第31話親父さんに実力を示します!!

親父さんが準備をしている間にこっちも準備運動を始める。

場所は庭でやる事になったので、先に出て体を解す事にした。

家の裏側に有る庭で、結構広いから剣なら余裕で振るえる。

ただ流石に魔術は種類が限られるかな。広域魔術系は絶対駄目だ。


「なあ、タロウ」


イナイが神妙な顔で俺の名を呼ぶので、体を解しながら顔を向ける。


「お前がこの話に乗り気なのはいいけど、恥かかせる以上は怪我だけはさせんなよ?」

「え?」

「は?」


俺が間の抜けた声を出して返すと、イナイは呆れた感じで疑問の声を上げた。

え、いや、だって、乗り気ってどういう事。


「お前さ、今から何やるかわかってるか」

「俺の実力試しだよね」

「それは何の為だ」

「親父さんが俺の力を確かめたいから」


イナイはその返事に明らかにイラっとした表情をして、綺麗なボディーブローを俺に入れる。


「グフッ」


隙間に綺麗に突き刺さったが、かろうじて崩れ落ちずに耐えた。すっごく痛い。


「な、何すんのイナイ・・・」

「あのな、これは言ってしまえば、お前があの親父さんから力尽くで娘を手に入れようとしてる状態なんだよ」


え、なんでそうなるの。

俺は親父さん無視して話が進むのが可哀そうって思っただけなんだけど。


「お、俺はそんなつもりは」

「はぁ・・・いいか、ここへの挨拶に来た時点で、お前はこの縁談に多少なりとも前向きに考えていると思われている。そしてその上で父親の反対の意思を上手く受け流すのではなく、正面から受けてたったんだ。これが娘を奪いに来た行動でなくて何なんだ」


そ、そこまで考えてなかったです。

そうか、そういう意味になるのか。

うーん、本気でそんなつもりは無かったんだけどな。


「じゃあ今からでも断った方が良いのかな?」

「それこそ論外だ。一度受けた以上、止めるのはお前自身の価値を下げる事になるし、お前を教えた人間の価値も下げる事になる。何よりも、お前を慕ってるあの子の顔に泥を塗る事になる」


ああそうか、受けた時点で俺一人の話じゃなくなってしまうのか。

俺を育ててくれた人と、あの子の信頼に応える必要があると。


「たく、まさか解ってねえとは思わなかったぞ」

「俺としては、親父さんが余りにも不憫で」

「まあ、うん、ちょっと可愛そうだったな」


イナイも同じ気持ちだったようだ。良かった。将来的な意味で。


「ともかく、あの子は良い子だ。お前が自分の気持ちの大きさに気が付いてなくても、それでも良いと言える様な子だ。ならせめて、その想いが間違いじゃない所ぐらいは見せてやれ」

「・・・うん、わかった」


そう、だな。せめてあの子の期待を裏切らない俺でないと、余りに失礼だ。


「とろこでお前、実際今後どうすんだ。あの子を妻にするならそれ相応の稼ぎをする前提で話が進むと思うぞ」

「そもそも俺、あの子の想いをちゃんと理解した所で、まずそれをどうしようという段階です」

「大馬鹿だな」


はい。すみません。反論出来ません。


「ま、今のお前なら何でも出来んだろ。本当に何でもな」

「そうなの、かな」

「ああ、あたしとアロネスが保証してやる」

「そっか・・・」


俺としては一番はこの世界を見てみたい。

一人で生きる力をもう持てているというなら、世界を旅してみたい。

というか世間を知らないまま力だけ付けちゃった感じだし、色々知りたい。


「・・・ま、ツラ見てれば何が一番したいのかは解ってっけどな」

「バレてる?」

「まあ、な。だからこそあたしはあの時お前に・・・ああいう告白をしたんだ」


後半は顔を赤らめながら言うイナイさん。まだ恥ずかしいらいし。

俺もちょっと顔が熱い。


「なら、ここもイナイに恥をかかせないようにしなきゃね」

「おう、そうしてくれ」






「お兄ちゃん、おまたせ。ごめんね?」


シガルちゃんが両親を連れてやって来た。

シエリナさんはそのままだが、親父さんの格好が凄い。

あれはフルプレートメイル、かな?

