第34話小姑さんにためされます!

「ただいまー」


午前中の訓練を終えて、お昼ご飯を食べてる時にそう言ってドアを開けた人を見る。

魔術師っぽい感じの服装の男性が玄関立っている。

その人に一番最初に反応したのはアロネスさんだった。


「お、おま、バッカヤロウ、ただいまじゃねえよ!どこ行ってたんだよお前!」


そう言って駆け寄りヘッドロックを決める。


「いた、いたい、痛いってアロネス兄さん!」

「うっせえ、心配かけやがって。今までなにしてやがった」


そう言っているふたりは笑っている。

知り合いなのかな?

いや、ただいまって言ったってことは、アルネさんみたいに元々はここにいた人なのか。

そこにパタパタとイナイが駆け寄る。


「おかえり、グルド」


イナイはニッコリと笑いながらそう言った。

ああ、この人があの弟さん!

グルドさんは満面の笑みになり。


「ただいま、イナイ姉さん」


と言った。

あれ?なんかもやっとした。


「おかえりー、グルド。元気みたいだね!」

「リン姉も相変わらずみたいだな」

「いやいや、あたしもまだまだ強くなるよ~」

「勘弁してよ、もともと化け物みたいなのに、何になる気なのさ」


心底嫌そうな顔をして言う。

あ、やっぱこの人化物クラスの扱いなんだ。


「愚弟生きてたのね」

「なんだクソ姉貴、まだ行き遅れてたのか」

「来年結婚するわよ」

「そうか旦那がかわいそうにな、こんな狂人嫁さんとか」

「あ゛?」

「んだコラ?」


・・・・なんだろう、今俺は何か見てはいけないモノを見た気がする。

いつもニコニコしてるセルエスさんがどっかのチンピラみたいな声と表情をしています。

しかも魔力がものすごい迸ってます。怖いです。逃げていいですか?


「あの続き、ここでやるか?」

「私は別にいいわよ。けどあんたみたいな大雑把な攻撃をここでやったらイナイちゃんが黙ってないわよ」


ものすごく冷たい目でセルエスさんが言う。怖い。

そしてその言葉は彼に効果はバツグンだった。

さっきまで怒りの表情だったのが、やってしまったという顔になって、ゆっくりとイナイに振り向く。


「いや、あのね、姉さん」

「グルド」

「あ、しない!しないから!ほんと!」

「たく、なんでお前はセルと絡むとそうなんだ」

「ごめんなさい・・・」


・・・なんだろう、なんか、彼がイナイと話してるともやもやする。

なんでだ。

セルエスさんはニヤッとしている。今まで見たことない邪悪な笑いだ。

この人こういう面あったのね。


「ミルカとアルネは?」

「二人とも仕事だな。ミルカは式の準備もしてるから、その話もしに行くらしくて今日は帰らねえ」

「ああー、あのポヤーっとした家事の好きな兄ちゃんだよな、相手」

「ああ、ミルカにはお似合いだ。あいつは家庭でじっとは無理だ」


ミルカさんの相手知ってるのね、この人たち。


「しかし、お前、いくらなんでもこの5年間一回も連絡無しは、流石にないだろう」

「あー、いや、一応定期的に連絡はとってたよ?」

「は?」


何言ってんだこいつ?って顔のアロネスさん。

グルドさんはイナイを見る。


「実は、あたしとブルベには定期的に連絡入れるようにさせてたんだよ」

「はあ!なんで黙ってた!」

「だって言ったらお前は絶対探しに行くだろ」

「うっ」

「お前は心配性すぎるよ。グルドだって自分で自分のことを考えられる年だ。それに王位はいらないつってんだ。好きにさせたらいいだろ」

「いらないでどうにかなるもんじゃねえだろ・・・」

「そうあってもらうために、ブルベはロウをそばから離さないんだろうが。それにグルドは本気でやればお前にもそうそう負けねーよ」


アロネスさんはぐぅ、と唸る。

えーと、今の言葉から察するに、王家の人ですかこの人。

はあそうですか。


うん、状況とこの人たちの関係がさっぱどわがんね!

