第33話危険思想の人物はどこにでもいるようです!

もぐもぐ。美味い。

なんか気が付いたらまた屋台並びの所に来てしまった。

王都来るたび何かしら食ってる気がする。


さーて、イナイが戻ってくるまでどうすっかねー。


そうだ、前々から疑問に思ってたモノを確認しに行こう。

武具系のものが売ってるところは確か向こうだったかな?


テクテクと以前シガルちゃんに教えてもらった方向に向かっていく。

結構な距離を歩いてやっとそこにたどり着く。

これ、王城とかに用がある人どうしてんだろ。馬車か?馬車なのか?

でもここに来てから一度も馬車見てないんだよなぁ。

今度イナイに聞いてみよ。






うん、やっぱり、無い。

魔術が当然の世界だからなのか、無いな。


火器系の武器が無い。単純な短筒レベルのものすら。

これはもしかしたら初めて物作りでイナイを驚かせられるかもしれない。


贅沢を言えばスライドオートマチックが望ましいが、無理だな。

ぎりぎりリボルバー形式を作れるかどうかだけど、その前に銃身が作れるかどうかだな。

弾丸はぶっちゃけ本物の再現は不可能だ。作り方がわからん。

なのでそこは魔術で応用させて頂く。


火薬の代わりに、爆発する魔術を仕込んでおいて、撃鉄を落とすと発動するようにしたらどうだろう。

指向性を持たせられればなお威力が上がりそう。

もしくは魔術そのものを打ち出す弾丸とか楽しそう。

まあ、まだ作れないと思うけど。


武具店をそんな感じでぽやーっと回っていると、何やら店の外が騒がしいことに気がついた。

なんだ?

外に出るとなにやら近くの広場で男達が叫んでる。

なんじゃあれ。


「我々は訪れる滅びのために生きているのである!いずれ復活する魔王様に我らの魂を捧げるために我々は繁栄し、餌として増えているのだ!

この国の繁栄はそのために魔王様がもたらしたものだ!英雄の力などではない!

我らとともに魔王様を、その滅びの世界を願おうではないか!」


・・・・なにあれ?

なんか、集団で延々魔王がどうたら、言ってるけど、魔王って北のあの魔王?


ちょっと気になったので人だかりの一番近くの人にちょっと聞いてみた。

その話を要約すると、要は神話の魔王がいつか復活して人類はそのための餌だってか。

はあ、そうすか。破滅思考かな?

んで、この人だかりは変な奴がいるってことで野次馬みたいだ。

うん、平和っすねこの街。今ならともかく、以前ならあんな危なそうな人らに近づこうとか思わん。


「北の国の偽魔王は魔王様を侮辱する存在である!奴らは!亜人どもはその身を神の子と勘違いした愚者どもであり、かの偽魔王はその最たるものである!

民衆よ!亜人に騙されるな!奴らは排除すべき存在だ!!」


うん、俺あわないわ、ああいう人ら。

破滅思考はどうでもいいけど、関係ない人にも攻撃を向ける人間は好きになれない。

大体魔王って人族が呼び出した名前じゃないの?


まあ、叫んでるだけだから、気にしなきゃ害はない、か?

でもこないだみたいに王都に亜人さん、いや鱗尾族だっけ。

あの人みたいに人族じゃない人たちがここに来たら危険そうだ。

なんか、やだな、こういうの。

そう思って離れようと振り向くとイナイがいた。


「あれ?いつのまに?ていうかよく見つけられたね」

「腕輪で場所が分かるようにしてんだよ。だから女遊びの時は外していくといいぞ」


ニヤッと笑いながら言うイナイ。しませんよそんなこと!

・・あれ?


「イナイ、なんか目赤くない?」

「ん?ああ、うん、ちょっとな」

「・・・・大丈夫?」

「あんがとよ。悪いことじゃないから大丈夫だ」

「ん、そっか」


詳しい理由を言ってもらえないのはちょっと寂しいけど、言いたくないこともあるだろう。


「しかし、気にくわねーな、あいつら」

「あ、やっぱりイナイも?」


イナイもあの手のやつは不快なようだ。


「てめえらがいるかいないかもわかんねぇ魔王とやらに食われんのは勝手だが、他種族を人と見ないしてねえのは気に食わねえな」

「そうだよねぇ」

「ちょっと言ってくる」

「へ?」


イナイはスタスタと演説している集団に歩いて行った。

俺も後ろから付いていく。

小声で。


「あんな事言った後なのに早速名を使うことになるとはな」


と言っていた。

なんのことだろう。


「あなたたち!演説は構いませんが許可はとっているのですか!