そんな感じでフル装備かつ、凄まじい大剣を持って来た。


「ふはは、小僧! 止めておくなら今のうちだぞ!」


俺に向けて高らかに告げる親父さん。

その親父さんを見るシガルちゃんとシエリナさんの目は冷たい。

何か、本格的に可哀想になってきた。でももう引けないんだよなぁ。


「すみませんが、引けない理由が出来てますので」

「ぬう! そこまで娘が欲しいか! 貴様子供に欲情する類の輩か!」


親父さんスゲー敵意むき出しなのは良いけど、娘が居る前でその発言はどうかと思う。

ホラ、シガルちゃん引いてるじゃないか。


「そういう訳じゃないんですけどね」

「なんだと!? 貴様娘のどこが不満だというのだ!」


うん、もう手に負えない。どうしろってのよ。

そう思っていると今度は金物の鍋で親父さんの兜を叩くシエリナさん。

グワァンという音が響く。


「アナタ? いい加減にしなさい?」

「わ、解った。す、すまん」


頑張れ親父さん。俺親父さんの事嫌いになれないぜ!


「では行くぞ、小僧!」


そう告げてから大剣を肩に乗せて構える親父さん。

見たまま、大ぶりで叩き潰す振り方だろうな。


「あのー、剣はこっちで用意して良いんですか? それとも素手の方が良いですか?」


流石にアレ相手に素手はちょっと怖いので、出来れば剣使いたいけど。


「ぬ、貴様なぜ剣を持っておらん」

「あ、いや、一応持ってますよ?」

「ならば出さぬか! 短剣程度しか持っておらんだろうがな!」


まあ、この格好だとそうよね。

一応服の下にアロネスさん謹製の魔剣なら持ってます。

人間には使えない代物ですがねー。


「では、お言葉に甘えて」


腕輪を操作して逆螺旋剣を取り出す。


「な、何だそれは。一体どこから出した・・・・」

「えーと、魔導技工剣です。あ、起動はしないんで大丈夫ですよ」

「な、何だと・・・!?」


何故か向こうでシガルちゃんがドヤ顔をしている。

ちょっと可愛い。


「くっ、そんな道具を使ってまで娘が欲しいか!」

「いや、これしか手持ちの剣がないんですよ」


グヌヌと言いながら多分睨んでいる親父さん。

だって兜で見えないんだもん。


「構わん! そんな物に頼るような腕ではたかがしれている!」


そう言って親父さんは詠唱を始める。

詠唱から判別するに強化だろう。体に魔力が集まっていくのが見える。


強化が終わった後、親父さんは踏み込み剣を振りかぶった。

俺はその剣を普通に横にずれて避ける。

ごめん親父さん、こないだの騎士隊長さんは無強化でもっと速いんだ。


すると親父さんは流石に重いらしく切り上げはできないものの、斜めに横切りを放ってきた。

それをぴょんと飛んで避けて後ろに下がる。


「逃げるのは上手い様だな!」

「ええ、まあ」

「くう、舐めているな!!」


挑発のつもりだったであろう言葉に適当に答えてしまったが為、更に怒らせた模様。

兜の向こうから更に殺気が増した気がする。


「うおおおおおおお!」


親父さんは今度は下半身も使って、ただ斬り込むだけでなく、避けられた後の動作も考えた斬りつけ方に変えた。

俺はそれらを剣を使わずに全て避ける。


「えーと・・・大丈夫ですか?」


俺は思わず声をかけてしまう。

なぜなら親父さんはぜーぜーと肩で息をしているからだ。


「ふ、ふふふ、中々やるではないか・・・」


お、認めて貰えたかな?