取り残されていると、グルドさんが話し始める。


「まあ、今回帰ってきたのは、兄貴に姉さんのことを聞いたからなんだ」

「げっ、まさかあいつお前にも喋ったのか」

「酷いな、俺だって知る権利はあるだろ?それにミルカ言いふらして、だんだん城内では広まってるって聞いたぜ?」

「ほんとあいつロクなことしねえな!」


イナイが顔真っ赤にしてる。怒ってる感じだけど、ちょっと照れが入ってるな。


「お前も、もしかして祝いに来てくれたのか?」

「・・・ごめん、それはまだ出来ないかな」

「どういうことだ?」

「姉さん、姉さんは自分の立場ちゃんとわかってる?」


グルドさんが真面目なお顔でいうと、イナイは訝しげな顔になる。


「俺や、クソ姉貴は問題ない。俺たちに手をだすってのは、国に喧嘩売るようなものだしな。それに俺たちを暗殺は不可能だし、俺たちの身内に手を出せばすぐ行動に起こせる。

ミルカや、アルネ、ロウは確かに有名だが、暗殺や策謀の標的にされる可能性は少ない。俺たちをやるリスクにメリットが合わないからな。

でも、イナイ姉さんや、アロネス兄さんは違うだろ?」


その言葉に苦虫を噛み潰した顔をするアロネスさん。

イナイも困った笑いをしている。


「アロネス兄さんが独り身なのはそのせいだろ?」

「うっせえなぁ、俺は大事なもん抱え込むのはもう嫌なんだよ。あれでこりた」

「ごめん、でもアロネス兄さんはそれで対処してるだろ」

「・・・まあな」


どういう、ことだろう。


「俺たちは国内だけじゃなく、国外でも有名だ。けど、アロネス兄さんとイナイ姉さんはその中でも別格だ。

二人のやったことは、国内だけじゃなく、国外に大きな影響を与えてる。

どこでどんな奴が狙ってるかわからない。何をされるかわからない。

国内で、万全を期して、生活していくつもりなら別にこんな事を言う気はなかったけど、国を出るって聞いた。

なら、イナイ姉さんの相手は、イナイ姉さんに降りかかるものを振り払えるだけの人間じゃないとダメだ。じゃないといつか、姉さんが悲しむ時が来る」


グルドさんは真剣な顔でイナイに言う。

アロネスさんは口を挟まず、イナイを見つめている。

当のイナイはさっきの困った顔はなく、優しい笑顔をしている。


「ありがとな、グルド」

「姉さん?」

「大丈夫だよ。あたしなら」

「でも、姉さん!」

「グルド、心配は嬉しいよ。これは本当だ。けどあたしは、初めて人を好きになって、そいつが応えてくれたんだ。

だから守るよ。全力で。私の持つすべてを持って」


そう言うイナイの顔は自信で満ち溢れている。

なんつーか、この人ほんと男前だよな。


「覚悟、決めてんだね」

「ああ、ちゃんと、理解してる。本人にも、ちゃんと話すさ」

「ん、わかった。でもそいつがせめてある程度身を守れるのか、確認していい?」

「・・・・・・・わかった。ちゃんと手加減しろよ?」

「了解、イナイ姉さんに嫌われたくはないからね」

「ん、タロウ、こっち来てくれ」


イナイに呼ばれそばまで行く。


「こいつが、そうだ」

「はじめまして、田中太郎といいます」


話に完全に置いてかれて、状況がわからないがとりあえず、挨拶をする。


「タナカ・・・?珍しい名前だな」

「ああ、あたしたちと違って、タロウが名前なんだ」

「へぇ・・・」


隠しもせずジロジロ見定めるグルドさん。

なんだろう、小姑かしら。ここが汚れてますわよ!とか言われちゃうのかしら。


そんな馬鹿なことを考えていると、目の前の人から冗談じゃないほどの魔力が走り


―――俺は吹き飛んだ。





「かっ、はっ、な、にが、いまばら、ばらに」

「へえ、今のがちゃんと見えるか」


今の、なんだ。俺の体が粉々に吹き飛んだように見えた。

けど、ある。ちゃんと体全部無事だ。

今何が起きた。


「グルド、手加減しろって言ったろ」

「ちゃんとしたって。すぐ回復したでしょ?」

「たくっ、タロウ、大丈夫か?」

「え、あ、だい、じょうぶ」


状況が飲み込めない。イナイは何かわかってるみたいだが、さっぱりわからない。


「チッ、また腕上げてるわね」


忌々しそうな声が後ろから聞こえた。セルエスさんだ。

そうだ、忘れてた、この人セルエスさん並みの魔術師だっけ。


「とりあえず及第点かな。バルフぐらいは見所がありそうだ」

「そう、ですか」


俺は、正直声を出すのも辛い。

ばらばらにはされてなかったけど、体に力が入らない。魔力が、上手く体に保てない。

体の中でめちゃくちゃな流れをしてる。苦しい。倒れたい。

でも、膝はつかない。ついちゃいけない気がする。

それを彼は目を細めて見る。


「合格。イナイ姉さんを守るには全く足りないが、ま、後ろついて歩くぐらいにはいいだろ」

「グルド、お前はあたしの親かなにかかよ」

「えー、大事な姉さんの相手はやっぱ、しっかりした奴がいいじゃん?」

「セルは?」

「死ねばいい」


全力で毒を吐いて、セルエスさんを睨む。

セルエスさんも同じく睨んでる。


「さて、今日は泊まりたいんだけど、いい?」

「おう、部屋はちゃんと掃除してあるから、好きに使え」

「ありがとねーさん」


さいごのねーさんは、なにか、さっきまでの雰囲気と違った。

それが俺の中にあったもやもやを、さらに大きくさせた。

なんだろう、これ。


「タロウ、悪かったな。詳しい話は後でするから、とりあえず今は横になりな」

「え、あ、うん、わかった」


俺はイナイに言われるとおり、横になって体を休めることにした。

まだ、俺は、こんなに弱いのか。

それが少しショックだった。







「おめでとう、ねーさん」


最後に、ぼそっと、寂しそうな声が聞こえた。

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