もし取っているとしても、ウムルは他種族の人権を認める国です!

あなたたちの演説は国が認める類の物ではないですよ!!」


イナイが声を張って、いつものような喋り方ではなく、ちゃんと女性の喋り方で集団に詰め寄る。


「な、なんだ小娘!何の権限があってそんな口を聞いている!」

「なるほど、あなた方、少なくともこの街の人間ではないのですね」

「な、なに!?」

「私の名はイナイ・ウルズエス・ステル!ウルズエスの名においてあなた方の演説は看過できません!」

「ば、馬鹿な!こんな小娘があのイナイ・ステルだと!?」


破滅思想、っていうか、魔王信仰かな。その連中はイナイの出現に戸惑っている。

だが頭目らしき人物がイナイに詰め寄る。


「お前たちが英雄などともてはやされて、誤魔化される時代は終わったのだ!

全て魔王様の手のひらの出来事。貴様がなにを言おうが滅びは近づいて来る!

魔王の名を騙る連中も裁きが下るのは当然のことだ!」

「別に私たちを英雄視しろとは言いません。むしろそちらは私たちにとってどうでもいいことです。

ですが、私たちは人が種族の区別なく、皆がこの国で生きていける国であってほしいと願っています。

私たちをどれだけ侮辱しようが構いませんが、彼らの人権を認めない発言は許せません!」


家で俺たちを叱るような感じの雰囲気ではなく、凛とした雰囲気で目の前の男に語るイナイ。

なんか最近いろんなイナイが見れてちょっと楽しい。


「このガキ!イナイ・ステルは10年以上も前に戦場に立ってた女だぞ!お前のような子供がステルなわけがないだろう!

怪我をしたくなければ引っ込んでいろ!」


先程とは違う男がイナイに掴みかかろうとする。

俺は反射的にそれを防ごうとしたが、イナイに押し止められる。

小声で「あたしがいいって言うまで絶対に手は出すな」と言われた。


「人々に演説をし、導こうなどという人間がやる行動ではありませんね」

「何を言う!この国の英雄どもも亜人どもを力を持って駆逐したではないか!同じことだよ!」

「私たちは言葉に力を持って制したのではありません。力によって蹂躙された者たちを助く為に、やむを得ず力で対抗しただけです」

「今と何が違う!お前は我々の言葉を!想いを弾圧しようとしてるのではないか!?」

「それは屁理屈でしょう。その発言をするのならば、なぜ他の方へ攻撃的な思想をされるのですか?」

「く、このガキ!」


男はナイフを持ち出しイナイに突きつける。

周囲の野次馬から悲鳴が上がる。


「最低ですね。言葉で語り合うことが出来ないなど、信仰に有るまじきことですよ」

「間引きだよ!魔王様への信仰のないゴミを多少間引いたほうが魔王様のためだろう!」

「そうですか、あなた方はただ単に自分たちの行いと想いに酔っているだけの、それこそあなた方の言う愚者ですね」

「このガキ・・!」


イナイ、ちょっと挑発してるでしょ。

言葉遣いは丁寧だけど、中身はやっぱイナイだなぁ。


その時、こちら側ではないところで悲鳴が聞こえた。

その声に目を向けるとこの集団の一人が、女性にナイフを振るおうとしていた。


その女性は人族ではなかった。

言うなれば犬か狼のような顔と体毛をした女性。

なんで女性ってわかったかっていうと、スタイルが良かったからです。


手を出すなって言われてたけど、流石にこれは黙ってられなかった。

すぐに身体強化をして、そこに走り出す。

が、俺よりさらに速い速度で突っ込んでいく者がいた。


それは今まさに女性に振り下ろされんとするナイフの前まで行くと、震脚に合わせて掌をナイフに向け、真正面からナイフを粉砕し、その場で踏み込み直し、正拳を男のみぞおちに放つ。