「だが、逃げるだけか! そんな臆病者では話にならんな!」

「成程」


ふむ、まあ、避けるばっかだったし、こっちから行くか。


「では、行きます」


そう言って軽く強化して踏み込み、親父さんの首元に逆螺旋剣を走らせる。

勿論手前で止めた。親父さんは反応出来なかったようだ。


「なっ!?」


親父さんは驚愕の声を上げ、動けずにいた。


「これで、いいですか?」

「なっ・・くっ・・・!」


取り敢えず剣を引いて下がる。


「くっ、確かに剣はやるようだ。だが魔術はどうだ!」


そう言うと親父さんは詠唱を始める。魔術もやるのか。


「ここに顕現するは万物を貫かん氷の槍。我が前に立ちはだかる全てを穿て!」


万物を貫く、とは流石に言いすぎではなかろうか。

とはいえ、言葉に力を載せる方が魔術は使い易い。

威力を上げる為にもそういった言葉を使っているのだろう。

その氷の槍を見て俺は腕輪に剣を収める。


「む、なぜ剣を消した!」

「魔術の腕を見られるのでしょう?」

「ぐぬぬ、舐めおって!」


親父さんは叫ぶと同時に俺に槍を放つ。氷の選択は賢いと思った。

狙った一点に攻撃を与えられるし、魔力を霧散しても氷ならば飛ばした時の慣性と、氷自身の強度で攻撃ができる。

魔力運用という点では中々に効率的な攻撃だ。

そんな事を考察しながら動かずに迎える。


「な、なぜ動かん! 避けんか!」


ああ、やっぱ嫌いになれんわ、この親父さん。

だって今の声音、どう考えても心配してる声だもん。


『阻め』


当たる直前にその詠唱で魔術障壁を作る。

氷の強度も考えて、見えている魔力より強めに作った。


魔術は世界の力を引き出す術が上手ければ上手い程、発生した魔術に内包される魔力量は増えていく。

結局は魔力の塊が力を持っていると考えて問題ない。


ただ、世界を通して、世界のルールに従って力を使う事で魔術という現象が発生する。

かき消すなら同じだけの魔力をぶつけるか、障壁や結界にしてしまえば良い。

後はその魔術の特性しだいだ。


物理的に影響が強いならば内包している魔力より威力が強い場合がある。

逆に物理的に影響が弱い魔術なら、魔力さえ消してしまえば後には何も残らない。

ただぶつけ合うより、障壁や結界の方が『守る』という概念を強く持つせいか、少し魔力が低くても防御出来る場合が多々ある。


「な、私の氷槍を簡単に! しかもなんだ今の言葉は!」

「俺の国の言葉ですよ」

「だ、だがそうだとしても短すぎる! そんな物は詠唱ではない! どんな道具を使っている!!」

「使ってないですよ?」


シガルちゃんが勝ち誇った顔をしている。

何故君がそんなに得意げなんだ。ちょっと笑ってしまうじゃないか。

さて、後はこっちも軽く攻撃系見せないといけないかな?

まあ、発現させるだけして消すけど。


『数多の氷槍をここに』


数をあんまり意識せず、沢山氷の槍を出してみた。

放つ気はないので発現させてその場で待機。

魔力はあんまり使っていない。氷、思ったより便利だ。

一つ賢くなった。親父さんに感謝。


「なっ・・・!」


最早今日何度目だろうその驚き方。


「勝負あり、ですわね」


シエリナさんがそう言うと、親父さんはがっくりと地面に膝をついた。

俺はそれを見て、氷を粉砕して魔力もかき消す。

氷が空中に舞い、地面で溶けていく。


「あらあら、綺麗」

「お兄ちゃん、やっぱり凄い!」


意図してやった訳ではないが、どうやら受けた様だ。


「ふむ、ま、いっか」


とイナイが後ろで呟いているのが聞こえた。

どうやら彼女には満足いくものではなかったらしい。







「では、この縁談、纏める方向で宜しいですね?」

「あの、少しいいですか?」


シエリナさんが話を纏めようとした所で俺が止める。


「はい、何でしょう」

「変に誤魔化すのも良くないと思うので、正直に言います。俺は暫くしたら旅に出よう、と考えています」


その言葉にシガルちゃんは「え?」と小さな声を上げ、寂しそうな顔をした。


「俺は、自分のやりたい事を先ずやろうとしてる男です。その上将来何が出来るのかも解らない。そんな男で貴女方は良いんでしょうか」


素直に、今の自分の考えと状況で、そんな男に娘をやって良いのか聞いてみた。


「タロウさん、私は娘が貴方を好きというならば、それで良いんです。たとえば貴方がこの国の人間じゃないとしても、娘が望んだ事ならば応援したい。勿論貴方が酷い人なら反対したでしょうが、人が目の前で傷つく事を良しとしない方です。それに、貴方は何が出来るか解らないと仰っしゃいましたが、貴方程の力があればどこででも生きていけるでしょう」


