな風に考えていると、ミルカさんは又餌をつけて投げる。

すぐ食いつき、すぐに引き上げる。


「今日は、魚づくし」

「それなら今ある分血抜きして、今イナイに持って行ってあげないと、今日は無理じゃないですか?」

「そっか、じゃあ、明日」


言いつつミルカさんは餌をつけて、投げる。


「・・・ねえ、タロウさん」

「なんですか?」

「タロウさん、なんで私達の教えに、まだ素直に従ってるの?」

「は?」


いきなり何を言い出すんだ、この人。


「とぼけないで。王都、行ったんなら、一般のレベルは解った筈」

「え?」

「え?」


俺が疑問の声を上げると、同じように声を上げるミルカさん。

一般レベル?

そんなんわかりませんがな。数回しか行ってない上に、あそこ平和だからそう力量が分かる機会もないし。

数少ない戦った人と見た人は、親父さん以外、かなり強いし。

騎士の人らも結構強かった。


「まさか、解って、無かった?」

「ええ、まあ」

「失言だった・・・」

「はは、聞かなかった事にしますよ」


そう、聞かなかった事で良い。

俺は別に不満はない。この世界で生きていく力量を、手段を、この人達はくれたんだ。

なにより、イナイの傍で生きていくには、力はあるに越したことはないようだしな。

俺は、感謝しかしてない。


「ううん、聞いて」


ミルカさんは真剣な顔で川を見ながら言う。


「タロウさんはもう、ただ一人で生きていける域を完全に超えてる。私も、セルねえも、分かっててまだ鍛えてる」

「・・・・・」


俺はそれを無言で聞く。


「私は、あなたが私の業を身につけていくのが楽しくてしょうがない。私のこの業を使いこなせる人間なんて、今までいなかった。

この業を、人に教えられるのが本当に嬉しくてしょうがない。

もちろん、イナイの事もある。けど、何より私は、私の為にあなたを鍛えてる。

たぶん、あなたが仙術を使えるようになった、あの頃から」

「そう、ですか」


それは、多分、懺悔。

自分を頼って、信じていた相手を裏切っていたんだという告白。


「殴られる覚悟は、できてる」


そう言ってこちらを見る。その目は真剣そのものだ。


「ならいつか、組手でやってみせますよ」


俺はそれに軽くそう答える。

俺は、この世界で生きる術どころか、もっと上の業をくれた人に、感謝をしている。

しってますよ。世間のレベルなんてわかってないけど、あなたが楽しそうだったことぐらい。

それに、そんなあなたたちを倒す人がいると聞いた。なら、強くあって損はない。

もしかしたらもっと強くて危ないのがいるかもしれないんだから。


「・・・イナイがアナタに惹かれた理由、今わかった気がする。この、女たらしめ」

「酷い」

「ふふ、ごめん。ありがとう。タロウ」


いつものようにさん付けじゃなく、タロウ、とミルカさんは言った。

多分、今日やっと、本当にこの人に認められたんじゃないかなと思う。


「タロウ、イナイ姉さんの旦那になるつもりがちゃんと有るなら、私もイナイ姉さんと同じような対応でいいよ」

「え?」


いま「姉さん」って言った?


「あ、しまった。今の無し」

「え、どっちがですか」

「聞かないで」


まあ、多分、姉さんの方かなとは思ってます。


「覚悟は決めたよ。だから俺はまだ鍛えて欲しい」


ミルカさんは、その言葉を聞いて満面の笑みになる。珍しい。


「そっか、ありがと。イナイをよろしく。イナイは泣き虫だから、誰かが、守ってあげないと」


泣き虫、か。

グルドさんとは違う見方だ。


「頑張る」

「うん、頑張れ」


そう言ってまた釣竿を上げる。また釣れた。


「なんでだろうね?」


呟ききながら首をかしげるミルカさん。そんなの俺が聞きたい。

ミルカさんはまた餌を付け投げる。


「セルねえも、多分私と同じだと思う。だから、文句を聞くつもりだと思う」

「いいよ、べつに」

「だろうね」

「うん」


セルエスさんがどういう意図だろうと、俺は構わない。

ぶっちゃけ俺は自分の素の性能は高くないのを自覚してる。

ミルカさんの鍛錬で、体もそこそこ出来てきているが、まだまだだ。

だから、どこかで魔術に頼っている。

今まで魔術なしで戦ったことも無いし、多分それだと、騎士隊長さんには一瞬で負けただろう。


どちらにせよ、俺は二人に不満などない。

そりゃ泣きそうになるような訓練は何度もあったけど。それでも感謝してる。

だからいいんだ。


「タロウは、珍しい人」

「そかね?」

「そう」

「そっか」


釣りでぼーっとしてることも相まって、ミルカさんとの会話はなんかよくわからない感じになっていく。

この人、真面目な会話以外は、単語で済ますことも多いからな・・・。

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