背中まで衝撃が走りそうな、綺麗な正拳。

男はそれを証明するように後ろに吹き飛ぶこともなく、その場で崩れ落ちた。


その動きに皆が固まっていた。俺も例外ではない。

素手でナイフを正面から粉砕し、殆どの人間が目で捉えられない速度の正拳で男を沈めたのだから。

さっきまで俺の前に立っていた『イナイ』がそれをやってのけたのだから。

さっきの動き、完全にミルカさんと同じ動きだった。

それよりも、なによりも、あの外装なしで俺の速度の倍はあった。

素手でも俺よりまだまだ強いのか、イナイ・・・。


「大丈夫ですか?」


イナイは驚いてへたりこんでいた女性に手を差し出す。

女性を起こしながらイナイは続ける。


「口で言うだけなら手荒な真似をするつもりはありませんでしたが、実際に民衆に手を出した以上、あなた方は犯罪者として裁かれることになります。

本来ならばこの方個人の犯行となりますが、あなた方は集団で同じ思考をもたれている危険な方々のようですし、全員連行させてもらいます」

「な、なんだと!お前にそんな権限があるのか!たかが技工士風情が!」

「ありますよ。あるから言っています。それにもう、そこに騎士が来ています。抵抗は無意味ですよ。

私のことは知らずとも、英雄ウームロウの名と顔は知っているでしょう?」

「ウームロウ・ウッブルネか・・・!」


男たちはこちらにやって来る騎士と兵士を見て、絶望の顔をした。

あの人がウームロウだったのか。

なんで家名で名乗ってんだろ。

・・・・そいや俺も日本では初対面の人間には名字だわ。似たようなもんか?


「貴様達!許可なくこのようなところで演説をしたことは大目に見てやれるが、内容は認められるものではない。

その上我らが王の民に手を挙げた行為は断じて許せぬ!全員ひっとらえよ!」


ウッブルネさんの言葉に皆が動く。男たちは抵抗も許されず全員捕らえられていく。

あ、あの時の騎士隊長さんも今日はいる。

・・・あれ?なんか、あの人前と雰囲気が違う気がする。

なんだろう、なんか、違う。

俺がそれに首をかしげていると、ウッブルネさんがこっちにやってくる。


「スマン、イナイ。助かった」

「ああ、きにしないでいいよ、ロウ」

「本当に、お前とお前達の作ってくれた腕輪と転移装置が無かったらと思うとぞっとするな」

「ま、アロネスに基盤の呪具量産してもらったからできたことだけどね」

「なんにせよ助かった。おそらくお前がここにいなければ、死者は出ずとも犠牲者は出ていただろう」


そう言った後、ウッブルネさんは女性に向かっていき、家まで送りましょうと、女性も連れて行った。


「ではな、イナイ。少年と仲良くな」

「う、あんたもしってるのか」

「はは、ミルカが嬉しそうに言い回ってるから、隊ではもう広まっているぞ」

「あんのバカ!」


イナイは顔を真っ赤にしている。隊て、騎士隊?まじで?

それは俺もちょっと恥ずかしい。


「くくく、いい妹じゃないか。それにどうせいつか広まる。少し早まっただけだ」

「そりゃそうだけどさ・・・」


ウッブルネさんは騎士隊長さんに何か話したあと、騎士隊とは別方向へ向かう。

隊長さんは騎士隊に指示を出し男たちを連れて行く。






「イナイ、素手でも強いんだね」

「ん?ああ。ミルカにあれ教えたの、あたしだしな。

ガキの頃は流石にミルカに負けるわけにはいかねえと思ってたから、そこそこやれんだぜ?

あいつがある程度でかくなったらあっという間にかなわなくなっちまったけどな」

「イナイが師匠なの!?」

「師ってほどじゃないさ。あたしも学んでる途中で護身用に教えてたんだが、あいつの方が適性があったのさ。

一応あたしも道場持っていいって許可もらってっけど、面倒だから断った」


つまりそれ、技量そのものはミルカさんには及ばないけど、免許皆伝って事っすよね。

イナイの実力を見せつけられ、流石に恋人に完全に守られるレベルの実力はちょっと悲しいので、もっと鍛える決心をするのだった。

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