そう言って、シガルちゃんの背を押す。

何か言いたそうだった親父さんはまた鍋で叩かれた。

頑張れ親父さん!


「お兄ちゃん、私はお兄ちゃんに頼るだけの女になるつもりはないよ」


とても強い、しっかりとした瞳で俺に告げる。これはダメだ。やられた。

まだ子供だっていうのに、この子は何て良い女なんだ。何て強い女なんだ。


イナイといいこの子といい、俺の周りは強い女性が寄って来る何かでもあるんだろうか。

俺は、この国の法律に少し感謝した。

この子の目と、言葉に、掴まれてしまっている自分を自覚してしまったから。


「シガルちゃん、君はこの国の魔術師になりたいんだよね」

「え? うん、そうだけど」

「俺はもしかしたらこの国に帰ってこないかもしれない。そうなった時、君はどうする?」


かなり意地の悪い質問をしたと思う。でもここは誤魔化せない。

俺はそうする可能性があると自分で思っているから。

もしそれが嫌なら、この子の想いを受け止める訳にはいかない。


「良いよ、ついてく。私はお兄ちゃんに、貴方についてくよ」


また真っ直ぐに想いを伝える彼女を、俺はもう自分より大きな人間だと認識していた。

ああ、彼女は俺が思っていたより、ずっとずっと素敵な女性だ。


彼女の言葉は幼さから来る勢いじゃない。ちゃんとした覚悟の声音が入っている。

俺は、この小さな女性に尊敬を抱いていた。だから――。


「解った。旅に出る時はまた事前に話に来るから、その時ついて来るのかどうするか考えておいて欲しい。ついて来ないでこの国の魔術師になるのでも構わない。その場合は約束通り、君が一人前の魔術師になった頃に迎えに来るよ。君の想いが変わってなければね」


つまりはOKの返事だ。

正直今の彼女に手を出すつもりは本気で全くないが、それでも彼女の想いには何時か応える覚悟を決めた。

その返事を心の底から嬉しそうな笑顔で頷くシガルちゃん。


すぐに「ついていく!」って言い出したので、流石にそれはちょっと落ち着いて両親と話して貰う事にした。

この話は、こういう形で纏まる事になった。





シガルちゃんに見送られ、彼女の家を出る。

手を振る彼女にこちらも振り返して離れた。


「かなり正直に思い切って言ったな」

「そうかも」

「お前もしかして子供体型が好みなのか?」

「ブフゥ!」


凄い真剣な顔で聞かれて吹いてしまった。


「ち、違う!」


それは全力で否定させて頂く! イヤ、イナイの体型が嫌って話ではないからね!?


「ふーん。ま、どっちでも良いけど」

「良いの?」

「ああ、良いよ。もしそうならそのおかげでこういう関係になれたのかもしれねえしな」


ニヤッと笑うイナイ。狡いわー、この人。可愛いわー。かっこ良いわー。


「違うよ。俺はイナイがイナイだから良いと思ったんだ。彼女も同じだよ。それに彼女は大きくなるまでは手を出す気はないよ」

「それは酷だな。あたしは・・・ちょっと怖いからこんな感じだけど、そういう女性ばかりじゃないんだぜ。自分を確かな相手として思って貰う為に、ちゃんと行為を望む奴だって、少なくないんだ」

「う、それは俺も、何というか、まだガキなもので」

「ま、おいおい話していくしかないか。あたしも、な」


そう結論づけると、イナイは少し用事があると別行動を取る事になった。

俺はその間街をぶらつく。何か面白いものないかなー。

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